風俗嬢のあの子の結婚を応援したい【2話】私辞めます(後編)
【登場人物おさらい】
■音(おと)ちゃん。22歳。
身長は160センチ程度、色白でたれ目。カジュアルファッションがとても可愛い。
デリヘル嬢。
店長と付き合っている。
■店長 47歳
シングルファーザー。
元嫁と奇妙な同居生活を送っている。
■俺 34歳
サラリーマン。
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~あらすじ~
デリヘルのフリー指名で来た音ちゃん。
明るさの中に危うさと暗さが混在する女の子。
彼女はかなわぬ恋に悩み、泥のような夢におぼれていた。
俺は再び彼女に会おうとした。俺は彼女に何が出来る。
その先に待つのは閻魔か悪魔か。光はない。
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ホテルに着いた。
目印替わりに前と同じホテルを選ぶ。
汚い天井と狭い部屋のほうが俺達によく似合ってる。
彼女が来た。
「〇〇さん!久しぶりー!会いたかったよーーー!」
相変わらず人懐っこい笑顔が凄く魅力的だ。
何よりも今日は目がしっかり合う。
前回「私、人の目が怖いんだ。なんか見透かされそうじゃない?」と話していた彼女。
どうやら俺は前回の試験で合格をいただいたようだ。
最近の近況を他愛もなく話す俺たち。
「TikTokに影響されて、ぬか漬け始めたんだー。」
動機の角度えぐいね!多分そのぬか漬け美味しくないと思うよ!
「最近胸が小さくなったから、豆乳飲み始めたんだー。バナナ豆乳。」
なんでちょっと味求めるの。ストレート豆乳で頑張れや!
「一日で課金6万しちゃった。全部ガチャひいちゃった。頑張って働かなきゃ・・・」
金遣いが嬢ならでは!来月の労働意欲どこで燃やしてんの!
俺の巧みでスピーディーで正確無比でユーモアに富んだツッコミが室内に響く。まるで速射砲。
ルスランカラエフがいたら「俺のジム来ないか?」と確実に誘われるぐらいのレベル。
とにかく弟子にしたいという気持ちが凄い。カラエフの!俺に対する気持ちが!ほとばしってる!バダハリ戦を思い出すぐらい!ヘビー級なのにミドル級ぐらい早い!
アマチュア戦績169戦160勝!異常!勝ちすぎ!
ちびっこ相撲取りをちぎっては投げちぎっては投げ状態にならないとこんな戦績作れない!
そんなことはさておき・・・
いや!全然おけない!
カラエフは攻撃一辺倒のファイトスタイルゆえにディフェンスが甘い!
カラエフは日本語、英語、オセチア語、ロシア語の4ヵ国語を話すことができる!
強さと派手なファイトスタイルに加えてその端正な顔つきから女性からの人気も高い!
そんなカラエフが「俺のジムに来ないか?」と言わんばかりのスピーディーかつ正確無比でユーモアに富んだツッコミだった。
彼女の笑い声を聞くだけで俺は嬉しい。
そしてプレイに移る。
《俺はこの文章を書きながらすごく悩んでいるんだ。前回の記事は前後半フルフルで風俗のことを書いた。
性描写をしっかり描きすぎて後編は18禁になってしまってる。
なんだったら前編も18禁にされた。
俺は怒り狂い運営に『風俗というワードは入っているが、描いているのは風俗で働く人間、風俗を使う人間の心のありようを記事にしています。決してエロを目的にPV数を上げるようなフェイク記事ではありません。ご一読・ご考慮をお願いいたします。』と申請を送った。
通った。
前編の18禁は解除された。俺は少年・少女にこそこの記事を読んでほしいんだ。セックスワークを生業とする人間のありようを伝えたいだけなんだ。
肝心の行為は別記事にしようと思う。》
プレイが終わり、また雑談をする。
ふと彼女から一言。
「彼氏と喧嘩しちゃった。昨日。取っ組み合いの大喧嘩。」
「私爪長いじゃん?私の爪で組みあってる時、腕に爪立てたの。ギュッ!って・・・そしたら彼氏にベッドに投げ飛ばされて叩かれちゃった。」
自分の胸がどくんと脈打つ。心臓が急スピードで動いているのが分かる。
恥ずかしがりやの彼女だから、事に及ぶときは部屋を真っ暗。
プレイ後は薄明りにしていた。
よく目を凝らしてみると彼女の腕・足にはアザが数か所できていた。
「これってさ・・・・」
彼女はあっけらかんと返す。
「やばいよね・・・!めっちゃ痛いし!」
どうやら事の重大性にはまだ気づけていないのかもしれない。
俺は喧嘩の理由を聞いた。
「え、彼氏が風俗辞めてほしいってずっと言うんだけどさ、ほらあの人内縁の妻的な人いるじゃん?私的にはその人いなくならないと絶対嫌だって言い続けてるの。」
「内縁の妻がいなくなったら、同棲するつもり。だってそれまで食い扶持は自分で作らなきゃじゃん?」
「あの人、私を養うつもりあんのかな?11月内には内縁の妻追い出すんだって。そしたら私風俗辞めるよ。」
「うん・・・そうだね。12月で私辞める。」
半ば自分に言い聞かせるようにも聞こえた。
言葉には力が宿ることを俺は知っている。
彼女はあと5か月で風俗を辞める。
俺は思う。
辞めたあと、そいつと一緒に住んで未来はあるのか?
その体のアザを見て本当の君はどう思ってるんだ?
あぁ、きっと君は目を開けたまま空を飛ぶ夢を見てるんだ。
時間になった。
俺たちは今日も慌ただしく部屋を出る。
いつものホテル。廊下に冷たく反響する二人の笑い声。
外ではセミが自分の生きざまを空に刻むように鳴いていた。
人生はボタンシャツだ。
自分の着たいシャツ(人生)を選び、一つづつボタンを留めていく。
着ることが難しいシャツを選ぶ人もいる。
諦めて簡単なシャツを選ぶ、それもまた人生。
掛け違えるときだってある。
そしたら掛け違えたボタンのとこまで戻って、もう一度留め直せばいい。
だが彼女が着たがってるのはウエディングドレス。
あいにく前にボタンはない。
後ろのチャックぐらいなら、俺が何とかしてみせるよ。
俺は決意した。
風俗嬢のこの子の結婚を応援したい。