【凡人の対談 4.「凡人の成長戦略(1)」:凡人はちょっと見ただけではちょっともできない。】
これは、とある『凡人』が、様々な人間達から、彼の体験談や考え方を根掘り葉掘り聞かれまくるという、しょうもない話である。
〜とある怪しげな一室〜
「凡人さん、こんにちは。」
「はいこんにちは。」
「本日はよろしくお願いします。」
「はい。よろしくお願いします。」
「早速ですが、あなたは、これまでの人生で、『努力して何かを習得』したり、『上達させた』ような経験はお持ちでしょうか?」
「あ、はい。大したことではないですが、ソフトテニスと、飲食店の仕事は、それなりに頑張っては来ましたね。」
「そうですか。それでは、テニスとお仕事、どちらの例でも構いませんが、あなたがまっさらな状態から、何かを身につけようとするときに、まず初めに何に、どういう意識で取り組みますか?」
「はい。とりあえず、めっちゃ『真似』しますね。」
「は?」
「え?」
「あ、申し訳ありません。ちょっと意味がわからなくて。。何となくお手本やマニュアルなんかを見て、とりあえずやってみて、不足点を修正していけばいいのではないですか?」
(でた。『センスある人』のやつ。。)
「それは残念ながら『凡人の所業』ではありません。『凡人』は何かをちょっと参考にしただけだと、ちょっともできません。」
「テニスで言えば、誰かが打ってるところをちょっと見ただけでは、凡人はボールをラケットに当てることすらできません。」
「僕も覚えています。中学の時初めて振ったラケットは、見事に空を切りましたね。」
「なるほど。そういうものですか。。具体的には何を真似するのですか?」
「まずは、一番上手い人、すごい人を完コピしますね。」
「なるほど。」
「ただ、それでは『ただのモノマネ』ではありませんか。」
「そうです!モノマネです!!」
「それでは、何と言いますか、あなたの個性のようなものが発揮されないような気がするのですが。」
「はい、そうです。」
「よくみんな『勘違い』するのですが、凡人が初めから、個性や自己流やらを求めたら、ろくなことにはなりません。」
「なるほど。確かに、それはそうかもしれませんね。」
(自分で言っておきながら、すんなり納得されるのもつらい。。)
「ちなみに、どういう論理で、『真似』となるのでしょうか。ひたすら実戦で学ぶ、ということにはならないのでしょうか?」
「まぁ、それももちろんありですが、実践で学びつつ、それも、ひたすら優秀な人の『真似』をしながらです。」
「なるほど。」
「例えば、『絶世の美女の絵を描け』と、言われたとしますよね?」
「はい。」
「その時に、何となく『頭にあるイメージ』で、『実際に絶世の美女を描けてしまう』のが、『天才』です。」
「そうですね。」
「僕ら『凡人』はそういうわけにはいきません。」
「頭に『何となくのイメージ』はあっても、それを全く『表現することができない』、これが『凡人』です。」
「そうして出来上がるのは、『絶世の美女』をイメージして描いた『ブサイク』というわけです。」
「なんだか、かわいそうですね。」
(自分で言っておいて、心がつらい。。)
「はい。」
「そして、もう一つ問題があります。」
「問題とは?」
「今の例で言えば、『そもそものイメージ自体が、さほど美人でない』パターンです。」
「なるほど。『そもそも、理想のレベル自体が低い』ということですか。」
「はい。その場合、仮にめちゃくちゃ絵の技術を磨いて、イメージを正確に表現できるようになっても、完成する絵は『何となく美形の女性』になってしまいます。」
「確かに、それには一理ありますね。ただ、あなたのたとえ自体には、少し問題があるようにも感じますが。」
「はいすいません。」
「まあそれは置いておきましょう。」
「具体的には、どのように真似をするのですか?」
「はい。とにかく、細かいところまで完コピです。」
「テニスであれば、その人のフォームから、練習の内容、試合運び、ボールの打ち分け、等々、挙げればキリがないですが、目に見えるものは全てコピーします。」
「目に見えないものは、直接聞いたりもしますね。」
「なるほど。無駄に徹底していますね。」
(『無駄に』の3文字が気になる。。)
「ただ、一点気になることがあるとすれば、いくら意識して取り組んだところで、人間が、他人を完全に真似ることなどできるのですか?」
「それはもちろん、できません。」
「ただ、近づくことはできます。精度が上がれば上がるほど、近づくことができます。」
「なるほど。確かにそれはそうだとは思いますが、それは、オリジナルの劣化版ということであり、オリジナルを超えることはできないのではありませんか?」
「はい。もちろんそれはそうなります。」
「しかもそれは、オリジナルの実力に依存する面がありますね。オリジナルが一流であれば良いですが、仮に、オリジナルが二流である場合、あなたは最高でも二流と言うことになってしまいます。」
「はい。それもそうですね。」
「それでいいのですか?」
「いやです。」
「は?」
「は?」
「それは、何というか、少しワガママなように感じますが。」
「僕はそれが嫌なので、『周りの人間の優れている点を、真似して、かき集める』んです。」
「なるほど。いわゆる『良いとこ取り』のようなことですか?」
「はい、まさにそんなイメージです。」
「なるほど。確かにそれなら、元々特に優秀な人間というわけではなくても、高い能力を身につけることはできそうですね。」
「ただ、やはりあなたの個性が出ないような気がします。力をつけるためとはいえ、そこまでの『没個性』だと、後々、つらくはなりませんか?」
「それが意外に大丈夫なのですよ。笑」
「例えば、Aさんの真似をすると、僕はA’(完全では無いから)ということになります。」
「はい。」
それと同じように、Bさん、Cさん、Dさん、Eさんと、真似していったとします。すると、全部を身につけた僕は(A’〜E’)ということになりますよね?」
「はい。」
「そんな人、僕以外いないじゃ無いですか。」
「なるほど。そういうことですか。」
「それが、まず一つ『僕なりの個性』です。」
「そしてこれには、もう一つ良い点があります。」
「ほう。それは何でしょうか?」
「僕が真似した5人に勝てることもあるのです。」
「一つの能力だけで優劣が決まる、仕事で言えば、『超専門職』でもない限り、オリジナルの5人に、それぞれの得意分野では負けるかもしれませんが、総合力では、僕の方が上になることが多いのです。」
「なるほど。『テストで全ての教科が90点、科目別では2位かもしれないが、総合点ではトップになることもある。』そういうことですね?」
「はい。おっしゃる通りです。」
「あと、多くの人を真似してみて分かったのですが、自分以外のものを極限まで真似しようとしても、どうしても違ってくる部分があるのです。」
「はい。」
「それが何なのかといえば、それは僕の今までの経験や価値観の中で生まれた『クセ』であり、それこそが『個性』だと思うんです。」
「なるほど。個性は『出すもの』でなく、『どうしても勝手に出てくるもの』ということですか。」
「おっしゃる通りです。」
「なるほど。面白い考え方ですね。」
「もう少し詳しく聞いてもみたいですが、残念ながら、もう時間が来たようです。本日はなかなか興味深いお話を聞くことができました。こちらは報酬です。どうぞお持ちください。」
(ん、なんかいつもの人より優しい。。)
「ありがとうございます!!」
「凡人にしては、なかなか興味深いお話を聞くことができました。近いうちにまた、お声をかけさせていただきますので、その際はよろしくお願いいたします。」
(おー、すんごい優しい!)
「はい!こちらこそよろしくお願いいたします!!ありがとうございました!!!」
凡人は、丁寧に会釈をし部屋を出た。
その後、いつも通り、コンビニで『ストロングゼロレモン味』と『砂肝のうまいやつ』を買い込み、家路に着いた。