【東方Vocal曲紹介 Track.11】地霊「幻想郷縁起 封ジラレシ妖怪達之頁」
畏れを抱け、しかし歩みを留めるな。
進めよ、我らが明日の為に――
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基本情報
曲名
地霊「幻想郷縁起 封ジラレシ妖怪達之頁」
(ちれい げんそうきょうえんぎ ふうじられしようかいたちのぺーじ)
サークル
凋叶棕
(てぃあおいえつぉん)
収録アルバム ※初出のみ記載
奉(2014年)
(ささげ)
原曲
暗闇の風穴
出典:『地霊殿』1面道中テーマ
関連キャラ︰キスメ
評価
オススメ度
★★★★☆(並←→極)
サビ末の「我らが明日の為に」だけでご飯1杯食べれる。
ただ歌詞がマニアックなので、知らない人に聞かせたら首を傾げられること必至。
前提知識
★★★☆☆(少←→多)
書籍『求聞史紀』を読んで『地霊殿』をプレイしよう!
原曲度
★★★★☆(弱←→強)
明らかに1面道中曲なんだけど、すでにクライマックス。
雰囲気
★★☆☆☆(軽←→重)
書いてることはまあまあ怖いけど、実態は本読んでるだけだしね。
解説
第2ステージの始まりです!
リアルで忙しくなってきたこともあって、今までのように週1ペースといかないですが、また10曲くらいを目標にのんびり更新していきたいですね。
選定理由
そういやTrack.8は『地霊殿』からピックアップしたけど、地底には行ってなくね?
ということで、今回は地底成分マシマシで行きます!(でも状況的にこの曲も人里なのはご愛嬌)
そして最初の10曲では無駄に出し惜しみしていた凋叶棕さん×めらみぽっぷさんの曲を解禁!
こっからちょくちょく出てくるけどスマンな(満面の笑み)
ちなみにこの曲が入ったアルバムは、凋叶棕さんの中で2番目に好きなので、今後も(続けば)紹介される曲がいくつかあると思います。
ちなみに曲名がすんごい(一般人バイバイな)インパクトありますが、同じアルバムに収録されている曲のタイトルはおおよそ同じ構成となっています。
『紅魔郷』から『輝針城』までの各整数作品をモチーフに1曲ずつ収録されていて、この曲はもちろん『地霊殿』に対応。
(似たようなコンセプトで『掲』というアルバムがあり、こちらはスペルカードがテーマですが、整数作品ごとに1曲というルールは同じです)
Track.3で激オシした『騙』に負けない名曲揃いとなっており、東方ファンなら誰でも楽しめる至高の一枚となっています。
一方で、東方知らない人は置いてけぼりになりかねないので要注意。
原曲について
ZUNさんはプレイヤーが(タイトル曲除き)初めに耳にする1面道中曲を結構気合い入れて作っているようで、ステージ構成の都合で短いながらもキャッチーなものが多いです。
今回の原曲である『暗闇の風穴』もその中の一つ。
1面から早速地底(※)へ向かう洞穴へと潜入した主人公ズを、不穏な空気と冒険のワクワク感を混ぜ合わせたようなメロディが出迎えてくれます。
そんな中、1面中ボスとして登場するつるべ落としのキスメさんは、残念ながら台詞なし。
曲名から考えても、キャラではなくステージに対するテーマと考えたほうがよさそうです。
(キャラ設定のインパクトはあるからセーフ)
イントロ→サビ→Aメロ→サビの構成で、最後のサビは2段階なのですが、その2段階目が1面道中とは思えない盛り上がりなので、ぜひとも聴いていただきたいところ。
最初のサビあたりは敵を倒したときの破裂音で音ハメするのが気持ちいいんで、プレイしながら聴くのもまた一興です。
※【Topics!】地底と旧都と旧地獄――
幻想郷の地下に広がる空間は「地底」と呼ばれており、地上と繋がる縦穴が大小いくつかあるほかを除いて、地理的にはほぼ断絶されています。
(しかも、結構深いところにあるらしい)
この断絶については住人たちの往来にも適用され、お互い不干渉がルールとなっているようです。
もちろん地底に住む人間はおらず、旧地獄関係のメンツを中心とした鬼などの妖怪たちが跋扈しています。
この地底の一部は、かつて地獄として利用されていました。
灼熱地獄とか血の池地獄とかのアレです。
機能としての「地獄」は別の場所へ移転していますが、設備は地底に残っており、現在もアクティブな状態のものもあるため、地霊殿の住人たちがその管理に勤しんでいます。
そんな地霊殿は旧都と呼ばれる街の中心にあります。
旧都は地獄が近くにある影響で温泉街となっており、地底とは思えぬほど明るい雰囲気です。
とはいえ、そこにいる妖怪たちは地上から追放されたり身を隠したりなどの諸事情を持つたちが多いので、やはり人間が観光目的で近づくような場所ではありません。
ちなみに、地底でも冬には雪が降ります。
理屈はよくわかりませんが、まぁ冬だから。
感想︰曲調とボーカル
めらみぽっぷさんの紹介はTrack.2で済んでいるので、そちらを参考にしていただきつつ。
今回はTrack.3で取り上げた凋叶棕さんとのコラボです。
まぁ、同記事で触れているように、めらみぽっぷさんの東方Vocal曲の大半は凋叶棕さんで、逆もまた然りなんですが……
そんな感じのてぃあめら曲で初めにこれを持ってくるのはちょい攻めすぎか? と今さらながら思い始めているものの、まぁ好き勝手やるためのアカウントなんでいつもどおり雑にいきませう。
なんと言ってもBメロが特徴的。
聞かせるAメロで引き込んだ直後に、ラップのような速さで怒涛の情報量を脳内に直接注入してきます。
最初聴いたときは耳の準備ができておらず、何言ってるかわかんなかった衝撃で、Cメロという緩衝地帯があるにもかかわらず、そのあとの神サビが頭に入ってこないというトラウマがありありと蘇る。
さてはオメーさとり様だな?(誰に言ってんだ)
そのサビは、原曲で音が低く落ちるところを高く蹴り上げたような、爽快感溢れるアレンジになっています。
歌詞込みの評価もあるため、詳しくはそちらで話すとしまして。
しかしそんな1番サビ後の間奏には、一転してコミカルなメロディが10秒ほど挟まって、軽やかな音運びに思わず体がノッてきます。
テーテッテッテン↓ テン↑
元ネタの作中作でも固い筆致にいとをかしな表現(大体罵倒)がちょいちょい紛れているので、もしかするとそのあたりをイメージしているのかもしれません。
……いや、さすがにないか。
凝った検証はまったくしてないので適当なこと言ってるかもしれないですが(今さら要るかこの注釈?)、この曲は凋叶棕さんの中でも原曲比率が高いと感じています。
というかそれだけ原曲のポテンシャルが高いんだなーと、何度も聴いてる内に気づかせてくれる曲でもありました。
正直なところ、キャラとの関連が付けにくい(キスメに紐付けるにしてもバックボーンが薄く歌にしづらい)こともあって、ボーカルアレンジされた数はあまり多くない原曲です。
といっても手持ちをざっと確認したところ20曲くらいはあったんで、だいぶ恵まれてるほうですが……
ともあれ、凋叶棕さんの作風との噛み合わせがよかったというか、噛み合わせをよくするためのアレンジ方針の発想がすごいというか……少なくとも、個人的にはこの原曲において最高のボーカルアレンジだと思っています。
感想︰歌詞
東方Vocal全体を見渡した中でもかなり特殊な歌詞で、きちんと理解するには書籍『求聞史紀』に関する概要レベルの知識が必要になります。
『求聞史紀』は、幻想郷の人里で刊行されている『幻想郷縁起(※)』という作中作をそのまま収録した体で、ZUNさんが描き下ろした作品となっています。
その『幻想郷縁起』ですが、幻想郷に住む妖怪たちを人里に暮らす人々に解説する内容となっていて、もし遭遇してしまったときの対処法などが記載されています。
ただし、『求聞史紀』は2006年に発行されたものなので、2008年発売の『地霊殿』以降の作品については当然ながら含まれていません。
この曲では、リスナーが『求聞史紀』を読んでいることを前提に、「『地霊殿』キャラが『幻想郷縁起』に登場していたとしたら、という妄想想像」が歌詞に起こされています。
しかしややこしいことに、この曲(を含むアルバム)がリリースされたのは2014年なんですが、『求聞史紀』の続編で2007年『風神録』~2011年『神霊廟』のキャラを収録した『求聞口授』が2012年に発売されています。
つまり凋叶棕さんは、『求聞口授』で『地霊殿』キャラが紹介されていることを知った上でこの曲を作っていることになります。あれれー?
ちなみに無関係な余談なんですが、『求聞口授』には構成上(『幻想郷縁起』としての)解説が省略されてしまっているかわいそうなキャラたちがいて、『地霊殿』キャラにおけるそれが1面中ボスのキスメさんです。
この曲ではキスメさんも登場する、そして原作でも原曲が流れる中でキスメさんが登場する……ふむふむ?
キャラについて語られているのは、先にも触れた高速詠唱パートのBメロです。
直接名前は出てこないのですが、原作での登場順に書いてくれているので、既プレイの方にはわかりやすいと思います。
『幻想郷縁起』に倣って、キャラを示す部分とその対処法のペアになった歌詞が、キャラ数分続きます。
以下、各キャラを暗示する歌詞を紹介。
【1番Bメロ】
・上より来る釣瓶落とし:キスメ(1面中ボス)
⇒ キスメの種族は「釣瓶落とし」
・病は土蜘蛛の業:黒谷ヤマメ(1面ボス)
⇒ ヤマメの種族は「土蜘蛛」
・橋姫に惑うならば:水橋パルスィ(2面ボス)
⇒ パルスィの種族は「橋姫」 ※怪談で有名な「宇治の橋姫」がモデル
・怪力乱神語らずに:星熊勇儀(3面ボス)
⇒ 二つ名から。またスペルカードにも『鬼符「怪力乱神」』がある
【2番Bメロ】
・隠し立ての出来ぬものには:古明地さとり(4面ボス)
⇒ サトリ妖怪の能力で心を読まれる
・火車に付き纏われたら:火焔猫燐(5面ボス)
⇒ お燐の種族は「火車」
・謎多き地獄鴉:霊烏路空(6面ボス)
⇒ お空の(本来の)種族は「地獄鴉」
・似て非なるサトリの影:古明地こいし(Exボス)
⇒ サトリ妖怪だけど自ら能力を封印してしまった
(Ex中ボスの早苗さんは地底の住人ではないので除外)
ちなみにAメロでは「地底には妖怪が住んでるんだべ」という序章となっており、Cメロとサビは「怖いけど人間もがんばって生きてこーぜ」といった内容になってます。
(後者は特に重要で、幻想郷というシステムの根幹に関わるものになります。詳しくは【Topics!】で)
弱い存在である人間が、妖怪たちが跋扈する幻想郷で生き延びていくための示唆です。
ゆえに、サビの最後では「我らが明日の為に」締めくくられています。
つまり、読者だけでなく、人間という種族全体に対する呼びかけになっているということですね。
上記のフレーズは、めらみぽっぷさんの力強い歌声も合わさって、この曲において非常に印象的なものとなっています。
が、特に『求聞史紀』『求聞口授』で使われているというわけではありません。
(図鑑がメインということもあって、結構淡々としてます。少なくともレジスタンスのリーダーみたいな感じではない)
それでいて『幻想郷縁起』を歌う曲としてしっくりと馴染んでいるのは、凋叶棕さんの原作解像度の高さと、それをもとに程よく幻想を膨らませる表現の妙、これらに裏打ちされた必然であり、彼らのアレンジ力の素晴らしさを雄弁に物語っていると言えるでしょう。
その才能、この界隈で浪費しててもええんやろか……
※【Topics!】幻想郷に暮らす人間なら必読の一冊? その名も幻想郷縁起――
東方の世界観にあまり詳しくない方がこの先を読み進めると、曲の印象がちょっと変わる可能性があるので注意。
『幻想郷縁起』は、人里にある稗田家で執筆されています。
代々受け継がれ、千年以上の長きに渡り情報更新されてきたわけですが、何を隠そう筆者は「実質」一人なんです。
最新の『幻想郷縁起』を著しているのは稗田阿求(ひえだのあきゅう)――歴史上の人物である稗田阿礼(ひえだのあれ)の「9回目の生まれ変わり」です。
阿礼の「礼」を「0」に見立てて、阿求の「求」はそのまま「9」を示しているわけですね。
(各代の名前は『求聞史紀』末尾で確認できます)
そんな彼女たち「御阿礼の子」は、「だいたい百年ごとに稗田家に転生する」「一度見たものを忘れない」といった特性を得る代わりに、体が弱く短命(30年くらい)で転生の度に記憶を失うという制約を持っています。
……なんかめちゃくちゃ二次創作が捗りそうな設定ですねー?
話を『幻想郷縁起』に戻しまして。
その目的を平易に表すと「人間に妖怪対策を教えること」です。
妖怪は人間の恐怖心から生まれたもので、基本的に不老不死であり、普通の人間が策なく立ち向かっても返り討ちに遭うだけでしょう。
しかし一口に妖怪と言ってもいろいろありまして、逆に人間怖いわーみたいな者や、話もできるくらい友好的な者もいます。
『幻想郷縁起』では、そうしたバリエーションに富んだ幻想郷の妖怪たちについて、人里で暮らす人間たちに「こいつはヤバいから即逃げろ」「粗相しなければやり過ごせる」といった情報を提供しているのです。
まぁ、書いている本人が知る範囲でしか書けないので、憶測や私見が混じっていたり、彼女の少々黒い厳しい性格が垣間見える表現もあったりします。
さて、ここからが本題です。
上記の目的ももちろん間違ってはいないのですが、表向きのものでしかありません。
人間の立場から人妖の生存バランスを図る――それこそが『幻想郷縁起』の真の役割であり、阿求たち御阿礼の子が転生し続ける理由です。
妖怪は、人間の心の弱さが生み出した存在。
ということは、人間が彼らを恐れなくなり、やがてその存在を忘れていってしまうと、妖怪は自身を維持することができなくなります。
よって、御阿礼の子は『幻想郷縁起』を通じて、人間が妖怪たちに「適度な」恐れを抱くように仕向けているのです。
幻想郷は妖怪のために妖怪が創った地です。
ただ、妖怪だけでは「恐れ」の仕組みが成り立たないため、幻想郷には人間が暮らす場所、つまり人里が意図的に設けられています。
どことなくディストピア感も漂ってきますが、その一方で、妖怪は古来より「退治」される運命も背負っています。
(みなさまご存じ『桃太郎』に代表される鬼退治が典型例です)
『求聞史紀』において「独白」の章にあるとおり、昔は命懸けだったその応酬も、原作で描写される現代の幻想郷ではある種のプロレス化が進んできています。
とはいえ、妖怪は人間を脅かし、人間は妖怪を退治する――そんな幻想郷独自の生態系を守る影の功労者として、御阿礼の子と『幻想郷縁起』は、これからも幻想郷にとってなくてはならない要石であり続けることでしょう。
幻想歌謡図鑑
本を歌にしてる体の曲なので、こちらでもリスペクトしていきます。
[同匠別作 ~同好の士の集ひ唄~]
御阿礼幻想艶戯譚 -綴-(原曲︰月見草 & ジャパニーズサーガ)
こちらもめらみぽっぷさんがボーカルで、御阿礼の子の歴史と、記憶に残らずもその魂に刻まれた恋心を追想する一曲。
危険度 中
人間友好度 極高
おそらく一代目、八代目、そして現在の九代目のお話。
ガチ古語が勉強できる(たぶん)唯一の東方Vocal曲。
[異種同源 ~新たな疆域を拓く道標~]
仄暗い世界へ(サークル:SOUND HOLIC)
もっと落ち着いた感じ & 原曲寄りで楽しみたい方向けの一曲。
危険度 低
人間友好度 普通
こちらは全体的に静かな方向のアレンジとなっており、寝る前か朝方あたりに聴くのがオススメ。
最初の声が何語で歌ってるのかわからんので教えてほしいだけです。
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