【東方Vocal曲紹介 Track.9】雪琥珀 -snow amber-
これまでも、これからも。
呆れるほどに不器用で、少し優しすぎる君/貴方の傍に――
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基本情報
曲名
雪琥珀 -snow amber-
(ゆきこはく すのうあんばー)
サークル
GET IN THE RING
(げっと いん ざ りんぐ)
※公式サイトのリンク先がなんか怪しいことになっているので、ここでの紹介はいったん差し控えます……
収録アルバム ※初出のみ記載
AVENGE(2011年)
原曲
春の湊に
出典:『星蓮船』1面道中テーマ
関連キャラ︰ナズーリン
小さな小さな賢将
出典︰『星蓮船』1面道中テーマ
関連キャラ︰ナズーリン
魔界地方都市エソテリア
出典︰『星蓮船』5面道中テーマ
関連キャラ︰ナズーリン
虎柄の毘沙門天
出典︰『星蓮船』5面ボステーマ
関連キャラ︰寅丸 星(とらまる しょう)
カラオケ
JoySound
評価
オススメ度
★★★★☆(並←→極)
『星蓮船』が誇る名物凸凹コンビによるデュオ。
一人じゃ歌えない不具合はありますが仕様ですのであしからず。
サビではまったく異なるメロディが同時進行するため、裏側の声は注意しないと聞こえづらいです。
前提知識
★★☆☆☆(少←→多)
ナズ星のプロフィールと関係性については、事前に基本だけでも抑えておくとグッド。
原曲度
★★★★☆(弱←→強)
基本は『春の湊に』、サビの裏メロは『虎柄の毘沙門天』になってます。
雰囲気
★★★☆☆(軽←→重)
お互いに対する理解の深さを感じられる歌詞がステキ。
必然性のあるデュオはやっぱ盛り上がるな!
解説
最近マジメな感じが続いてたので、そろそろはっちゃけたい。
選定理由
前曲の主人公であるこいしは、『心綺楼』後に星たちのいる命蓮寺の(一応)信者となっているので、『星蓮船』関連の曲にしてみました。
(原作『星蓮船』のバックストーリーでも、前作にあたる『地霊殿』との関わりがあります)
また、バリエーションとして原作キメラやデュオの曲もそのうち紹介しようと思っていたのですが、都合のいい欲張りセットがあってよかったぜ。
母数が大きいだけに様々なニーズに応えられるのも東方Vocalのいいところですね。ニーズに適合する曲がすぐに見つかるとは言っていない
原曲について
豪華に4曲使っていますが、メインで使われているのは『春の湊に』という曲です。
こちらは1面道中という、ストーリー上の必然性もなければ難易度も高くない場面で流れるため、印象薄くなりがちな境遇にはあるのですが、ストーリーモードのリードトラックとしてかなりの人気を誇っています。
穏やかな春の陽気を感じさせるその出だしを聴くだけで「あっ、コレめっちゃいい曲だ」と思わせ、その期待を裏切ることなくZUNペット全開のサビまで連れて行ってくれます。
1面は中ボスもナズーリンなので、ナズーリンと言えばこの曲!といった形で扱われることも多いです。
(インパクトが強すぎて1面ボス曲の『小さな小さな賢将』が掠れてしまっているということでもありますが……)
もう一つ、星のテーマ曲『虎柄の毘沙門天』にも触れておきます。
こちらの出だしは『春の湊に』とは対称的に激しい音使いとなっていて、別方向に大きなインパクトを鼓膜に残していきます。
タイトルにある毘沙門天の厳格な一面を見事に表現した曲となっています。
デーンデッデーン デーデッデデーンこの前ニコ動見てたらですね(天丼)
『魔界地方都市エソテリア』は、変拍子が特徴的な曲。
旧作『靈異伝』『怪綺談』の舞台となった魔界と関係があり、Track.5で触れたとおりストーリー的に直接の繋がりがあるわけではありませんが、東方の世界観を考察する上では欠かせない曲です。
この曲が流れている途中でナズーリンが中ボスとして再登場し、撃破して進んでいくと星が5面ボスとして自機勢の行く手を阻む流れとなっており、『星蓮船』で2人を繋いでいる(※)という意味でも重要な曲となっています。
※【Topics!】毘沙門天の遣い、寅丸星とナズーリン――
2人の関係を一言で例えるならトムとジェリー「上司と部下」です。
ただ、部下であるナズーリンは監査部から派遣されたお目付け役のような立場にあり、やや複雑な関係性となっています。
星は命蓮寺の生きた御本尊であり、毘沙門天の「弟子」という立ち位置にありますが、かつては人間を食糧としていた妖怪でした。
人妖別け隔てなく接することを信条とする尼僧の聖白蓮(ひじり びゃくれん)と出会って改心し、彼女の手配によって、信仰対象である毘沙門天「の代理」となるべく、交友のある妖怪の中でまともな見識を持っていた星が弟子入りすることになった、という背景があります。
ただ、半ば押し売りのような形になってしまったためか、優秀な働きぶりにもかかわらず毘沙門天本人からの完全な信頼は得られず、ナズーリンが監視のために派遣されたという次第です。
当時、まだ外の世界にいたころの星は、妖怪であることを隠しながら信仰の担い手として崇められてきました。
しかし、とある事情で白蓮が魔界に封印され、その仲間の妖怪たちも地底に閉じ込められてしまった(※)ことで、命蓮寺は荒廃の一途を辿ります。
そうして現代に至ったわけですが、『地霊殿』のイザコザ』に紛れて地底の妖怪たちが復活。
聖救出のため、命蓮寺を魔改造変形させた空飛ぶ船「聖輦船(せいれんせん)」に乗って魔界へと向かったものの、異変を察知した博麗の巫女たちが立ちはだかる――というのが星たち目線での原作『星蓮船』のストーリーとなります。
※星が地底にいたかどうかは『星蓮船』本編とキャラ設定の間でブレがあり、二次創作でも解釈が分かれていたものの、本記事執筆時点で連載中の『智霊綺伝』では地底にいたことが明記されており、どうやらこちらが正しい設定のようです。ただし、この曲では「地上に残った」説を採用しているような歌詞が見受けられます。
最終的に聖は復活、幻想郷に帰った聖輦船は、人里近くに着陸して元の命蓮寺に姿を戻しました。
(ナズーリンは当初別の場所に小屋を作って暮らしていましたが、最近は結局寺の中で暮らすようになったようです。やっぱり星がアレだから……?)
環境は新たになりましたが、以前と変わらず遍く人妖に救いの手を差し伸べるべく、今日も彼女たちは尽力しています。
そろそろオチに入りますが、肝心の星が大事なところでドジっ子化するのが玉に瑕。
『星蓮船』で初登場した際は、毘沙門天の象徴である宝塔を「うっかり」失くし、それを探し物が得意なナズーリン(なんとダウジングロッドがメイン装備)に見つけてもらっていたという、過去の実績を一瞬で台無しにする残念なシーンとなってしまいました。
ちなみにその宝塔ですが、見つけたナズーリンも星に返す前に軽い気持ちで試し打ちしており、どうやらそれ自身に強い力が宿っている様子。
あれ、じゃあ宝塔持ってないときの星って……?
(ちゃんと強いんで安心してください)
感想︰曲調とボーカル
やはりナズ星のデュオとして構成されているのが特徴的です。
ナズーリン役はみぃさんで、サークルのボーカル担当として数々のキメラ曲を歌い上げてきた実力者。
デュオとなる今回はお相手役がいるわけですが、Bメロとサビではメインに回っているため存在感はバッチリ。
そしてゲストの℃iel(しえる)さん(現在は「青砥雫」が主名義)を星役として迎えており、こちらも掛け合い、コーラス、サビ裏と様々な形でみぃさんをサポートしつつ、Aメロではソロを務めるなど全編通して活躍しています。
前述のとおり原曲は『春の湊に』をメインのアレンジベースに据えており、全体通して爽やかさな曲となっています。
裏で他のメロディも流すことで、物語のように音に厚みを持たせている構成も、GET IN THE RINGさんが得意とするものです(対位法という技法らしいですが、この場合もそう言っていいんかな)。
原曲とキャラ設定を把握していれば、おそらくインストゥルメンタルでも「ほう」と唸れるアレンジににっているのではないでしょうか。
ただ、今回はサビで異なるメロディにそれぞれボーカルを乗せているのが、独自性の高いポイント。
2人が同時に主張するとしっちゃかめっちゃかになるためか、星側は少し控えめに歌われていますが、サビの末尾でハモるのがまたたまらないんですよね。
そのときはナズーリン側に合わせる形になるのですが、少し頼りなさを見せる星をナズーリンがリードするという原作でも見られる光景が重なり、細かい部分かもしれせんが彼女たちにしかない絆が確かに感じられる箇所となっています。
また、1番サビとラスサビの後にも追加のメロディがあるのですが(シャララ……の部分)、前者はナズーリンのソロ、後者は2人のハモリとなっています。
こちらも2人の気持ちが一つになった様子が伺え、春らしいメロディと併せて心地よい後味を残してくれます。
余分な後奏なくスパッと終わるのもいいですね。
最後の最後でボーカル以外の音が消える、という演出も粋です。
ちなみにラスサビでは、上で挙げた(=サークル公式で発表している)原曲以外にも、命蓮寺メンバーのテーマ曲が使われているとかいないとか……
感想︰歌詞
不安を感じて心折れかけている星を、ナズーリンが励ますような歌詞となっています。
その不安の具体的な内容は歌詞中では示されていませんが、おそらく、白蓮と仲間たちを奪われてしまったときの光景がフラッシュバックしているようです。
そのころの星はすでに信仰の対象となってしまったため、信者を失うという意味でもトラウマ級の過去であることに疑いはないでしょう。
そして同時に、堂々と経っていなければならない立場の者が、そうした心の弱さに苛まれているという状況に対して、情けなさを感じています。
また、自身の頼りなさへの自覚から、傍で支えてくれているナズーリンに負担をかけてしまっているとも思っています。
このつらさを吐露できる相手は、もはや隣にいるナズーリンしか残っていない――けれど、だからこそ、彼女にこれ以上迷惑をかけたくもない。
それでも「もう一度だけ」と、星はナズーリンに縋ろうとします。
そんな星に、ナズーリンは「もう大丈夫」と声をかけます。
『星蓮船』の異変が終わって、仲間たちを取り戻すことができました。
その事実が示すのは、2人で歩んできた道のりが決して間違っていなかったということです。
もうトラウマに悩まされる必要はないはずなのに、星はその責任感から一人過去に縛られてしまっている――ゆえに、ナズーリンはこう呟きます。
「呆れるほどに君は不器用で、少し優しすぎる」
そして、星もまた、ナズーリンがそう言ってくれることをわかっていました。
最後に2人は、取り戻したものを二度と手放すことがないように、ずっと見守っていくことを誓うのでした。もうお前ら結婚しろ
……と、このように、彼女たちが長い時間をかけて築き上げてきた信頼関係を、お互いの目線から立体化するようなストーリーとなっています。
2人が違う思いを抱きつつも、時折心重なる瞬間があるという表現ができているのは、この曲がそのように立体的な構成となっているためです。
実際に歌詞を見ると、2人の思いは噛み合って展開されていますが、相手には聞こえないモノローグであるようにも感じます。
星がAメロ、ナズーリンが大サビでソロパートを受け持っていますが、これも直接会話しているわけではないことを示すものでしょう。
ちなみにそのナズソロ部分、「星」が輝ける場所はよく知っている、という旨の歌詞となっています。
星が信仰の対象として皆を導くに相応しい者であると、自分はそれを支えていくのだと、そんなナズーリンのツンデレ不器用な優しさが見えて……ああぁぁぁ、語彙力が成仏するぅぅぅ(合掌)
余談というか、タイトルの「雪琥珀」ですが、こちらは一般的な名称ではなく独自の造語のようです。
琥珀――コハク自体はみなさまご存じのとおり樹脂の化石ですので、雪と直接紐づく要素はないような……?
ただ、宝石として扱われることもあるため、「財宝が集まる程度の能力」を持つ星にちなんだものと思われます。
例えば「琥」には字は違えど虎の字が入っていて、トラの黄色を表す漢字です。
また、「珀」には宝石の意味があるため、星だけでなくトレジャーハンターの要素もあるナズーリンともリンクするほか、2人の出会いの架け橋となった白蓮を連想させます。
とはいえ、おそらく主体は雪のほうで、歌詞にある「千年前の雪」のとおり、コハクになるほど長い時間を地底に封印されていたことを示すものとおもわれます。
(コハクが出来るのには数千万年かかるぞ、みたいな野暮なツッコミはNG。でも宝塔があればγ線でどうにかできるから……)
そもそもなぜ雪なのか? についても諸説あると思いますが、地底に封じられた妖怪たちが解放されるきっかけとなった『地霊殿』においては3面で雪が降る演出がよく知られており(エフェクトだけでなくステージ名にも雪と明記あり)、またその数ヶ月後にあたる『星蓮船』の季節も春先でまだ薄っすらと雪が積もっています。
彼女たちが地上の光景を何百年かぶりに目の当たりにしたとき、これまで見上げてきた地盤を覆っている薄雪が、朝の陽光に照らされて――あるいは、琥珀のような輝きに映ったのかもしれません。
余談ついでに。
ラスサビ、ナズsideのとあるフレーズには、命蓮寺の仲間たちの名前が隠れています。
今は2人だけでなく、みんなもいる――星sideでのそんな歌詞に対応したものです。
これは、前項で触れた隠し原曲のヒントにもなっています。
必然性のある遊び心と言いますか、曲の構成というメタ要素も含めた伏線回収がここで行われていて、この曲の中で最も美しい、こんな適当に書いてる記事で紹介するのが申し訳なくなるくらいの7秒間です。
彼女たちがあのとき見た雪も、きっと同じくらい美しく煌いていたことでしょう。
大変ですナズーリン、紹介曲のカンペが見つかりません!
知 っ て た一応原作での2人はタメ口で話す仲だから二次創作者は気をつけるんだぞ
憶えているから大丈夫だ……まずはこちらから
Thank you for dears.(原曲︰感情の摩天楼 〜 Cosmic Mind)
2人の慕う聖白蓮の復活後の再出発を歌った一曲。
サビが英語歌詞となっていて、こちらはみぃさん以外の方も歌われているのですが、残念ながら詳細はわからず……
キメラ化していない真っ向勝負で、GET IN THE RINGさんが原曲をなるべく活用した音作りをされているのがよく伝わってくる曲となっています。
まったく、あのころのご主人様はもっと輝いていたぞ
Fragile Idol-Worship(サークル:凋叶棕)
Track.3と同じアルバムから、ヒトの愚かさを知り正義を無くしてしまった星ちゃんの葛藤と決意を描き出した一曲。
『虎柄の毘沙門天』を静かにアレンジした出だしが印象的です。
ラスサビ後の盛り上がりは圧巻の一言。
最後まで聴かないのは不義でなくて何であろうか。
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