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「エメラルド -希少元素のめぐりあい-」

●序文

不定期宝石紹介シリーズ 第5弾「エメラルド」編です。

[コロンビア産エメラルド 出典:Wikipedia]

見る者の目を奪う深く美しい緑色をした宝石、エメラルドの紹介です。
とても古くから宝飾品として愛されている鉱物で、美しい装具として、頼れるお守りとして、そして、呪術や解毒の道具として、様々な利用法で活用されてきました。
鉱物学的には「ベリル」という六角柱状の特徴的な結晶の形を持った鉱物に分類されます。
今回は、エメラルドが持つ他のベリルにない特徴や、人類との関わりが長いために様々に語られたエメラルドにまつわる伝説を紹介したいと思います。

●基本情報

・化学組成: Be3Al2(SiO3)6
・モース硬度: 7.5 ~ 8 (宝石 その美と科学) 
・屈折率: 1.571-1.577 (宝石 その美と科学)
・比重: 2.6 ~ 3(小学館NEO)/ 2.68 ~ 2.77(宝石 その美と科学)
・結晶系: 六方晶系
・劈開: 底面に平行に弱く
・色: 緑
・産地: コロンビア、ブラジル、ザンビア、ロシア、マダガスカル、アフガニスタン

宝石名としては、エメラルド(緑)、アクアマリン(青)、モルガナイト(ピンク)、ヘリオドール(黄)、レッドベリル(赤)、ゴッシェナイト(無色)などが属する「ベリル」という鉱物の仲間です。
六角柱状の結晶をつくる鉱物で、特にアクアマリンの原石などで顕著にあらわれているのをよくみますね。

[アクアマリンの原石 出典:Wikipedia]

また、レアメタルであるベリリウム[Be]を含むため、宝石質でないものもベリリウムの原料となる鉱物としても知られています。

● エメラルドはもろい、アクアマリンはかたい

エメラルドには、他のベリル系宝石と比べて脆いという特徴があります。これは鉱物本来の性質として脆い、柔らかいということではありません。ヒビやインクルージョンを含んだ結晶として産出することが多いため、個体として脆いものが多いということです。
これには、エメラルドの材料となる元素の条件が特殊で変性作用がないとうまれにくいということが関係しています。そのため、天然のエメラルドはヒビやカン、インクルージョンが多いんですね。
一方で、アクアマリンやモルガナイトは着色の条件となる元素が鉄やマンガンとありふれたものなので、安定条件で結晶の成長が起こりやすくなってます。
だから、アクアマリンの標本は大きくて結晶の形がきれいなものがたくさんあるんですね。

・ エメラルドの鉱床は地質的な変性作用で生まれる

エメラルドを形成するのに必要な条件は、ベリルの結晶をつくるためのベリリウム(Be)と、緑色の発色をするためのクロム(Cr)やバナジウム(V)の両方が高温高圧で出会うことです。ベリリウムはレアメタルであり、クロムもベリリウムほどではないものの、鉄やアルミニウムなどのように地球上にごくありふれたものではないため、そのふたつが出会うにはそれなりの経緯があるんですね。
ベリリウムが多く含まれるのは、花崗岩質のマグマやそれが固まった岩石です。そして、クロムやバナジウムの方は苦鉄質-超苦鉄質のマグマや岩石です。それぞれが別の場所を起源にしているわけですね。
別の場所を起源に持つ岩石がどうやって出会うか。その答えが地質の変性作用です。地球はプレートテクトニクスという現状によって大陸や海洋が動いたりしています。そのような大きな力によってもともと別の場所にあった岩石同士が出会ったり、火山活動によって地下のマグマが吹き出し地表にあった岩石と出会ったりすることがあります。そうして、別の成分を含んだ岩石同士が出会うとエメラルドのような鉱物がうまれるわけですね。しかし、ただ隣あって存在していればエメラルドが精製されるというわけではありませんよね。地下の高温高圧のような条件があってはじめてエメラルドがつくられるんです。
ここでは典型的な例を2つ紹介します。

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