AIが普及しても別に絵師の仕事は無くならない その2
前回『画像生成AI』について考察し『イラストや漫画』業は今後も無くならないということをnoteにまとめました。「なぜ無くならないのか?」その理由は前回の記事で一通り書き、画像生成AIが今後どのような使われ方をするかも記事としてまとめましたので、よろしければ前回の下記noteもご覧ください。
今回はコストについてもう少し深堀りしようと思ったので「その2」として本記事にまとめています。
前置き
本記事の筆者の属性について
この筆者の属性については前回のnoteと同じことを記載してますので、前回読んで下さった方はこの部分は読み飛ばしてください。
筆者においてはデザイナー、イラストレーター、漫画家等ではございません。またビジネスにおいてもプライベートにおいても上記の方々と金銭が発生するようなやり取りを行ったことは全くありません。
何故この筆者の属性を述べる必要があったのかというと、今回の話は立ち位置によっては非常にセンシティブで認知バイアスが掛かりやすい話と考えているためです。今回のテーマであるイラストなどを生業としている方々を見ると一種の自己防衛とも言える反応を示す方がわずかながらにもおり、そのため本記事は外側から見た考察という点をご理解おき下さい。
AIでイラストを作製するコストパフォーマンス
初音ミクのイラスト作製コスト
ヘッダー画像を含め本記事で使用した4枚の「初音ミク」イラストは全て「NovelAI」を用いて作製しました。ヘッダー画像のテキスト追加以外は加筆修正は行っておりません。
今回期待するようなイラスト4枚が出力されるまで約690円を支払いました。つまりイラストを描く技術が無くてもイラスト1枚当たり約173円で作製できました。ちなみに今回は載せていませんがR-18のイラストを生成することも出来ます。
コストの詳細
少し細かい計算になりますが直接的なコストは下記の通りです。2022年10月18日時点で作製した際の具体的な数値となります。
今回4枚の期待するイラストがアウトプット出来るようになるまで合計で300Anlas程度使用しました。AnlasとはNovelAIで画像生成する際に消費するポイントだと思ってください。
なおNovelAIではイラスト1枚を生成するのに約5Anlasを使用します。期待するようなイラストが1回で出力されることは稀なため、基本的には何回も画像生成をトライすることになります。簡単に言うと1回5Anlasで「ガチャ」を回します。具体的に円換算すると下記のとおりです。
以上より1回ガチャを回すのに5Anlas、つまり11.5円程度掛かります。今回希望する画像が4枚出るまで約60回程度ガチャを回してイラスト60枚を出力したということで「5Anlas x 2.3円 x 60回 = 約690円」を使用したことになります。
画像生成の作業時間
例えば今回下記のイラストを出力するためにNovelAIに対して次のようなテキストを入力しました。
hatsune miku, 1girl, light green dress, smile, beautiful, garden, sitting on table
筆者の場合は少しずつテキストやパラメータの調整を行い、何回か画像生成を繰り返してこのイラストをアウトプット出来ました。この辺りNovelAIへのインプット調整が上手い方であれば1回で出力することも可能でしょう。そうなるとイラスト1枚11.5円で生成できます。
ただNovelAIへの「インプット作業時間」や「どのようなインプットをすれば良いか学習する時間」なども間接的なコストになるという点は押さえておくべきでしょう。
パフォーマンス(アウトプット)の精度
さてコストの話もしたのでパフォーマンス、要はアウトプットの話もしておきます。正直今の画像生成AIの精度では物足りません。
例えば漫画でもイラストでも「構図」や「ストーリー性」を考える必要があります。漫画やイラストでもそこに「ストーリ性」を持たせるのであれば前後のコンテキストを汲み取れるように視覚的表現の仕方、要は見せ方を工夫する必要があるのです。
例えば「幼馴染の女の子2人で机を挟んでその日の日誌を書く、そしてその姿を教室のドアから覗く構図」を考えるときに
放課後の夕焼け時、学校のとある2階の教室。二人で1つの机を挟んで向かい合って椅子に座ってます。一人は日誌を一生懸命うつむいて書き、もう一人は椅子にまたがって頬杖をついてその子を優しい目で見守る姿
をプロンプトに英語で打ちこんでも絵柄、構図含め自らが想像したものが出てくる可能性は低いです。下記2点が向上しなければ、現時点ではアウトプットが難しかったり加筆修正が求められます。
具体的なゴールをイメージして正確な指示をAIに与える人側のノウハウ
人から与えられた情報を元に期待値の高いイラストを生成するAIの能力
ただこれらはツールを使用する人が増加したり、アルゴリズムの改良や学習データ増加に伴って日々向上していくのは間違いないです。なお基となるイラスト学習データの取り扱いをどうするかは前回noteの「著作権について」に記載していますので下記をご確認頂ければと思います。
以上から、現時点ではAIに正確な表現をさせるのは依然無理な状態です。AIの思わぬアウトプットで人がさらに着想を得る場合もあると思いますが、表現力については以前改善の余地があります。
また人がテキストなり状況を表現(アウトプット)してインプットをコントロールする役割が必要であるというのもまた事実です。これらは今後も無くなることはありません。
もし無くなるとすれば脳内からの電気信号を直接変換してイラストとしてアウトプット出来るようになった時でしょうが、それはまだ数十年のスパンが必要でしょう。
「描くこと」のハードルが下がる意味
ここまで現在のコストパフォーマンスの話をしました。さらに深堀りしていきます。今後さらにイラストや漫画を描くことのハードルが下がる意味とは何でしょうか?ハードルが下がると何が起こるでしょうか?少し詳細に挙げていきたいと思います。
そもそも「描く」と呼んでよいのか?
そもそも画像生成AIで出力するだけなのにその行為を「描く」と呼んで良いのでしょうか?今この文脈で話している「描く」とは「手段や工程を問わず、最終的にイラストや漫画をアウトプットする」という行為を指しています。
本記事では「イラストを簡単にアウトプット出来るようになると世界はどう変わるのか?」に焦点を当てて話していきますので、言葉の定義については今回の話のスコープ外とします。
ちなみに今回のように概念が先に世の中に広まった場合(画像生成AIでイラストをアウトプットするという概念)その概念をどのような名前で呼ぶか議論することにあまり意味はありません。誰かが発した言葉の中で全員が腑に落ちる言葉や表現が広まるだけです。
例えば今使われている「AI絵師」という言葉もそうでしょう。画像生成AIサービスを使用して作製したイラストを自分の作品として投稿する方のことを「AI絵師」と誰かが使い始めた言葉ですが、多くの人が腑に落ちたので皆「AI絵師」と呼ぶようになっただけです。
そのため今回はいったん「描く」という行為は「手段や工程を問わず、最終的にイラストや漫画をアウトプットする」と定義して話していきます。いきなり話がずれましたが以降では「世界がどう変わるのか?」その本質について考察したいと思います。
アイデアだけ持っていた層が参入する
今まで「イラスト」や「漫画」のアイデアだけ持っていた層が画像生成AIというツールを手に入れ、視覚的な表現が出来るようになりました。その意味を少し深堀りして説明します。
本来イラストや漫画など視覚表現を行うためには高いコストを支払う必要がありました。直接的には液晶タブレットやイラストソフトなどの画材道具、間接的には技能習得に掛かる膨大な時間、イラストレーターと依頼者間のコミュニケーション時間、その他事務手続きなどが必要でした。
ただここに来て「NovelAI」など複数の画像生成AIサービスが開始され、視覚的な表現を行うためのハードルが劇的に下がりました。
そうなると今までアイデアだけ持っていた層が画像生成AIを使って「イラスト」や「漫画」の分野に一気に参入し、一種のムーブメントを引き起こします。
実は近年これと似たようなことが起こっています。「VOCALOID 初音ミク」の登場の頃です。ボーカロイドの場合は歌手を代替出来るものの、DTMなりの知識が必要で「曲を作製する」というハードルは相変わらず高く、現在の画像生成AIと比較出来るものではありません。
ただ裾野が広がりボーカロイドからキャリアをスタートした人やボーカロイドというジャンル、その他役割が出来上がったというのは事実です。
ボーカロイドを使用して曲を作製する人をその界隈では「ボカロP」という呼び方をするようになり新たな「役割」が生まれたのです。
イラストの単価は下がる
さて裾野が広がり新規参入が増えると、つまり描くことのハードルが下がると今までより多くのイラストが出回るようになります。また今後画像生成AIにインプットする内容、つまりプロンプトに打ち込む内容やパラメータのノウハウも蓄積されていくでしょう。そうなると作業の効率化が進み、作製時間が圧倒的に短縮されます。
その結果「イラスト」や「漫画」のコモディティ化が起こります。要はこれまで「イラスト」や「漫画」という視覚認知出来るものをアウトプットする行為そのものだけでも高い付加価値がありました。イラストを手動で描くという作業には相当のノウハウが詰まっているためです。
その付加価値が下がるということがコモディティ化するという意味です。
この「イラストを手動で描く」作業の大半が「イラストをAIで作製する」に置き換わると「視覚表現することそのものの付加価値」は圧倒的に下がることになるでしょう。するとイラストや漫画として表現することに対する単価は下がります。
例えば作家性の必要ない資料・広告用イラスト(昨今いらすとやにかなりの数が代替されましたが)や広告漫画(例えば昔の進研ゼミの漫画)など、依頼者からのアイデアを「視覚表現すること」の単価は安くなります。つまり
作家性の必要ないイラスト
時間単価ベースで料金を算出している
ような場合はイラストや漫画の請負単価は安くなります。現在「1枚書くのに10時間必要なので10,000円です」と言った時間単価で仕事をしているのであれば今後10分の1、100分の1になってもおかしくありません。今回のイラストは1枚173円で出力していますので。その場合、生業としていくには数をこなす必要があり業界全体がレッドオーシャン寄りになります。
以上が「描くこと」のハードルが下がるという意味です。
イラスト本来の価値とは
さてここまでイラストの単価が下がるという話をしましたが現実はもっと複雑です。イラストの価値が上がる要素も存在します。このことは前項で話した内容と矛盾しません。その点について下記に記載します。
ブランド価値
前回のnoteでも話したのですがAIがどうしても代替出来ない「価値」があります。それはイラストレーターや漫画家自身に価値が見出された時です。その人が描くイラストが好きだ、その人に活動を続けて欲しいと言った理由でイラストレーターそのものに価値を見出しお金を支払う層が確実に存在するのです。一般的にはパトロンと呼ばれているような方々です。
詳しくは前回noteの「AIと人を区別するもう一つのポイント」に記載していますので下記をご確認頂ければと思います。
なおこれは世間で「ブランド」と呼ばれているものです。例えば「女性向けブランドもの」をイメージして貰うと分かりやすいかと思います。バックや洋服の実物そのものよりブランドを信頼して、またはブランドに価値を感じて購入する層、お金を支払う層が一定数います。
クリエイターも同様です。クリエイターそのもの、クリエイターが作製するものを信頼して価値を見出す場合がありお金を払う場合があるのです。
希少性
次に希少性です。まず人の時間は有限であり、クリエイターの時間ももちろん有限というポイントを押さえておくべきです。ここに希少性を見出しお金を払う人がいます。
もちろんイラストや漫画も市場の原理に従って需要曲線と供給曲線の交差点により価格は決まるのですが、供給量が限られるため(クリエイターの時間は有限なため)、少ない人数でも固定客が付くと価格が一気に跳ね上がることがあります。これが希少性であり価値を上がる原因となります。
ただしこれは現状と同じく狭き門であることを理解する必要はあります。
また上記の供給量が限られる点についてもう少し言い換えると「レア度」です。例えばカードゲームのレアカードなど実用性が高いため高値が付いているのでしょうか?大体が異なります。供給が少ないということで、希少性の高い「モノ」を求め、保有することそのものに価値を感じてお金を払おうとする人がいます。簡単に言うと自分が希少性の高いものを持っているという「所有権」を主張することで他の人との差別化を図り優越感を得ようとするのです。
デジタルデータの希少性
また「モノ」と言いましたがこれはデジタルデータでも同様です。実物のものが無くデジタルデータでも希少性の高いアイテムに対して「所有権」を求める層、要はお金を支払う層が一定数います。
いわゆるソシャゲでゲーム内のデジタルデータに対して価値を感じて課金する方たちです。昨今では大量に見ることが出来るでしょう。
ゲーム内であればこの希少性の高さは「ゲーム運営側」が担保してくれます。もしこれがイラストなどのデジタルデータであればどのような形で希少性の高さを担保すればよいでしょうか?簡単にコピーすることが出来るデジタルデータの所有権を主張したい場合はどうなるのでしょうか?
ここで出てくるのが最近の流行りである「NFT(非代替性トークン)」と呼ばれるブロックチェーンを元にした仕組みです。検索すると大体お金儲けの話しか出てこないこのNFTですが、今後AIで画像生成が大量に行われるようになった際に必ず「所有権」を証明するために台頭してくる仕組みであることは覚えておいた方が良いでしょう。
最後に
前回も述べましたが今回NovelAIの視覚的なインパクトが大きかったため盛り上がりましたが状況はすぐに変わりません。まもなく一旦落ち着くでしょう。
また最後にNFTに関しても触れましたが参入するのはまだ様子見で良いと思います。何故なら現在はよく理解されてないことを背景に騙そうとする人々が大勢いるためです。
もしビジネス的に勝ちに行きたい人はプラットフォームに乗るのではなく、プラットフォームを作る側に回ってください。お金を投資して儲けようと考えていると大体詐欺に遭いますので注意しましょう。
ここまで長文を読んで頂きましてありがとうございます。もし意見や他にも考察して欲しいことなどあればコメントをお寄せください。
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