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母のそばで♡おちゃめ篇
95歳で旅立った母はかなりおちゃめだった。
肺ガンの末期で苦しいこともあったけど、かなり笑わせてくれた。
人生に笑いは必要!
私も笑って生きていきたい。
握力強し
![](https://assets.st-note.com/img/1727414299-ORSxvz2WMHtd5XjwNn6lDVK7.png)
母が静かに眠っている。
起こさないように、そっとベッドのふちに座って手を握る。
昔は大きかった手が、細く小さくなっている。
そっと、そっと手の甲や細い腕をさする。
ずいぶん年をとったなぁ・・・。
感慨にふけっていると!!
ギュッ!と握り返され、飛び上がるくらいビックリした!!!
「なに?起きてるの?」
母は目を開け、フフッと笑う。
「握力、強いね」と言うと「昔は30あったよ!!」。
勝利宣言のように高らかに言う。
握力30って女性ではかなり強いと思う。私は23くらいあったかな?
驚かせるなあ!笑わせるなあ!
すっくと立つ
![](https://assets.st-note.com/img/1727414690-MksKCthg78Sew9PGFRJ0dqUZ.png)
孫がケーキを持って母に会いに来た。
母はベッドに静かに横たわり、目をつむっている。
孫は心配そうに覗き、声をかける。
「ばあちゃーん、具合はどう?」
「また会いに来るときも元気にしててね!」
話しながら涙が出ている様子。
母も手を取り合って一緒に泣いている。
いつどうなるか、わからないからなあ!
2人でしみじみしている。
その様子を私の妹がウルウルしながら見ていた。
そこに「ケーキあるからみんなで食べよう!」と私がリビングから声をかけた。母は「はーい」と言ってすっくと立ちあがった。リビングまで一人で歩く、ケーキを食べに。
孫は「ばあちゃん、歩けるの!?」。涙も乾かない目をまんまるに見開いて心底驚いている。
その様子を見ていた妹が涙が出るほど笑って報告する。
驚かせるなあ! 笑わせるなあ!
ネコもビックリ!
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ネコをリビングに入れる。
大きなあくびをして背を伸ばし、椅子に座っている母の横を歩いて行く。
母はネコの頭から体を撫でる。
そしてなぜか、長い尻尾をグッと握る。
ネコはビックリして母を見ると、振りほどくように逃げていく。
よくまあ、引っ掻かれないもんだ!
「お母さん、ダメよ。ビックリしてるじゃない!!」
母はネコと遊びたいのだろう。
母が子どもの頃は必ず家に猫が居た、という。
基本的に動物が好きみたい。
でも、嫌がることはしないでネ。
名誉の負傷
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母の調子が良いので、久しぶりに外食に出た。
母の好きなレストランに行くことにする。
久しぶりに妹が泊まりに来た晩に。
少しばかりおしゃれして外に出る、酸素ボンベのキャリーバッグを引いて。
着席したら、まずは飲み物注文。
私は運転するからウーロン茶、他の人はビール。
「お母さんは何にする?」「ビール!」
生ビールは大・中・小ジョッキがある。
「小、かな?」「中!!」
おぉ! 妹と顔を見合わせて笑った。
すごいな。
好きなものを注文して、どんどん食べた。
病気はどこかに飛んで行ったに違いない、と思わせる食べっぷりだ。
楽しいひと時を過ごして、お会計。
「お母さんに出させて!!」といってきかない。
甘えることにする。ありがとう♡ごちそうさまでした♡
家に帰りついた。
夫は一足先に車を降りて門やカギを開けてみんながスムーズに入れるようにしている。妹は母のキャリーを押している。私は車のドアを閉めている。母は行きも普通に歩いたから何も考えていなかった。
妹の叫び声がした!!母が倒れている!!
みんなで助け起こすと、頭から血が出ている、大変だ!!
ベッドに運んで怪我の手当てをしながら、訪問看護師さんに連絡した。
すぐに来てくれて、「念のために病院に行きましょう」と言う。運よくその日の当直は母の担当医だ。
母は「ごめんね、心配かけて」としっかりしている。具合が悪くて倒れたわけではなさそうだ。
病院で事の顛末を説明。念のためにCT検査をしたけど、異常なし。骨も異常なし、でひとまずホッとした。
先生は外食に出た、その意欲をホメてくださった。
「美味しかったんですね」「楽しかったんですね」とやさしい笑顔だ。
帰ってから私は母にひたすら謝った。
「ごめんなさい(涙)、気配りが足りなかった。一人で歩かないで、待ってて、と言えば良かったんだ。痛い思いをさせてごめん!!」
母は痛くて顔をしかめながらも「お母さんがドジだから悪いとよ」と健気だ。
おでこの恐ろしいほど大きなこぶは、先生が言った通りに移動していった。
翌日はまぶたが腫れ、その次の日は目の下が膨らんだ。溜まった血が下がっていくらしい。徐々に小さくなって、色も変わって、もとに戻るという。
母は毎朝、洗面所で顔をチェック。
驚く風でもなく「ねえ、人間の顔じゃないよ」「今日は少し人間に近づいた」などと平気な風で言う。
その度胸というか、開き直りというか、見上げたものだと思う。傷パットを張り替える時に少し痛そうに顔をしかめたが、それだけだ。
この出来事は、思い出の笑い話となった。
お母さん、生きてるね!?
![](https://assets.st-note.com/img/1727414985-R0dpsDf7EvTgAbjZ3nGwNSI8.png)
朝、そろそろ起こそうかと母のそばに行く。ベッドのふちにそっと座って母を見る。気配を感じたのか、母は目を開けた。
私の顔を見て、驚いている!!
何? どうした?
「お母さん、生きてるね!?」と驚いたように言う。その言葉にこっちが驚く。「怖い夢でも見た?」と聞いても「う・・・ん・・・」と不思議そうに周りを見回している。「あ・・・生きてる・・・」。
「やだ、しっかり生きてるよ。それより、ごはん食べようよ」と私は笑ったが、本当は笑えない話かもしれない。母は毎日を「今日が最後かもしれない」「明日は無いかもしれない」と覚悟して生きていたのだろうか。
「明日死ぬかもしれない」と思って生きたら後悔しない生き方ができる、と本で読んだことがある。そうねえ、そうかもしれない。しかし頭では理解できても実践は難しい。
しかし、世のなかの様々なできごとを聞くにつけ、ある程度はそのような覚悟を持った方が良いのかもしれない、と思う。母がそれを実践していたとしたらスゴイことだ。
母の言葉を「おちゃめだな」と思ったけど、母の哲学だったかもしれない。