【ショートショート】星5つ
私は未来を予測するアプリ「トゥモローメイト」を開いた。このアプリは、最新のAIが膨大なデータを駆使して、個人の未来を的確に予測してくれると評判だ。初めて使う私は、軽い気持ちで自分の未来を見てみることにした。
「あなたの未来は…」
アプリの画面には淡々と文字が浮かび上がった。
「2024年11月10日。あなたは友人とカフェで笑顔で話しています」
予想外に具体的な予測に少し驚きつつも、安心した。特に危険もないし、まあまあ幸せそうだ。しかし、ページをスクロールすると更なる予測が続いていることに気付いた。
「2024年11月17日。あなたは重要な契約を成功させます」
嬉しくなって思わずガッツポーズ。これもまた好調な未来だ。私はつい欲が出て、もっと未来の予測を知りたくなった。スクロールしていくと、ある日付が目に止まった。
「2025年3月1日。あなたの家に侵入者が入りますが、無事に逃げ延びます」
急に予測が不穏になり、不安が胸をよぎる。なんでこんなことまでわかるのだろうか。しかし、私はそれでももっと未来を知りたい欲望を抑えられなかった。
さらにページを進めると、恐ろしい未来の出来事が次々と予測されていった。
「2026年8月30日。あなたは重病を発症します」
「2027年12月12日。あなたは失職します」
「2028年7月17日。あなたは孤独に泣き崩れます」
どれも見たくない予測ばかりだった。だが、それでも私は最後の日付までスクロールを止められなかった。そして、ついに「トゥモローメイト」の最終予測にたどり着いた。
「2030年5月4日。あなたはアプリの予測を信用しすぎ、運命に抗おうとした結果、不慮の事故で命を落とします」
私は震えながらスマホを置いた。自分の死が、ただアプリを見てしまったせいで引き起こされるなど、到底信じられなかった。だが、ここまで来てしまった以上、もう未来を無視することもできない。
私はその日から、全ての行動をアプリの予測に基づいて慎重に計画するようになった。予測された出来事を回避しようと努力したが、皮肉にもそれが原因で未来が少しずつ変わり、より不幸な結果を呼び込むことになった。
そして、ついに迎えた2030年5月4日。アプリの予言通り、私は不慮の事故に見舞われた。その最後の瞬間、ふとスマホの画面が光り、アプリが表示された。
「ご利用ありがとうございました。またのご利用をお待ちしております」
冷ややかなメッセージと共に、画面の下に「この予測に満足ですか?星5つで評価してください」という表示が出た。死の間際に見せられる評価依頼に私はゾッとし、指先が震えた。
だが、私の息が止まったその瞬間、スマホは一人でに星を5つタップしていた。どうやらアプリは、未来すらもユーザーの選択を超えて支配していたのだ。未来の「正しさ」に縛られた我々の運命は、ただただ完璧な評価を繰り返し、永遠にその満足度を上げ続けるのだろう。
そして、その星5つが消えることはもう二度とない。
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