週末の過ごし方01【創作連載】
登場人物
カガミ シュウ 28才 160cm
フリーのwebデザイナー
そこそこの仕事が貰えてる。
タコノ アカリ 31才 173cm
漫画家。シュウの恋人。
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平成31年 春
『納期に間に合いました』
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カタカタ、ッターン
締切に間に合った。
本当に難産だった。
先方からのリテイクが何回も繰り返されて、ようやく決着。
これもデザイナーの宿命か…。
(回想)
『んー…ちょっと違うんだよね』
リテイク
『もっとまぁあるい感じなんだけどさぁ…』
リテイク
『あ、そうそう…ん、待って!』
リテイク
リテイク
『ん〜、やり直して』
リテイク
リテイク
リテイク
リテイク
『ごめーん。もっかいリテイク(はぁと』
・
・
・
いや、まぁ、こだわりが生じてそうなっちゃったんだからしょうがない…のか。
通る時はあっさりだったからなぁ。
『うん、おっけー』
はぁ、疲れた。
おっと、メッセージもめっちゃ来てる。
うーん。アカリさんからか。
最近はおろそかだったからなぁ。。。
時間も、もう22時かぁ。
お腹空いたなぁ〜。
最後のラストスパートでハイになって何にも食べてなかったからなぁ。
ラーメンでもすすりに行こうかなっ!
伸びをしてから僕は自転車に乗って深夜の街を駆けた。今日は金曜日。丁度世間は花金。だいたい週末。今日で仕事が納まったから僕も週末気分だ。
目指すはコウコウとした灯りがともる脂っこい店へ到着!
24時間もやってるこのお店。
着くなり2階の席へ移動。
目の前の建設中の新しい国立競技場を眺める。ほぼ出来上がった体躯は来年にオリンピックが開催されることをいよいよ実感させた。胸が躍る気持ちが高鳴る。
アカリさんからメッセージが届いた。
『シュウちゃんおつかれ〜(´∀`)上がったんだねぇ。おめでとー』
『うん。返せてなくてごめんね汗)上がってテンション高いからラーメン食べにきてる』
『なにそれ!ずるい!アタシも行きたい!』
『…アカリさんも今、ギリギリなんでしょ』
『…うん。担当さんが向こうで睨みながら机に向かってる』
『がんばって!がんばれ!』
『うぅ…シュウちゃん、上がったらラーメンおごってね』
不毛なやり取りを終えて励ましを彼女に贈る。
アカリさんは漫画家で〆切に追われているそうだ。そんな彼女と6月に結婚する。今でも信じられない位にボクにとって素敵なヒトだ。
ちょっとした幸せを噛み締めつつ、ラーメンはできた。
このギトギトの背脂入りラーメンにがっつりネギを入れる。
「いただきます」
思わず口にしてしまう。
最初にスープをレンゲで少しすすってからネギを食べる。野菜はジャマだと思ってもこの味が麺を引き立たせる。だから野菜を一気に食べてから麺をすする。
ジュルッ!ズズッ!
た、たまらない!
一味から脂の乗った味が今までの苦労を吹っ飛ばせる。
こいつぁくるぜ。
ひとすすりからふたすすりと続いて味わっていく。
春先だけどこの時期はまだまだ寒い。スープの温かさが身に染みる。
途中で煮卵と脂身とろとろのチャーシューもしっかりと味合う。
スープも全部飲み干したいけどやめておく。
ラーメン好きの友達はスープまで飲み尽くすのが礼儀だというが…。
「ごちそうさん!」
食べ終えてから器を返して店を後にする。
温まった身体にあたる風の冷たさは心地よい位。自転車を引いて歩きながら再び国立競技場を仰ぎ見る。
デカい建物をみると思わず感動してしまう。
同時に叶えられなかった夢も思い出す。
仕事を仕上げた後の最高のラーメン一杯をしっかりすすって、心地良い解放感に浸りながら自転車にまたがりペダルを漕ぐ。
なぜか創作意欲がまた沸き出した。
彼女の今の必死さをしのびつつ、明日の休日へ駆け出した。