宇宙へ 株式投資【三菱重工】022 三菱重工技報より③ 小型衛星における技術開発
著名投資家であるウォーレンバフェット氏の教え「その会社の社長になりたいと思えるような企業に投資せよ」・・・これに従い私も社長になりたいような会社を探しています。
私は小学生の頃からの憧れ・・・「宇宙」に関連した日本の株式会社「三菱重工」を会社四季報の中から見つけ出しました。この会社の社長になりたいくらい「三菱重工」という会社が大好きです。
もっと詳しくなりたいので、いろいろと調べ物をすることにしました。 今回のシリーズは次のような資料に基づいて情報収集を行っています。
・会社四季報(東洋経済)
・公式ホームページ(三菱重工)
・有価証券報告書(三菱重工)
・中期経営計画書(三菱重工)
・日本経済新聞
ちなみに猫の写真は内容と無関係です。私が猫好きなので選びました。
三菱重工の公式HP内に「三菱重工技報」の記載があるのを見つけました。ここには製品・技術に関するレポートがあります。そのうち「航空宇宙特集」というテーマが6件ありましたので、少しづつアップしてみたいと思います。
(022)三菱重工技報より③ 小型衛星における技術開発
2021年現在の情報です。難解な部分は飛ばし、私見で必要な情報のみ以下にアップしました。
Vol. 58 No. 4 (2021) 航空宇宙特集
小型衛星における技術開発
小型実証衛星3号機の開発,並びに衛星推進系の開発
JAXAより“小型実証衛星3号機の開発と運用”を受注した。また小型衛星向けの推進系の開発として,グリーンプロペラント推進系の開発及び軌道上実証を完了し,今後小型衛星市場への参入を図る。更にJAXAより小型月着陸実証機(SLIM)向けメインスラスタ,推薬タンクを受注して今後の小型衛星/探査機などによる宇宙探査への適用を図る。
人工衛星の昨今の動向として,従来開発されてきた大型・中型衛星に加え,小型衛星あるいは小型衛星コンステレーションシステムが急速に伸びつつある。小型衛星は初期には大学,研究機関等が開発主体であったが,実用ミッションに耐えることができる小型で高性能な搭載用機器が容易に入手できるようになったこと,低コストなこと,さらには低コストの打上げ手段が登場してきたことから,企業が参入するなどの産業的な広がりを見せている。
小型衛星のミッションも通信,地球観測での利用に加え,宇宙科学や探査の分野へも拡大している。小型衛星の基本的な機能は大型・中型衛星と大きく変わらないものの,コスト・開発期間の面では大きな相違があり,開発課題の一つとなっている。
また,初期の小型衛星は推進系を持たずリアクションホイール等による姿勢制御のみを行うものが主流であったが,近年,ミッションの多様化やデブリ化防止のために小型衛星でも推進系を 搭載するニーズが高まっている。
大型・中型の衛星では比推力の高さや反応性の良さから,毒性が強く取り扱いが難しいヒドラジン系燃料を使用した推進系が主流であったが,特に小型衛星で は,少人数での充填作業が可能で,毒劇物を処理できる設備が整っていない射場でも取り扱いできる安全な推進系が望まれる。
三菱重工は毒性の低い推進薬(=グリーンプロペラント)を適用した推進系の開発に成功した。さらに,小型月着陸機 SLIM の開発を通じて燃料・酸化剤タン クの一体化,メインスラスタの多機能化(ブローダウン及びパルス作動)など推進系をコンパクトに 搭載する技術を獲得した。
今後,これらの技術を低軌道から静止軌道,月探査などの科学ミッションを持つ小型衛星への普及を図っていく。
小型実証衛星3号機
小型実証衛星 3 号機は,JAXA の“革新的衛星技術実証プログラム”で,部品・コンポー ネントの軌道上実証を行うための100kg級小型衛星である。本プログラムでは民間企業や大学等へ小型衛星を活用した宇宙システムの基幹的部品や,新規要素技術の軌道上実証実験の機会を提供している。
短期・低コスト開発
革新的衛星技術実証プログラムは2年に1回の軌道上実証を行うプログラムであり,一般的な 大型衛星が5~10 年程度で開発されるのに対し,2年未満の短期開発が求められる。また,大型衛星とは異なり低コストでの開発も求められる。
一方で,衛星システムには各実証テーマ機器の データを確実に取得できる信頼性の確保が必要とされ,短期・低コスト開発と信頼性確保の両立が重要な課題となる。 このためのアプローチとして,衛星システムの機器の大部分は既に他の衛星での実績品,あるいは実績品をカスタマイズしたものを採用することとし,新規設計・検証試験の期間短縮,開発費 低減,リスク低減を図った。
衛星制御のキーとなるオンボードコンピュータ(以下 OBC)について は,過去に開発の“ほどよし衛星“に搭載された OBC を採用した。OBC は,三菱重工開発 の耐放射線性が高い宇宙用 CPUが搭載されていることとソフトウェア開発において過去の資産が活用できることが特徴であり,これらの特徴により信頼性確保と短期開発を実現する。
また,衛星システムの開発のうち構造設計と熱設計については,短期開発を実現するために,過去に実績のある設計手法を適用して開発リスクを低減するとともに,構造設計と熱設計で設計検証用の供試体をそれぞれ製作して試験を並行で実施する計画とした。 低コスト開発に関しては,開発体制や作業分担,顧客との調整において様々な工夫を行っている。
MBSE の導入
MBSEは,設計検討・開発・運用におけるシステム要求・設計等一連のプロセスにモデル(デジタル)を適用して一貫性を持たせた設計システムである。 MBSE は様々な分野・業界で適用が進められているが,宇宙機開発でもデジタル開発による効率化を目指し,3 号機開発では MBSE の導入と有効性評価が盛り込まれた。
3号機では,まず部分適用により環境構築・モデル作成・設計/トレーサビリティ/審査会への活用を試行する。これを受け,後続号機ではフル適用が目論まれている。
グリーンプロペラント推進系(GPRCS)の軌道上実証成果
概略仕様
人工衛星などの宇宙機の軌道や姿勢を制御するための推進系には“高性能化(消費推薬量 低減)”,“作業性/取扱い性向上”,“低コスト化”が望まれている。三菱重工では,そのうち“作業性 /取扱い性向上”に着目し,経済産業省の下,JAXA 宇宙科学研究所/JSS (宇宙システム開発利用推進機構)との共同研究等により,有毒な推薬に代わって“グリーンプ ロペラント(低毒性推薬)”を使用する推進系である GPRCSの開発と軌道上実証を行った。
GPRCS の軌道上実証は,JAXA 革新的衛星技術 実証プログラムの小型実証衛星1号機(RAPIS-1)のミッション機器の1つとして行い,推薬 SHP163 を使用した推進系として世界で初め ての軌道上噴射を達成した。 グリーンプロペラントとして HANを含む推薬(SHP163)を用いている。RAPIS-1 に搭載した GPRCS は軌道 上実証に必要な最低限の構成とした。
JAXA 内之浦宇宙空間観測所で行った推薬充填作業では,現行の有毒推薬に必須となるスケープスーツは着用せず,クリーンルーム用作業着を着用す るなど安全装備を緩和して実施し,グリーンプロペラントとしてのメリットである作業性/取扱い性 の向上を確認した。
軌道上実証成果
RAPIS-1 に搭載した GPRCS は 2019 年2月から 2020 年2月まで約1年間の軌道上実証を行い全てのサクセスクライテリアを達成した。軌道上でのスラスタの噴射は 0.1~1 秒のパルス噴射及び最大 30 秒の連続噴射を行った。
軌道の変化から推力を算出,比推力は推力及びタンク圧力の低下分から計算される消費推薬量から算出し,評価を行った。推力及び消費推薬量の 推定精度を考慮し,評価には軌道上で実施した連続噴射の平均値を使用した。地上燃焼試験と 比較しても同等の性能が得られたと評価する。
累積噴射時間 4635 秒,累積パルス数 13660 回の噴射を確認し,フルサクセスクライテリアとした 3000 秒以上,10000 回以上を達成した。また,搭載した推薬 2.85kg について,タンク圧力の低下やスラスタ噴射時の圧力・触媒層温度の挙動から,タンク内の推薬 が枯渇するまでの噴射を確認した。
今後の展開
RAPIS-1 により GPRCS の軌道上実証を達成した。現在は,衛星システムから推進系に求められている“低コスト化”にも着目し,モジュラーデザインの適用による開発試験及び開発コストの削減,AM(積層造形)や低コストコンポーネントの開発による製造コスト低減により,GPRCS をより多くの衛星に搭載できるように検討する。
小型月着陸実証機(SLIM)メインスラスタと推薬タンクの開発 4.1 SLIM
概要
SLIMは,将来的な月惑星探査に必要となる重力天体 への高精度軟着陸の技術実証及び,月惑星探査を可能とする軽量探査機システムの開発を目指した,JAXA 開発の小型月着陸実証機である。三菱重工は,メインスラスタと推薬タンクの開発を担当した。
メインスラスタ
SLIM で使用するメインスラスタ(OME)は燃料にヒドラジン,酸化剤 に MON-3 を使用する2液式スラスタである。燃焼器には窒化ケイ素(Si3N4)系セラミックスを世界で唯一適用しており,一般的に使用されるニオブ系金属スラスタに比べて耐熱温度が 1500℃ と約 200℃程度高く,燃焼温度を高めて性能を向上でき,耐酸化コーティングも不要であるため, 寿命制約のないことが主な特徴である。
OME はロケット分離から月着陸までのシーケンスにおいて,大きなΔVと推力が求められ,尚 且つ探査機の軽量化のためのブローダウン作動により,630N から 330N の幅広い推力範囲で運用される。
また,月着陸時に必要なパルス作動が可能なことも大きな特徴の一つである。上述の作動要求を満足するためには,高周波/低周波燃焼振動や着火衝撃等の様々な技術課題を解決する必要があり,開発の過程で多種類の検証試験を実施してきた。
そのうち,品質確認試験(QT)において,実際の運用シーケンスを模擬した作動試験を行っており,制御手法や内部環境を含めた作動の成立性を確認し,広い推力範囲における安定した燃焼性能と,ON 時間と OFF 時間を自由に組み合わせることができるフレキシブルなパルス作動の適正を確認した。
現在,領収試験 (AT)を含めた,全ての開発工程が完了している。今後は,SLIM の開発で得た 柔軟な作動性を活かし,多くの惑星探査機等へ適用できるように探査機に応じた適用最適化の検討をする。
推薬タンク
SLIMの推薬タンクは探査機重量削減のために,探査機本体の主構造を兼ねる設計としている。燃料と酸化剤の 領域は金属製の共通隔壁により区別されており,燃料側,酸化剤側それぞれに設置されたダイアフラムを介してガスにより推進薬を加圧,推進系配管を通して各スラスタへ供給される。
素材はチタン合金を採用し,また耐圧強度を確保しつつ円筒部の薄肉・軽量化を図るため,円筒部分に CFRP を巻き付けるフープラップ構造を採用したことで,内部デバイスを含めたドライ質量を約 40 ㎏まで低減することができた。
以上の論文では、次のような事を知ることができました。
・地球上の製品と同様に「小型化」「低コスト化」「短期開発」が重要
・同様に、一度受注したものは次のプロジェクトに繋げる。
・様々な開発には様々な「毒劇物」が使用され、対策が必要である。
・前回触れた「耐放射線性が高い宇宙用 CPU」が使用されている。
・「重力天体」での活動も予定されている。
「重力天体」は火星ではないか?