聞き手の技能を整理する

1on1の会話は、だいたいの場合二つのパートに分かれて行われる。聞き手と話し手。もちろんこの役割は会話中にしょっちゅう入れ替わり、それはおそらく話し手のリソース不足によるものだ。話し手は無限に話題を提供することはできず、そのため互いが話をすこしづつ「ずらす」ことによって会話は継続していく。前の話に関連しつつ、でも新しい要素が加わった話題を聞き手が提供し、今度はそれに関連しつつ新しい要素を加えた話題を話し手が…

ではこのような会話を実現するにはどうすればいいのか。どのような技能が聞き手にあればいいのだろうか。繰り返しになるが、聞き手と話し手は入れ替わるもの。あくまで会話を全体としてみた時に聞き手になる人が、どのような技能を備えているべきなのかということについて考えている。

一番大事なのは、話を広げる技術だろう。上の表現でいえば話を「ずらす」こと。一口に「ずらす」といってもやり方は様々だ。

例えば話し手が何かエピソードトークをしたとする。聞き手は会話を長引かせるために(会話を続けることが会話の目的である)、何らかのアクションを起こす必要がある。

まず思いつくのは質問だ。「どうしてザリガニを食べようと思ったの?」「何匹くらいたべたの?」話のディテールとか理由、将来について質問すれば質問した部分だけ話がずれて、会話が続くことになる。ただこの方法には欠点があって、ずれ幅が小さいから話すことがないのだ。「どうしてザリガニを食べようと思ったの?」という質問はエピソードという土台に、ザリガニを食べた理由という一パーツ分加えるだけだ。尋ねられた話し手がその理由を簡単に答えちゃうと、その時点で会話が終わってしまう。「いや、まあエビみたいなもんかなと思って」「草」、会話終了。

気の利く話し手ならもう少し話を広げてくれるかもしれない。「ほら聞いたことない?ザリガニ意外と美味いって話。俺もどこで聞いたかわかんないんだけどさ。多分Twitterで見たんだと思うんだけど、マジ騙されたわ。」ここまで広げてもらえると会話しやすい。上の例には「どこかでザリガニが美味いと聞いた」「Twitter」「騙された」みたいに話を広げるとっかかりがいくつか配置されている。あとは気づいたとっかかりから話をずらしてあげれば、会話は転がっていくだろう。

ではあまり話を広げてくれなさそうな相手に対してはどうすればいいのか?たとえば初対面の相手、あまりノリの良くない相手と話を盛り上げたいときだ。こういうときは話し手に回るしかない。つまり相手のエピソードに関連した話を提供して、無理やり会話を広げていく。

「言われて思い出したけど、俺もザリガニ食ったことあったわ。IKEAで食ったわ。なんか北欧料理だかなんかでIKEAザリガニ出してて、それ食ったんだわ。でも俺のときはそんんな臭みとかは感じなかったけどな。ただ食いにくかったのはホントそう。小さいくせに食える部分も少ないからマジでめんどいよな」

会話を続けるだけなら、この二つのやり方を使えば十分だろう。しかし会話を盛り上げるとなるとこれはまた別の技術が必要だろう。会話が下手で質問攻めになってたり、すぐ自分の話をしだす人は会話下手といわれるが、それは会話を続けられても盛り上げられない人ということだ。