宅建士試験合格講座 農地法 > 総則・権利移動および転用の制限 #1
本章からも例年1問出題されます。農地法は、農地を守る法律です。日本の国土は狭く、建物を建てられる土地は限られています。そこで、どうしても農地をつぶして宅地とせざるを得ません。ところが、無計画に農地をつぶされると食糧政策上の問題が生じてしまうおそれがあります。そこで、農地法は、食糧の確保、農業の振興という観点から、農地の転用等に関して一定の制限を設けています。大まかには、農地の耕作者が代わる『農地の権利移動』、農地をつぶしてしまう『転用』および『転用目的権利移動』についての許可制度や届出制度です。
これらの規制は当然重説事項となるため、宅建試験の出題科目なのです。
第1節 総則
■ 1 農地法の目的
農地法は、耕作者の地位の安定と国内の農業生産の増大を図り、もって国民に対する食料の安定供給の確保に資することを目的としています。農地法は、この目的を達成するために、農地を農地以外のものにすることを規制するとともに、農地を効率的に利用する耕作者による農地についての権利の取得を促進し、および農地の利用関係を調整するための措置を講じています。
■ 2 農地・採草放牧地の定義
農地法は、農地・採草放牧地の権利移動や農地の転用をする場合に、許可を要することとしています。
そこで、「農地」「採草放牧地」とは何かが問題となります。
(1) 農地
「農地」とは、耕作の目的に供される土地をいう。
現に耕作されている土地のほか、現在は耕作されていなくても耕作しようとすればいつでも耕作できるような土地(休耕地、不耕作地)も含みます。
(2) 採草放牧地
「採草放牧地」とは、農地以外の土地で、主として耕作または養畜の事業のための採草または家畜の放牧の目的に供されるものをいう。
(3) 現況主義
「農地」「採草放牧地」であるかは、登記簿上の「地目」ではなく、土地の現況で判断します。
・農地であるもの
① 休耕田・休耕地
② 登記簿上の地目は山林であるが、現況は田
・農地とはいえないもの
① 宅地内の家庭菜園
② 住宅を建築するまでの一時耕作地
第2節 権利移動および転用の制限
農地法は、権利移動および転用の制限として、3種類の許可制を設けています。
■ 1 農地または採草放牧地の権利移動の制限(3条許可)
(1) 3条許可
農地または採草放牧地について所有権を移転し、または地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権もしくはその他の使用および収益を目的とする権利を設定し、もしくは移転する場合(権利移動)には、当事者が農業委員会の許可を受けなければならない。
※ 農業委員会は市町村に設置され、農業委員によって構成される独立行政委員会である。その委員は、農業に関する識見を有し、農地等の利用の最適化の推進に関する事項その他の農業委員会の所掌に属する事項に関しその職務を適切に行うことができる者のうちから、議会の同意を得て、市町村長により任命される。委員の過半数は「認定農業者」でなければならない。
「農地」と「採草放牧地」が同じ取扱を受ける。採草放牧地でも農業委員会の許可が必要になることに注意。
(2) 3条許可の対象となる権利移動
「権利移動」とは、所有権の移転または使用収益を目的とする権利の設定・移転です。つまり、売買したり、貸借したりすることです。
3条許可の対象になる権利移動は、権利移動のうち、後述する5条許可の対象になる権利移動を除いたものです。具体的には、農地を農地のまま権利移動する場合、採草放牧地を採草放牧地のまま権利移動する場合、および採草放牧地を農地に転用するために権利移動する場合です。
1. 「採草放牧地」を「農地」とするための権利移動は、5条許可ではなく3条許可が必要。
2. 「農地以外の土地」を「農地」とするための権利移動に、3条許可は不要である。
3. 3条許可は、土地の耕作者が代わることに着目している。そこで、耕作者に変動のない抵当権の設定等は許可不要である。
(3) 許可の基準
たとえば、農地を農地のまま他人に売買したり、貸したりする場合に、3条許可の対象になります。農業は引き続き行われるのだから、田がなくなるわけではありません。したがって規制は不要とも考えられるが、農地は耕す人によって収穫が違います。「Aは10俵の米を取ったが、Bは3俵しか取れなかった」ということもあります。そこで、農業生産力の増進を目的とする農地法は、権利取得者がその取得後において耕作または養畜の事業に供すべき農地および採草放牧地の全てを効率的に利用して耕作または養畜の事業を行うと認められない場合などは、3条許可をすることができないとしています。
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