瞳の奥が見つめるもの 『江本家のゴドー』を鑑賞して
幸せかもわからない、不幸せかもわからない。けれども幸せって言うのはそう言うことらしい。(柄本明さん)
原作は、劇作家サミュエル・ベケット氏による戯曲『ゴドーを待ちながら』。
木が1本立つ田舎の一本道を舞台として、
ウラディミールとエストラゴンという2人の浮浪者が、ゴドーという人物を待ち続けると言う不条理演劇の代表作である。
(参照元URL:https://ja.wikipedia.org/wiki/ゴドーを待ちながら)
しかし、『江本家のゴドー』は、そういった事前情報がなくても全く問題なく鑑賞できます。
なぜなら、本作は『ゴドーを待ちながら』に挑む兄弟・柄本佑さん・江本時生さん、そして演出の柄本明さんの演技指導を通して、人間の生き様を伝えていくドキュメンタリー映画だからです。
理解しようとしすぎるとわからなくなるし、理解しようとしないとわからない、その曖昧さに妙味がある難しい作品に対して、3人の解釈は異なります。
例えば『木が1本立つ田舎の一本道』と言う言葉1つとっても、
江本明さんは、アイルランドの小高い丘の前の枯れ木を、
江本佑さんは、宙に浮いているような場所の枯れ木を、
江本時生さんは、誰かが踏み固めた草木の道の枯れ木を思い描いています。
ここまで世界の見え方が違えば、家族であれば尚更、妥協点を見出すような方向に進みがちです。
しかし、江本家の皆様は違います。
父である柄本明さんの身振り・口伝による指導に対し、柄本佑さん・柄本時生さん兄弟は全力で向き合い、役としての在り方を体得していきます。
柄本明さんの演技指導により、役に人格が吹き込まれていく様は必見です。
言葉を選び求める演技を伝える姿勢、演技を見つめるまなざしが大変印象的です。
そして柄本佑さん・柄本時生さんをはじめとする劇団東京乾電池のみなさんが、柄本明さんの演技指導を一言一句聴き逃さず、ご自身のお芝居に反映させていきます。私はあまりお芝居を鑑賞しませんが、言葉を話しながら身振り手振りをつけている状態から、役としての人格が生まれていく様子がありありと分かりました。
演技指導をなさる柄本明さんは、時に柔和な、時に険しいまなざしの奥で、その方の奥底に眠っている生き方を引き出そうとされていると感じました。
(台詞は)どう言うふうに言ってもいい。(柄本明さん)
本作で、柄本明さんがこのようにおっしゃるシーンがありますが、この言葉はただストーリーのある台本を無視して演じなさいと言う指示ではないと思いました。
その人が歩んできた人生であったり、その人なりの配役に対する捉え方を、発する言葉や身振りに込めなさいと言うご指導だと推察しております。
「演じる上で、何を大切にしたいのか」と言う価値観こそが、その人の身振りや言葉をお芝居たらしめるのだと感じました。そして、人がありのままに自分を曝け出すことが、その人独自の表現に繋がるのだと勇気づけられました。
是非ご覧下さい。
星野源さん、冠番組『星野源のオールナイトニッポン』内にて、本作品をおすすめいただき、誠にありがとうございます。
この先の人生を、この作品を通していただいた学びとともに生きていきたいと強く感じました。
自分の持てる限りの力と価値観を通して、ありのままに自分を表現することで。
好きなものに対して大好きと伝えたい。 見聞きしたものを形にしたい。そう考えて活動しています。 皆様からいただいたサポートは、これからの創作活動に活かしていきます。