AveMujicaは暴かれたい? ~若葉睦をめぐる駆け引き~
なぜなにAveMujica
アニメ「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」13話で鮮烈なデビューを果たしたAveMujica。彼女達については、これからの続編で様々な事情が明かされていく存在ですが、その結成は「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」で密かに進んでいました。
今回は、そんな謎多き彼女達の結成までの舞台裏で何が起きていたか、いや、何を起こそうとしているのか。続編の開始までの手慰みに、現時点でちりばめられた情報から振り返ってみたいと思います。
仮面バンドとは
まずはじめに仮面バンドとはなんなんでしょうか。
仮面で顔を隠したバンド。それはそう。
参考に、「仮面バンド」でググると、気を利かせた検索エンジンが「覆面バンド」の検索結果を表示してくれます。ありがとう、気が利かないね。
検索エンジンが示すところによると、仮面バンドという表現/存在は一般的でなく、覆面バンド/アーティストが一般的な表現のようです、また、彼女/彼らの正体などはわかりません。メディアに出す情報をアーティスト自身がコントロールしているのはありますが、纏うものが頭全体を隠す被り物や仮面のため正体を暴くとっかかりがない、そもそも別分野で活動していないのであれば顔以外に暴くほどの情報がない、等がその理由として考えられるでしょう。
さて、翻ってAveMujicaについて考えますと、彼女たちの仮面は目元や口元だけであり、正体を隠したい者が頼るにはいささか心許ないです。
更にいえば、暴かれる正体があるのも“正体を隠したいのであれば”都合が悪いです。前述しましたが、覆面の下が判明したところで、その覆面での活動以外を行っていなければ、「顔出しした」程度の意味合いしかありません。
さて、ここで不自然だと話題になっていた、祐天寺にゃむさんを祥子がスカウトした理由(名目)を思い出してみましょう。
『顔と数字』
つまり、暴くの足る理由と手がかりです。
このことから、一つの仮説が頭に浮かびました。
『AveMujicaは正体を隠すのでなく、暴かせたいバンドなのでないか』と
時系列~事象の確認~
それでは手始めに、AveMujicaが結成される過程、我々視聴者に示された事実をベースに追ってみましょう。
起点:三角初華
まずは三角初華(後のドロリス)との接触。ここが本編中のスタートだと思われます。
絞り出すような祥子の「全部…忘れさせて」は、そよの「なんで春日影やったの!?」と並んで、ライブシーンの余韻を吹き飛ばし嵐の始まりを感じさせるキラーワードでした
その後、8話で初華と再会した祥子は短い逢瀬の後に(短い理由は13話でお察し)、「折り入ってお願い」をします。この『お願い』はいまだ明かされていませんが、後のAveMujicaのライブをみるとある程度推測はできますので後述。
クラスの皆には内緒……じゃない!?:八幡海鈴
さて、ここからしばらく祥子の動きは鳴りを潜め、つぎにAveMujica関係の動きとみられるのは12話。花咲川の教室のとあるシーン
ここでは椎名立希が、珍しく初華と話し込んでいる八幡海鈴(後のティモリス)の様子を気にします。
実際、6話で初華が芸能活動で早退する際も、海鈴はクラスメイトに倣わずに、初華でなく寝不足で船漕いでる立希の方を注目していました。「仲良かったっけ?」という彼女の指摘はその通り、この二人の込み入ったやり取りを教室で目にしたのはこの時が初めて、というのはそのまま受け止めてよいでしょう。AveMujicaの動向としては初華に続いて海鈴が参加したという理解でよさそうです。
気にかかるのは、敢えて海鈴が口頭で初華と調整をしている点。上記の通り、それまでやり取りのなかった芸能人初華と海鈴がやり取りをすれば、立希だけでなくクラスメイト中から注目を集めてしまうのではないでしょうか? “本気で”隠したいならメッセージアプリでやり取りするほうが安全です。ここはあくまで立希と関わらせたり、わかりやすい形を取りたかった等、演出の都合も一考すべきですが、正体を隠す仮面バンドらしくない挙動といえるでしょう。
幕間:海鈴と睦
12話でMyGO!!!!!のライブ後、RiNG付近にいた海鈴が待っていたのは、口を開けばファンブルを出す女こと若葉睦ちゃんでした。好意と祝いのきゅうりが舌禍でキャンセルを食らい打ちひしがれる彼女の様子を察し、促して連れ立つ美鈴は、その道すがら睦に「決めたんですか?」と問い、俯いた様子に彼女の逡巡を読み取ります。
ここから海鈴と睦、それまで一切接点を見せなかった二人がすでに関係を持っており、かつAveMujicaの参加について睦はまだ決断していないことが示されます。
(まあ、以前から面識があった可能性は否定できませんが、否定できないだけなので、この可能性は無視していいでしょう)
いやお前ドラム買ったのが先だったのかよ:祐天寺にゃむ
絶対あの世界の住人が正体考察してたら「AveMujicaに参加して、その匂わせの一環で電子ドラム買ったんだ!」とか言われてるよね、にゃむち。
実際は電子ドラム叩いた動画が祥子の目に留まったとのことですが。
さて、久々登場の祥子は、勧誘の際に一見不可解な言動をします。
・名前と顔を隠すバンドにも関わらず「顔と数字」をスカウトの理由に挙げる
・参加を決断してないはずの睦の名前をメンバーとして挙げる
前者については、そもそも前述のとおり「隠すことが目的でない」と仮説で解釈するとして、後者。睦の参加を決定事項のように扱っていますが、実際に彼女が参加を表明するのは13話。祥子が彼女の家を訪ねた時です。
勿論、『にゃむを勧誘するのに知名度のある札が必要だったので睦の決断を待たずに吹いた』という形にはなるのですが、問題はそのリスクヘッジです。もし睦が参加しないと表明したら?
また、sumimiの初華の参加および事務所とも話がついているのも普通に考えたらあり得ない、というのは「マジで言ってる?」というにゃむの反応からも見て取れます。しかし13話をみると大マジであり、祥子は通常では考えられない方法でsuimimiの初華を引き出した、ということになります。
最後にして大前提?:若葉睦
13話、退勤後の祥子が意を決して向かうのは若葉睦の邸宅でした。
ここで祥子は「既に他のメンバーは揃いましてよ」「残るはあなただけ」と告げます。
……うん、強迫だね!!!
「“残るは”あなただけ」。最初から勘定に入っていなければこういう言い方はしません。そう、この話のおいて睦の参加はマストであり、睦抜きでは成り立たないのがAveMujicaというのが示唆されます。
それでいて先にメンバーを集めた事実を突きつけるのは、睦が断った時の損害の大きさを意識させる、もっといえば「豊川祥子の生殺与奪権」を握らせて、断るのを不可能にするのが目的だったんでないでしょうか?
しかし睦は、逡巡するそぶりもなく食い気味に参加を伝え、逆に祥子が虚を突かれたような反応をしてします。
……本当は退路を断たれて恨みながら参加されるぐらいの心づもりで、その覚悟ゆえの門前での決意の顔だったんでしょうね。
祥子もそんな睦を本当に利用し倒すつもりなら「睦、ありがとうですわ!🥹 やはり私はあなたがいないとダメですわ!」だのなんだの適当に縋る言葉を言えばいいんですけどね。相手をダメにして取り込むぐらいなら自分が恨まれる方がいいというか、自分に相応しくないと考える好意や善意を受け付けない魂のあり方がね……
さて、この勧誘の中で、やはり“正体を隠す”とは反するワードが表出します。
「後戻りはできませんわよ」
豊川祥子の持ち札
これまでの参加順と言動から、浮かび上がった気になるポイントは下記の二つ
・なぜsumimiの初華の参加を事務所は認めたのか
・結成に前提(絶対必要)の睦と、仮面=正体を隠すはずなのに不可逆な決断になる理由
そして、この二つは13話ライブ後のある初華の台詞から一つに結び付けることができます。
「事務所の人が睦ちゃんのギター褒めてたよ」
うん、確かに睦ちゃんのギターは素晴らしい。だがそれを芸能事務所の人が真っ先に所属タレントを通して伝えてくるとなると、単なる感想以上の意味合いを持ちます。
着目の表明。そして商品価値の判断。
若葉睦の価値
ここでいったん、作中で示された睦の知名度をふりかえってみましょう。
作中過去および現在で彼女は芸能活動をしている形跡はみえません。
お嬢様としてギター以外にも芸能に通じる習い事はしているようですが。
しかし、羽丘で出待ちした際は月ノ森の制服と相まって注目を浴び(「お人形さんみたい」「お笑いの若葉の娘」「テレビでみたし!」)、
にゃむは祥子のスマホの画面に映し出される彼女の素上にすぐに気づきました。このことから
・ある程度芸能情報に通じている人であればすぐ気づくメディア露出(親繋がり)経歴
・人形のように整った可愛らしい容姿
を持っていると確認できます。
ざっくり纏めてしまえば、『芸能界に出せる顔と数字がある』ということになります。
豊川祥子のカードの切り方
さて、13話で没落の事実が明らかになり、自宅のピアノすら失った祥子が芸能シーンで切れるカードはなんでしょうか。
「若葉睦との縁」「三角初華との縁」。
その二つが彼女の武器──にみえますが、後者は果たして彼女が使えるカードでしょうか?
確かに初華は祥子のメッセージを1年中見返すほどに彼女のことが大好きであり、かつsumimiの活動やそのユニットの相方である純田まなさん相手の時はあまり楽しそうにしていません。しかし、だからと言って彼女を引き抜いたり、時間を割かせたりできるでしょうか。
いうまでもありませんがsumimiは大人気ユニットであり、作中ではそこら中に広告が出され、一般的な女子高生はカラオケで歌うならsumimi!といった具合です。
もしこのような人気ユニットの子に昔の友人が自分の活動に引き入れようと粉かけたらどうなるでしょうか? 全力で排除しますよね?
仮に初華が自らの意志で祥子を取ったとしても、初華の業界での信頼は地に落ちます。
そう、初華というカードは本来祥子には使えないカードなんです。
しかし、実際のAveMujicaは「任せたらいいのに」とにゃむに言われるほど大人が携わる商業企画となっており、初華の事務所はむしろバックについているようにみえます。
ということは、祥子は初華がAveMujicaに携わる理由に足りうる将来的な利益を提示したことで、事務所から初華やサポートを引き出したと解釈するのが無理がないでしょう。
そして、事務所に対して祥子が切れるカードはなんでしょうか?
……そう、若葉睦です。
そして、若葉睦の価値(数字)は人気お笑い芸人の父と国民的大女優の母という生まれ持ったコネクション。それによりメディア露出した知名度です。
この子個人のプロモーションや契約を握れるとしたら?
しかも売り出し中の初華と同じユニットという経歴・親交がついてくるとしたら?
それは、事務所としても、sumimiに割く時間を削っても振る価値のある賽になるのではないでしょうか?
つまり、前述した祥子の初華への「折いったお願い」とは、バンド活動への参加ではなく、事務所の大人への顔つなぎ、持ち込み企画『AveMujica』を提案する場を作ってもらうことだったのです。
後戻りができない決断
さて、「事務所が欲しいのは若葉睦では?」となることで、祥子の発言の含意が読み解けてくるのではないのでしょうか。
「後戻りはできませんわよ」、つまり仮面と仮初の名前を捨てても、元の若葉睦には戻れない、仮面バンドAveMujicaだけでなく、若葉睦自身も、世間に晒されることになる。
そう、AveMujicaの仮面と名前は、暴かれるために用意されたものである、と。
大成功を収めたAveMujicaライブの背景とは?
我、身バレを恐れることなかれ
さて、13話のAveMujicaライブですか、スタッフも大勢、会場も立派と、商業的に大成功しているように見えました。──どうやって?
もちろん資金があればハコは用意ができますが、観客までとはいきません。
さて、プロモーションはもちろん行うとして、AveMuJicaはどうやって観客を集めたのでしょう。
ところで皆さんは「声で同じ人だとわかる」という経験はありますか? アニメ見ている人なら意識するかはさておき、ないことはないと思います。
いわゆるダメ絶対音感みたいな、判別が得意な人もいますので、仮に普段と違う調子で話していて気づかれにくいとしても、気づいた人が1人いれば拡散することだってありえますね。つまり、声で大体バレるし、バレたら共有されます。
AveMujicaのボーカルのドロリスである初華は繰り返すように人気ユニットsumimiの片割れであり、街中で曲が流れるほどの人気を誇っています。
絶対sumimiの初華だってバレてるだろ!!!!!
そらチケットも売れるわ!!!!!
実際にAveMujicaのライブに至るまで、どのようなプロモーションがあったかは作中で示されていませんが、最低限度の情報として、少なくとも曲=歌声までは公開されていたはずです。無の情報であの客集めたって言われたらお手上げだけどネ
“隠す”ことで刺激される欲求
ドロリス=三角初華を察知した観客は、次に何を行うでしょうか?
「三角初華が仮面で参加してるバンドなのであれば、他のメンバーも別の顔がある有名人では?」と興味を掻き立てられるのではないでしょうか。
では、次に正体を知られそうなのメンバーは誰でしょうか。初華の次に「顔(露出)と数字(知名度)」があり、かつ担当パートに対する導線のある人物。
そう、アモーリス=にゃむちです。
ここまでくれば、もう観客はこう思うでしょう。
「この仮面バンドは、正体を暴いていいバンドなんだ」と。
そして次に判明するのは?
……ええ、モーティス=若葉睦でしょう。
えっ祥子バレそうなことやめろみたいに言ってたじゃん?
『仮面バンドとしての自覚をもて』とは言っているが『正体がバレるような行動は慎め』とは言ってないんですよね。初華には『有名人としての自覚が足りない』とは言っていましたが、これは祥子が電車で帰るのに同行しようとしたことを制する台詞であり、文脈が違います。
え? 仮面バンドとしての自覚ある振る舞いも、正体をバレないようにするのも同じじゃないかって?
確かにはそれは部分的にそうかもしれません。
しかしそれならば『仮面バンドとしての自覚』という表現はむしろ遠回りになります。
私は、これまで13話をかけて表現やコミュニケーションのズレを描いてた「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」でそういった大雑把なせりふ回しを意図せずしているとも、豊川祥子がそういった言い方を意図せず選ぶとも思えないので、同じ意味だという解釈は支持しません。
てか繰り返しになるけど無理なんだって、正体がバレないようにするのは。
なぜ『AveMujicaの世界観』が必要なのか
それではつぎに、表現内容からAveMujicaに迫っていきましょう。
矛盾するコンセプト
祥子が強調していた『AveMujicaの世界観』ですが、これを示した芝居パートは、正体を隠そうとするのであれば、むしろ不自然です。
何故かというと、お芝居は「正体を隠す」演出とは真逆の手法になるからです。話す人物、動く人物にスポットライトを当て、舞台上で誰が・何を行っているか見せなくてはなりません。
これが、顔出しNGのライブではどうでしょう。ちょうど顔出しNGのライブのレポートを見つけたので参考にリンクを貼ります。必要部分は引用しますが、興味がある方はどうぞ。
そう! 光は正体を隠すために使うものなのです!
ところがAveMujicaは、光により各メンバーの姿を照らしている。もちろん、ステージ上の名前・キャラクターを認知させる一環ではあるのでしょうが、それは同時に、容姿や声、立ち振る舞いなどの正体に繋がる情報を晒す行為に他なりません。
やはり、AveMujicaは「正体に注意を向けさせる」意図をもって組み立てられているのではないでしょうか。
売れるためにやるジャンルじゃないという指摘
これについては私自身判断を迷う部分があります。売れ線やったら売れるという話でもないでしょうし。
事実上プロデュースをしている祥子の境遇や嗜好を鑑みれば、彼女の感性による表現がこう出力され、それを売るためにあらゆる策を弄している、と受け取るのは無理のない、自然な受容だと思います。
但し「売れなくてはならない」が「ジャンル選択では売れやすい方向性を選ぶ余地がなかった」とすれば、重要な指摘かもしれません。
『AveMujicaの世界観』は誰を照らすか
さて、それではAveMujicaの世界における強烈なキーワードは何でしょうか。
──人形、ですよね。
そう、この世界観においては演者は人形として振舞います。
つまり、人形のようであればあるほど正しい。
では、「人形のよう」とはなんでしょうか?
一つ、作り物のように端正な顔立ちであること
一つ、作り物のように表情が変わらないこと
一つ、作り物のように物静かであること
一つ、作り物のように人が愛でることのできる小ささであること
まさに上記の『人形』というイメージにぴったりであり、更には作中で直接「お人形さんみたい」と評された人物が一人、います。
そう、モーティス=若葉睦こそが最もAveMujicaの世界観の中で人形を極めた存在であり、「死を恐れることなかれ」、未だ死を持たない存在、生に至らない人形であることを示唆した名前を背負う者です。
AveMujicaの世界の内でのみ、存在自体が強烈な表現になる女の子、それが若葉睦です。
悪い意味での人形を隠すなら人形の中。良い意味での傑出した人形を際立たせるのも人形の中。
人形世界こそが彼女が最も照らされる場所です。それが望むと望まざるとにかかわらず。
若葉睦ものがたり
AveMuJicaとはなにか
若葉睦の市場価値によって成立するものであり(事務所の参加)、
若葉睦を表現として成立させる舞台の上で仕掛けであり(世界観)、
若葉睦を世間に暴きたいという欲求で回る機構(仮面)、
それがAveMujicaではないでしょうか?
経済的にも精神的にも窮乏した豊川祥子が若葉睦を利用することで唯一組める構築。
利用される関係に堕ちてでも豊川祥子に寄り添いたい若葉睦が唯一力になれるコンセプト。
失い続けた二人が、最後にとれる/とらざるをえなかったたった一つのやり方。
それが、「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」で秘された、絢爛と退廃に彩られた、AveMujicaの真実ではないでしょうか?
真相は続編を待つしかありませんが、私の解釈は以上になります。
本記事の主張の正否はさておき、ここまで長文にお付き合いいただいた皆様の理解や受容の一助になることを祈りつつ、この辺で筆を置かせていただこうと思います。
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