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クレーンゲームとくじと景品と。何が違法で適法か。

突然ですが、僕はゲームが狂おしいほど好きです。ゲームセンターが好きです。だから、風営法が好きです。

先日、僕がよく見ている遊楽舎の店長さんの動画で、次のようなものが上がっていました。

店長さんの語りもわかりやすくとても面白い内容なので、是非一度見ていただければと思います。


もとのヒカルさんの動画は、くじをつかむクレーンゲームの動画です。すべてのくじを引いたにもかかわらず、PS5やSwitchといった高額上位商品が出なかったというものです。

当然クレーンゲームを置くお店としてはやってはいけない行為です。加えて、経営者の方も認識が甘かったのだろうという店長さんの指摘は見ていて納得できますし、面白いです。

じゃあ法律上どうしてだめなのか、という点を検討すると、これも結構難しく、面白いです。それもあってか、店長さんも動画内で語られていますが、おそらくちょっと誤っている部分があるように思います。

せっかくなので、僕もこの問題を検討してみたいと思います。

※以下、わかりやすくするために本来の意味と少し異なる説明を行っている部分があります。


風俗営業法

風営法を検討するにあたり、まずは風営法上の営業許可をとる必要がある店舗か、という検討が必要です。ゲームセンターなので、5号営業店舗に当たるかという検討になります。

風営法の検討をするときに必ず目にする「解釈運用基準」を確認すると、

ア 店舗の意義
「店舗」とは、社会通念上一つの営業の単位と言い得る程度に外形的に独立した施設をいい、ゲームセンター、ゲーム喫茶のように法第2条第1項第5号の営業用に設けられた店舗である場合はもとより、飲食店営業、小売業等の営業用に設けられた店舗も、同号の「店舗」に含まれる。https://www.police.pref.fukuoka.jp/data/open/cnt/3/97/1/fuueitekiseikahoukaishakukijyunn20220401.pdf?20220405131533


とあるため、ゲーム機を置いている何らかの商業店舗であれば5号営業店舗に該当することになります。ゲームセンターという形である必要はないようです。

ただし、

イ 風俗営業の許可を要しない扱いとする場合
~遊技設備設置部分を含む店舗の1フロアの客の用に供される部分の床面積に対して客の遊技の用に供される部分~の床面積~が占める割合が10パーセントを超えない場合は、当面問題を生じないかどうかの推移を見守ることとし、風俗営業の許可を要しない扱いとする。https://www.police.pref.fukuoka.jp/data/open/cnt/3/97/1/fuueitekiseikahoukaishakukijyunn20220401.pdf?20220405131533

とあるため、ゲームが占める面積が、店舗面積の10%以下なら風営許可は不要です。

動画の内の店舗もゲームの場所が小さいので、この規定をもとに風営許可をとっていなかったのだろうと思います。


ではこれで風営法の話は終わり、というわけではありません。

解釈運用基準では、上記の場合あくまで「許可を要しない扱いとする」と述べているにすぎません。裏を返せば、「本来は許可が必要な5号営業である」ということだと考えられます。

そして、風営法23条2項によれば、

2 第二条第一項第四号のまあじやん屋又は同項第五号の営業を営む者は、前条第一項の規定によるほか、その営業に関し、遊技の結果に応じて賞品を提供してはならない

「5号営業店舗は」ではなく、「第5号の営業を営む者は」との規定になっていることがポイントだと思います。風営法の許可の有無・必要性を問わず、5号(すなわちゲームセンター)の営業を行っている以上は、「遊技の結果に応じて賞品を提供してはならない。」ということです。

そして、解釈運用基準に戻ると、

10 遊技場営業者の禁止行為 ⑶遊技の結果が物品により表示される遊技の用に供するクレーン式遊技機等の遊技設備により客に遊技をさせる営業を営む者は、その営業に関し、クレーンで釣り上げるなどした物品で小売価格がおおむね1,000円以下のものを提供する場合については法第23条第2項に規定する「遊技の結果に応じて賞品を提供」することには当たらないものとして取り扱うこととする。

※2022年4月1日に、800円→1000円に金額が改訂されました。

1000円を超える小売価格の賞品をクレーンゲームの景品として提供することは、風営法23条2項に違反することになります。

したがって、業務用のクレーンゲームを使って営業する事業者は、すべからく1000円を超える賞品を提供してはならず、これに反すると仮に風営法上の許可が必要ない店舗であっても風営法23条2項違反を問われる可能性がある、という結論になると思います。

PS5等高額な賞品がクレーンゲームで提供されているだけで、許可の有無にかかわらず風営法に違反する可能性があるということです。

※参考事例として、賭博ゲーム機「ジャックポット」が置かれている店舗を「風営法違反」容疑で摘発している事例があるようです。下記記事では、飲食店等での設置について触れられており、実際に摘発された店舗情報がないため定かではないものの、5号営業での風営許可のない店舗を23条2項違反で摘発した、という可能性も否定できないです。https://news.yahoo.co.jp/articles/afc5665fbc115646f209d1b07128a79e052d5db5

(ただし、風営法上の手続きのない店舗を、きわめて忙しい警察が理由なくチェックするとは思えないので、事実上黙認されてしまっているかもしれませんが…。)

景品表示法

クレーンゲームやお祭りくじ等でよく話題に上がりますが、結構誤解されているように思っています。

景品表示法上の「景品類」とは、以下の3要件を満たすものを指します。

(1)顧客を誘引するための手段として、
(2)事業者が自己の供給する商品・サービスの取引に付随して提供する
(3)物品、金銭その他の経済上の利益
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/premium_regulation/

3要件を満たして初めて、一般懸賞(取引価格の20倍迄)、総付景品(取引価格の10分の2迄)という制限が課されることになります。

くじでよく誤解されているのが、「(2)事業者が自己の供給する商品・サービスの取引に付随して提供する」という要件の部分です。これをあえてわかりやすく言えば

購入した商品のおまけとしてついてきたり、おまけの抽選でもらえる場合

に限定される、ということになります。

例えば、お祭りくじといったくじ商品については、

「景品が当たるかも当たらないかもしれないくじ商品」を購入している(くじという紙切れを購入しているわけではない)ので、くじの景品は「おまけ」でついてきているわけではありません。

したがって、この「(2)事業者が自己の供給する商品・サービスの取引に付随して提供する」という要件を満たしておらず、景表法の規制が適用されることはない、という結論になります。

クレーンゲームも同様です。

「景品が手に入るかもしれないゲームプレイ」(クレーンを動かすためにお金を払っているわけではない)を購入しています。

クレーンゲームの景品は「おまけ」でついてきているわけではなく、景表法の規制は適用されません。

動画のようなクレーンゲームでくじ引きを行う場合も結局は同様で、「景品が手に入るかもしれないゲームプレイ」(クレーンを動かすためにお金を払っているわけではない)を購入しています。

したがって、景表法の景品類規制の適用はなく、景表法上問題ないという結論になります(景品類の規制についてはとなりますが。)

(なお、景表法の規制庁は消費者庁なので、景表法違反があっても警察は動いてくれません。)

刑法・詐欺罪

最後に、あたり抜きのくじクレーンは犯罪にならないのでしょうか。

結論としては、詐欺罪の成立の可能性があるのではないかと考えます。

刑法246条1項
人を欺いて財物を交付させた者は,10年以下の懲役に処する。

詐欺罪の構成要件は以下の4つです。
①欺罔行為(人を欺くこと、だますこと)
②①により被害者を錯誤(勘違いや思い違い)に陥れたこと
③「財物を交付させ」ること
④①~③に因果関係があること

今回の事例に当てはめて考えれば、

①本当は当たりくじがないのに、PS5等高額商品があたると告知し見せかけた

②被害者は、ゲームをプレイしくじを引けば、いつかはPS5等高額商品があたると勘違いさせた

③被害者はたくさんのお金をクレーンゲームで使用した。

④被害者は、高額商品が当たらないと知っていればクレーンゲームに散財せず、だまされたのでお金を使ってしまった。

以上のように構成要件を満たすといえるため、詐欺罪が成立する可能性は十分あると考えられます。

ただし、立件する場合には立証のための証拠確保がとても重要になるので、騙されたとわかったら直ちに警察を呼んで現場検証を行ってもらう必要がありそうです。


まとめ

長くなってしまいましたが、まとめると

あたり無しのクレーンゲームくじは

・(許可の有無にかかわらず)風営法上違法の可能性あり

・景表法上は問題なし

・詐欺罪が成立する可能性あり

とのことなので、被害にあったら直ちに警察に通報して、風営違反の報告と被害届の提出を行う、という対応が最善ではないかとおもいます。

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