TwitterのAPI制限にみる「インターネットインフラを握られる」ということ
さてタイトルの通りですが、先日Twitterサービス全体に閲覧制限が掛かり、阿鼻叫喚している人々の姿が一部で見受けられました。『サービスやインフラを特定の企業に握られる』というのはこういうことなんだと改めて考えさせられたので少しまとめておきます。
今回の流れ
突如Twitterにアクセス制限が掛かり出す
さて事の始まりは2023年7月1日の21:30頃(日本時間)です。Twitterにアクセスするとタイムラインに『問題が発生しました。』と表示されるようになりました。その後Twitterのオーナーであるイーロン・マスク氏が下記のようなアナウンスを出しております。
上記を翻訳すると下記の通りです。Twitterの閲覧数がかなり制限されています。
Twitterの現CEOリンダ・ヤッカリーノ氏からも2023年7月5日(日本時間)に下記のような発表がありました。アクセス制限の理由としては、スパムやボットを排除するためとのことです。さらに言えばスクレイピング(ロボットでWebサイトにアクセスし、ツイートを自動的に収集すること)による「AIモデル構築のための機械的な大量アクセス」への対処とのことでした。なお事前に通達しなかった理由としては悪意のある業者に察知され回避されるのを防ぐためとも弁明しております。
元々Twitter社はユーザや企業用にデータを取得するためのAPIを有料で用意しています。API(アプリケーションプログラミングインタフェース)というのはツイートやTwitterで使用している情報などのデータを取得する時に使用するデータ取得口のことです。第三者がTwitterのデータを使用したい場合は通常こちらのAPIを経由してデータを取得します。
ただTwitterが用意する公式APIは課金額によりアクセス回数に制限があったり、そもそも課金を回避するため、データ取得業者などはAPIではなく今回言及されているスクレイピングの方法を用いてWebサイト経由でデータを大量に取得することがあります。今回は彼らデータ取得業者をターゲットとした規制であったのでしょう。その規制に一般ユーザが巻き込まれた、という形です。
そんな大騒ぎすることなんですか?
さて今回の件はテレビにも取り上げられました。個人的には驚きです。何に驚いたかというと『インターネットの単なる1サービスに閲覧制限が掛かっただけで既存メディアにも取り上げられる程話題になった』ことです。もちろんTwitterに制限が掛かれば、Twitter上ではてんやわんやの大騒ぎになるのは当然のこととして理解できます。確かにTwitterはウェブ上における簡易的なテキストを投稿する場所としてかなりのシェアを誇っており、連絡手段、宣伝に使用している人も多いため単なる1サービスと言って良いほど小さなサービスではありません。ただそれでもウェブの1サービスです。なぜこんなにも騒ぎになったのでしょうか?
それだけTwitterを使用する人、依存する人が多いのか?
Twitterに依存する人は少数だが声が大きいだけなのか?
既存メディアが話題に取り上げると、広告業界にとっても有利に働くため話題に挙げるのか?
いずれでしょうか?少しデータとして見ていきます。
そもそもみんなそんなにTwitter使ってるんですか?
なおStatista社が提供する2023年1月の世界の主要SNSのアクティブアカウント数は下記のようになっております。Twitter社はかなり下位のように見えます。なら尚更なんでこんな騒ぐのか?とまた思いもするのですが、とは言えアクティブアカウントが世界中で556millions(5.56億)もあります。
ちなみにStatista社の調査では国別では2022年1月のユーザー数しか見当たりませんでしたがこちらも引用して載せておきます。日本は人口に対するユーザ数が他の国と比べ多いです。インドに対してもダブルスコアをつけ、日本人口の半分近いアカウント数があります。
1位はアメリカの7,690万アカウント
2位は日本が5,895万アカウント
3位はインドの2,360万アカウント
ただし、日本に暮らす半分の人が使っているとは到底思えません。企業用アカウントも多く含まれているでしょう。ただ例えば1人10アカウント持っていたとしても日本に暮らす人の5%程度は使用している程度には考えても良いのでしょうか?実際には分かりませんが20人に1人も使用しているなら『連絡宣伝手段として多くの人が使用していた』から既存メディアに取り上げられたと考えても不自然はない、という感じでしょうか…?
右往左往して代替サービスを探し出す人々
さて、突然のTwitter閲覧制限により代替サービスにアカウントを作り出す人が大勢発生しました。暇な時間に意外とポチポチ見てしまうTwitterであり、宣伝として使用している人も多いため閲覧できないのは死活問題です。Twitter民が狼狽しても仕方ありません。そして移行先の議論まで活発になりました。
主な移行先として挙がっていたのはMiskky、Bluesky、Mastodon、Instagramなどでしょうか。そしてMeta社においては新たにThreadsという新たなサービスを開始するまでの騒ぎです。ただこれだけ移行先があっても「大丈夫!」とはなりません。そうです。世の中には皆様ご存じの『ネットワーク効果』というものがあるためです。
そのサービスに参加する人が多ければ多いほどサービスの利便性が向上するというあの効果です。最たるものが電話でしょう。世界で数多くの人が『電話番号』を保有しており、世界中の多くの人と通話できるという最強ツールです。電話番号を持っている人が2人ならその2人の間でしか会話できませんが、多くの人が『電話番号』を持っているからこそサービスに優位性が生まれるのです。
そう考えると代替サービスが多いとその分Twitterに集まっていたユーザーが分散してしまいネットワーク効果は小さくなります。そのため「Twitterから上手く抜け出せない」というのが現状です。
今後の動きについて
規制から数日経ち(2023年7月6日現在)若干規制も緩くなってきたようなので一時の混乱は収まりました。しかし今後はどうなるでしょうか?
個人的な予想としては結局は多くの人はTwitterをそのまま使うのではないでしょうか?
ネットワーク効果がもちろん大きいですが、それよりもイーロン・マスク氏の存在が大きいと思います。テスラにせよスペースXにせよ、数年前は周りからずっと経営状況が危ない危ないと言われ続けていましたが結局は軌道に載せた人物です。今回も上手くハンドルするのではないでしょうか?
サービスが特定の企業に握られるということ
さてここからが本当は書きたい事でしたが一連の流れをまとめただけで3,000文字以上になってしまいましたので簡潔に書いて終わります…
今回は1企業の1ウェブサービスに閲覧規制が掛かっただけでしたが一時的に大きな混乱が生じました。例えばこれがLINEやYouTubeなどが止まった場合も阿鼻叫喚になるように思います。何故この二つを挙げたかというと下記の理由があります。
LINEに関しては今回と同様に『連絡手段』として多くの人に使用されておりネットワーク効果が高く、代替サービスもSlack、Discord、カカオトーク、WhatsAppなどがありユーザの移住先が割れる可能性がある
YouTubeに関してはGoogleが運営しており、過去にはGoogle+など停止実績もある。またYouTubeの規約も匙加減で変わる可能性がある
別に本記事はサービス自体にも、サービス利用者にもどうのこうの言う趣旨ではありません。上記のサービスもいきなり終了すれば、数日右往左往して、数か月かけて皆で他のサービスに移住すれば良いし、Meta社のようにFacebookやInstagramを支えるような屈強なインフラを保有している企業は即座に新しいサービスを立ち上げてくれるでしょう。なので利用者側としては心配せずに少し待てば良いだけです。
インターネットインフラを握られるということ
上記に書いたように「FacebookやInstagramを支えるような屈強なインフラを保有していれば」サービスを立ち上げることは可能でしょう。最近ではAWS、GCP、Azure、OCI、Alibaba Cloudなど主要パブリッククラウド(IaaS)があるので「金さえあれば」即座にサービス立ち上げに動くことも可能です。
ただし上記のIaaSサービスにおいて『日本の企業』は一つもありません。そうなんです。物理マシンは全て他国に握られているということです。また投下できる金額もビックテックには到底敵いません。つまり今後もサービスを作ってくれるのは外国の企業で、日本は既に待つしか出来ない状態に陥っていることがハッキリした今回の騒動だったと個人的には思いました。
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