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【マンガ原作】『ヨコハマ・トレンチタウンロック』第1話「開かずの金庫」中編

前編のあらすじ

みなと街ヨコハマ。ショッピングストリート・元町の川の向こう側…ハマのディープゾーン"トレンチタウン"の古びた雑居ビル『川向(かわむかい)探偵社』。川を渡りやって来る依頼者の奇妙な依頼の数々…。
老婦人からの「"開かずの金庫"を開けるため、どんな鍵でも開けられる天才鍵師を探して欲しい」との依頼。所長と村木の二人は、かつて“錠前破りの松”と呼ばれた松三の部屋を訪ねる。

登場人物

所長…川向探偵社・所長

村木…川向探偵社・調査員

メグミ…川向探偵社・バイト受付嬢兼事務員

依頼者…高級住宅街・山手に住む70代の老婦人。和服を着用

松三…原作:ひじかた憂峰/作画:松森正『湯けむりスナイパー』より、第一話のみのゲスト出演。この話では、かつて“錠前破りの松”と呼ばれた男の役柄。トレンチタウンの住人

GM…トレンチタウンの住人。つねに横浜ベイスターズの帽子を被りGMを自称するほどのファン。トレンチタウン住人の情報に詳しい

ーーーーー

朝。ゴミ収集場。大量のゴミをめぐりカラスとハトが縄張り争い。
トレンチタウン・公園ー
所長と村木が立っている。
字幕⦅数日後ー⦆
通りの向こうから人影…松三?
呆気にとられる所長と村木。
二人「…!?」
所長、《ポカン》とした顔で。
所長「ま、松三さん…かい?」
松三「どうしたい…ハトがスタンガンくらったような顔して」
村木、松三の頭のてっぺんから足のつま先まで見て。
村木「いや、その…」
松三、頭を短く刈りヒゲも剃り、スーツできめている。
所長「どこかの社長かと思ったぜ」
松三「フン…ゼニ掛けて必死に若造りした、下品なヤツみてえに言うない」
所長「それにしても見違えるようだぜ…松三さん」
松三「散髪行って安物の背広を羽織っただけでえ」
歩き出す松三。
松三「世辞はいいから、とっとと行こうぜ」

横浜山手・港の見える丘公園ー
遠くに海…ベイブリッジが見え貨物船が行く。

山手・高級住宅街ー
住宅の敷地内に停車するタクシー。
タクシーのドアが開き、所長、村木、松三の三人が降りる。
建物を見上げる三人。
松三「…」
村木「…!?」
思わず声を出す所長。
所長「ほぉ~…」
洋館を思わせる瀟洒で大きな家…依頼者宅。

依頼者宅・リビングー
ソファーに座る所長、村木、松三。
リビングの片隅に、高さ1.5mほどの古びた大型金庫。
金庫のダイヤルを睨む松三の眼。
《ガチャリ》とリビングのドアが開く。
三人「…!」
依頼者の老婦人が入ってくる…和服姿。その後から、急須とお茶碗が乗ったお盆を手にした、髪を染めた派手な40代の女とヤカラを思わせる風体の40代の男が入ってくる。
女、三人の前に茶碗を置き急須でお茶を注ぐ。
婦人「娘夫婦でございます」
頭を下げる三人。
松三の眼。
松三「…」
娘夫婦を観察するような所長の眼。
所長「…」
依頼者一家に松三を紹介する所長。
所長「奥さん…」
  「この方が、当社が探し出した伝説の錠前破り…」
  「じゃねえ、鍵師と言われた…松三さんです」
怪訝な顔の婦人。
婦人「松三…!?」
所長「い、いや…松…松…松田…松田三郎…」
  「我々業界では、通称・松三さんと呼んでましてな」
笑ってごまかす所長。
所長「わははっ!」
俯いて笑いをこらえる村木。
村木「…」
松三、苦笑して。
松三「伝説とか、やめてくんねえ…」
  「…ただの職人ですぜ」
金庫に視線を送る松三。
松三「開かずの金庫…ってのは、あれですかい?」
鎮座する金庫。
婦人、金庫を見て。
婦人「はい…」
松三、立ち上がり。
松三「どおれ、早速だが…ちょいと見せてもらいましょうか」
金庫の前で中腰になる松三。
観音開き型金庫…左右のドアにダイヤルと下にカギ穴一つ。
婦人「下のカギは、開いております…以前来た業者が」
松三「ほお~ダイヤルのみ…ということですかい」
  「…それならば、簡単に開くはずですがねえ」
松三、ダイヤルを回す。
松三「…」
娘夫婦の表情。
娘夫婦「…」
所長と村木。
所長&村木「…」
横目で夫婦の表情を見る所長。
所長「…」
婦人の表情。
婦人「…」
ダイヤルを回す松三、怪訝な表情。
松三「…!?」
松三、頷いて。
松三「う~む、なるほど…」
娘「開きそうですか…?」
松三「まあ…やってみましょう」
  「…そのめえに、ちょいとヤニを一本吸わしてもらってよろしいでしょうか?」
婦人「灰皿をお持ちします」
松三、ポケットから携帯灰皿を取出し、見せて。
松三「いえ、こんなお屋敷の空気を汚すワケにはいかねえ…外に行ってまいりまさあ」
玄関に向かう松三、所長にウインク。
松三「おめえさんたちも付き合え」
所長、ウインクに気付き。
所長「お、おう…村木、お前もどうだ」
村木「はい…」
部屋を出る三人。
三人の後姿を見送る婦人。
婦人「…」
娘夫婦。
娘夫婦「…」

「ふう~っ」
依頼者宅・庭ー
松三がタバコの煙を空に向かって吐き出す。
所長「どおしたんだ…松三さん」
松三、所長を見て。
松三「おい、あの金庫…」
  「…もう開いてるぜ」
驚く所長と村木。「!?」
所長「本当か?」
松三「ああ…ダイヤルはただ空回りしてるだけだ」
  「おおかた蝶番の劣化、ドアの歪み…そんなところじゃねえのか」
  「だが…」
所長「…」
松三「おめえさんも気付いちゃいるだろうが」
  「あの娘夫婦…どう見ても、あまり行儀のいい連中じゃねえだろ」
所長「うむ…わかってる」
  「一番中身を知りたがっているのは…ヤツらだろうな」
  「本当の依頼者って、ところか」
松三「で、どうすんでえ」
  「中身を知らない方が、どちらさんも幸せだった…ってこともある」
  「…わざと開けねえってテもあるぜ」
所長「う~む…」
松三「おめえさんらの仕事は、オレっちを探すことなんだろ」
  「…だとしたら、仕事はきっちりしたじゃねえか」
所長「う~ん…そりゃそうだが」
  「松三さんは、それでいいのか」
  「“錠前破りの松”の名折れになるんじゃないのかい」
松三「いいか…開けられねえんじゃねえ、開けねえだけよ」
村木「…」
松三「…ケチなプライドにこだわって、開けたくねえもんを開ける方が」
  「名が廃るってもんだぜ…」
所長「わかった…松三さんの言う通りにしようじゃねえか」
松三「さすが、ハマっ子…話が早えな」
所長「おっと松三さん…」

※ラストコマ
指で《スンッ》と、鼻をすするポーズの所長。
所長「…こちとら、東京下町生まれの江戸っ子でえ」

『ヨコハマ・トレンチタウンロック』第1話「開かずの金庫」中編END
後編につづく

つづきはXで毎日更新中。後編完結後noteで公開
https://twitter.com/ukon_gondo

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