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【ショートショート】彼女の爪

彼女はいつも完璧なネイルをしていた。ピカピカに光るジェルネイル、季節ごとに変わるデザイン、その丁寧さにいつも感心していた。

「どうしてそんなに上手にできるの?」
僕が何気なくそう聞いた時、彼女は笑いながら言った。
「爪はね、大事なのよ。他人に見られる場所だし、自分の一部だから」

その日も彼女はリビングのテーブルで、ネイルセットを広げていた。細かい筆やヤスリ、カラフルなジェルが並んでいる。僕はコーヒーを片手に彼女を眺めていたが、ふと妙なことに気づいた。
彼女の指先にヤスリが当たるたび、ほんのわずかに血が滲んでいたのだ。

「大丈夫?血が出てるみたいだけど」
僕が声をかけると、彼女は一瞬動きを止めた。けれどすぐに笑顔を作り、平然と答えた。
「大丈夫よ、ちょっと深く削っちゃっただけ」

次の日、テーブルの上に小さな箱が置かれていた。開けると、そこには人間の爪がぎっしり詰まっていた。爪の形や色が微妙に違い、一枚一枚が新しいもののように見える。息が詰まりそうになった。

「それ、どうしたの?」
後ろに立っていた彼女が不気味な笑みを浮かべた。
「私のコレクションよ。他人の爪、綺麗でしょ?」

彼女の指先を見ると、そこには爪が一本もなかった。ただ赤くただれた肉だけが見える。彼女はその手で自分のネイルを丁寧に塗っていく。

「自分のじゃ足りないの。だからね、あなたのも欲しいな」

気づいた時には、僕の指先が鋭利なニッパーで掴まれていた。

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