【東方Vocal曲紹介 Track.1】Bad Apple!! feat. nomico

白と黒の虚空をグルグル廻る、「ろくでなし」の創世記――



基本情報

曲名

Bad Apple!! feat. nomico

※動画はショートバージョンです。

サークル

Alstroemeria Records

収録アルバム ※初出のみ記載

Lovelight(2007年)

原曲

  • Bad Apple!!

出典:『幻想郷』2面道中テーマ
関連キャラ︰なし(※)
※一応、コウモリに似た羽の生えた、黒い手鏡のような中ボスはいる。

カラオケ

DAM / JoySound

評価

オススメ度

★★★★☆(並←→極)
良し悪し判断の前にとりあえず知っておいて欲しい1曲。
ただ、冒頭に貼った有名な有志PVを併せて見るのがオススメ。

前提知識

★★★☆☆(少←→多)
キャラ依存なく素直に聞ける。
上記PVを見るなら二次創作周りの知識があるともっと楽しめる!

原曲度

★★★☆☆(弱←→強)
サビ以外はそれなりに忠実。

雰囲気

★★★★☆(軽←→重)
漂うニヒリズムのうちに滲んだ狂気。
裏腹にトランステクノなアレンジでテンポは軽妙。

解説

たぶんこの曲が一番解説長くなる……

選定理由

好きだから……というのはもちろんなのですが、最初の1曲としたのは明確な理由があります。
東方Vocal全体として代表される1曲を決めるとすれば、まず間違いなくこの曲が選ばれるからです。
界隈の数少ない必修科目です。
正直なところ、あまりに有名すぎて、そもそも自分が記事を書く必要があるのか悩んだレベル。
まぁでも好きだから……

原曲について

原曲は旧作(※)出身。
3面道中という比較的地味な場面で流れていて、さらにはキャラらしいキャラも登場しないということもあり、知名度はほぼなかったはず……そう、この曲が登場するまでは。
旧作曲をまとめたCD『幺樂団の歴史』シリーズにも収録されています。
どうしてもゲームをプレイしながら聴きたい!という人でなければ、こちらを入手するのが手っ取り早いです。
(わざわざ買わなくてもネットにいくらでも転がってる? 知らんなぁ)


※【Topics!】旧作について――
PC-98という、詳しくない人向けにクッソ雑に説明すると「Windowsより古い遺物パソコン」で動作する5作品を指します。
旧作自体の流通量が少ない上に、実行環境を整えるのも手間がかかるので、まずプレイに到達するまでの難易度が高いです。
ちなみに、仮にプレイできる状態になっても、ゲーム自体の難易度もそれなりに高いので、時間をかける覚悟が必要です。
(私めはもちろん未クリアでございます)


界隈トップ曲に昇りつめるまでの粗筋

さて、Wikipediaにすら記事があるくらいなので詳細な説明は省きますが、有名になるまでの道筋を簡単に説明しておきます。

あるとき、ニコニコ動画で、この曲のPV……の構成(キャラの配置やシーンの切り替わりなど)を、PowerPointにマウスで手書きしたかのようなレベルで指示する「字コンテ」なるものが投稿されました。

字コンテ自体のクオリティはともかく、PVとしての出来は評価されていて、この字コンテをベースとしたPV動画を有志たちが投稿していきました。
ネットに転がっているイラストを繋げただけ、といったものも多かった(※)中で、2009年に突如として超新星が出現します。
※誤解されないよう補足しますが、このPVのために何枚もの新規イラストを書き下ろしてくれる方々もいました。その熱意に敬意を抱くと同時に、字コンテの罪深さが身に沁みる……

※本記事の冒頭でリンクしたサークル公式動画と同内容です。
 ニコニコ動画のこの動画に感銘を受けたサークル側が、
 動画作成者の方にコンタクトを取っています。

この通称「影絵PV」を見ればわかるとおり、それまで投稿されていたPV動画と比べて圧倒的なクオリティでした。
(ニコニコ動画では、投稿から2024年現在に至るまでの15年近く、東方カテゴリのランキングで100位以内に入り続けています。カテゴリ自体が過疎ってきているのも実情ではありますが、それを踏まえてもまぁ普通にバケモンですわ)
これが瞬く間に人気を博し、ニコニコ動画全体の累計再生数トップに輝くと、各種音ゲーに収録されたりテレビで紹介されたりあの小室哲哉さんがリミックス作ってくれたり……などなど、同人業界を飛び出すほどの影響力を発揮しており、今なお界隈で存在感を放ち続けています。

バージョン違い

字コンテならびに影絵PVで使用されているのは、3分半ほどのショートバージョンです。
元の曲は5分ちょっとあります。
ショートバージョンでもまぁいいんですが、重要なところ……ぶっちゃけると「この曲のタイトル部分」が抜け落ちてしまっているので、良い子のみなさまにおかれましてはちゃんとロングバージョン聴くんじゃぞ。

Alstroemeria Recordsさん自身もリミックスされていますが、他のサークルがこの曲をカバーしたりもしてます。
極めつけには、この曲自身の(!)10周年記念で、いわゆる『Get Wild』オンリーアルバムみたいなものがリリースされています。
しかも3作……
(1作10曲くらい。しかもPhase 3は2枚組なので、合計40曲くらいの『Bad Apple!! feat. nomico』で鼓膜が埋め尽くされる狂気……)

感想︰歌詞

ようやく個人的な感情を吐き出すところまで来れた。
いろいろと説明省きまくってこれかぁ……

まずは歌詞。
1, 2番の歌詞がほぼ同一という珍しい構成です。
(すべてを黒にしたあとのパートのみ変化あり)
自分はいつも影絵PVを脳内再生しながら聞いているので問題ないですが、事前知識なしで聴くとかなり違和感を覚えそう……
というのもあって、オススメ度は★4にしてます。

タイトルにある「bad apple」というイディオムですが、一般的には「問題児」などと翻訳されてるようです。
この曲の歌詞でもとある表現で登場しますが、ここが必聴部分。
ちなみに歌詞全体を見ても、「問題児」と呼ばれて然るべき厭世感が漂っています。
一方、サビでは「変わる」――特に終盤では「壊す」といった比較的強い言葉が目立ちます。
情緒不安定かな?
個人的には、どうしてもフラン(※)をイメージしてしまうのですが、制作サイド的にどうなのかは気になるところ。


※【Topics!】「フラン」ことフランドール・スカーレットについて――
『紅魔郷』ExStageボスの吸血鬼で、大体500歳くらいの幼女です。
(『紅魔郷』時点で495歳ですが、Win版以降の東方Projectは初めサザエさん時空ではなく年表も作られていたので、現在の年齢の扱いは不明)
すべてのモノが持っているという「目(≒致命的な弱点)」を手のひらに移し、それを「きゅっと」することで「ドカーン」できるという『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』を持っています。
書籍『文花帖』で実際に隕石も壊しているので、彼女がやる気を出せば隕石落下系映画は未然に阻止され実現しません。これで地球さんも安心して暮らせるね!
……あれ? もしかして地球も壊せちゃったりするんです?
情緒不安定という理由で、姉のレミリアに居城の地下へ幽閉されている……という設定だったのですが、まぁ能力的に閉じ込めることは不可能なので、実態としては自ら引きこもっているというのが正しいです(漫画『智霊奇伝』)。
そんなだからお姉様に一瞬忘れられてたんだよ


変わる=私→白、すべて→黒の対比がされていて、矛盾とも強欲とも思えるそのコントラストを終盤に向けてさらに強調しようとする意識(エゴ)が、おそらく「Bad Apple」なのかなと思います。
そして最後にはすべてを壊しにかかる、と。
しかしそう思うと、1, 2番の歌詞の繰り返しも、「変わらない」ことで「変わる」印象を強めるための技巧?と深読みするわけですが、このへんまでくると語るも無駄ってやつですかね。

感想︰曲調とボーカル

あんま音楽詳しくなくて「解説」しようとすると逆にモザイクかかるレベルで解像度下がるんで、「ここがいい!」くらいに留めます。

その前にまず伝えておくべきことととして、Alstroemeria Recordsさんの制作する楽曲の特徴は、トランスやテクノといったジャンルに分類されるアレンジであり、もちろんこの曲も例に漏れずです。
東方Vocal界隈ではポップアレンジが多いので、個々の楽曲だけでなくサークル単位でも印象に残りやすいと思います。

イントロからいろいろ仕掛けてきていて、まずビートで惹きつけ、視界が開けたような展開を見せたかと思うと、一転してダークでSFチックな表情に切り替わります。
この切り替わり部分、得体の知れない存在のシルエットが瞳を赤く光らせているようでまたカッコいいんだ。

歌パートのメロディラインはおおよそ2段階で結構シンプル。
前述の歌詞重複も相まって、飽きられやすい要素が重なっているようにも思えますが、それでもこれだけ長く愛されているのは、そのシンプルさが洗練されているために、よい方向へと作用しているということでしょうか。
ちなみにAメロ部分が原曲感強く、サビは逆にオリジナリティ全開です。
変わって壊しにいってるのかな?
これからサビに入るという部分もカッコよくて好き。
もうカッコいいとこしかないな?

ちなみに間奏と後奏がほぼなく、一度歌い始めたら最後まで止まらないので、歌っているnomicoさんの負担が心配されるところ。
そんなnomicoさんはサークルが誇るメインボーカルの一人。
声質については聴いてもらったほうが早いかと。
シンセサイザーの回廊を玲凛な歌声が吹き抜ける、その感覚が心地よく、プラス決めるべきところはちゃんと決めてくれます。
(この曲では声にエフェクトがかかる箇所があります)
でもまさか、声入れてから数年後にこんな形でバズることになるとは、ご本人もまったく思ってなかっただろうな……

気に入ったらこんな曲もどーですよ?

偶には同じ原曲で回すのも良いわよね(←のんき)

  • 小悪魔りんご(サークル:幽閉サテライト)

恋のかけひきをよく歌うsenyaさんの極致っぽい一曲。
なお、紅魔館の小悪魔さんとは無関係の模様。

  • Kill The Night(サークル:SOUND HOLIC)

原曲サビも存分に使ったSOUND HILICさんらしい一曲。
ハイテンポでラップ入りと、若干聴く人は選ぶかも。

※どちらの曲もDAM / JoySoundに収録されています。

ふむ、同じサークルの他の曲も蒐めてみたいところだな

  • Dreaming(原曲:少女綺想曲 ~ Dream Battle)

霊夢さんがちゃんと幻想郷の巫女してる一曲。
歌詞に隠れた腋巫女霊夢を探し出せ!

  • Maple Wize(原曲:メイプルワイズ)

鮮やかな紅葉に見る刹那的な情熱を歌い上げた一曲。
圧倒的なイントロの長さに震えろ。


次の曲 >> 


紹介曲一覧

いいなと思ったら応援しよう!