何にも
昨夜、寝る前のこと。あれ、おかしいなと思った。
昨年の秋。大阪出張の帰りに京都に一泊した時、街をぷらぷら歩いていて偶然迷い込んだ安井金毘羅宮で、恥も外聞もかなぐり捨てて、アラサー男性が一人孤独に縁切りを願ってきたのではなかったっけ。
それがなんでまた、夏に会うなんて話になってるのだっけ。あれ、切る縁間違えちゃった?随分遅れてから効いてきた?まあこれは自分の弱さが生んだ状況なのだけど。
特に最近寝付くことに苦労した記憶はないのだけど、電車に乗る頃には抗い難い眠気を覚えた。気分は重い。空席を見つけて座ると、意外とすんなり眠りに落ち、起きた時には少し頭がはっきりした。
結局というか、案の定というか。中途半端に笑っていることしかできなかった。もっと笑えれば良かったのに。別れ際、「また今度も…」と言われかけた時、無意識に目線を逸らしてしまって、それから少し向き直って、まあそうねと曖昧に返した。自分で自分を俯瞰して、テンプレートみたいだなと自嘲していた。嘘でも、「また会おうね」って言えたら良かったかな。
結局何にも分からなかった。変わらなかった。終わりってものは、夕焼け空の夜と昼が混じり合う色のように、自分が思っていたよりもずっと穏やかで、はっきりしなくて、それでいてどうしようもなかった。
笑って終われるのはお互いを知らないからだな、とか思ったりする。たかだか7回会っただけだもの。もっと傷つく準備をしていたのに。あの時の拒絶くらいの絶望をくれれば良かったのに。良かったのに。以前の終わりはもっと苛烈だった。
消した写真たちは、「最近削除した項目」に残ったまま。一箇所に集めている分、むしろ前より探しやすくて良くない。今消す覚悟を決めなくたって、30日経てば勝手に消えてゆく。何も選び取ることができなくても。今はただ、どちらを選び取ろうか、そのことだけを考えている。結局、何にも見えなかったよ。
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