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『異動アヒージョ15才』Day One。35日目。

9月から店が異動になる。
とはいえ、ここでのキャリアをスタートさせたときに初めて店長を任されて、俺がいなくなってわかりやすく赤字になった店だ。


景気づけに、久々に仕事前にアヒージョを作る。オリーブオイルが値上がりで高級料理になった。引くほど美味しい。

あっ、いい忘れていた。
初めまして俺。
毎日が初めてならいつ始まりいつ終わってもいい。


異動にあたりふと考えたことがある。
俺の居る店はいつも人が溢れていて、しょっちゅう面接をしている。
でも他の店はいつも人がいないと嘆いている。

それはそこにいる責任者の、利己的な目線と重苦しい空気、相手を尊重しない尊敬しない態度が原因だと思われる。

うちの店は異動間際にまた応募があり面接をした。

「この履歴書自分で書いたの?」
「いやお母さんに書いてもらいました!」 
と、笑顔で答えた。
基本の顔が笑顔なのだろう。

顔のいたるところにピアスが配置されている。

驚くほど色白な15才美少女は、微笑みながらこちらに視線を向けた。

学校は通信の高校に通いあと3〜5年働けるらしい。

ゴスロリの格好をして彼女がお客様として店に来ていたのを覚えている。姫カットとつややかな黒髪。下駄のように身長を高く見せたいブーツ。
その時は13.4才だったのかと思う。

インターネットで調べたら、15才になった
3.31までは働けず4.1〜は働けるようだった。

「うちは、食材扱って、調理するから、仕事中ピアス外さないとならないよ?」

と言うと

『ピアスの穴、埋める覚悟で、きました!』

と笑顔で答える。何度見ても驚くほど白い肌だ。

採用を決め事細かな説明をする。
その度に
「はい」「はい」「うん」「はい」「うん」

少しだけ「うん」が混ざる。吹き出しそうになる。

父親も母親も、弟も店に買い物に来てくれていて、両親がこの店ならバイトしてもいいよと、言ってくれたから、看護師の、母親が履歴書を書いてくれたのだろう。

「じゃあ、少し経ってから、電話かけたいけどここにかければいい?」と履歴書を指差し、聞くと、
「あっこれお母さんの番号っす」と微笑んだ。

本人の番号を聞き、採用して昨日、初日を迎えた。

元気に笑顔で5時間働いたようだ。

うちの店は自分含め陰キャな人が勢揃いである。

もちろん空気は透き通り、自分はそれを作り出してきた。数日後異動するが、予想していたので、権限委譲はできている。

そこに15歳の真っ白な向日葵みたいな女の子が、入るとどうなるか?

18才、19才、28才、29才の陰キャ勢の男の子たちはやる気を出し、店はさらに明るくなるだろう。

そこまで想像して採用した。

面接のあと、彼女のお母さんと弟が買い物にきた。
なにかいいたげだった。

昨日、彼女の父親が買い物にきた。
なにかいいたげだった。

その後、高校中退して、そこから、2年続けてくれている男性の母親が買い物に来た。
なにかいいたげだった。

しあわせをつくる。

未来を創造する。

それが俺の仕事だ。

次の場所では、経営者の目線で仕事をしてみることにする。

成熟した人格になりつつある。

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