タイトル

はじめてのマクドナルド

 子供の頃、私の住んでいた町にマクドナルドがオープンした。

 それまでハンバーガーと言えば、国道沿いのビニール屋根付き自動販売機群で買えるハンバーガー(小さな箱入りで暖かいのが出て来る)であったが、そこには当然のごとくエロ本の自販機もあったので、ハンバーガーが食べたいだけなのにコソコソして行かなくてはならなかった。同級生に見られれば翌日には「センセー、権田くんがエロ本を買ってましたぁー」とかなんとか騒ぎ立てられるし、大人に見られれば親の耳に入る可能性もあったからだ。

 もちろんマクドナルドであればコソコソする必要は無い。オープン初日、さっそく行ってみた私は生まれて初めて長い行列を見た。この町の住人の半数が来ているのではないかと疑うほどだ。

 その光景には気圧されたが、諦めるわけには行かない。
 私は最後尾に並んだ。

 どのくらい待ったのか覚えていないが、はじめて食べたハンバーガーの味は衝撃だった。それは、当時の私の言葉がよく表している。

 「アメリカ人は毎日こんな美味いもの食ってんのか! 俺、大人になったら絶対アメリカに行く!」

 ――ちなみに、アメリカにはまだ行っていない。

 それから十数年後、売り上げが悪かったのかマクドナルドは撤退してしまった。そしてこれまた駅前で唯一のコンビニエンスストアに変わったのだが、万引きが横行したためそれも閉店して、今では何もない室内にただ丸テーブルと数脚のイスが置かれているだけの、謎の休憩スペースになっている。

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権田 浩
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