幼馴染は『結婚する?』が口癖なので逆にプロポーズするドッキリ。
PM7:24
〇〇「ふぅ、、、課題終わった〜、、、、、」
勉強机のライトを消して椅子の背もたれへ思いっきり寄りかかる。
そして握っていたシャーペンを机の上に放り投げて凝り固まった手をほぐしていく。
〇〇「今日はもうダラダラしてよ、、、」
強大な課題で完全に体力を持ってかれた僕は目頭を何回か擦り、ベッドに飛び込んで明日にタイムスリップしようかと思う、、、けど。
でも今日もあとちょっと我慢だな。
たぶんだけど、もうそろそろアイツがやってくる頃だし。
コンコンッ!!
あ、ほらきた。
部屋の窓が2回ノック、そして触ってもないのに勝手に開いていく窓。
少し暗くなった外から小さい体が軽やかに入ってきた。
正源司「こんちわー!」
〇〇「夜7時ね」
正源司「こんばんはー!」
〇〇「そもそも音量がバグってんだよ笑」
正源司「えへへ、、、///」
ラブコメ漫画みたいに窓から勝手に入り込んできたのはうちの隣に住む幼馴染、正源司陽子。
隣に住んでるっていうのも幼馴染っていうのも。
僕たちの関係性ってのもまさにラブコメ漫画みたいなもの。
正源司「いやぁ、今日も疲れたでござるな〜」
〇〇「そうでござるな、そんで今日はどした?」
正源司「新しい漫画を買ったと聞いて!」ビシッ
どこぞの軍曹みたいに綺麗な敬礼を数秒だけした後、さっさと僕の本棚の前に屈む。
そして昨日買ったばかりの漫画の新刊を嬉しそうに手に取り、ベッドへどさっと寝転ぶ。
正源司「うしし、、、これ読みたかったんだ〜♪」
僕の記憶にある限りは小6から着続けているトレーナーを身につけ、学校指定のジャージを履いている陽子。
そして足をパタパタと動かしながら漫画をめくっている。
〇〇「おーい、今日の課題は?」
正源司「、、、、、、いやーおもろいな〜」
〇〇「ちゃんとやりな?」
正源司「だってよ!陽子!」
〇〇「じゃあお前誰だよ」
案の定、課題には全く手をつけていない様子。
昔っからこういうところあるからな、、、
そしてこの後の流れはほとんどテンプレート化されている。
正源司「うぅ、、、課題見せてくだしゃい、、、、、」
広げていた漫画をベッドの上に置き、その上で仰々しく正座をする。
そして捨てられてしまった子犬かのようにキュルキュルとした目で僕を見つめてくる。
ちなみに僕がこの目に弱いってのも昔っから変わらない。
〇〇「はいはい、、、///」
そして陽子がこの後に言う常套句も昔っから変わらない。
正源司「ありがとぉ、、、、、もう結婚する?」
これだ。
陽子はなにかしてもらうとすぐに『結婚する?』って聞いてくるんです。
正直、僕に関しては何度も何度も陽子に求婚され続けて17年。
〇〇「へぇ、、、」
正源司「ん?」
いつもは流してたけど、もうそろそろ堪忍袋の尾が切れそうです。
だから今日はちょっとだけ意地悪をしてみます。
僕は椅子から立ち上がってベッドで正座している陽子の隣へ座る。
正源司「、、、〇〇?」
〇〇「じゃあ僕と結婚しよ?」
僕は陽子の目を見て本気で告白するみたいに言ってみる。
さてさて、ノリの良い陽子だったら『いいよ!どこで式挙げる?!』とか『ばかっ!なんでもっと早く言ってくれないの!』とか。
ちょっとしたコントでも始まるのかな〜、、、、、、え?
正源司「あぇっ、、、///」
なんか、、、思ってたのと違う。
顔から煙が上がりそうなほど赤くなり、目が泳ぎまくっている。
正源司「あっ、、、ふぇっ、、、、、///」
少しの沈黙が僕の部屋を包む。
いやまあ陽子から戸惑いらしき声がずっと漏れて入るんだけど。
なんか僕も少しずつ恥ずかしくなってきたな、、、
〇〇「、、、陽子?」
正源司「あぅっ、、、ちょっ!今日はもう帰るっ!!」
そう言って僕の胸を突き放すように押し、ベットから立ち上がる。
正座して痺れてしまった足をなんとか動かしつつまた窓をくぐっていく。
ゴンッ!!
正源司「い゛っっ、、、!」
たぶん窓枠に頭をぶつけた音と陽子の野太い声が聞こえた。
そんな騒がしさが終わり、僕は部屋に1人に。
、、、彼女がいなくなった後の部屋はひどく静かだった。
〇〇「あー、、、やっちったかな、、、、、」
明日からどんな顔して陽子に会えばいいんだろ。
数十秒前のことを後悔しながら僕は窓を閉め、ぐったりとベッドに倒れ込んだ。
翌日、AM7:34
〇〇「いってきまーす、、、」
普段は陽子が窓越しに『〇〇!学校行こっ!』って教えてくれるんだけど、今日は違う。
いつものデカい声が聞こえず、母さんも『ようちゃんどうしたのかな、、、?』と心配気味だった。
明確すぎる理由が分かっていたけど、僕は適当に誤魔化すのが精一杯です。
〇〇「はぁ、、、」ガチャッ
ため息と一緒に玄関のドアを開け、眩しい朝日が差し込んできた時。
僕のものとは違う一本の影が玄関に伸びてきた。
正源司「おっ、、、おはよっ、、、、、///」
普通にびっくりした。
だっていると思わなかったし、なんなら嫌われたと思ってたから。
〇〇「、、、、、、、、、」 正源司「、、、、、、、、、」
いやその前に死ぬほど気まずいんだけど。
陽子も俯いたまま話さないし、僕も何を話したら良いのか分からない。
正源司「がっ、、、学校行く、、、、、よ?」
〇〇「おう、、、」
陽子の態度も日頃とは180°も真逆。
普段からは絶対に見せないしおらしさがギャップでちょっとドキッとする。
そして僕たちは気まずい空気のまま学校に向かって歩き出した。
歩くこと10分。
〇〇(くっそ気まずい、、、)
正源司「、、、、、、」
先ほどからずーーっと黙りこくったまま下を向いて歩く陽子。
いつもしっかりと前を向いて歩いてる陽子のこんな姿はやっぱり珍しい。
〇〇「あっ、、、あのさ!」
正源司「うわっ!!」
それに僕が話しかけただけでこんなにも過剰な反応。
隣を歩いてたサラリーマンの人が幽霊でも出たのかのような反応でこちらを見てきた、すみません。
正源司「なっ、なに?!」
〇〇「いや昨日のさ、申し訳なかったかなって、、、」
正源司「ふぁぁ、、、///」
両手を小さな顔に寄せ、ブンブンと左右に振ってくる。
、、、陽子のこんなにも乙女な顔は初めて見た。
正直、めちゃくちゃかわいい。
正源司「わっ、、、私は〇〇とならいいよ、、、、、?」
〇〇「え?」
正源司「だからっ!」
スカートをひらりと揺らしながら僕の前に。
そして身長差で必然的に上目遣いになりながら僕の顔を見つめてくる。
正源司「〇〇となら結婚したいっ!大好きだもんっ!!」
〇〇「陽子、、、」
正源司「何年も〇〇と一緒にいるから告白したくてもふざけちゃって、、、、、」
陽子の目にどんどんと涙が溜まっていく。
、、、昔から陽子はよく泣いてた。
僕にテストの点数で負けたり、野良犬に吠えられたり、お母さんに怒られた時だったり。
だけど僕のせいで泣いてる陽子は見たくはない。
〇〇「陽子、こっち向いて?」
正源司「、、、やだ、、、、、いま可愛くないもん」
〇〇「陽子はいつでもかわいいよ」
正源司「えっ、、、?」
〇〇「幼稚園の時から今まで、陽子はずっと可愛いよ」
陽子の頭に手を乗せ、優しく撫でる。
そして彼女は鼻を赤くして唇をプルプルと振るわせながら僕を見上げた。
〇〇「陽子、僕もずっと大好きだよ」
正源司「うぅっ、、、〇〇ーーーっ!!」ギュッ
両手を大きく広げ、僕に向かって飛びついてくる。
陽子の涙が僕の制服にポタポタと溢れ、彼女の泣き声が耳元で聞こえる。
正源司「うぅっ、、、すきっ、、、だいすきぃ、、、、、!」
〇〇「はいはい、、、笑」
陽子を抱きかかえながら優しく陽子をあやしていく。
ほんとに子どもみたいだな、、、笑
僕は陽子を抱く力を強め、一度だけ「大好きだよ」と呟いた。
数年後、、、
正源司「うぅ、、、緊張する、、、、、」
見上げてしまうほど大きな扉の前に僕たちは立っていた。
着慣れないスーツに袖を通し、隣で緊張しまくっている陽子の手をぎゅっと握る。
〇〇「そんな緊張するキャラだっけ?」
正源司「しょうがないじゃんっ!結婚なんて初めてなんだもん!」
〇〇「まあそりゃそうだよな笑」
白いベールに豪華なドレスを見に纏った陽子は今までにないくらい可愛く、綺麗だった。
今すぐに抱きしめたい気持ちを抑えながら僕は前を向き直す。
正源司「ふぅ、、、、、、〇〇!ありがとう!」
〇〇「ん?」
正源司「私をお嫁さんにしてくれて!ほんっとに嬉しい!」
〇〇「、、、こっちこそ」
正源司「え?」
〇〇「陽子がずっと『結婚しよ』って言ってくれたから、あの日があったんだよ」
『まもなく扉開きまーす!』
スタッフさんの声に僕たちはもう一度気を引き締める。
そして、2人の未来に向かってゆっくりと歩き出した。
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