【凡人の対談 7.「凡人のコミュニケ術」(2):「七転び八起き」も意味のわからない人からすれば、ただの「めっちゃ転んでいる人」である。
これは、とある凡人が、さまざまな人間から彼の経験談や考え方を、根掘り葉掘り聞かれまくるという、しょうもない話である。
〜とある怪しげな一室〜
「凡人さん、それではお話を再開していきましょう。」
「はいよろしくおねがいします。」
「それでは、あなたが飲食店の店長として、アルバイトスタッフたちとコミュニケーションを取る上で大切にしていたことの二つ目、『言語化力』についてのお話をお聞かせください。」
「はいわかりました。」
「ちなみに、あなたの考える『言語化力』とは、どういうものなのですか?」
「はい。『相手に伝わる言葉を生み出す力』です。」
「なるほど。ものすごくシンプルですね。」
「はい。めっちゃシンプルです。ただ、意外と難しいです。」
「確かに、単に言いたいことを言葉にするだけなら簡単そうではありますが、相手に伝わる言葉となると、少し違ってくるのかも知れませんね。」
「はい。相手が受け取ることのできる言葉か、誤解を生まないか、そういうことを考え、使う言葉を変える必要があります。」
「なるほど。『同じことを伝えるにも、相手によって言い方や言葉自体を変える』ということですね。たとえば、どのように伝えるのですか?」
「はい。例えば、飲食店で『トレーの持ち方を教える』とき、
『トレーは傾けないで、安定させて持ってください。』
だと、人によっては、必要以上に力んだり、腕で抱えるようにして持ったり、猫背になってお腹の前で抱えるように持ったり、中には両手で持とうとする子もいます。」
「これらは全て、実際重いものを持つと、非常に不安定ですし、腕の力だけで持つため、疲れます。さらに、見た目も非常に不恰好です。」
「なるほど。それではあなたはどのように教育されていたのですか?」
「はい。
『まず、トレーと支えている手のひらの間に、人差し指を差し込んでみてください。すると、手のひらとトレーの間に隙間ができ、手のひら1点でなく、指5本と親指の腹の6点で支えることができるので安定します。』
『次に腕を曲げる角度は90度。背筋はピンと伸ばします。怖がって腕を上げたり、背筋を曲げると、腕だけの力で持つことになります。』
『腕を90度、背筋を真っ直ぐ伸ばすことで、腕だけでなく、背骨や背筋も使って持つことができます。それに、明らかにこちらの方が見た目が良いです。』
的な感じですね。これを実際に、比べてスタッフに体験させながら、指導します。」
「なるほど。とても細かく説明されるのですね。確かに、そこまで細かく説明すれば、誤解はほとんど無くなるとは思います。ただ、どうでしょうか。正直、結構面倒なのではありませんか?」
「はい。ぶっちゃけ、超めんどくさいです。ただ、そもそも『コミュニケーション』とはそういうものだと思っています。」
「なるほど。確かに、そうかも知れませんね。」
「はい。そもそも人間が、他人と意識や心を共有できれば、コミュニケーションなど必要ありません。それができないからやっているだけです。そう考えると、めんどくさいに決まっています。」
「なるほど。そもそもが『めんどくさいもの』であることを、理解した上で、丁寧に伝える必要がある。ということですね?」
「はい、そうです。」
「他にも店長をやっていれば、スタッフに『指示』することも必要ですし、『ビジョン』なるものを語ることもあります。」
「他にも、『これからはこうやっていく。』みたいな内容だったり、『会社からの指示を、その意図とともに説明する』みたいな場面など、さまざまあります。」
「そうですか。内容は多岐にわたるのですね。」
「はい。ただ、伝える上で、大切なことの根本は変わりません。」
「それは、『相手に正確に伝わること』です。」
「どんなに正しくて、素晴らしい想い、言葉でも、相手に正確に伝わらなければ、意味がありません。」
「たとえば、『七転び八起き』という言葉がありますよね?」
「はい。知っています。」
「これは、『たとえ何回転んでも、挫けずに、勇気を奮い起こして、立ち向かうことの大切さ』を伝える、素晴らしい言葉ですが、
この言葉だけ伝えたとしても、その意味がわからない人からすれば、『ただめっちゃ転んでる人の話』です。」
「人によっては、『そんなに転ぶのは嫌だし馬鹿らしいので、自分は転ぶことのない、安全な人生を送っていこう。』なんて教訓にしてしまう人もいるかも知れません。」
「確かに、そう考える人もいるかも知れません。」
「そんな、安全思考の考えが間違っているとは言いません。ただ、コミュニケーションとしては、『挑戦をやめるな』と言いたかったのに、相手は『挑戦しない』という選択をとってしまう結果になります。」
「これは、コミュニケーションとしては失敗していると言えます。」
「確かにそうですね。」
「だから、めんどくさいのは承知の上で、
『相手が普段使っているような言葉を使って話す』
『相手の立場に立って、理解しやすい言い方で伝える。』
『極限まで、誤解される可能性を無くした伝え方をする。』
『できる限り、シンプルな表現を心がける。』
そういう意識で、相手に伝えるんです。」
「『言いたいことを相手に伝わる言語に変換する力』、これが僕の考える『言語化力』です。」
「なるほど。よくわかりました。何というか、そこまで考えていると、大変そうですね。」
「いえ、実はそうでもないのですよ。」
「確かに最初は、若干苦労しますが、慣れると自然に言葉が思いつくようになります。」
「それに、適当な言い方をして、『伝えたつもりになっていて、実際全く伝わっていなくて、後でごちゃごちゃする』であったり、『自分の伝えたいことが、全く伝わらなくて、もやもやしたり、イライラする』なんてことが無くなるので、めちゃくちゃ楽になります。」
「僕自身、このことを意識するようになってから、教育でも、指示でも何でも、あらゆるコミュニケーション・仕事が、ストレスなく、円滑に進むようになりました。」
「なるほど。最初の『言語化』さえ意識すれば、その後のあらゆることが楽になる。ということですね。」
「はい、少なくとも僕はそうでした。」
「ありがとうございます。それでは、この辺でもう一度休憩とさせていただきます。この後は、あなたがコミュニケーションを取る上で大切にされていることの三つ目、『理解力』のお話を聞かせていただきます。」
「はいわかりました。」
つづく