タイのホラー映画「Nang Nak」の舞台「ワット・マハーブット」
プラカノン運河沿い、スクンビット通りと交差する箇所から上流側には連なるようにお寺がある。このお寺密集地帯の中に《ワット・マハープット》と言うお世辞にも綺麗とは言い難いお寺がある。
通称《ワット・ナーン・ナーク》。あるいは《ワット・ヤー・ナーク》。
「ナーク」は女性の名前。「ナーン」は「娘」、あるいは「嬢」の意味である。「ヤー・ナーク」の「ヤー」はオバサンと言う意味である。
「メー・ナーク」と呼ぶ場合もあるが「メー」はお母さんと言う意味である。
どうもこの女性の年齢設定が曖昧と言うかテキトウである。
ここはある有名な物語の舞台になったお寺である。
昔々この村の村長の娘(ナーク)が自宅で働く庭師の男と仲良くなり体の関係までいってしまう。
当然親から反対され邪魔されるが結婚してしまう。
男は妊娠した妻を置いて徴兵で戦争に行ってしまう。
やがて妻は難産で子供もろとも死んでしまう。そして妻はお化けになる。
男が戦争から帰ってきてそのお化けの妻と一緒に住むようになる。
村人があなたの妻はお化けだと男に告げ口をするが男は最初信じない。
怒った妻は村人に悪さをするようになる。
妻の悪さがどんどんエスカレートしてきて収集がつかなくなった頃に高名なお坊さんが来てお化けを退治をしてめでたしめでたし。
と言う、なんの教訓も見当たらないタイにありがちな話だが、映画にもなった有名な物語なのである。
実話な訳はないが、実はこの物語には元になったある事件があるのだ。
それはこうである。
この辺一帯の地主が亡くなり親族が財産を分けることになる。ところが親族同士でもめにもめてしまうのである。
《ワット・マハープット》一帯の土地が欲しい親族の一人が、この辺はお化けが出て悪さをすると言う噂を立て、実際にお化けを仕込んで村人に迷惑をかけていたそうである。
そうやってこの辺りの土地を誰も欲しがらないようにと工作した訳である。
そういった醜い遺産相続に関わる揉め事を有名なお坊さんが話をつけてうまくまとめたと言うなんとも下世話なお話なのである。
しかしながらお化けが大好きなタイ人の間ではその「お話し」の部分だけ尾鰭がついて映画になってしまうまで有名になってしまったのだ。
この一連の記録であるが、実はタイ側の史料では全く見つけることができなかった。
当時タイの風俗や民間伝承などを研究していたイギリス人の学者が書き残した調査記録の記述をたまたま見つけたのである。
ちなみにこのお寺、ロッタリーと呼ばれるタイの宝くじの当選番号が当たるお寺としても有名だ。
なんとも生臭い場所である。