フィデリティマゼラン
米国フィデリティのピーター・リンチ(Peter Lynch)氏が「伝説のファンドマネジャー」と呼ばれるようになった理由の全てである「フィデリティ・マゼラン・ファンド」。同じ戦略で運用する日本籍のファンド「フィデリティ・マゼラン・米国成長株ファンド」が9月12日、ついに設定された。米フィデリティ・インベスメンツのフラッグシップ(旗艦)とされるファンドの1つで、米国で設定されてから60年以上にわたって支持されてきた。同ファンドの魅力についてフィデリティ投信の投信営業部長の堀智文氏(写真:左)とシニア・プロダクト・スペシャリストの早藤寛記氏(写真:右)に聞いた。
――「フィデリティ・マゼラン・ファンド」(1963年2月設定)はピーター・リンチ氏が担当した1977年から1990年までの13年間で約28倍(年平均29%)という驚異的な運用成績を残しました。この成績を実現できたポイントは?
早藤 ピーター・リンチは、利益見通しや事業モデルを重視して企業を徹底的に分析し、銘柄を選定し、投資した銘柄は長期で保有しました。1970年代の株式運用はマクロ経済や金融政策の分析によるトップダウン・アプローチが主流の時代でしたが、その中で、ボトム・アップの重要性を訴え、運用成績の面でも他を圧倒する成績を残しました。特に、「テンバガー(株価10倍化)を狙える株式には3つのタイプがある」として、そのような銘柄を徹底的なボトム・アップ・アプローチによって発掘することに努めました。
たとえば、「急成長株」に分類されるタイプは、リンチの言葉によると「年に20~25%の成長を遂げ、うまくすれば株価は10倍から40倍、あるいは200倍にもなりそうな積極性のある小企業である」ということになりますが、リンチが実際に投資した事例としてダンキンドーナツの例が有名です。
また、「業績回復株」は業績不振で倒産の懸念があるような企業が復活を遂げる時にも大きな株価上昇が見込めるとし、リンチは倒産寸前といわれていたクライスラーに果敢に投資して、その後の復活による株価上昇で大きな投資収益を獲得しました。そして、大きな資産があるにもかかわらず見過ごされて過小評価されている「資産株」にも大きなチャンスがあると言っています。
これらの銘柄の発掘にあたっては徹底した企業調査が何より重要になります。特に、「業績回復株」に投資する場合は、復活する確信がないと投資できません。「マゼラン・ファンド」によるピーター・リンチの成功は、徹底的なボトム・アップで調査を行うことを重視するフィデリティの運用の原点になっています。
「マゼラン・ファンド」の投資戦略は、グロース(成長株)戦略とバリュー(割安株)戦略の良いところをとったような戦略です。今の運用業界の用語を使うと「GARP(Growth at Reasonable Price)」と言えると思います。中長期の成長性からみて割安と判断される銘柄に投資します。ピーター・リンチが担当した時代に、戦略に磨きがかかりました。
――ピーター・リンチのノウハウは現在の運用に継承されていますか?
早藤 ピーター・リンチは今でも後輩のポートフォリオ・マネージャー(PM)に直接アドバイスを送っています。現在の担当PMはサミー・シムネガー(Sammy Simnegar)ですが、サミーはピーターから「常にオープンマインドで市場と接するように」というアドバイスを受けたと言っていました。
現在の運用ポートフォリオに組み入れている銘柄でも、たとえば、イーライリリーは米国のヘルスケア大手ですが、当ファンドで本格的に投資を開始した2020年前後の頃は、既存商品の特許の期限切れが相次いだことで株価の上値が重い状況にありました。その中で、運用チームは画期的な肥満治療薬の将来性に着目し、アルツハイマー治療薬など有望な開発中の製品が控えていることから、当時の株価を割安と判断しました。その後、株価は4年で5倍ほどに値上がりし、ファンドのパフォーマンスに貢献しました。今年、高収益が話題になったエヌビディアも2020年に本格的に組み入れています。今誰もが注目する銘柄であっても、ピーター・リンチのように市場が注目し始める前に発掘できたことが優れた実績につながっています。
また、ピーター・リンチの薫陶を受けていることがわかるような事例として、ごみ処理関連企業に投資して大きな成功を収めています。ごみ処理の産業成長力そのものは大きなものではなく、市場の注目度は高くはなかったのですが、ごみ処理場の確保に関連事業者が困っていて、集約化して処理能力の大きな処理場を作るなど、業界内でM&Aの動きが活発に繰り広げられ、その結果として思わぬ高成長企業が現れています。この動きを早い段階から察知して銘柄を発掘したのはサミーの業績の1つです。
――フィデリティを代表するアクティブファンドで同じように成長株を投資対象とした「コントラ・ファンド」(国内では「フィデリティ・米国株式ファンド」)との違いは?
早藤 「コントラ・ファンド」もボトム・アップ・リサーチを徹底的に行って成長企業を発掘することで優れた運用成績を残していますが、「マゼラン・ファンド」と比較すると、ポートフォリオに組み入れる銘柄数が中小型株も含めた300銘柄程度と多くなっています。「マゼラン・ファンド」は現在60銘柄程度でポートフォリオを作っていて、持続的な収益成長が期待される厳選された大型銘柄を中心に運用しています。
――「フィデリティ・マゼラン・ファンド」は2000年には運用資産残高が1100億ドルに達しましたが、2024年7月末時点の純資産残高は約350億ドルです。資金流出の背景には、米国における強烈なインデックスファンドブームがあったようですが、日本でもインデックスファンドの人気はブームと呼べるような状況です。その中に同ファンドを日本市場に新たに投入する理由は?
堀 今年、新NISAが始まってデータを見ても日本の投資家が長期の目線で投資に取り組む姿勢が一段と明確になりました。このタイミングでフラッグシップである「マゼラン・ファンド」を日本の投資家の方々に提供し、中長期でインデックスを上回るアクティブファンドを資産形成・運用に取り入れていただきたいと考えました。「マゼラン・ファンド」が米国以外で販売されるのは、日本が初めてになります。
「マゼラン・ファンド」は1963年5月から60年超の運用実績があります。その約60年間で資産価値は8085倍になりました。同じ期間に「S&P500」指数は366倍ですから、インデックスを大幅に上回る成績を残してきました。運用者としてはピーター・リンチが有名ですが、ピーターは3代目のPMです。初代PMはネッド・ジョンソン3世で、フィデリティ・インベスメンツの2代目の社長です。フィデリティを大手運用会社に育て上げた人物として尊敬されています。
そもそも「マゼラン」の名前は、人類史上ではじめて地球を一周したマゼラン艦隊に由来しています。世界中から優れた株式を選び抜いて投資しようということを表したファンド名であり、設定の当初から米フィデリティを代表する株式ファンドにすることを意図して企画されました。このため、このファンドは常にトップのPMが担当し、最高のスタッフが運用を支えてきました。文字通り、米フィデリティのフラッグシップとして育成されてきたファンドです。
――ここ数年間のリターンは、S&P500連動型ファンド「VOO」と比較すると、「マゼラン・ファンド」の3年(年率)8.39%に対し「VOO」は9.55%、5年(年率)は「マゼラン・ファンド」の15.25%に対し「VOO」は14.95%、10年(年率)は「マゼラン・ファンド」の13.46%に対し「VOO」は13.11%でした。直近数年間のパフォーマンスではインデックスファンドに運用成績が劣後していますが、今後の見通しは?
早藤 サミーがPMに就任した2019年2月から現在までの運用成績は年率で16%となっていて、「S&P500」を年率0.6%上回っているという成績です。ここ数年間は「マグニフィセント・セブン(M7)」といわれる一部の大型株が集中物色されるという異常な動きでした。その中で、「M7」に集中投資することなく、バランスのとれた運用を心がけて「S&P500」を上回る成績を残してきました。
この9月にもFRBが利下げに転じ、企業業績の見通しが難しい経済環境に入ってくると、より個別銘柄毎の違いにフォーカスがあたる業績相場に移行すると見込まれます。そうした局面こそ、アクティブ運用の意義が発揮されやすい環境になってくると考えます。マゼラン戦略は60年ものトラックレコードがあり、様々な市場環境を経験してきましたが、個別企業の徹底的な分析を通じた運用は一貫して変わらず、今後もその力が発揮されていくと期待されます。
――インデックスファンドの優位性が強調される中(運用コストが低い、インデックスを上回る成績をあげるアクティブファンドは少ないなど)、投資家が「マゼラン・ファンド」を積極的に選択する理由とは?
堀 米フィデリティは1969年に最初のグローバル拠点として日本に進出しました。1995年に初めての公募投信を設定。そして、2018年に米フィデリティのフラッグシップの1つである「コントラ・ファンド」を日本の皆様に提供開始し、2020年にバリュー戦略の代表的なファンドである「テンバガー・ハンター」を設定しました。そして、新NISAが始まった2024年に満を持して「マゼラン・ファンド」を提供することになりました。これは、2021年に米国でアクティブETFとして「マゼラン・ファンド」の運用が始まったため、このETFに投資することによって、信託報酬を低く抑えたファンドを提供することが可能になったことも背景の1つにあります。
米ETFの報酬を含む実質的な信託報酬は年0.9915%です。本格的なアクティブファンドが年1%を下回る運用コストで提供することができます。当初募集はSBI証券で、ここまで同社と1年ほどの時間をかけ構想を練ってきました。当社にとってはオンライン証券と新ファンドを設定するというのも初めてのチャレンジです。数千万円とまとまった金額で富裕層の方々中心に販売するスタイルではありません。コツコツと時間をかけてファンドを育てていくことになります。米フィデリティが常にベストのリソースをかけてきた「マゼラン・ファンド」であれば、オンライン証券でインデックスファンドのみに投資をしている投資家の方々や、新NISAで投資デビューした投資初心者の方々にもご納得いただけるパフォーマンスを提供できるのではと考えたからこその決断でした。
米国の投信市場でも米国株運用で60年の運用実績があるファンドは10本しかありません。「マゼラン・ファンド」はその中でトップの成績です。しかも、60年を経ても5兆円を超える運用資産残高を維持しています。米国では祖父母の代からお孫さんの代まで3代にわたってお持ちいただいている投資家の方々も少なくありません。半世紀を超えるような長期の資産運用ニーズに応えられる希少なファンドです。
たしかに、「S&P500」は優れたインデックスで、米国経済の成長に投資したいと考えた時の有力な選択肢だと思います。ただ、500社全部に投資すれば、中には魅力のない銘柄もあります。それら全てに投資するのがインデックスファンドへの投資になります。調査して投資価値のある銘柄のみに厳選投資するアクティブファンドは、資産運用立国をめざす日本に必要なファンドだと思います。半世紀以上の期間にわたり、米フィデリティが全力をあげて運用してきた運用戦略です。ぜひ、新NISAを使った超長期の資産形成にお役立ていただきたいです。
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