夏の名前。
8月24日。
「おい〇〇!この生地を倉庫に運んどけ!」
〇〇「はい!」
僕、井上〇〇は東京にあるデザイン会社にて働いています。
この会社に拾ってもらってもう3年。
まだまだ雑用の仕事が多いけれど、最近では少しずつ仕事も回してもらえるようになった。
〇〇「運び終わりましたー!」
「おう、ありがとな。昼休憩とっていいぞ。」
〇〇「ありがとうございます!」
僕は持参した弁当を食べるために屋上へと向かった。
わざわざ夏の日差しに晒されに行くバカみたいに見えるだろう。
だけどこれにはちょっとした理由がある。
屋上。
この会社の屋上はなかなかに広く作られている。
簡単な公園のような構造で、舗装された歩道とその側に植えられた木々が日影を作る。
その日陰に隠れてご飯を食べるのが最近のルーティンだ。
そして僕はお弁当箱を開いて箸を進める。
夏という時期にこの場所へ訪れる人はまず居ない。
みんなクーラーの効いた涼しい部屋で冷たい飲み物を楽しんでいるだろう。
ここに来るのは、僕みたいな変わり者だけだな。
その時、風に揺れた木々の葉が優しい音を立てた。
いくつもの緑を超えた風は僕の頬をそっと撫でた。
これは、、、
そうだ、4年前と同じ風だ。
"君"が見えない事以外は全く一緒だ。
あの時は夏の暑さが特に厳しかった思い出がある。
歩くだけで汗が出てくるし、ワイシャツは肌にくっついてくるし、、、
あの暑さは『早くいって来い』と僕たちの背中を押してくれたのか。
それとも『さっさと出て行け』と煙たがっていたのか。
どっちなんだろうね。
君はどう思うかな、咲月。
4年前。
僕は高校2年だった。
田んぼに囲まれ、大したに舗装もされていない畦道を歩く。
ここの良いところと言えば、、、
空気が綺麗くらいしか無いかな。
〇〇「あっつ、、、」
太陽の光を遮るものなど一つもない。
そのおかげで夏は毎回のことに肌が真っ黒になってしまう。
『日焼け止めを塗れよ』って話なんだけどさ。
面倒でさ。
それに最近だと同級生の女子でも塗るのを諦めたやつが多い。
僕の幼馴染を除いて。
咲月「〇〇ー!待ってよー!」
菅原咲月。
本当に小さい頃からの幼馴染。
ずっと一緒にいすぎて周りから「付き合ってるんじゃないの?」ってよくイジられる。
まぁ合ってるんだけど。
咲月が恥ずかしがって言いたくないとの事。
咲月「はぁ、、、はぁ、、、速いよぉ!」
〇〇「いや咲月が先に帰ってていーよって。」
咲月「本当に行くとは思わないじゃん!
彼女を置いてくなんて最低だよ!!」
そう言ってわざとらしく怒るフリをした咲月。
こんな所も少し子どもっぽく、愛らしく思える。
〇〇「ごめんって、、、笑。」
咲月「あっ!笑ったなー!」
〇〇「だって咲月が可愛くて笑。」
咲月「かっ、、、かわっ、、、///」
今まで何十回と「可愛い」や「好きだよ」と言ってきたもののいまだに慣れる様子が見えない。
そろそろ耐性をつけた方が良いと思うんだけど。
まぁでも、そんなピュア過ぎる咲月が好きなんだけどね。
〇〇「っていうかさ、暑いから早く帰ろ?」
咲月「うん!〇〇のお家でアイス食べる!」
〇〇「いや自分の家に帰ってよ。
なんでわざわざ僕の家まで、、、」
咲月「〇〇と一緒にいたい!それだけ!」
そう言って咲月は走り出す。
彼女は滅多に嘘をつかない。
口から出てくる言葉は全て彼女の本音だ。
だからこそ僕に向かって言う「好きだよ」「一緒にいたい」という言葉がすごく嬉しい。
咲月「はやく行こ!」
太陽に照らされた彼女の笑顔は、この世に存在しているどんな宝石よりも輝いていた。
〇〇「、、、うん!」
咲月「早くしないと〇〇の分も食べちゃうよ!」
〇〇「食ったら出禁ね。」
咲月「ええっ?!ちょっとした冗談じゃん!!」
〇〇「あははっ!」
僕たちはちょうど、広い川に掛かった橋の袂にいた。
少し先にいた咲月に追いついて2人並んでまた歩き出す。
そっと触れる2人の指。
その指はどちらからともなく絡み合って行く。
咲月「、、、、、、///」
厳しい夏の日差しに似つかわしくない彼女の白い肌がどんどんと赤くなる。
そんな咲月を見ると抱きしめたい気持ちが僕を埋め尽くしそうになってしまうんだ。
僕たちはずっとこのまま。
この先も一緒に歩いて行くんだろうなって。
そう思っていた。
夏も暦上では終わりに差し掛かっているが、まだまだ残暑が厳しい。
校庭の蝉たちもまだまだ元気に合唱をしている。
咲月「あづいぃ、、、」
〇〇「もうそろそろ涼しくなるでしょ。」
咲月「待てない、、、」
ったく。
最近は何だか落ち込んでる雰囲気だったから心配してたのに、、、
『なんかあったの?』と聞いても。
『なんでもないよ。』の一点張りだったし。
でも普段の咲月に戻ったから別にいいか。
咲月「どこかに涼しい所ないかなぁ。」
〇〇「近くの川。」
咲月「高校生で川遊びってヤバくない?」
〇〇「涼むだけならいいでしょ。」
咲月「もっとムードのある場所ないかな、、、」
〇〇「じゃあプールでも行く?」
咲月「どこの?」
〇〇「学校の。」
プールサイド。
試しに先生へ『プールって入れますか?』って聞いたら意外にもOKの返事をもらえた。
ただし『明日も授業で使うから足だけなら良い』だって。
咲月「きもちいぃ、、、!」バシャバシャ
僕たちは並んで座り、両足をプールにつけてバシャバシャと水を叩く。
太陽が反射した水面がキラキラと光っている。
〇〇「意外と入れるもんなんだ。」
咲月「本当は都会にあるキラキラしたプールとか
入ってみたかったなぁ。」
〇〇「咲月はダメ。」
咲月「むっ、、、なんでよ!」
〇〇「みんなが咲月のこと見るから嫌だ。
あと悪い人に着いてっちゃいそう。」
咲月「なにそれ、、、///」
〇〇「まぁ卒業したら2人で行ってみよ。」
咲月「卒業かぁ、、、」
"卒業"
この単語を聞いた瞬間、咲月の表情が暗くなったのが分かった。
僕がつい先日まで気になっていた顔。
先ほどまでの楽しげな表情はどこに行ってしまったのだろう。
僕は思わず咲月に聞く。
〇〇「やっぱりなんかあったでしょ。」
咲月「だからなんでも、、、ない、、、、、、よ。」
〇〇「分かりやすいとこは変わんないね。」
咲月「はぁ、、、
何で昔から〇〇にはバレちゃうのかなぁ。」
〇〇「咲月が分かりやすいだけだからね?
で、何があったの?」
僕はプールに足をつけながら咲月の方を見る。
咲月はまだ足で水をパシャパシャと、、、
咲月「、、、、、、引っ越すんだ。」
〇〇「え?」
咲月「ここからずーっと離れた遠い所にね。
パパの転勤に家族みんなで着いてくの。」
〇〇「、、、ほんとに?」
咲月「ほんと。」
何かを諦めたかのように少しずつ言葉を紡いでいく咲月。
嘘だ。
心の中で何度も何度もその言葉が現れる。
だけど、彼女が滅多に嘘をつかないことなど僕はよく知っている。
〇〇「何で僕に言わなかったの?」
咲月「、、、最後に〇〇の顔見たら寂しくなっちゃう
から。」
僕の顔を真っ直ぐに見つめ、寂しそうに笑う咲月。
このままだと咲月と離ればなれか、、、
ずっと昔から、僕と咲月が付き合った時から。
僕たちはこれから先も一緒にいるんだろうな。
そう思っていた。
〇〇「、、、逃げよう。」
咲月「え?」
〇〇「今日の夜にでも2人で逃げ出そう。」
咲月「、、、〇〇。」
〇〇「僕は咲月のいない人生なんて考えられない。
ずっと2人で居たいんだ、、、」
ふと隣に座っている咲月の顔を見る。
目には涙が溜まり、僕の言葉を彼女の中でゆっくりして咀嚼している。
咲月「、、、うん。私も〇〇と一緒がいい!!」
先ほど咲月が足で立てた波が止み、僕らははにかむように口付けを交わした。
あの後、僕と咲月はここから逃げ出す準備を始めた。
決行の日は3日後、咲月がこの町から引っ越していく前日だ。
思ったよりも引越しの日が近く余裕がない。
どうやってこの町から逃げ出そうか、、、
いや。
どこでもいい、彼女が隣にいるのなら。
僕は決意を新たに準備を始める。
決行の日、PM11:20
僕は少し大きめのカバンを片手に夜行バスを待っていた。
カバンには僕の好きな服だけを詰め、ありったけのお金を持ち出してきた。
最後に家を出る時、両親は僕の行動の真意に気付いたようだった。
「どこに行くんだ!!」
初めて聞いた父親の怒鳴り声。
僕はその声を背に走り出した。
ごめん。
親孝行なんて何一つできなかった。
でも、僕には何よりも大切な人がいるんだ。
狭い道路の向こう側から夜行バスがやってきた。
そしてゆっくりと僕の目の前に停車する。
予定よりも5分ほど早い時間に着いたらしい。
バスの扉がガタガタと音を立てて開いく。
足を乗せるだけで軋むバスに一抹の不安を覚えたがそのまま乗車する。
乗客は1人もおらず、乗っているのは僕だけのようだ。
バスの最後列の一つ前の席に腰を据え、咲月を待つ。
もうそろそろくるはずなんだけど、、、
一応電話をかけてみよう。
プルルルル、、、プルルルル、、、、、、
出ない。
いつもだったらすぐに出るんだけどな。
まぁ走ってきてる途中なのかもしれない。
出発するまで待つか、、、
5分後、、、
「それでは発車いたします。」
〇〇「あっ!すみません!
もう少しだけ待ってもらえませんか?」
「、、、まぁ5分くらいなら。」
〇〇「ごめんなさい!」
僕はさっきから咲月に電話をかけているのだが、一向に連絡がつかない。
何かあったのだろうか。
僕がそんな不安を抱えていると、、、
咲月「もしもし、、、」
〇〇「咲月?」
咲月「うん、、、」
〇〇「良かった、、、何かあったのかと」
咲月「〇〇のとこ、、、行けなくなっちゃった、、、」
〇〇「、、、え?」
咲月が家を抜け出そうとした時、お父さんに見つかってしまったらしい。
事情を話した咲月は両親に叱られ、部屋から出れない状況にいた。
そして今は僕に電話をかける時間だけくれたらしい。
咲月「ごめんなさい、、、本当にごめん、、、、、、」
涙ぐんだ声で僕に謝罪をする咲月。
僕は目の前が真っ暗になった。
咲月と2人で暮らしている未来も。
苦しいながらも幸せな2人の未来も。
ちょっとしたことで喧嘩してもすぐに仲直りする未来も、、、
先ほどまで頭に浮かんでいた輝かしい未来が全て黒く塗りつぶされてしまった。
「申し訳ありません、出発いたします。」
そして機械音のような車掌の声と共に僕の乗っているバスは出発した。
〇〇「もう会えないのかな、、、」
咲月「、、、分かんない。」
〇〇「、、、、、、だよな。」
咲月「でも!大人になったら絶対に」
「咲月!もう終わりだ!」
彼女の電話から太く、大きな声がした。
この声は子供の頃に聞いたことがある。
彼女のお父さんの声だ。
咲月「待って!まだ話したいことが」
「駄目だ!!」
それを最後に彼女との通話は途切れた。
ふと窓の外を見る。
夜の闇に包まれている見慣れた町が少し滲んで見えた。
僕はそこで初めて自分が涙を流していることに気がついた。
バスに揺られて数時間。
何を考えるわけでもなくただ絶望の中を彷徨っている気分だった。
そしてまた、機械音のような車掌が声を上げた。
「終点です。ご乗車しているお客様はお降り下さい。」
もうそんな長い時間バスに乗っていたのか。
僕は重い腰を上げ、バスから降りた。
迎えたのは顔を見せたばかりの太陽と青い草の匂い。
しかし、これを一緒に感じる人が隣にいないと言う事実。
ただそれだけで僕の心は暗く荒んでいく。
僕は何をするでもなく近くのベンチに腰をかけた。
辺りに人は誰もいない。
〇〇「、、、、、、咲月。」
彼女の顔が今も脳裏に焼き付いている。
、、、たぶん一生忘れられないだろう。
どれだけ離れていても何故だか近くにいる気がする。
あの夏の名前を忘れられないだろう。
〇〇「はぁ、、、、、、」
僕がベンチで大きなため息をついていると、1人の酔っぱらいから声をかけられた。
「おい坊主。こんな時間に何やってんだ?」
鼻を刺激する強烈な酒の匂い。
こんなのはあの町では経験しなかった、、、
〇〇「あなたには関係ないですよ、、、
僕のことなんてほっといて下さい。」
「はっはっは!まだまだ青いガキだな笑。」
そう言って僕の隣に腰をかける。
先ほどよりも更に強い酒の匂いが鼻を刺激する。
「まぁこのおっさんに話してみろよ!」
〇〇「、、、、、、つまんないですよ。」
「いいよ別に。ちょっとした暇つぶしだ。」
〇〇「、、、駆け落ちってやつに失敗したんですよ」
僕は見ず知らずの男性に全てを話した。
咲月のことや引っ越しのこと、、、、
なんでこんな人に話したんだろう。
たぶん既にどうしようもない事だけど誰かに聞いて欲しかったんだ。
「そうかそうか、、、」
〇〇「笑えますよね。」
「まぁ若えなりに考えたんだろ?」
〇〇「考えてこの結果ですよ、、、」
「、、、つまりお前は無職の高校生ってことか?」
〇〇「言葉にすると更に惨めになりますよ。」
すると少し考えたフリをする男性。
「お前さ、絵とか描ける?」
〇〇「まぁ、、、それなりには。」
僕はちょっとした趣味に絵を描くことをよくしていた。
だから不得意でもないんだけど、、、
なんで急にこんな事を聞いてくるんだ?
「ちょっと描いてみろよ。」
そう言って小さなメモ帳とボールペンを手渡してくる。
〇〇「はぁ、、、何を書けばいいんですか?」
「まぁ最初は景色の模写でいいよ。」
〇〇「はいはい、、、」
僕は言われるがままに目の前に広がっている風景の模写をメモ帳に描いた。
時間として約10分、僕はメモ帳に書き写したものを彼に見せた。
〇〇「はい。」
「おっ、早いな。」
〇〇「まぁそれなりに絵は描いてきたので。」
「どれどれ、、、、」
〇〇「この絵が一体なんだって言うんですか。」
「まぁ黙って待ってろ。」
また少し時間が経って彼が顔を上げた。
「よし、合格。」
〇〇「はい?」
「お前は今日からうちの社員な。」
「おい〇〇!ちょっと手伝えー!」
〇〇「はい!」
どうやら彼はデザイン会社を経営している人間であり、肩書はなんと社長。
そこで僕の描いた絵を見て社員として採用してくれた。
この会社はありがたいことに給料も良く、最初の何ヶ月かは社長の家に寝泊まりもさせていただいた。
本当に彼には頭が上がらない、、、
まだ高校も卒業していない人間を雇うと言うのはリスキーなことだと言うのに、、、
『仕事できれば誰でもいい』と言うポリシーを持つ社長には感謝しかない。
そしてある日、仕事をしていると、、、
「なぁ〇〇。」
〇〇「はい!」
「お前の幼馴染って名前は何だっけか。」
〇〇「、、、菅原咲月ですけど。」
「彼女がいま何やってるかは?」
〇〇「知るわけないじゃないですか、、、」
「そっかそっか、、、お前テレビとか見ないもんな?」
〇〇「何の話ですか?」
「まぁいいや、お前に新しい仕事な。」
そう言って1枚の紙を手渡してくる社長。
「詳しいことはそれに描いてあるから。」
〇〇「ありがとうございます、、、」
「じゃあ頑張れよ〜。」
〇〇「なになに、、、乃木坂46??」
[乃木坂46 33rd single 『おひとりさま天国』衣装デザインについて]
それが書かれていた内容のタイトルだった。
どうやら世間で人気のアイドルらしい。
だけど僕はアイドルなどには全く興味がなく、テレビもあまり見ない。
この瞬間に初めて彼女たちの存在を知ったくらいだ。
まぁ仕事なら一生懸命やるけど。
それから何週間が経過し、僕のアイデアが見事に通った。
そして衣装合わせの日がやってきた。
その場に僕はデザイナーとして呼ばれることになった。
まず初めにメンバーの前に立って自己紹介。
〇〇「今回の衣装をデザインした井上〇〇です。」
20数人のメンバーがこちらを見ている。
残念ながら名前は覚えられなかったんだよな、、、
??「、、、、、、井上〇〇ってまさか。」
〇〇「何か要望がございましたら遠慮なく言って
下さい!」
「「「「よろしくお願いします!!」」」」
そして衣装合わせが始まった。
メンバーの人数分、衣装を直す箇所があってめちゃくちゃ忙しかった。
それに加えて横一列に並んだ時にスカートが揃って見えるようにとか、考えることが多くて大変な仕事だった、、、
そして何とか衣装合わせは無事に終了し、メンバーの皆さんは解散となった。
僕は少し疲れてので廊下のソファに座り、微糖のコーヒーを飲んでいた。
〇〇「つっかれたぁ、、、」
帰ったらまたメンバーに合わせて衣装を直さないと、、、
そんな事を考えていると廊下から女性の声がした。
??「お疲れ様です!」
〇〇「あぁ、、、お疲れ様で、、、す、、、」
そこにいたのは乃木坂46のメンバー。
だけど僕のよく知っている人だ。
咲月「久しぶりだね、、、〇〇!!」
〇〇「、、、、、、咲月?」
咲月「うん!乃木坂46の菅原咲月ですっ!」
あの頃に見たキラキラした笑顔はそのままに。
だけど月日を重ねて大人の女性として美しくなった咲月がそこにいた。
咲月「、、、、、、あれから頑張ったんだよ。」
僕の座っているソファの隣に腰を下ろした咲月。
咲月「〇〇に見つけてもらうように頑張ったの!
アイドルになれば〇〇も気づくかなって!」
〇〇「ごめん、、、今日気づいた、、、」
咲月「そうだよね笑。
〇〇がテレビ見ないの忘れてた、、、笑。」
〇〇「ほんとにごめん、、、」
咲月「まぁでも、会えたから許してあげる!」
あれから、アイドルである咲月とプライベートで会うことはしなかった。
恋愛禁止のアイドルだから余計な事をする訳にはいかないし。
だけどデザイナーとアイドルとして合う時間は何度かあった。
その度、合間に出来た少しの時間に会う事が僕らの幸せだった。
そんな事を何度か繰り返して数年後、、、
あれから全く見なかったテレビもよく見るようになった。
そんな時にニュース番組を見ていると、乃木坂46についてのものが流れてきた。
「先日、乃木坂46の人気メンバーである菅原咲月さんが卒業を発表しました。」
僕は事前に咲月から知らされていたから驚きはしなかったけど、ファンの間ではすごい騒ぎになったらしい。
〇〇「ついに咲月も卒業か、、、」
「おい〇〇、また新しい仕事だ。」
〇〇「どんなやつですか?」
「咲月ちゃんが卒業する時に着るドレスのデザイン。」
〇〇「マジですか?!」
そういえば卒業コンサートをすると言っていたな、、、
〇〇「っていうか俺に乃木坂関係の仕事を
回してくれるのって、、、」
「ほら、黙って仕事しとけ。」
〇〇「、、、本当にありがとうございますっ!!」
「はいはい。」
〇〇「今回、菅原咲月さんのドレスデザインを
担当した井上〇〇です。」
いつものように前で自己紹介。
咲月「よろしくお願いします!〇〇さん!」
これでアイドルとしての咲月と仕事をするのは最後になるだろう。
そう考えると少し寂しくなるけど、、、
咲月「、、、なんか寂しくなってる?」
〇〇「まぁね。」
誰も見ていないタイミングを見計らって内緒話。
咲月「今度はさ、、、」
〇〇「ん?」
咲月「一緒に居られるよね、、、///」
あれから何度の夏が過ぎただろう。
2人で過ごした楽しさに満ちた夏。
思い描いた未来が壊れて絶望した夏。
目の前のことをがむしゃらに挑んだ夏、、、
今度からはどんな夏が僕を、、、
いや、僕"たち"を待っているんだろうか。
special thanks
嵐 / 夏の名前 5th album 「One」