【マンガ原作】令和地獄ブラザーズ
登場人物
右近…主人公
左近…右近の弟
牛山…右近の親友
『春のからっ風』
高台に建つアパート…右近の住居。
右近の部屋。くわえタバコでベッドに横たわる右近。
テーブルの上には灰皿とhi-lite…その横にポケットラジオ。
ラジオのトークにニヤつく右近、屁など放って…。
(ドンドン!)
玄関ドアをノックする音。
右近「開いてるぞ…勝手に入れ!」
(ガチャリ)とドアが開き、部屋に入ってくるスーツ姿の左近。
手土産が入っているコンビニ袋を掲げて。
左近「兄貴…定期巡回な」
「体調どうだ?お変わりありませんか…おジイちゃん!」
右近「誰がおジイちゃんだよ!」
「…お前は介護ヘルパーさんか!?」
左近「フン!」
「昼間っから寝転んでラジオばっかり聴いてたら、いつか本当にそうなるぜ」
右近「う、うるせー」
左近、ポケットラジオを見て。
左近「…兄貴よお」
「ラジオ聴くのもいいが、たまには他人と会話してるんか?」
右近「バカにするんじゃねえ!」
「毎日のように牛山と話してるぜ…」
《右近の回想》
右近の居住地近く、O川沿いの満開の桜…。
字幕(右近)「…桜のこととか」
全力で尻尾を振り、牛山の顔をベロベロ舐めまわす柴犬。困惑している飼い主のご婦人。
牛山「えっえっえっ」
字幕(右近)「牛山の友達の…」
牛山の足元で「ゴロゴロ」と喉を鳴らしてスリスリする猫数匹…。
字幕(右近)「柴犬や猫の話とかよ」
---
右近、自信満々のドヤ顔で、差し入れの缶コーヒーを手に。
右近「…話題が尽きねえぜ!」
左近、驚いたように。
左近「牛山さん、犬や猫と友達なのか!?」
左近も缶コーヒーを手にして。
左近「い、いや…そんなことはどうでもいいが……」
「では…牛山さんやオレ以外の人とは?」
右近「牛山やお前以外…!?」
「うーん…さっきコンビニに行って『ハイライトひとつ下さ~い』ってな」
左近「…タバコ買っただけじゃねえか!」
「そうゆーことではなく…」
「この地域に溶け込めているのか…それを心配してるんだ」
「目立つことも浮くこともなく、ごく自然に普通の生活を……」
右近「…オレも牛山も、なにも悪いことはしちゃいねえ!」
左近「もちろん、それはわかってる…わかってはいるが」
「兄貴たちは昔からこう、ズレているというか…」
「…どこか浮世離れしてるだろ!?」
《左近の回想》
『ハード・コア』最終話の廃工場立てこもりシーン…。
字幕(左近)「…また、昔のようにヤケを起こさないかと……」
---
缶コーヒーをごくりと飲む右近。
右近「心配するな…弟よ!」
「オレだって昔のオレじゃねえ…」
「こう見えても…少しは社会性だって身につき」
「それなりに世間とうまくやってるつもりだ……」
コーヒーが喉に引っ掛かり、「ゴホッゴホッ」と咳き込む右近。
左近それを見て。
左近「…あとなあ」
「たまには話したり歌ったりしないと、喉の力が弱まって」
「嚥下障害っつてな、喉が詰まりやすくなる…」
「すでにその兆候が現れてるぜ…おジイちゃん!」
右近「うるせー!」
「…まるで、ガチの訪問介護じゃねえか⁉」
「オレはまだそんな年齢(トシ)じゃねえ!」
「用が済んだらとっとと帰りやがれ」
小バカにした薄笑いを浮かべ、部屋を出て行く左近。
右近、不貞腐れたように寝転び、天井を見上げて。
右近「ちっ…面白くねえぜ」
ー----------------
公園。桜舞い散る下、将棋に興じる右近と牛山。
右近の上着、『あしたのジョー』が背中いっぱいに描かれたジャージ。
苦戦する右近、腕組みして長考。
右近「う~ん…」
将棋の盤面上に左近の薄笑いがオーバーラップして。
右近「く、くそっ…」
右近、盤面の駒をごちゃごちゃに搔きまわす。
右近「えーい…ヤメだ、ヤメだ!」
牛山「えっえっえっ!?」
気まずそうに頭を下げる右近。
右近「わ、悪かった…牛山!」
「ついムカつく顔を思い出しちまってな…」
右近、駒を片付けて。
右近「オレの負けだ…」
「『ガリガリ君』おごってやるから、勘弁しろや」
飛び上がってはしゃぐ牛山。
牛山「えっえっえっ!」
ー----------------
商店街。コンビニ前。灰皿のある場所でタバコを吸う右近、『ガリガリ君』にむしゃぶりつく牛山。
道行く人を眺める右近。
商店街には子供連れ、あるいは子供同士など…やたら子供が目に付く。
右近「おい牛山…子供たちはまだ、学校に行ってる時間じゃねえのか?」
牛山「は…春休み……」
右近「そ、そうか!?春休みか」
「牛山、お前はオレの知らないことも」
「何でも知ってるんだな…尊敬するぜ」
照れる牛山。
牛山「…えっえっ」
食べ掛けの『ガリガリ君』の棒に『当たり』の印字。
牛山、それに気付いて。
牛山「えっえっえっ!?」
右近に見せる。
右近「…当たったのか!?」
力強く頷く牛山。
牛山「えっえっ!」
喜びを分かち合う二人。
右近「でかしたぞ、牛山…!」
牛山「えっえっえっ!」
二人の前に5,6才の少年、指をくわえ『ガリガリ君』をじっと見ている。
右近、それに気付いて。
右近「…ん!?」
「ど、どうした…?」
無言で首を振る少年。
少年「………」
右近「…欲しいのか?」
再び首を振り。
少年「………」
立ち去ろうとする少年。
右近その後ろ姿に。
右近「ちょ…ちょっと待て!」
右近、食べ掛けの『ガリガリ君』を強引に牛山の口の中に突っ込む。
牛山「うがうがうが」
少年、その様子を見て笑い。
少年「あははっ…!」
牛山から『当たり』の棒を奪い取る右近。
ジャージの袖できれいに拭き取ると少年に差し出す。
右近「…これ持って行け」
「『ガリガリ君』もらえるぞ!」
「いらない」と言った感じで首を振る少年。
少年「………」
右近、少年に近づいて。
右近「いいから持って行け!」
『当たり』棒を差し出す右近。
右近「ほら…!」
少年、恐々受け取ると逃げるように背中を向け走り出す。
少し離れると振り向いて。
少年「おじちゃん…ありがとう!」
ぎこちない笑顔で手を振る右近と、口の周りにアイスをつけたまま手を振る牛山。
右近「お、おお…またな!」
少年を見送りながら。
右近「牛山、オレは誰からも愛される明朗快活な好青年なんだ…」
「…今度左近に会ったら、そう言うんだぞ」
牛山、敬礼。
牛山「は、はい…右近さん!」
右近「ま、中年だがな…」
「よし…帰るぞ牛山!」
「…11:30から『ビバリー昼ズ』聴かなくちゃならねえ」
ー----------------
夕暮れのオフィス街。
オフィスの一室…左近のオフィス。
難しい顔をしてPCに向かう左近。
机の上に置いたスマホが「ビ~ビ~ビ~」とバイブの振動。
スマホを手にする左近、とたんに険しい表情になる。
左近舌打ち。
左近「ちっ、イヤな予感がする……」
「…てか、イヤな予感しかしねえ」
スマホの画面。『防犯情報 不審者の出没(子どもへの声かけ事案) Y市M駅コンビニ店前 40から50歳ぐらいの中年男性2人組』
ー----------------
夜。右近の部屋。テレビを見ている右近、その横には2.7リットル入りペットボトルの焼酎…晩酌中で上機嫌。
右近「がっはっはっ…!」
「ガチャッ」と玄関ドアが開き、左近が入ってくる。
左近「兄貴!」
右近「お、どうした…左近」
「…誰からも愛される明朗快活なこのオレに、なんか用か!?」
左近「今日、牛山さんとコンビニ行ったか?」
右近「ああ…行ったぜ!」
「地域に溶け込まなくちゃならねえと思ってな」
左近、スマホを取出し。
左近「オレのケータイに来た『防犯情報』だ…」
「…最近は市内で事件が発生すると、一斉に配信されるシステムになっている」
「いいか、読むぞ…心当たりがあるなら、正直に言ってくれ……」
スマホの画面を見ながら、読み上げる左近。
左近「午前11時頃、Y市M駅近くのコンビニ店前で帰宅途中の男の子が、棒のような物を持った二人組の男に追いかけられる事案が発生」
右近「………」
左近「…犯人の二人組はどちらも年齢40から50歳くらい」
「特長として、2人組のうちひとりの髪型は坊主…」
右近の身体がわなわなと震えはじめる。
右近「………」
左近「また…追いかけてきた男の服装は」
「背中にマンガのキャラクターと思われる絵が描かれた黒色のジャージ…」
窓。カーテンレールに掛けられたハンガーに…『あしたのジョー』のジャージ。
右近、「すくっ」と立ち上がり。
右近「オレだよ…オレっ!!」
涙目で。
右近「逆に……オレと牛山以外、考えられるか!?」
ー----------------
高台のアパートを照らす月。
右近の部屋。窓から月を見る左近。
左近「…なるほど、そうゆーワケか……」
「どうやら、子供が話したおもしろエピソードに」
「親御さんが過剰反応した…ってところか」
「…犯罪性がないことはわかった」
うなだれる右近。
右近「………」
左近、含み笑い。
左近「ククク…」
右近「…なにが可笑しい!?」
振り返る左近。
左近「いや、なに…」
「令和になっても、兄貴や牛山さんはトラブルを引き寄せる …」
「つくづく…巻き込まれ体質だなと思ってよ」
右近「オレと牛山は…なにも悪いことはしちゃいねえ!」
左近「だからわかってるって、兄貴…!」
右近「………」
左近「令和も良い時代とは言えないが、決して悪い時代でもない」
「兄貴と牛山さんだけは…」
「…イノセントなままでいて欲しい……」
左近、玄関に向かい帰り支度。
左近「ほとぼりが冷めるまで、出歩くのはやめておけ」
カーテンレール。『あしたのジョー』ジャージ。
左近「とくに、このジャージは目立ち過ぎる…」
左近、玄関で。
左近「食料はオレが差し入れる、牛山さんの分もな」
「しばらく部屋で大人しくしてろ…」
「…ラジオでも聴いて……な」
右近、寝転んで。
字幕(右近)「クソッ」
「こんなことばっかし」
「……………」
(びゅ~ぅ~)風が桜を吹き飛ばし…月が、笑っている。
字幕(右近)「春のせいだ」
「……………」
令和地獄ブラザーズ
『春のからっ風』END
今回のテーマ曲『春のからっ風』歌・泉谷しげる
「HD 泉谷しげる 春のからっ風」
https://www.youtube.com/watch?v=Ndnavttl8BY
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?