お化け屋敷に_なぜ人は並ぶのか_cover

「お化け屋敷になぜ人は並ぶのか」を読んだ

ストーリー性を盛り込んだ現代的なお化け屋敷を手掛ける著者による、お化け屋敷制作の舞台裏を明かす本。

謎解き好きとしてはSCRAPの「かくれ鬼の家からの脱出」「ある都市伝説からの脱出」の演出の人として知っていた。
あと伊集院光のラジオでも何かで紹介されていた気がする。

トピックスとしては

・まず現代のお化け屋敷を概説し、
・次にお化け屋敷で恐怖が生まれるまでのメカニズムを解説し、
・人がお化け屋敷に金を払ってまで行く理由を解き明かし、
・最後に「お化け屋敷プロデューサー」としての経験談を綴る

という構成。

他のエンタメ産業と比較して

・評価基準がシンプル(怖いか怖くないかだけ)
・季節要因(夏)との付き合い方

といった部分は「お化け屋敷」独特な一方、エンタメ分野全体に通じるような内容も多かった。

例えば「客は恐怖対象から遠ざかろうとするが、それでは狙い通りの恐怖体験が与えられない」という問題に対して、お化け屋敷のストーリーを利用して赤ちゃん(人形)を渡し、「その赤ちゃんを守ったり、出口にいる"母親"に届けてもらう」という「任務」を遂行してもらうという解決法を導いた話。

ここでその解決法が実現できた背景として、

このアイデアは、演出と制作と運営の三つを見られるプロデューサーという立場があったから生まれてきたものであった。というのも、赤ん坊をお客様に持たせる、という演出方法は、お化け屋敷の建物や仕掛けを作る制作の仕事の 範疇 ではないからである。もちろん、運営する立場で考えられるものでもない。制作は建物を管轄し、運営はお客様を管轄する。お互いの明確な 棲み分けがある中では、このような演出方法が生まれてくることはないのだ。

と述べられている。

この「演出と制作と運営の三つを見られるプロデューサーという立場があったから」というのは、例えば自分が過去に経験したゲーム産業でも「開発」「企画」「運用」に通じているからこそ発案・実現できた問題解決という例はあったし、横断的な視野・責任があるからこそ最適な解決法が採れるというのは一般論と言えそう。

また、エンタメ論でしょっちゅう出てくる「緊張と緩和」による分析がこの本でも出てくるけど、「緊張と緩和を味わいたいだけなら廃病院にでも行けば良いのでは?」という疑問に対する答えとして

では、お化け屋敷と真夜中の廃病院の違いは何なのか。一つは、体験する緩和の「数」である。そしてもう一つは、緩和するまでの「時間」である。

と、「緊張/緩和」の数と時間でコンテンツとしての価値を生み出してるという論も面白かった。これも自然のエンタメと人工のエンタメの違いとして普遍的に言えそう。

とまあ全体を通して、お化け屋敷ビジネス特有の事情で知識欲を満たしつつ、ところどころ自分にも思い当たるフシあるな~!と共感できる本だった。


読んだ本「お化け屋敷になぜ人は並ぶのか 「恐怖」で集客するビジネスの企画発想 (角川oneテーマ21)」五味 弘文



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