「聞く」と道が開ける
カナダの医療システムは、「かかりつけ医制度」で、そのお医者さんの紹介状なしでは、専門家にかかることはできないことになっています。かかりつけのお医者さんの存在は重要なのです。
子供が生まれるまでは、あまり重要性を感じていなかったのですが、子供が産まれ、そして学校や習い事を始めると必ず聞かれる「かかりつけ医はどなたですか?」の質問。
我が家は、かかりつけのお医者さまが病気になり、患者さんをたくさん診ることができない、と昨年末に言われ、ずっとかかりつけのお医者さんを探していました。
壮絶な医者の取り合い
実はこのかかりつけ医を探すのは容易ではないことが殆どです。評判のいいお医者さまほど患者さんは離れません。そしてそのお医者さんが引退するか、患者さんが亡くなるまで関係は続きます。
現在、BC州には14000人のお医者さんがいるそうですが、その全員がかかりつけ医として働いているわけではありません。専門家もいれば、指導に当たる方もいらっしゃいます。
かかりつけ医のことをGPもしくはファミリープラクティショナーと英語では表現します。現在6千人ほどのGPがBC州にはいるそうですが、お医者さん一人が持つ患者さんの平均が千人ほどだそうです。
現在BC州の人口が500万人。計算上は足りてることになりますが、実際には私の周りには「GP探してるんだよねー」という人が絶えません。そしてかかりつけ医がいても、リタイアされると探し直しとなります。
出産する時は実はチャンス
私の友達で出産するまでかかりつけ医がいなかった人がいました。ところが、出産後、子供のかかりつけ医が必要なので、自分にかかりつけ医がいないことを産科の先生に話しました。
「じゃぁ友達のGP紹介するよ」
とかかりつけ医を紹介してもらえたそうです。出産すると子供のために産科、もしくは小児科の先生が、まだ患者さんを診ることができる知り合いのお医者さんを紹介してくれるケースが多々あるそうです。
別の友人は、妊娠をしてウォークインクリニックに行ったら、産婦人科のお医者さんでしたが、そのままその先生がかかりつけ医になってくれた、というケースもありました。
我が家の場合は、かかりつけのお医者さんがいる状態で妊娠・出産を二人ともした後で、昨年、「体調が悪いのでしばらく患者は診ることができない」というお知らせがあり、その後
「申し訳ないが、治療との兼ね合いもあり、患者さんの数を減らさざるを得ない。かかりつけ医を探してほしい」
と通達がありました。それに伴い、医療に関する記録を新しいかかりつけ医に移してほしいとお手紙が来ました。しかもその記録を移すのは有料。さらにしつこく「早く移せ」と電話がかかってきました。
「人」じゃない録音音声の電話攻撃
この医療記録の移動の催促電話がまだ生身の人間だったらそれほど焦らなかったかもしれませんが、録音されたものを少なくとも2週間に一度かけてこられました。
これは結構ダメージが大きいです。人ならまだしも、録音された音声だと文句を言おうにも反応がないので、むなしくなるばかりで、早く次のかかりつけのお医者さん探さなきゃ、と思いました。
こういう無機質な攻撃って心理的にかなりのダメージをくらうんだ、ということを身をもって学びました。それで「なんとなく探す」から「本腰入れて探す」に切り替わっていきました。
とりあえず、どうしようかGoogle先生に聞くところに始まり、ご近所のクリニックを片っ端から調べて、問い合わせよう、とパートナーと結論付けました。
「聞いてみる」重要さ
クリニックを探しながら、偶然、ご近所に「新しくクリニックオープンします」という看板を見つけたので、パートナーに問い合わせてもらいました。残念ながら、コロナの影響で開院が先伸ばしということでした。
それでも、電話をして聞いてみたことで、開院した暁には連絡しますね、と言ってもらえました。うちから歩いて通える、というところも魅力的なところでした。
そして、その後、たまたま目にしたクリニックの看板で、電話をかけたところ、そのクリニックでは新規の患者さんを受けいれてはいなかったのですが、受け入れてるクリニックを紹介してもらえたのです。
引退するお医者様でも人によっては、クリニック丸ごと引き継いでくれる新しい医師に患者さんを紹介することも往々にしてあるそうですが、あいにく私たちの担当だったかかりつけの先生はそれはしない方でした。
ですが、こうして聞いてみたら意外と医者通しの繋がりで紹介してもらえることもあることが分かったのは、朗報でした。しかもそのお医者さまも私たち家族4人の受け入れが最後だったようです。
私たちはこうして運よくかかりつけのお医者さんを見つけることができ、しかも私とパートナーよりも若いお医者さんだったので、まず子供たちが成人するまでは引退はないだろう、と思います。
お医者さん探しに限らずですが、海外生活をしているとどうしても第一言語ではない言葉で交渉することにためらい、手続が後手後手に回ることが多々あります。
「聞いてみる」ことで意外と道が開けたこの体験で、たとえ言葉の壁があっても、周りに頼りながら、対応していこうと思えるようになりました。聞くは一時の恥とはよく言ったものですね。