電子ピアノ市場におけるカシオの戦術
さて、前に少子化高齢社会や日本の衰退によってピアノ市場が大きく変容したことについて述べた。
日本の衰退を別の言葉で言うならば「中産階級の没落」である。
かつては日本人の8割以上は中産階級であり、その中の7割以上が「自分たちは中の上」という認識でいたのである。
であるから、横並び意識が強く他人の目を気にする日本人の特性故に中産階級の特に女子はピアノを習って当たり前という風潮であった。
しかし昨今は7割以上の家庭が「生活が苦しい」と実感するようになった。
女性の社会進出もあり、晩婚化、子供なし夫婦、生涯独身者も増大した。
したがって女子はピアノを習って当たり前という風潮は一部の高所得者階級のソサイエティの中に存在するものになっている。
ヤマハもすでに日本は成熟(というか衰退)市場と見て、収益の軸足を中国などに移し、さらに日本で行った「音楽市場創出」をインドなどでやろうとしている。
さてカシオはどうか?
確かに安価で手軽なカシオトーンなどを市場に出し普及させたことで、市場創出に少なからずの寄与があったかもしれないが、「音楽教育やイベントを通じて」社会全体に影響を与えるような市場創出はやってこなかった。
しかし日本を成熟市場と見て、軸足を海外に向けたヤマハと異なり、カシオは、今の日本の姿を捕え、新たなライフスタイル提案型のマーケティングを行った。
すなわち、独身者や小無し世帯であって多少の経済的余裕のある世帯に向けて、おしゃれで邪魔にならない電子ピアノのある生活を提案したのである。
それが受けて、PX-S1000、PX-S1100の大ヒットにつながったのである。
だからカシオの売れ筋であるPX-770とPX-S1100は同じ電子ピアノでもそのターゲットが全く違うのである。
他にもPX-770よりも少し上のクラスのCELVIANOというブランドも展開しているが、売れていない。
何故なら、鍵盤がしょぼいからである。
メインの鍵盤の種類が2種類しかなく、全て鍵盤長が短い。
カシオは部品の共通化や工場自動化による大量生産。
それによって低コストと安定調達を実現しているからだ。
まあ、そのために半導体不足の状況でも唯一安定供給ができていた。
しかしその短い鍵盤ながら頑張ってバネではなく自重で動作するようしたり、3センサーにするなどして短い鍵盤という制約の中で頑張って改良を続けている。
2004年に作って以来、2センサーのまま放置して改良もしないヤマハのGHS鍵盤とは姿勢が違うのだ。(個人の感想です)
だから私は、CELVIANOは絶対に進めないが、コンパクト型であればカシオを勧めるし、P-125をお勧めしないのである。
さて、海外における市場創出については、カシオはインドを特に意識している。
ヤマハは教育産業との連携によって市場創出をドライブしていくタイプだが、カシオは教育をあまり必要としてない安いキーボード(演奏補助機能のついた)で楽器演奏の裾野を広げようとしている。
そして、それはすでにかなり成功している。
実際、日本で売られているカシオトーンについても、その内蔵音源やリズムの内容を聞くとあまりにインド系のものが多いことに驚く。
いずれにしても、BRICs(ロシアを除く)が今後の音楽市場の中核になっていくことは明らかだろう。