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【マンガ原作】『ネオ・リバースエッジ』「第四話・ハードでルーズ」

※タイトル画面

マンションの一室ー
缶ビールの空き缶が散乱する部屋。
タバコをくわえ、ソファーに座る白髪頭の男…。

タイトル
『ネオ・リバースエッジ』

『第四話・ハードでルーズ』

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14:50を指す腕時計…。
腕時計を見る村木。
南房総・レストラン「月光」ー
店の入口に立つ村木。
ガラス越しに、店内にいる久保田が見える。
店内。客はなく、テーブルの食べ終わった食器を片付けている久保田。
村木の視線に気付き、笑顔。
頭を下げる村木。
久保田、村木を店内に招き入れる。

ーーーーー

都内某所・マンションの一室ー
ソファーに横たわり鼾をかいて寝ている男…周りには缶ビールの空き缶が散乱。
テーブルの上に置いたガラケーから鳴り響く着信音…『Get Up, Stand Up』!
寝ぼけまなこでガラケーを手に。
「あい…」

大川端探偵社ー
所長、隅田川を見ながら。
所長「オレだ……」

男の部屋ー
白髪の天然パーマの男…。
「あ、ああ…どうも、野村さん」

大川端探偵社ー
苦笑する所長。
所長「おい…それは禁句だぜ」
所長、(ちらり)と後ろにいるメグミを気にする素振り。
メイク直しに余念がないメグミ。
所長「まあ…まだ、呆けちゃいねえようだな」

男の部屋ー
煙草を取り出す男…そのパッケージは“hi-lite”!
「呆けるのを忘れるぐらい…呆けてますぜ」

大川端探偵社ー
所長「しかし…赤松に経営を譲った、お前さんの目は確かだったな」
  「あの野郎…探偵学校なんか作って、経営難と人材不足を一気に解決しやがった」
  「それだけじゃねえ…」
  
男の部屋ー
男、退屈そうに“hi-lite”を一本くわえ。
「…」

大川端探偵社ー
所長「今でもお前さんの面倒みてるってえじゃねえか」
  「…オレは泣けたぜ」
  「あんなヤローでも、義理人情は忘れてねえんだな」

男の部屋ー
「長話は苦手でしてねえ…」
「用件を言ってもらえませんか?」
“hi-lite”に火を付ける…土岐正造!!(『ハード&ルーズ』より)。

大川端探偵社ー
所長、微笑して。
所長「フフ…」
  「変わってねえなぁ…土岐ちゃん」
  「安心したぜ…」

土岐の部屋ー
苦笑の土岐。
土岐「…」

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レストラン「月光」ー
店内。
久保田、食器を片付けながら。
久保田「ようやくランチタイムが終わってさ」
   「村木さん…だっけ」
村木「はい…」
久保田「アイスコーヒーでいいかな?」
   「片付けるまで、座って待っててよ」
村木「い、いえ…おかまいなく」
店内を見回す村木。
壁に飾られている、蜂須賀と思しき男のイラスト。
その横に、あの…女性のイラスト(『ボーダー』Vol65より)。
村木「…?」

ー----

大川端探偵社ー
隅田川を臨みつつ、土岐と電話で話す所長。
所長「人を探している…」

土岐の部屋ー
土岐、“hi-lite”をふかして。
土岐「仕事…ですかい?」 

大川端探偵社ー
所長「お前さん…"レゲエ"ってのか!?」  
  「あっちの"東京音頭"みてえな音楽…好きだったよなあ?」
  「ウ、ウ…ウォリアーズって知ってるか?」
メグミ「ウェイラーズ…!」

メグミの想像のカット。マッチョの所長と村木が、プロレスの『ロードウォリアーズ』のように顔面ペイントして舌を出してポーズ。


メグミの声(…プロレスかよ!)

所長「そ、その"うえいらず"…ってのが」
メグミ「…ウェイラーズっ!!」
所長「と、とにかく、そんなグループが…」  
  「昭和の終わり頃…1988年10月」 
  「東京ドームのLiveに出演した…って話、知ってるか?」

土岐の部屋ー
土岐「…!?」

大川端探偵社ー
所長「…そのコーラスをバッグにメインを務めたのが」 
  「調査対象者〈マルタイ〉…アンチェイン蜂須賀って男だ……」

土岐の部屋ー
土岐「!」
土岐の回想のカット。東京ドームLive!
字幕・土岐《アンチェイン…蜂須賀!》

大川端探偵社ー
所長、喰い気味に。
所長「…心当たりがあるんだな!?」

土岐の部屋ー
土岐「感動的だった…」

大川端探偵社ー
所長「知ってるんだな…土岐ちゃん!?」

土岐の部屋ー
土岐「………」

※土岐の回想
東京ドーム。大歓声…そして、遠くから聞こえてくるレゲエ・ビート…蜂須賀の『Get Up, Stand Up』!!
やがて、ボブ・マーリーがオーバーラップして。
字幕《1979年中野サンプラザ ボブ・マーリー日本公演…》
  《あの日見たボブ・マーリーは…金色に輝いていた!!》
目を輝かせる、当時30代前半の土岐。
字幕《…俺は、彼の"死"を予感した!》
そして…東京ドームLiveの蜂須賀。
字幕《あの…東京ドームのアンチェイン蜂須賀もまた、同じように…》
蜂須賀の『Get Up, Stand Up』に字幕かぶせて。
字幕《Get up, stand up! さあ…起ち上がれ!!
   Stand up for your right! 諦めるのは、まだ早い
   Get up, stand up! そう、起ち上がるんだ…何度でも
   Don't give up the fight! 決してギブアップするな!》
※回想終わる

土岐「その…たった一度のLiveのみで」 
  「ただの一曲もリリースすることなく姿を消した」 
  「幻のアーティスト……」

大川端探偵社ー
所長「そう、そして…そのLiveの記録は抹消されていた」
  「跡形もなく、きれいにな…」

土岐の部屋ー
土岐「…!?」 

ー--

海。
南房総…。
レストラン「月光」ー
店内。
テーブル席に座る村木。
久保田がやって来て村木の前に座る。
久保田「お待たせ!」
村木、壁に掛けられている女性のイラストに視線を向け。
村木「…あの女性は、どなたです?」
久保田「ん…?」
村木「し、失礼しました…」
  「疑問はその場で解消したいタイプ…なもんで」
久保田、イラストを見て苦笑する。
久保田「あ、ああ…初恋のヒト!」
   「中学の…美術教師」
   「結婚してるのは聞いてたけど」
   「思春期の頃ってさ」
   「年上の女性に憧れたりするんだよな…」
村木「…わかります」
久保田「2年生の頃かな、産休してさ」
   「思春期の頃なら…当然、生々しいこと想像するでしょ」
   「その後、復職したけど」
   「その頃には、もう…恋は終わってたんだ」
村木「…」
村木の声(人は、真実を隠す時ほど…より饒舌になる)
久保田「村木さんは、そんなことなかった?」
村木「自分は英語の先生に…」
村木の声(何を隠そうとしている…?)
(ブーンブーン)と村木のスーツのポケットの中のスマホが振動。
村木「…?」
スマホに《事務所》の表示。
村木、立ち上がり。
村木「し、失礼…」
テーブル席から離れる村木。
久保田「あ、うん…」
村木、(ピッ)とスマホを操作。
村木「はい…」

大川端探偵社ー
所長「村木、東京ドームのLiveを見たヤツがいた…」
  「…Liveは本当にあったんだ!」

レストラン「月光」ー
村木「…」

大川端探偵社ー
所長「もう少し詳しい話を聞いてみるが」
  「Liveの資金の出どころが気になる」
  「そのあたりを探ってみてくれ」

レストラン「月光」ー
村木「はい」

大川端探偵社ー
所長「いいか…たぶん彼らのようなタイプに」
  「駆け引きや策略は通用しねえ…直球でいけ!」

レストラン「月光」ー
村木「わかりました…」
テーブル席に戻る村木。
村木「失礼しました」
久保田「所長さん…?」
村木「はい…Liveの目撃者が居たそうです」
久保田「そりゃ居るだろうな…最後は満員だったもん」
村木「ですが…その記録が何一つ残ってないのです」
久保田「…」
村木「東京ドームの公演記録も」
  「ウェイラーズが来日した記録も…何もかも」
久保田「…?」
村木「…意図的に消去されたとしか思えない」
久保田「ヤツの仕業かも…」
 
ー----

浅草・雷門…。
隅田川沿い…ビール会社本社ビルと東京スカイツリー。


隅田公園ー
ベンチで並ぶ所長と土岐。
字幕かぶせて。
字幕・土岐《今思えば、それが昭和最後の夏だった…》
     《ゴールデンタイムのTV番組が苦手な俺は
      その時間帯…
      ローカルTV局の音楽番組を見るのが習慣だった
      そんな時に流れたスポットCM…
      アンチェイン蜂須賀&ウェイラーズLive!》
字幕・土岐《蜂須賀というミュージシャンは始めて聞いたが
      1979年以来、来日するウェイラーズを目当てに
      迷わずチケットセンターに電話した…》

レストラン「月光」ー
村木「ヤツ…?」
久保田「あのLiveの主催者と言うか、仕掛人」
   「今でいうならプロデューサー…」
   「いや…それも違うな」
   「イメージ屋…とでも言うのかな」
村木「…」
久保田「センパイから、ウェイラーズと共演…という夢を聞き出し」
   「本当にウェイラーズを招聘して、まったく無名のセンパイを東京ドームのステージに立たせた…」
村木「その人物の名前は…?」
久保田「後関…とか言ったっけ」
村木「何が目的で?」
久保田「さあ…!?」
   「しいて言えば、センパイの存在が許せなかったんじゃないかな」
村木「そのためだけに、ドームを借りてウェイラーズを招聘した…ということですか?」
久保田「うん…」

隅田公園ー
所長と土岐。
土岐の回想カット。誰一人いない東京ドームチケット売り場。(ボーダーVol128より)。
字幕・土岐《無名のアーティストとの共演…
      ウェイラーズファンのオレでさえ
      ドームは無謀…だと思った
      案の定、開演してもほぼ空席状態…》
土岐の回想カット。ドーム入口に押し寄せる群衆。(ボーダーVol128より)。
     《ところが…しばらくたった頃
      大勢の人が押し寄せ
      アンチェイン蜂須賀が登場する頃には
      アリーナは一杯の観客で埋め尽くされた…》

レストラン「月光」ー
久保田と村木。
久保田「前売りで売れたチケットはわずか300枚…」
村木「300枚…」
久保田「木村の奥さんになったナミ子さんが」
   「見かねてビラを配った…」
   「無料という言葉を加えて」
村木「それでは…ほとんど収益がなかったのでは?」
久保田「もちろん…興行的には大赤字だろ」
   「でも後関は、何の損もしてない…」
   「それどころか、自分の取り分はしっかり確保して大儲けしたはずさ」
村木「Liveに掛かった費用は、どのくらいだったのでしょう?」
久保田「………」

隅田公園ー
所長「…不思議なことに」
  「そのLiveの記録は、一切残ってねえ…」
土岐「ドーム興行、外タレの招請…」
  「当時であれば、ウラ社会がどこかで絡み」
  「それなりの金が動いたはず」
所長「うむ…その辺のシノギを仕切っていたのは☓☓組か」
  「やはりその金の行く先が、問題ってことか…」

レストラン「月光」ー
久保田と村木。
久保田「契約書に記載されていた、諸経費の詳細は…」
村木「…」
久保田「ロンドン工作費…3千万」
   「渡航費滞在費ギャランティ…2千万」
   「ホール賃貸PA費…2千万」
   「マスコミ対策費…3千万」
村木「1億!?」
久保田「…そして、手数料の4億」
村木「5億円…?」
  「そ、そんな大金いったい誰が?」
久保田「センパイだよ」
村木「例えばの話ですが、蜂須賀氏を支援するスポンサーがいたとか?」
久保田「センパイ一人で出したんだ」
   「…センパイにとって、1円であろうが5億であろうが」
   「金なんてその程度の価値なんだろ」
村木「…」
久保田「そんなセンパイの心意気と、後関が信じるデータと策略…その闘いでもあったんだ」
村木「蜂須賀氏は、そんな大金をどのようにして手に入れたのです?」
壁に飾られたあの女性のイラスト…。


無言の久保田。
久保田「…」
久保田をじっと見据える村木。
村木「…」

※ラストコマ
睨みあう久保田と村木。

『ネオ・リバースエッジ』
「第四話・ハードでルーズ」END

「第五話・夜の盗賊団」につづく

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