「地獄の選択科目」を頑張れた甘酸っぱい下心

私が通っていた商業高校は、2年生から選択科目を2種類受けることになっている。看護師になりたい生徒は「生物」を受けるし、簿記1級を目指す生徒は「簿記」を受ける。
私は看護師も簿記1級も目指していなかったので何を選ぼうかと考えたが、1つ目は「実践英語」にした。ALTの先生と英語で会話したり、レクリエーションを通して英語でのコミュニケーションを勉強する科目だ。英語は少し得意だったので、楽しそうだと思って選んだ。
もう1つの科目は「情報と社会」を選んだ。よく分からないが、1年かけて国家資格の勉強をして、3年生の始め頃に受験、合格を目指すという科目らしかった。「国家資格」という響きに惹かれて安易に選んだ。
各生徒の選択科目が確定した。私は両方とも無事第1希望が通り「実践英語」と「情報と社会」を受けることになった。確定してからとある話を耳にした。「情報と社会は、地獄の科目だ。」とのこと。この授業で勉強する国家資格とは「基本情報処理技術者」であり、大学生や社会人も受験する試験で、合格率は3割だと言うことだった。随分無茶な科目を選んでしまったと思った。

2年生の4月。初めての「情報と社会」の授業。テキストは分厚く、3冊に渡っていた。しかもその3冊を1年かけて勉強するのではなく、午前免除試験というのに向けてそのテキストの勉強をし、合格したらまた新たなテキストを購入して午後の試験の勉強をするとのこと。午前免除試験に落ちた生徒は、基本情報処理技術者試験を諦め、「ITパスポート」という別の資格取得を目指すとのことだった。3冊のテキストをパラパラめくる。…全然分からない。ついていけるのか?憂鬱な気分だったが、周りの様子を見ようと教室を見渡した時、それは一瞬で晴れた。

    _人人 人人_ 
>T男いるやん!!<
     ̄Y^Y^Y^Y ̄

T男は同じクラスの男子で、吹奏楽部に所属していて、合唱の時は指揮者もしていた。背がすらっと高く、キリッと少し濃いめの顔をしている。なにより手がめちゃくちゃ綺麗…もうお分かりだと思うが、私は1年生の頃からT男が好きだった。一目惚れだった。お互いニコニコ動画が好きで、話も合った。距離を縮めたくて、T男の好きなアーティストに興味があるといい、CDを貸してもらったこともあった(本当はあまり私の好みではなかった)
そんなT男と同じ選択科目。しかも先生の教育方針で席替えが頻繁にある。…これはさらにT男に近づくチャンスだ…。士気は爆上がりだった。私は「試験に合格したい」という目標と、「T男にいい所を見せたい」という下心で、必死で勉強した。

チャンスは割とすぐ訪れた。「情報と社会」は結構な頻度で、結構な量の宿題が出た。宿題は紙媒体ではなく、自宅や学校のパソコンから入力して提出する形だった。ある夜、T男からメールが来た。「この前の宿題教えて欲しいんだけど、電話出来る?」…Yes!Off course!!即電話した。そして教えた。そのままのしばらく他愛もない長電話した。それはそれは幸せな時間だった。

…という流れの出来事が何度かあった。「T男から連絡が来るかも?」という下心で宿題を出来るだけ早く済ませるようになった。しかし、当時の私は盲目で「頼られてる!」という意識しかなく気づいていなかった。T男からは「勉強を教えて」というよりは「宿題の答えを教えて」とお願いされていた。私はバカ正直に自分の回答を読み上げて教えていた。つまり、T男の成績の為にはなったかもしれないが、試験勉強のためにはなっていなかった。早い話がいいカモだった。

そして午前免除試験。私は合格した。T男は落ちた。結果発表後初の授業から、合格してそのまま基本情報処理技術者を受ける組と、ITパスポート受験に切り替える組に別れて授業が始まった。モチベーションだったT男と離れてしまった。授業が憂鬱になったが、合格して部活仲間にいい所を見せたいという気持ちが出てきて、何とか授業について行った。

そして3年生になり、試験結果。基本情報処理技術者を受けた10人弱のうち、私を含んだ3人が合格した。ITパスポートを受けた約30人は全員落ちたらしい。つまりT男もである。

ちなみにT男には高校在学中から、卒業後までの5年間、計3回告白したが、ことごとく振られた。「友達としか思えない」と言われた。それでもT男にはいい思い出を沢山貰ったので感謝している。

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