「ダウンジャケットと言えば波司登!」の軌跡
2022年3月現在、コロナ発生から2年以上経ち、欧米では観光客の受け入れも日常に戻りつつあるようですが、中国国内は依然、約3週間の集中隔離があり(地域による)、これがあるため、海外に旅行や買い物に行くことに大きな制限が加えられているといえます。
海外に行けないため海外での爆買いということができなくなったためか、中国国内で買い物をする方向に向かっています。欧米ブランドはもちろんのこと、最近は中国ブランドへの興味も増えてきています。
ということで、本日は中国のブランド「波司登」について紹介します。
波司登は1976年創業のダウンジャケット製造販売会社です。今ではアメリカ、フランス、イタリアなど72の国で販売されています。中国に住む人であれば間違いなく見かけたことがあるでしょう。
価格は300元代から3000元代までとばらつきがありますが、平均すると1200元くらいでしょうか。こちらは京東の旗艦店のスクリーンショットです。
1976年創業時はダウンジャケットのスタンプ加工を主とする商売からスタートし、その後1994年に波司登ブランドを設立しました。1995年夏に波司登は北京王府井百貨店での販売をスタート。最大で1日480枚を販売、2ヶ月で2.5万枚のダウンジャケットを販売しました。この年、波司登はトータル62万点を販売。初めて全国1位にランクインしました。
その後も波司登は猛烈なスピードで成長。1999年には低価格のダウンジャケットも企画し、300万枚以上の販売枚数で市場の40%シェアを占めました。
そして2007年に香港市場に上場。ここまで見ると非常にすんなり来たように見えますが、ダウンジャケットの販売はどうしても季節が偏るため、これを打開するにはどうすればいいかを考えていました。そして2009年に波司登は収入を広げるために「ブランド化、オールシーズン化、国際化」戦略を打ち出しました。領域を婦人服、紳士服、子供服へと拡大するとともに、グローバル展開をスタート。そして様々なブランドを買収し、波司登の店舗数は2012年にはなんと14,435店にまで達しました。
しかし、この頃から市場環境が変化し始め、買い物の場所が百貨店からショッピングモールに移行、同時に、ネット販売が急拡大、海外のファストファッションブランドも中国市場に参入、まさに既存アパレルブランドの正念場を迎えたわけであります。
環境の変化についていけず、また暖冬が続いたこともあり、波司登の純利益は2012年の14.51億元から、2015年の1.38億元に大きく低下、そして店舗数も2015年だけで5000店舗を閉鎖し、2012年の14,000店余りから、2015年には6,000店程度に激減、2017年にはなんと5,070店舗にまで減少しました。
このままではいけないということで、2018年に波司登は新しい戦略目標を策定します。ブランドを拡大しすぎてターゲットが明確になっていなかったこと、多くのブランド展開をし、何でもありになっていたこと、これらを是正すべく中高級ダウンジャケット市場に焦点を当てる事にしました。結果としてこれが功を奏しました。
2015年から現在にかけて268件の特許を取得、2018年から2020年にかけて、ニューヨーク、ミラノ、ロンドンのファッションウィークに出展し、従来のイメージからの脱却を図りました。「ダウンジャケットと言えば波司登!」という事を目指しはじめたのです。
そして値上げです。波司登のメインブランドの価格帯を1,000元以下から1,300-1,500元に引き上げました。これら施策により2018年の1,000元以下の製品の販売枚数比率が48%から12%に低下したものの、1,800元以上の製品の販売枚数比率が5%から24%に急上昇しました。
さらなる高価格帯の商品も扱うようになり、昨年10月には元Burberryのデザイナーがデザインしたコートダウンジャケットシリーズを定価2,699-6,690元で販売を開始しました。
また、単価1万元以上の登峰シリーズも発表しています。これはさすがにそこまで好調とはいえないようです。
現在波司登の顧客層の約7割が三線以下都市においてのものであり、全体的に見ますと販売枚数が最も多いダウンジャケットの販売価格はわずか369元でした。
ダウンの最高級と言われるMonclerの単価が1万以上、そしてのカナダグースが6,000元。波司登は頑張っているとはいえ、さすがにいきなり最高級ブランドとして売り出すのは早すぎたといえます。どうしてもある程度の時間は必要になるでしょう。なにせ数百元、数千元、数万元、波司登のダウンジャケットの価格幅は大きく、消費者が持つブランドイメージも価格帯にこれだけばらつきがあるとなかなか安定しづらいはず。
最近波司登は「アメリカ、フランス、イタリアなど72カ国で、2億人以上に売れている」と言っておりますが、決算においては海外店舗数と営業収入比は挙げられていません。これはマーケティング手段にすぎないと話す業界関係者もいます。
中国商工業研究院の2020年の報告によると、欧米では30%から70%のダウンジャケット普及率があるが、現在の中国ダウンジャケットの普及率は10%前後にとどまっているようです。もっと多くの人が来ていると思うのですが、普及率の低い都市もあるということなのでしょう。
2018年の改革にて掲げた「ダウンタウンと言えば波司登!」のイメージ自体は定着しつつあるでしょうが、商品価格にばらつきがあることで消費者の混乱はあろうかと思います。とはいうものの、中国国内のダウンジャケットの普及率は思っていたよりも高くないようですので、これからの成長が期待されますね。
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