NNNとわが家の高慢な猫
わが家の居間では長年こたつを使ってきた。冬はこたつ布団に下半身を入れて暖まり、夏はこたつ布団を外して過ごした。近年、歳を取ったせいか地面にあぐらをかいて座っていると、よいこらしょっとなり、立ち上がりに苦労するようになった。そこで、いすに座り、食卓テーブルに向って過ごすようにした。地面に座っている時よりも足がむくむ感じがするが、よしとして過ごしている。
わが家の猫、陽ちゃんの丸くなるポイントは決まっている。ストーブの前の座布団の上や、隣の部屋の妻のベッドの上、食卓テーブルを使うようになってから、わたしのいすの上で丸くなっている。わたしが仕事でいない日中や、夜11時過ぎの部屋に行って寝付く時間などは、わたしのいすの上にいてもらってもいいのだが、それ以外のいすを使っている時間帯は、猫といす取りゲームをしている。わたしがいすから立ち上がり台所に行ったりすると、いつの間にかわたしのいすの上に鎮座している。ほらほらと言っていすから降ろすと、ミヤーと鳴いて不満そうに飛び降りる。あまり厳しくしていないので、すっかり増長している。
子供たちが小学生の頃に陽ちゃんはわが家にやってきた。今では子供たちは成長してわたしたちとは別の街で独立して暮らしている。あまり帰ってこないし、パートナーもいないようだ。妻もわたしも陽ちゃんを子供か孫のようにかわいがっている。猫というのは結構手間がかかる。砂のトイレをいつも清潔に保ってやらなくてはならないし、カリカリのごはんと清潔な水を用意してやらなくてはならない。定期的に吐くのでその掃除や、日中ベランダに出してやって見守らないとならない。買い物などで妻も一緒に家を空ける時は、お留守番しててねと言いきかせて出かける。買い物から帰ってくるとよそよそしい態度をとる。
「NNN」という謎の地下組織があるらしい。NNNとは「ねこねこネットワーク」の略で、構成員(猫)たちが日々人間たちを監視し、優良物件(よい飼い主)の発掘に努め、そのもとに工作員(猫)が子猫や野良猫を派遣し、飼い主に家猫として世話をさせ、生活のすべてを捧げさせるという恐ろしい組織だ。猫を飼いたいねと家族で話していたら、家の前に子猫が来た話とか、野良猫を保護して餌をあげたり、避妊手術に連れて行ったり、もらってくれる人を探したりしていると、次から次へと野良猫がやってくるといった話は、裏でNNNが暗躍しているらしい。猫集会を主催したりもする。また、飼い猫が迷子になり、見つけた時にほかの猫と一緒だったという話は、迷子の猫がNNNの工作員(猫)に保護されていたということだ。このようにNNNは猫による猫のための秘密組織なのである。
陽ちゃんがベランダの前で鳴く。戸を開けてやると、冬の冷たい空気が流れ込んでくる。陽ちゃんがベランダに出る。ベランダの近くに張り出した木の枝に大きなからすが来て止まる。お友だちのからすよと妻が言うので、違うよ、動かなくなったら突いてやろうと思って来ているのさと言う。陽ちゃんはベランダをしばらく見回ってから家に入ってくる。ニャルソックおつかれさまと声をかけた。