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【読書記録】『恋とか愛とかやさしさなら』一穂ミチ~本屋大賞ノミネート

 本屋大賞ノミネート作品が発表されてから、というもの電子書籍で購入できるものを一通り購入しました。

 今は、『絶賛@読破しようキャンペーン実施中』

 今回読んだのは、こちら。

<<自分の読書メーターの感想より>>
 本屋大賞ノミネート作品。一穂さんの作品は初めて読みました。恋人が性犯罪を犯すという重たいテーマに反してサクサクと読み進められました。許すって、受け入れるって難しい分岐点だなと思います。異性の根っこにあるブラックボックスを知ることは、恐ろしいことだと思うときが時々あります。これは女性はよく分かるんじゃないかと。主人公の新夏みたいに私も白黒つけたい派なので、思った以上に感情移入してしまいました。恋とか愛とか優しさじゃなくて、尊重を私自身も求めてたんだなという気持ちにもなりました。

恋とか愛とかやさしさなら 家出猫さんの感想 - 読書メーター

 作中、主人公の新夏(にいか)が、仕事で軽く話しただけの男性からこんな対応をされる。

「さっきちょっと、その、男の人についてこられた気がして」
―中略
「仕事で軽く話しただけの男性だったんですけど、彼氏ってワードを口にしたとたんに態度が変わったので怖くなっちゃって。でも、わたしの勘違いか自意識過剰かもしれません」
「そういう直感は大事にしたほうがいいですよ」

『恋とか愛とかやさしさなら』より引用

 このシーンを読んだときに、遠い昔の封印していた嫌な思い出が蘇った。

 それは、私が小学校高学年の時だった。

 バスターミナルのベンチに座って、家に帰るバスを待っていた時のことだった。知らない男の人(20~30代くらいだった)に

「どこまで行くの?」と声をかけられたのだ。

 ただ、声をかけられただけなのにも関わらず、何とも言えない気味の悪さを感じたのである。

 こういう直感は、正しいことがほとんどである。子どもながらに、何かがおかしいと感じた。反射にも近いその感覚のおかげで、私は返答をしなかった。否、できなかったのだ。

 触られたわけじゃない、いたずらされたわけじゃないのに、身体はキュッとゴム毬のように縮こまって動けなくなったのである。

 ひたすら話しかけてくるその男性を、「なんだか、おかしい。」と思ってくれた年配の女性が気づき、私に声をかけてくれたので事なきを得たのだった。

 もし、あの時あの女性がいなかったら。
 もし、何の気なしに行先をつげていたら。

 そう、私は正直に言えば怖かったのである。女性にとって男性とはやはり、ある側面的に言えば、怖い存在なのである。

 あの時から、私は異性の欲望のブラックボックスの淵に手を添えた気がしてならない。

 その淵は、サイコロの一つだけ赤い丸で表された1のようなもの。すごろくであの1が出れば、落胆する。なぜなら、前に一歩しか進めないのだから。

 異性のそんなブラックボックス化された欲望は、そう、一番弱い数字であるのにも関わらず、他の数字とは離された唯一無二の1に似ているのである。

 あの赤い丸の1のように、それは時としておどろおどろしく感じるのである。

 思えば、女性というだけで色々なことがあったように思う。軽くギャグで流したセクハラも1つや2つではない。あまり思い出したくないのと、言葉にするのも憚れるので割愛するが、他の女性のみなさんにも理解してもらえることが、他にもたくさん自分の身にも起きている。

 つい1年ほど前にも、主人公の新夏のように異性からのアプローチに困ることがあった。私もそれなりに生きているので、自分が気になる人以外には、通常気を持たせるようなことすらしないのだが、

 私の行動を監視しているかのような、ストーカーじみたアプローチに辟易したのである。幸い、私ももう、あの時のような小学生でもないので、自分の中で上手に対応していたと思う。

 しかしながら半年ほど、言いようのないモヤモヤと嫌な気持ちが続いたのは事実である。

 20歳やそこらのレディでもないのに、「何を言いますか。」と思う人や価値観もあるだろう。
 しかし、自意識過剰かもしれないが、直感的に嫌だというぬぐい切れない感情が存在していたのである。



 この作品の後半は、盗撮の加害者である恋人の視点中心で描かれていく。

 性犯罪という重たいテーマを加害者家族・恋人、加害者自身、被害者の視点で螺旋のように展開されていくのは、読んでいて本当に考えさせられた。 そして、女性なら誰しも経験するような、性にかかわる問題は奥が深い。

 フラッシュバックまでいかなくても、あの小学生の時の経験は20年ほど経ってもやはり忘れられないのである。

 この本の終わり、被害者である小山内さんと、加害者である元恋人のシーンが思い出される。

「彼女は傷つけられている。自由だって言うなら、娘さんを動画に出すのをやめたらどうですか?」
中略
「同類だよ。わかるから、同類だから言うんだよ。言わなきゃいけないだろ。でなきゃ誰が言うんだよ。」
「何かね、うまく言えないんだけど・・・さっき、神尾さんが怒ってくれて、あたし、生まれてはじめて『尊重されている』って思ったの。
後略

『恋とか愛とかやさしさなら』より引用

 受け入れることと理解することは、似て非なるものだと思う。

 それでも、被害者が尊重されていると感じた時点で、過去のトラウマも受け入れられる第1歩を踏み出せるのかもしれない。

 小学生の時に戻れるなら、「もう大丈夫だよ。」と言ってあげたくなったラストシーン。思わぬところで涙を流した自分がいた。

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家出猫
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