THE UNCROWNED ’WITNESS’を聴いて(SHAL追悼レビュー)


日本列島を襲った勢力の強い台風が抜けた後、
日中の気温が一気に下り、むしろ肌寒いぐらいの陽気である。
長かった夏が終わり、いよいよ季節が本格的に秋へと変わろうとしている。


この夏、一人のヴォーカリストがこの世を去った。
メロディックハードロックバンド、THE UNCROWNEDでVoを担当していた
SHALという女性だ。がんが原因だった。

彼女が所属するバンド、THE UNCROWNEDは、
彼女の闘病と並行してアルバムを作成しており、
存命のうちにリリースを予定していたが、
残念ながらそれは叶わなかった。

リリース日は9月21日、そして翌22日は彼女が亡くなって四十九日とのこと。

時は彼岸の真っ最中。
一足先にフラゲしたTHE UNCROWNEDの新作アルバム、
WITNESSを聴き感じたことをここに徒然なるままに記録することとしたい。


そもそもこのバンド、私が個人的に知ったのは2017年である。
バンドのデビューは2016年なので、初期から知っていたことになる。
知ったきっかけはBURRN!紙だったと思うが、
当時色々なジャパニーズメロディックメタルバンドを聴き漁っていた自分は、発売してからそれほど経たないうちに1stアルバムを購入している。
この中の「BLUE MOON」は未だに個人的お気に入りプレイリストによく入る。 

ほとんど偶然ではあったが、2017年11月に行われた
吉祥寺crescendoでの対バンイベントに参戦したため、
そこで彼らのライブを生で見ることも出来ている。
特典のdemo音源「U.K.R」も手に入れた。
とても運が良かったと今は思う。

いいバンドだなぁ、何より曲がいいなぁと言うのが率直な感想であり、 
新作を聞いてみたいなと思ってアルバムの発売を待っていたので、
緩く動向は追いかけていたりした。


そんな折、SHAL氏のTwitterで子宮頸がんに罹患した旨の投稿がされる。
投稿を追いかけると、一度は治療により寛解までいったようだが、
再発を起こしてしまったようだ。

一方でバンドは新作アルバムの制作を続行し、ついに発売が決定した。
ただ残念ながらSHAL氏は発売を待たずに逝去してしまった。
SHAL氏ヴォーカル作品として文字通り遺作となった新作については、
聴く側としても並々ならぬ思いで向き合わなければ失礼だということで、
深夜の静かな環境で歌詞カードを熟読しながら拝聴した。

録音時期はわからないが、本当にがんで弱っている中で録音したのか?
と思うくらい、力強い歌声にまず驚く。
そして過去作に比べ、歌のニュアンスが豊富で全体的に艶っぽさが
増していることに気づく。


3周ほど通して聴いてまず率直に思ったのは、
本作は、SHAL氏が闘病中に抱いた気持ちや葛藤を綴った
「生」の記録であるということ。

全体を通して歌詞に、「夢」と言う言葉が散りばめられている。
それは病からもたらされる悪夢でもあり、未来への希望の夢でもある。
病床に伏して、数多思い描いたであろう「夢」。
本作ではそれが生々しく綴られていると感じるのである。

SAWなんかは、きっと再発がわかった時の絶望の心境だろうし、
LAST MEMORYは他者に向けたものというよりは、
むしろ将来の自分自身の投影とも勘繰ってしまう。
MOON BEAMS、WITNESS、SUSTAINABLEあたりは、
死への覚悟と生への強い執着の葛藤と解釈ができる。
一方で、Ne-GTやJANUS、LAST ONEといった曲からは、生前の気丈に明るく、
生きてみせるという姿勢を投影したような前向きなメッセージと重なる。

アルバムの制作自体は2019年頃から始められているようなので、
全ての題材が病に関すること、生きるということに
フォーカスされているものではないかもしれないが、
どうしても歌詞にそういうミーニングが読み取れてしまう。
というか、本人ががん闘病をしていたという背景を知っていれば、
そのように解釈することが自然であるように思う。


サウンドに目を向けると、事前からのバンド側アナウンスの通り、
メタル的要素は確かに後退してはいるが、ややポップでややハード、
このサウンド感が歌詞と相待って、
むしろ湿度高めで切迫した空気感をアルバム全体に通していると思う。
本作を作成するにあたり、SHAL氏が歌いたいと思う曲、
歌詞が浮かぶ曲を作るため、大分曲を作ってはボツにしていると言う
エピソードが音楽誌のインタビューなどで語られているが、
それ故の表現力の深化やメロディへの歌詞の巧みなはまり方だとすれば、
それは功を奏していると言えよう。
言わずもがなギターTakeshi氏のギターの流麗さは、以前より全面的に
前には出ないものの曲の要所で圧倒的な存在感だ。


ふと、アルバムジャケットに目を落とす。
海の中で女性が手を伸ばしており、海上から眩い光が差し込み、
深海側はより黒く染まっている。
このジャケットはどういう経緯で決まったのだろうか。
ここまで感じてきたアルバム全体の印象を文にしているうちに、
このジャケットデザインが、このアルバムの内容をまさに象徴している
気がしてきた。
もがき苦しみ溺れそうになりながらも、必死で光を求め、
生きることを諦めなかったSHAL氏を象徴するかのようである。

本作は、SHAL氏が生きた証が色濃く反映された作品となっている。
それ故込められたメッセージや作風は重い。
だから受け止めるのが難しい作品なのかもしれない。
ただそれだけ向き合う意義のある、思いの込められた素晴らしい作品だと思う。
少なくとも、私がこの生きた証である作品の証人:WITNESSになれた
ことを誇らしく思う。

惜しむらくは、このアルバムの曲を実際のライブでは彼女の声で聴くことができないことだ。
ただ彼女の声はもう無理でも、追悼の意で、このアルバムの再現ライブを見てみたい、というのは贅沢言い過ぎだろうか。
(そうなると代役のボーカリストが必要になるが、個人的にはSpecial Thanksに名があるTEARS OF TRAGEDYのHARUKAが適任のような気がする)


改めて、長きに渡り病に立ち向かったヴォーカリストSHALに
哀悼と敬意を表したい。

R.I.P 

P.S Takeshi氏が、WITNESSを聴いたらそれぞれでSHAL氏に向けて何か伝えてやってくれ、と投稿されていましたので、若輩ながら書かせていただきました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?