原神 魔神任務間章「険路怪跡」は魈の通過儀礼である。

*今回の記事には、原神Ver2.7の魔人任務「険路怪跡」のネタバレを含みます。まだプレイしていない方はご注意ください。


1.はじめに
 来る2022年5月31日の「原神ver2.7」で追加された魔神任務間章「険路怪跡」をようやく終わらせた。そこで思ったことを忘れないうちに急いで書き留めておきたい。まず、魈が推しになった。魔人任務中、魈がかっこよくてかわいくて仕方がなかった。もちろん、新キャラの夜蘭を始め煙緋、一斗、忍などそれぞれの個性を生かした見事なストーリーが展開されていた。しかし、特に魈が魅力的に描かれていたように思う。なぜならば、魈は魔人任務を通じて大きく成長していたからだ。そして今回の魔人任務は魈にとっての通過儀礼であると思った。

2.通過儀礼とは
 通過儀礼とは、人がある集団や地位から別のある地位や集団に移動することを言う。例えば割礼がそうだ。割礼は少年少女が子どもから大人になるために性器を切除することである。子どもは性器を切断された痛みに耐えて、大人になるという訳である。フランスの文化人類学者のファン・へネップは通過儀礼の仕組みを解明した人物であり、通過儀礼には3つのステップがあると述べている。それが分離、過度、統合である。分離は儀礼を受ける者を今の地位や環境という日常から切り離すことである。そして、分離した者はどこにも属さない不安定な存在にさせ、次の地位や集団へ成長させるステップを「過度」という。やがて儀式を受けた者は成長し新たな日常に戻ってくる。これを「結合」という。これがあらゆる通過儀式の共通ステップである。

3.「険路怪跡」は魈の通過儀礼である
 では、これを魈の視点から今回の伝説任務を通過儀礼のステップに当てはめてみよう。望舒旅館から層岩巨淵に行方不明の夜叉である浮舎を探しにきたのが「分離」である。魈はそれまで、仙衆夜叉という不安定な集団に属していた。なぜなら、5人の夜叉の内、残っているのは魈一人だけだ。残りの3人は死に、最後の一人である浮舎は行方不明という非常に不安定なコミュニティの中に魈は数百年間いたと言えるのである。
 そして魈は層岩巨淵の地下で囚われ浮舎の幻影と闘ったり、出口のない地下からの脱出を模索している「過度」状態へと入る。そして、ここ浮舎でが死んでいるということが分かり、魈以外に夜叉という仲間がいないという真実が明らかになる。つまり、魈は夜叉という集団に属している自分は消失し、不安定な存在へとなったのだ。しかし、地下からの脱出するために旅人や夜蘭たちと行動していくうちに夜叉の仲間の代わりに旅人や夜欄という新たな仲間を獲得した。
 新たな仲間を獲得したことで、仲間と力を合わせて層岩巨淵の地下へ脱出し新たな日常へ「結合」される。
 このように今回の魔人任務は魈の目線で見てみると通過儀礼の3つのステップとほぼ合致する。だからこそ今回の魔人任務は魈の通過儀礼と言えるのではないだろうか。

4.まとめ
 いままでの魈は、たった一人残った孤独な夜叉というのがアイデンティティであった。だからこそ、クールで一匹狼であり海灯祭にも行かず、人から距離を取っていた。しかし、だからこそふとした時に見せるギャップが魈の魅力があったわけだ。ところが、今回の魔人任務で魈は人間の仲間を獲得したのだ。これはいままでとは違う大きな変化だ。これまで旅人には例外的に懐いていたが、今回は旅人以外の煙緋や夜蘭という旅人以外の人間と共存しようとしているからだ。だからこそストーリーが終わった後に魈が無言で寺で佇んでいる時、夜叉達への想いを抱えながらも、人間という新たな仲間達との共存するという未来にホッとしているのだ。このように、今回の魔人任務は魈の大きな成長の物語でもある。
    魈の体験したことは、現実世界のの私たちにも無関係ではない。我々の人生だって通過儀礼のようなものだ。入学や就職、結婚など、それまで持っていた居場所やアイデンティティを捨て新たな環境へ飛び込んでいくことを私たちは幾度となく繰り返す。今回の魈の姿は同じような状況になった私たちに勇気を与えるのだ。

参考文献
 ファン・へネップ「通過儀礼」
 川口幸大 「ようこそ文化人類学へ」
 鈴木裕之 「恋する文化人類学者 結婚を通じて異文化を理解する」


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