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大怪獣のあとしまつはどうすればよかったのか?(ネタバレあり・特撮オタクの一考察。)

こんにちは、多趣味です。

この映画について書くのは2回目です。(現状これしか書いてないですけど……)興が乗ったので今回も書いていきます。

前回のnoteで駄目だしをしたので、まだ読んでないという方は先にあちらを読んでからこの記事を読まれると良いと思います。

https://note.com/golshiniumgokin/n/n81ba3d813261
では、本題。

今回は……

どうすれば『大怪獣のあとしまつ』は令和のデビルマン、世紀の駄作と言われずに済んだのか

これについて書きたいと思います。

まぁ、専門家でも何でもない人間の言うことなんで、言った事を全部やったとして傑作になると言う訳ではないです。ファン歴20年の特撮オタクがあーだこーだ言ってらぁぐらいの感じで見て下さい

①とにもかくにも売り込み方が悪い

まずはこれです。

前回も書きましたが本作はコメディ映画です。

「エエっ!?」と思った未視聴の方、或いはもう既に映画館で同じく「エエっ!?」思った方。僕も映画館で「エエっ!?」と思いました。

なんてたって予告編を見ても、公式サイトを覗いてもそんなことは一切書いてないんですから驚くのも当然です。

じゃあ、観客の皆さんは何を期待して見に行ったのか?というとやはり『シン・ゴジラ』のような「今の日本にゴジラのような怪獣が現れたらどうするか」という命題に正面から向き合った作品なんだと思います。

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映画に限った話ではないんですが、人間誰しもお金を払ったサービスには期待しています。ぶっちゃけ言っちゃうと身勝手な期待です。

ですが、身勝手でも期待をサービスが下回ったり、期待したのと違ったサービスが提示されたりすると大抵の人は文句の一つも言いたくなるモノです。

想像してみて下さい、例えばレストランでパスタを頼んで海鮮丼が出てきたら?或いは寿司を頼んでラーメンが出てきたら?

誰だって「ちょっと店員さん?オーダー間違ってないかい?」ぐらいは言うと思います。

ましてや、料理のように取り替えが効かない映画なら不満は大きいでしょう。

ですので、「これはコメディですよ」と判るような売り込み方をしないといけないんですね。

ただ、逆を言えば期待してたものと同じモノが出てきたと感じた方には面白かったという意見がちらほら見られました。

つまり、三木監督のコメディ映画を見にきた人ですね。

ならコメディとして見ればいいんじゃないか?と思われるかもしれません。

まぁ、確かにそれも正しい見方です。

しかし、売だし方以外にもこの映画は致命的なミスをしてるんですよ。

②命題にはキチンと向き合おう

本作の命題とはなんでしょうか?

ポスターにも、公式サイトにもデカデカと書かれてますね。

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そう「この(怪獣の)死体、どうする?」です。

「いやいや、命題じゃないんじゃないか?さっき自分でコメディ映画っていっただろ?」と言われるかもしれませんが

見に行った大抵の人はたぶんこの問題の解決を見にきてます。何せこの映画は怪獣映画で、「この死体どうする」って言ってるんですから。

そもそも『大怪獣のあとしまつ』というタイトルなんですから命題がそこにいくのはごくごく自然な話です。

そう思われたくなけばタイトルは『大怪獣のあとしまつ騒動』とかにして、売り込み文句は「こんなんじゃ片付くわけねぇじゃん!」とかに変えるべきです。

今のままの命題ならシナリオ上の作戦は現実味のあるものでないといけません。それが「大怪獣のあとしまつ」であり「この死体どうする?」という命題と向き合う事ですから

作中実施された三作戦うち、ダム爆破作戦が唯一現実味がありましたが他はお粗末なものでした。

最初に実施された冷凍作戦は主人公達に失敗する可能性が高いと言われながら失敗しているのでまぁ、言ってみればシナリオ上、失敗する為の失敗です。

失敗する為の失敗でも、例えば現場判断を優先するように現場責任者の主人公が動く……とかならまだ価値が生まれるハズですがそういった動きも無く。

最後に実施された気流作戦も、立案時に知らされていなかった怪獣の身体から有害な胞子が見つかったのにもかかわらず、成層圏まで体内ガスを巻き上げようとします。

素人でも「そんなことしたら上空の気流に胞子が流されて被害が拡散するだろ」という事が想像できますが監督の頭から抜け落ちていたのか、それとも端から頭にないのか言及される事はなく。(上空の低温で胞子が死滅するとかもなかったです。)

そもそも気流作戦にしたってミサイルを使って実行しようとする政府側の人間と気流発生装置を使って実行しようとする主人公というだけの差で、それはただ単に確度の差の問題であり、それが仮に成功しても怪獣の死体は残るし胞子の拡散が抑えられる(?)だけというモノです。

で、主人公の奮戦虚しく(?)失敗してクライマックスのオチにいくんですが、通常しないような失敗に失敗を重ねてるんで、成功してもたいした感動は無いと思います。

もうホントなんだかなといった感じです。

これでは命題に答えたという事にはならないでしょう。

③監督の作家性を重視するなら、観客との距離を近く、解りやすく

ここからは「命題」を監督の作家性に合わせたモノに変え、怪獣が出てくるコメディ映画としての完成を目指すプランA。

「命題」はそのまま、とにかく完成度の高いSFを目指すプランB。

この二つに分けて考えます。

それではプランAから

これまでの三木監督の作品から見るに三木監督の笑いは脱力系のシュールな笑いです。これ笑っていいのかな?くだらねぇけど笑えるなというタイプですね。

そしてこの手の笑いは観客との距離感が近くなければ成立しません。

それならモノローグや一人言を多用して心情を解りやすくするのが一番でしょう。

そして、主人公はもっとツッコミを入れて観客の代弁者としての立場を確立させるべきですね。

これまでに紹介したような馬鹿馬鹿しい状況なのに山田涼介演じる主人公はまーったくボケませんし、全然ツッコミません。だから距離が全然縮まらない。

主人公に限った話ではないですが誰も明確なツッコミを入れないのでギャグが投げっぱなしなんですよ。

まぁ、それも作家性の一環かもしれませんがモノローグで「コイツらには任しておけない」ぐらいは言って欲しかったですね。

このプランを実行したところで笑えるか?と言われると監督と波長があった人でなければ笑えないでしょう。

まぁ、少なくとも予告詐欺は回避できて距離感を縮める努力はしてるんですからやる価値はあると思います。

④僕(ら)が見たかった『あとしまつ』とは

最後にプランB、僕が見たかった『大怪獣のあとしまつ』についてお話します。

これは大改造が必要です。

すなわちコメディ要素を全て排除し、登場人物の情報は必要なだけ、代わりにリアリティの元になるシミュレーションはきっちり行います。我ながらさらっと言いましたが大改造です。

ダム爆破作戦を例にだしてみましょう。

未視聴の方の為に一言でいうと怪獣が死んでる場所が川なので押し流して洋上で処理しようという作戦ですね。

唯一、特撮ファン的に「まぁ、それなりに見れるな」と思ったところですがまだまだ粗はあります。

例えば、リアリティを出すなら怪獣の重さは何トンあってそれを押し流す為には何トンの水が要るか?というやりとりが要るのは必然といっていいでしょう。

ところがぎっちょん。

なーんと公式サイトをみる限り体重は書かれてないんですね。

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全長と体高だけです。

柳田理科雄先生曰く、身長194メートル、体重は73万トンあるとの事ですが

怪獣映画の怪獣は馬鹿に軽かったり重かったりするのが通例ですので(例、昭和ゴジラ50メートル2万トンに対し平成ゴジラ100メートル6万トン、身長が2倍になれば体積は8倍になるハズなのに10万トン程虚空に消えてます。)まぁ、帳尻を合わそうと思えば体重を弄くって合わせられますし、そこに文句をつける特撮ファンはいないでしょう。

あくまで「計算しましたよ」という「リアリティ」が重要であって「計算の正確さ」までは提示しなくても良いですし、何なら「測量や足跡の陥没具合から割り出したもので正確さには自信がありません。」とでも言っておけばシナリオ的な料理もしやすいでしょう。

いずれにしても流すなら怪獣より下流は引っ掛かったりしたらいけませんから河川敷を整備する必要がありますし、浮力を稼ぐ為にタイヤやなんかの廃材を身体中に括りつけたりしても良いでしょう。そして沖にはイージス艦が停泊して怪獣を待ち構えている……

と、まぁこんなとこまでは素人にも思い付く訳です。我ながら少しはリアリティが出てきたと思います。

考えてみれば当たり前の事ですが、当たり前の事を当たり前に書くのがリアリティです。それに怪獣相手の当たり前は怪獣と絡んだ時点で特別になるので充分に見せ場になるハズです。

これを全編でやってればコメディ要素が多少混ざっても炎上、酷評とまではいかなかったでしょう。

これが先述した命題と向き合う「この死体をどうするか?」ということで、僕(ら)が期待した『あとしまつ』です。

最後に

長々、お付きあい下さりありがとうございました。これにて幕引きです。

最後は只の特撮オタクの妄言みたくなってしまいましたが、これくらいはやって欲しいというのは特撮ファンなら誰しもが感じた事でしょう。

あ、僕にはというか、多くのお客さんには合わなかったというのがこの映画の実際でしょうが、三木監督ファンにはオススメです。

それ以外で見に行きたいという方にはオススメしません。ハッキリ言って拷m……精神修行の時間になること請け合いですから……

それではまたどこかでお会いしましょう。(了)





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