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私たちは、言葉にならないたくさんの想いを抱えて生きている。
生活を脅かすような大きな悩みはない。
出生の秘密もないし、複雑な家庭環境で育ってもいない。
誰にも言えない重大な秘密なんてない。
私はいつだって、マジョリティ側。
そんな自分が、生きづらいなんて言っちゃいけない。
そんな風に思うことはありませんか。
そんなあなたに、本の処方箋をお渡しします。
寺地はるなさんの作品は、どんな人のどんな小さな想いも無視しません。
主人公の實成は、父親を亡くしたあと、謎のモヤモヤに襲われます。
彼は、深夜の散歩を始めます。
その深夜の散歩に、同僚の塩田さんやその同居人のくまさん、元カノの伊吹さん、伊吹さんのマンションの管理人松江さんが加わります。
言葉にできない想いを抱えた人たちが、ただ歩く。
劇的な出来事がある訳でも、魔法みたいな解決策がある訳でもない。
ただ歩いて、ポツポツ話して、自分の本当の気持ちを発見して、また別々の道を歩き出す。
そんなストーリー。
私たちは、言葉にならないたくさんの想いを抱えて生きています。
それは、時に自分の心を素通りし、時に自分の心に澱のように溜まっていきます。
言葉にできない心の澱が溜まると、心が濁って苦しくなる。
厄介なのは、自分でも気づかないうちに心の澱が溜まっていて、苦しくなった時には、もう結構限界に近いところにいたりするところ。
だから、自分だけは、自分の中にある小さな違和感や悲しみや怒りの存在を認めてあげるべきだって思うのです。
この物語の中に、くまさんという女の子が出てきます。
自分の名前が嫌いで、人に名前を呼ばせない女の子。
彼女は、父親の元恋人である塩田さんの家に、学校に行かずに居候しています。
彼女が言うんです。
「みんな『なんで』って訊く。ただ行きたくないから、ではダメみたい。そんなわけないやろ、もっとなんかあるやろ、わたしたちを納得させてくれな承知せえへんでって感じでしつこく問い詰めてくる。心配するふりして推理ゲーム楽しむの、趣味悪い」
誰かを納得させるために、心や言葉がある訳じゃないのにね。
「家庭環境が複雑なのね」なんて一言で、簡単には片づけられない想いがそこには確かに存在しているんです。
モヤモヤは確かにそこにあるのに、言葉にできなかったり、自分でも理由が分からないことも、実は多いのかもしれません。
生きていれば、良い時ばかりじゃない。
タイトルが【いつも月夜】じゃなくて、【いつか月夜】っていうのがなんとも良いのです。
今日は、曇って月がよく見えなくても、いつか見える日がくるよって言われてるみたいで。
モヤモヤを抱えたあなたに。ぜひ。
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