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左右盲 from ヨルシカ

少し前までは桜のピンク色が綺麗だったこの道も、今はもう青々とした緑の葉に変わってしまっている。

足元には散った花びらが踏み荒らされ、茶色に変色してしまっている。

そんな光景に少し寂しくなりながらも僕は目的地に着いた。

ここは都内にある一つの病院。

首を上に傾けないと全貌が把握しきれない程の大きさだ。

聞き慣れてしまった無機質な自動ドアの音を潜りながら受付の女性に声をかける。

〇〇「こんにちは。」

「今日もいらっしゃったんですね、、、」

受付の女性は、僕がここに通い始めてから働き続けている顔見知りだ。

彼女は哀れみに近いような微笑みを浮かべ、僕に"面会者"と書かれたネックストラップを僕に手渡した。

〇〇「ありがとうございます。」

首にかけながらお礼を言い、エレベーターに乗る。

目的の病室は4階の438。

押し慣れたくなかったボタンを今日も押して病室へ向かう。

、、、、、、もうこれで何回目になるだろうか。

あの日からもう4年くらい経つから単純計算で365×4で1460回目か。

自分でも引いてしまうくらいの数字だ。

「4階に到着しました。」

エレベーターの音声が到着を知らせた。

438の部屋はエレベーターから右に、、、いや左に曲がって12番目の部屋。

今では目を瞑ってもたどり着けるだろう。

ガラララッ

僕は目的の病室の扉を静かに開けた。

そこは個室のため、中にいる患者はただ1人。

僕の彼女だ。

いや、僕の彼女"だった"人の方が正しいかもしれない。

〇〇「こんにちは、さくらさん。」

さくら「、、、、、、あなたは?」

やはり最愛の人に忘れられている悲しみは堪えるなと思いながら自己紹介をする。

〇〇「初めまして、僕は筒井〇〇と言います。
   心理カウンセラーとして働いてます。」

さくら「、、、そうなんですか。」

見慣れてしまったさくらの困り顔。

まぁ4年間も見てればそうなるか。


僕の彼女はとある病気にかかっている。

前向性健忘という病気。

一回眠ればそれまでの記憶が失われてしまうというもの。

原因となったのは4年前のある日。

さくらは事故に巻き込まれ、脳へのダメージがそうさせてしまった。

本来であれば事故の日以前の記憶は保ったままで、それからの出来事が全く覚えられないという病気だ。

しかし、さくらは異例である。

4年前のあの日以前から付き合っていた僕のことを全く覚えていないのだ。

さくらの家族、親友、住んでいる場所、通っていた学校の名前などは覚えている。

覚えていないのは僕に関する一切のこと。


〇〇「初めましてなので反応に困りますよね。
   少しお話ししてみましょう。」

さくら「はっ、、、はい、、、」

僕は1400何回目の質問をさくらにした。

〇〇「さくらさん。
   事故にあった際の記憶はありますか?」

さくら「事故、、、
    そんなものにあったことはないです、、、」

これも1400何回聞いた答えだ。

〇〇「あぁ、、、そうでしたね。失礼しました。
   では10月3日という日付に覚えは?」

さくら「、、、私の誕生日ですけど。」

〇〇「、、、そうですね。」

10月3日、さくらはこの日について忘れていることが2つある。

1つ、さくらが事故にあった日付だということ。

2つ、僕の誕生日でもあるということ。


4年前の10月3日。

僕たちは大学3年生だった。

この日は僕とさくらの誕生日であり、一緒にお祝いをすることが決まり事になっていた。

いつも通っているケーキ屋さんでケーキを買う。

さくらは近くの和菓子屋さんに寄ってみたらし団子も買う。

そして、100円ショップで安っぽいクラッカーを数本。

加えてケーキに立てる蝋燭も数本。

それを買って家に帰るのがいつもの事だった。

そう、4年前までは。

あの日、僕は大学の教授に頼み事をされていために帰りが遅くなってしまっていた。

僕が電話でさくらにその旨を伝えると、、、


さくら「そうなんだぁ、、、」


〇〇「ほんとにごめん!!」

さくら「ううん!〇〇は悪くないよ!」

〇〇「でも僕が帰る頃にはケーキ屋さんも
   閉まっちゃってるなぁ、、、」

さくら「たしかにそうだね、、、よしっ!!
    今日は私がケーキとか買って来るね!」

〇〇「、、、いいの?」

さくら「うん!〇〇と一緒にお祝いしたいから!」

〇〇「ごめん!ほんとに助かる!」

さくら「ぜんぜんいいよ!
    それじゃあお手伝い頑張ってね!」

〇〇「うん!出来るだけ早めに帰るから!」

これが僕と、僕を覚えているさくらがした最後の会話だ。


〇〇「やっば、、、思ったより時間食っちゃったな。」

あの日の帰り道、僕は急足で家に向かっていた。

〇〇「流石にさくらも怒ってるよなぁ、、、」

その時、妙に帰り道の道路が人混みで塞がれていることに気がついた。

早く帰ってさくらに会いたいのに、、、

口からため息が溢れそうになるが、ぐっと堪えて人混みを掻い潜ろうとした。

〇〇「すみませーん、、、通してく、、、だ、、、」

事故現場が僕の目に映った。

どこにでもあるような軽自動車が電信柱に激突したらしい。

エンジン部分が大きく破損している。

、、、いや。そんなことはどうでも良い!!

僕が気になったのは車の傍で倒れている女性だ。

女性の傍には、3つの袋や箱が散乱していた。

100円ショップの袋。

僕もよく知るケーキ屋さんの箱。

、、、駄菓子屋さんの袋から見えるみたらし団子のプラスチックケース。

〇〇「あっ、、、あぁ、、、」

それに女性の着ている服は見覚えある。

〇〇「あああぁぁぁぁーー!!!」

僕が今朝、家を出る時に見たんだ。

さくらの服だ。

〇〇「さくらっ!!」

僕は人混みを強引にかき分け、さくらに駆け寄る。

頭から出血をしているが、呼吸はできている。

僕はさくらの胸に耳を当てる。

心臓も動いている。

さくらが生きていることに少しの安堵があった。

僕は急いで携帯電話を取り出し、119番を押す。

プルルルッ、、、プルルルッ、、、


それからの記憶は曖昧だった。

なんとか救急や警察に連絡をとり、さくらを搬送してもらった。

手術も大掛かりなものであり、丸1日掛かってしまった。

〇〇「、、、、、、さくら。」

事故から25時間が経過し、僕は手術室の前でさくらの無事を祈っていた。

手術中のランプが消え、中から手術終わりの医師が出てきた。

〇〇「先生っ!
   さくらは無事なんでしょうか!!」

僕は医師の両腕を掴んで強く揺さぶる。

「一時は危ない状態でしたが何とか持ち堪えました。」

〇〇「良かった、、、」

今までの疲れが一気に全身を襲ってきた。

良かった、、、さくらは無事だ、、、

「ご家族はいらっしゃいますか。
 少し説明のいることがあるのでご家族に、、、」

〇〇「、、、さくらに家族はいません。」

さくらの母はさくらを産んだ際に亡くなってしまい、1人でさくらを育てた父親も2年前に病死してしまった。

「なるほど、、、では筒井さんに説明を聞いていただ
 いてもよろしいですか?」

〇〇「、、、構いません。」


「遠藤さんはおそらくですが、数週間で目を
 覚ますことになるでしょう。」

〇〇「そうなんですか!」

「はい。ですが、、、」

医師の顔が曇りはじめた。

「遠藤さんは脳への衝撃が大きく、特に記憶に
 関する器官の損傷が激しかったんです。」

〇〇「、、、記憶ですか?」

「はい。そしておそらく、何らかの障害は免れ
 ない事になると思われます。」

〇〇「、、、記憶喪失とかいうやつですか?」

「それはまだ分かりません。遠藤さんが目を覚ま
 さない限り、私で断定することは難しいです。」

〇〇「そうなんですか、、、」


僕は医師からの説明を受けた後、さくらの顔を見せてもらう事になった。

ベッドに横たわり、頭に包帯を巻いているさくら。

今すぐにでも目を覚ましそうなくらいの寝顔だ。

〇〇「、、、待ってるからな。さくら。」

僕は一言だけ残し、医師たちにさくらを任せた。


事故から数週間がたった。

僕は大学に通いながらもさくらに会う時間をなんとか作り、さくらのところへ通っていた。

ガラララッ、、、

〇〇「さくらー、、、?」

僕は病室に入り、さくらの名前を呼ぶ。

返事をしてくれないかと期待しているのだ。

まぁ、、、今まで返事が来たことはないけれど。

僕が少し項垂れていると。

さくら「はっ、、、はい、、、?」

〇〇「、、、えっ?」

今まで聞こえたことのない返事が聞こえた。

僕の愛する人の声が聞こえた。

〇〇「さくらっ!」

僕はさくらのベッドに駆け寄った。

昨日まで閉じていた瞼がはっきりと開いている。

〇〇「よかった、、、さくら、、、!!」ギュッ

僕はさくらの手を握った。

さくらは手を繋ぐことが大好きだったから。

すぐに僕の手を握り返してくれると思っていた。

、、、が。

さくら「えっと、、、、、どちら様、、、ですか、、、?」


「、、、検査の結果、遠藤さんは前向性健忘だと
 いうことが判明いたしました。」

僕は医師からその病気について詳しく聞いた。

眠ったらその日のことを全て忘れてしまうこと。

さくらは前例のない症状だということ。

それは僕のことを全て忘れてしまっているためだということ。

医師はさくらの症状が改善されるまではこの病院にいても良いと言ってくれた。

費用の方も面倒見てくれるそうだ。


〇〇「えーっと、、、さくらさん?」

さくら「はい、、、」

〇〇「僕に見覚えはありませんか?」

さくら「いえ、、、」

〇〇「そうですか、、、」

医師からは、あまりショックを与えるような事はするなと言われている。

例えば、僕と2人で写っている写真を見せること。

記憶にない場面を見せる事は思い出すきっかけになるかもしれないが、見せるにはまだ早いとのこと。


それから僕はさくらに色々なものを見せてみた。

さくらのお気に入りのマグカップ、CD、小説、雑誌。

〇〇「さくらさんは特にその小説がお気に入りと
   友人の方が言っていました。」

そんな友人はいない。

僕の記憶のさくらについて話しているだけだ。

さくら「小説、、、」

〇〇「はい。どこに行くにも持ち歩いてるくらい
   のお気に入り度合いでした、、、」

昔のことを思い出してると悲しくなってくる。

さくら「、、、あははっ!」

〇〇「、、、え?」

さくら「そんな顔しないでくださいよ!
    私も何だか悲しくなっちゃいますよ?」

久しぶりに見たさくらの笑顔。

もうそれだけでどうでも良いような気がした。


色々と手を尽くした。

しかし、さくらの症状が改善する様子もなく4年が経った。

そして今日も収穫は得られなかった。

僕には、、、もう、、、どうしようもないのか、、、

トントンッ

僕は誰かに肩を叩かれた。

「〇〇くん、すこしいいかな。」

肩を叩いのは、さくらの様子を見てくれている医師だ。


「何か変化はあったかな?」

〇〇「いえ、、、」

「、、、そろそろ遠藤さんの脳も安定してきている。
 僕が最初に言ったことを覚えているかな?」

〇〇「僕との思い出を見せるな、、、ですね?」

「そうだ、、、医師としては1度見せてみてもいい
 という見解に至っている。」

〇〇「、、、え?」

「この4年で少しずつではあるが、遠藤さんの脳は
 修復作業をしているんだ。だからこの辺りで1つ
 君たちの思い出を見せたらどうかと思うんだ。」

〇〇「僕たちの、、、思い出、、、」

「外出許可は2日とってある。
 それをいつにするかは〇〇君に任せるよ。」


1週間後、10月3日。

僕はいつもと同じ手順でさくらの病室へ向かう。

ガラララッ

〇〇「こんにちは、遠藤さくらさん。」

さくら「こっ、、、こんにちは、、、?」

そしていつもの自己紹介を終え、話を変える。

〇〇「あっ!
   今日はさくらさんの誕生日ですよね?」

さくら「、、、今日って何日ですか?」

〇〇「10月3日です。」

さくら「あぁ、、、確かに私の誕生日ですが、、、」

〇〇「ですよね。今日は先生からも特別に
   外出許可が降りてるんですよ!」

さくら「はぁ、、、」

〇〇「気分転換に行ってみませんか?
   誕生日お祝いがてらに!」


最初に向かうはケーキ屋さん。

もちろん僕たちが大好きだったあのケーキ屋さん。

カランッコロンッ、、、

「いらっしゃいませ、、、
 あれ!〇〇くんにさくらちゃんじゃない!」

〇〇「ご無沙汰してます。」

さくら「えっと、、、たしか、、、」

〇〇「このお店の店長さんですよ。」ボソッ

さくら「、、、あっ!」

このお店のことは覚えているらしい。

「もう!最近は2人で来てくれないから
 嫌われちゃったのかと思ったじゃない!」

〇〇「あっはは!少し忙しくて笑。」

「まぁいいわ!いつものケーキでいい?」

〇〇「覚えててくれたんですか?」

「あたりまえよ!はいこれ!」


さくら「あっ、、、あの、、、」

〇〇「どうかしました?」

さくら「私って〇〇さんとここに来たことが
    あるんですか?」

〇〇「、、、うん。あるよ。」

さくら「えっ?」

〇〇「さぁ!次は和菓子屋さんだよ!」

僕は話を強引に切り替えて次の和菓子屋さんへ向かう。


そうして僕たちは誕生日に行うルーティーンを一通り終えた。

さくら「、、、この感じ、、、どこかで、、、」

さくらも何か思い出しそうである。

何とか思い出して欲しいのだが、、、

そう願いつつ、僕たちは帰路に着く。

向かう先は僕たちが同棲していた自宅だ。

〇〇「この道を左に曲がって真っ直ぐ行ったら
   僕の家があるから。」

さくら「はい!」

〇〇「あっ。
   僕の家が嫌だったら他の場所でもいいよ?」

さくら「いえ、、、何だか〇〇さんは信用できる気が
    しているので!」

その言葉に何だか安心感を抱いてしまう。

〇〇「そっか!」

そんな油断をしていたからだろう。

あの場所に向かっていたことに気づかなかったのは。


さくら「、、、、、、うっ!!」

〇〇「さくら?」

ある交差点に差し掛かった時、さくらが頭を抱えて座り込んでしまった。

〇〇「ちょっ、、、大丈夫?!」

さくら「ここ、、、まっ、、、〇〇、、、!!」

ここって、、、

さくらが事故にあったあの場所だ。


4年前の10/3。

さくら「今日は〇〇遅くなるのかぁ、、、」

今日は〇〇に用事ができてしまったとかで、誕生日をお祝いするのが遅くなりそうだ。

なので、私が先に準備する事にしたんだ〜♪

そうして私はケーキ屋さん、和菓子屋さん、100円ショップを順番に回った。

隣に〇〇のいない事が少し悲しいけど、これからの事を考えたらウキウキしてくるんだ〜♪

、、、あっそうだ!

まだ時間はあるし、少しお散歩しようかな♪


ふぅ、、、結構長いこと歩いちゃった、、、

そろそろ〇〇も帰ってくる時間だし私も帰ろう。

私は疲れた足を引きずりながら家路につく。

家の近くの交差点で信号待ち。

早く〇〇に会いたいな、、、

キーーーッ、、、

ん?

なんかすごい音がして、、、


ガシャンッッ!!!


んっ、、、ここは、、、?

目を覚ましたら私の部屋じゃない場所で目を覚ました。

ガラララッ、、、

扉が開いた音がする。

あれ?確か私の家って引き戸じゃないのに。

〇〇「さくらー、、、?」

私の名前を呼ぶ声がした。

この声、、、聞いた事があるような、、、

とりあえず私は返事をする事にした。

さくら「はっ、、、はい、、、」

〇〇「、、、え?」

見知らぬ男の人が私の元に駆けてきた。

そして、私の手をぎゅっと握る。

さくら「えっと、、、どちら様ですか、、、?」

私がそう尋ねると、相手の男の人はひどく悲しそうな顔をした。

なんか変なこと言っちゃったのかな、、、


目を覚ましたら私の部屋じゃない場所で目を覚ました。


目を覚ましたら私の部屋じゃ


目を覚ましたら


なんだか、、、この繰り返しのような気もする、、、

だけど毎日、私は知らない場所で目を覚ます。

先の見えない真っ暗な道をひたすら進んでは戻って、進んでは戻っての繰り返しのような毎日。

右に進もうが、左へ進もうがそんなのはもう分からない。

誰か、、、この真っ暗な世界から助けて、、、


、、、ら、、、、、、

私はまた眠っているようだ。

もう全てを忘れてこのまま楽になりたい。

、、、くら、、

誰かが私の名前を呼びかけている、、、??

私の真っ暗な世界に光が差してきたような気がした。


、、、、、、さくら!!!


私は目を覚ました。


さくら「、、、〇〇?」

〇〇「、、、えっ?」

さくら「そんな顔してどうしたの、、、?」

〇〇「、、、僕のことがわかるの?」

さくら「、、、筒井〇〇、、、私の大好きな人。」

〇〇「、、、さくらっ!!」ギュッ

さくら「ちょっと、、、こんな道の真ん中で、、、///」


長い夢を見ていたような感覚だ。

私は4年間もの記憶がない。

政権交代の批評が飛び交っていたことも。

オリンピックやW杯で盛り上がっていたことも。

私はもう24歳になっていたこと。

私の大好きな人が少し大人っぽくなっていることも初めて知った。

、、、少し悲しい気持ちになってしまう。

だけどそれはもう関係ない。

私をあの真っ暗な世界から連れ出してくれた大好きな人と一緒に、たくさんの思い出を作っていこう。

ありがとう、〇〇。


Another story....

さくら「ふんふ〜ん♪」

私は事故によって患った病気を奇跡的に治し、〇〇との幸せな生活を送っていた。

〇〇「なんかご機嫌だね笑。」

さくら「一緒にいるだけで幸せなんだもん♪」

私は〇〇も手を繋ぎ、先ほど立ち寄ったスーパーマーケットの袋を2人で持つ。

この些細な日常こそが私の幸せ。

さくら「あっ!見て見て〇〇!」

私の前に1枚の花びらが落ちて来た。

桜の花びらだ。

、、、私が記憶を取り戻してから1年も経ったんだ。

時間の流れに驚きながらも、私は桜の花びらを手に取ろうとする。

さくら「えいっ、、、、、、取れない。」

私は〇〇と繋いでいた手を離し、両手で桜の花びらを掴もうとする。

〇〇「そんな子どもじゃないんだから、、、笑。」

さくら「私にとっては4年ぶりの桜なのー!」

私は夢中で花びらを取ろうとする。

すると、、、

キーーーッ!!!

全身が一瞬で強張った。

私が記憶を無くしたあの日、これと同じ音を聞いたんだ。

嫌だ、、、嫌だ、、、

もうあの場所には戻りたくない、、、!!

だけど足がピクリとも動かない。

あの時のトラウマが私を掴んで離さない。

あぁ、、、神様、、、また私はあの場所に、、、

ガシャンッッ!!!


私は目を覚ました。

また今回も見覚えは、、、ある。

あれ?

確かにあの時、車に何かがぶつかった音がしたような、、、

ガラララッ

病室のドアが開いた。

きっと〇〇だ!

詳しいことを聞いてみよう!

私は〇〇のいるドアの方を見た。

、、、いたのは〇〇ではなく、白衣を着た先生だ。

医師「、、、っ!!遠藤さん!」

先生は私の目や心臓の音、記憶があるかの確認を行った。

医師「、、、どうやら異常はありませんね。」

さくら「あっ、、、あの、、、私はどれぐらい、、、」

私は気になっていたことを先生に聞いた。

医師「遠藤さん達が事故に遭ってからは約5日です。」

遠藤さん、、、"達"、、、??

私は一瞬、胸に最悪の事態がよぎった。

そうだ。

あの時、私は誰かに突き飛ばされたんだ。

そのおかげで車にぶつかることはなかった。

私を突き飛ばしたのって、、、

さくら「、、、もしかして〇〇は!」

医師「、、、筒井さんは。」

やめて、、、

その言葉の続きを言わないで、、、

医師「現在、隣の病室で治療を受けています。」

さくら「、、、え?」

医師「はい。隣にいらっしゃいます。」

私は先ほど胸によぎった最悪の事態にならなかったことに安堵し、〇〇の病室へ向かおうとした。

医師「あっ、、、!」

さくら「え?」

先生が私が隣の病室へ行こうとすると大きな声を上げた。

さくら「どうかしましたか?」

医師「、、、見た方が早いですね。いきましょう。」

さくら「??」

私は医師に連れられ、隣へ。

ガラララッ

入り口のドアから斜め右、そのベッドに彼はいた。

さくら「〇〇、、、よかったぁ、、、!!」ギュッ

〇〇「、、、え?」

さくら「私のせいで、、、本当にごめん、、、」

〇〇「あっ、、、あの、、、」

「どちら様ですか?」

最愛の人から放たれたその言葉は私を谷底は突き落としたようであった。

医師「遠藤さん、少しいいですか?」

さくら「、、、はい。」

私は〇〇から離れ、先生からの説明を受けた。

医師「〇〇さんの対応を見てすでにお気づきかも
   しれません。」

、、、私も既に分かっている。

以前の私と全く同じであったからだ。

きっと彼は。

さくら「前向性健忘ですよね。」

医師「、、、はい。」


あれから2年後。

今日も私は病院へ向かった。

目的地は勿論あの部屋。

ガラララッ

さくら「初めまして、こんにちは!」

〇〇「、、、はじめまして。」

怪訝な顔をするあなた。

今日も私は自己紹介をする。

さくら「私は遠藤さくらと申します!」


あなたが私を見つけてくれたように、今度は私があなたを見つけてあげるね。

どれだけ時間がかかっても、、、絶対に、、、


〈あとがき〉

ヨルシカ:左右盲からお話を考えました。

*2023/4/30、お話の続きを書きました。

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