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テスラの話

 前回の記事を書いてから早くも半年以上経ち、季節は有象無象を冷蔵庫に放り込んだような冬、忌々しい花粉舞い散る春を駆け抜け、1億5000万kmほど先にある巨大な焼け玉と向き合うことになる夏となりました。季節は変わりましたが、俺は変わりません。どうも、しろやんです。お久しぶり。会いたかった?俺はどっちでも良かった。

 先日、パソコンのアップデートのための部品を手に入れるべく、大阪・日本橋まで行ってきました。で、そのついでに心斎橋のテスラまで赴き、モデル3に試乗してきました。何でまたテスラ……と思われるかもしれません。正直に白状しましょう。SNSや何やかんやで鼻持ちならない”テスラ信者”連中が「内燃機関車は時代遅れ!電気自動車、特に最先端を行くテスラこそが自動車の抱える諸問題を解決する救世主!遅くて環境に悪い内燃機関車に乗るのはバカ!」と偉そうにのたまい散らかしているのを見て、腹立ったから。アンチするにも、テスラとは何ぞやということを知らないとどうにもならないでしょう。というわけで、奴らの伸びに伸びた鼻をこれ以上なく無残にへし折るためにまずは試乗してテスラとやらを見極めてやろうと。なんて経緯だ。

 そんなこんなで心斎橋のテスラに愛車のランサーで赴いたのですが、まず驚いたのがエルメスとかの路面店みたいな感じの店舗。いかにも出し高級そうだし、何なら隣はベントレーやらフェラーリのディーラー。王将の餃子を愛するオタクの来るところではないのでは?とはいえ、ビビっていても始まらないので車を店に停めよう……としたのですが、駐車場がない。車屋に駐車場がないって何。テスラに電話して聞くと、裏にある機械式パーキングと提携していますとのこと。車屋で自前の駐車場がないのは初めてのパターン。言われるがままに機械式パーキングに車を回したのですが、係員さんによる車高チェックが入り、入庫拒否。やっぱり来る場所間違えたんじゃないの、俺。路駐するわけにもいかないので、適当に近くの駐車場に停め、テスラの店舗へ。首を洗って待っていろ、テスラ。何なら首以外も洗っていいぞ、俺は寛大だから洗いすぎも許す。

 テスラ心斎橋にたどり着くと若いセールスマンがお出迎え。試乗の準備が整うまで、店に置いてある車を見て待っててくださいとのこと。店内には黒のモデル3と青のモデル3。いずれもスタンダードレンジ(一番航続距離の短いやつ)。言われるがままに、車に乗り込んでみると驚き。メーターはないし、何ならデカいiPad様のタブレットがインパネの真ん中に生えてるだけ。写真で見て予習こそしていたけれど、実物を見ると度肝を抜かれる。観察を続けると、シフトレバーがコラムから生えていることを発見。型落ちの軽自動車かよ。よし、押され気味だったけれど、ここでテスラディスが決まった。まだまだ巻き返せそうです。そして、センターコンソールに目を向けるとコンソールボックスとドリンクホルダー。物理スイッチがないので非常にスッキリしています。ああ、なるほど。車内空間の一等地にシフトレバーなんて置いちゃいられないと。納得してしまった。

 モデル3の内装を眺めたり、触ったりしていると、試乗の準備が完了しましたとのこと。先程のお出迎えセールスマンより少し年のいった、IT企業にいそうなセールスマンに連れられ、地下の試乗車置き場へ。試乗車はモデル3 スタンダードレンジでした。できればロングレンジ(四駆でそこそこ速いやつ)に乗りたかったけど、仕方なし。

 セールスマンが試乗車のBピラーにカードをかざし、ドアが開錠。カーシェアみたい。セールスマン曰く、登録すればスマホでも開錠可能。聞くと、そもそもモデル3には物理キーシリンダーが備わっていないそう。もしスマホが壊れて…とかクルマの電装系に異常が出て…とかそういうトラブルを考えると物理キーが欲しいとか考えてしまうのですが、モデル3でキー周りのトラブルはないとのことでした。なんというか凄い割り切りっぷり。

 モデル3に乗り込むと、システム起動ボタンがない。何もないな、このクルマ。セールスマンにボタンのありかを聞くと、開錠して乗り込むと自動的に始動し、降りて施錠すると自動的にシャットダウンするとのこと。確かに、そのシステムで困ることはなさそう。始動ボタンの件が片付いたところで、意気揚々と発進準備に取り掛かりました。ポジション調整、バックミラー調整ときて、ドアミラーの鏡面調整のボタンがない。またないのかよ。またしてもセールスマンに助けを求めると、センターコンソールに生えているタブレットで調整可能とな。ガラケーに拘泥する老人の気持ちが少し分かりました。旧来的なガソリン車に乗っている身からすると、モデル3はかなり得体のしれない乗り物です。

 ありとあらゆるボタンがないことにわざわざ衝撃を受けながらも、発進準備が整い、ようやく出発。地下駐車場から出て、路地を通って大通りへ。ドライブフィールはおおむね普通のクルマ。アクセルはワンペダル的な設定で、アクセルを離すとMT車のローギアでのエンジンブレーキのような勢いで減速します。ガソリン車のオートマのようにやたら空走するよりはこちらの方が好みかも。欲を言えば、アウトランダーPHEVのように回生調整パドルが付いているともっと楽しいかも。足回りはちょっと硬め。フラット感というよりもゴツゴツ系だけども、乗り心地が悪いというような感触ではありませんでした。車高調付きのランサーに比べりゃ、魔法の絨毯も同然。ステアリングの感触は軽めでロードインフォメーションは薄いけれど、操作精度は正確。スポーツカーでもないので、多分こんなものなのでしょう。強いて言うなら、ロールの感触から重心が低いことをそこはかとなく感じました。ハンドリング関係では、いたって普通のクルマで特に驚きはなかったです。

 大通りに出てしばらくは先行車がいたのでアクセルを開けられませんでしたが、前が開けたのでアクセルを全開。微かなモーターのうなりと共に勢いよく加速していきます。確かにそれなりに速い。ただ、モデル3スタンダードレンジの0-100km/hタイムは5.6sとのことでしたが、加速度的にはそんなに速いかなという印象でした。とはいえ、モデル3にはトランスミッションがなく、変速ロスなしに加速できるため、あの加速度であっても0-100km/h 5.6sを達成可能なのでしょう。また、感覚的にはガソリン車のアクセルをしこたま踏んでいるときは「もっと速く!」と昂る感覚がありますが、モデル3では「60km/hまで早く加速する必要があるからアクセルを踏みこんでいるのだ」と妙に冷静でいられるのが不思議。なかなか妙な経験でした。

 路地を走ったり、大通りでアクセルを踏んだりしているとだんだんモデル3に慣れてきて、インパネに生えているタブレットに気を向ける余裕が出てきたので、ちらちら見ながら運転していたのですが、自車の周りの状況がグラフィカルにすべて表示されていました。これで驚いたのは、路駐車両や人、自転車、障害物すべて区別して表示しているということ。多くのセンサーと高性能なプロセッサー、高度なAIがあっての機能で、いつの間にやら自動車はスマホやらパソコンとこんなにも近しいものになっていたんだなと。これだけハイテク化が進んでいれば、半導体不足の影響も受けますわな。

 試乗を終え、テスラの店舗に戻り、セールスマンを質問攻めに。BEVで一番気になるのはやはり維持費。聞くと、ガソリン車よりも燃料費、自動車税がかからない分、年間20万円くらいは浮くとのこと。(走行距離によりけりですが)車検にしても、ガソリン車が油脂類や細かい部品類の交換を要するのに対し、BEVは作りがシンプルなので交換部品がほとんどなく安上がりだとか。
 維持費に関連してトラブルの有無も気になるところ。壊れて修理代が高ければ、燃料代やら車検代が浮いても結局出費は変わりません。これについては、導入当初のモデルSは急に走行不能になるなどトラブルがあったが、モデル3、特に中国製モデルについてはクオリティが向上していてトラブルとはほぼ無縁だとか。素晴らしい。
 中国製になってクオリティが向上したとのことだったけれど、USフリーモント製とは明確に違うのか気になりました。セールスマン曰く、中国製の方が高品質でしかも安いとのこと。フリーモント製もだんだん品質向上してきていたけれど、それでも中国製の方が良いそうな。確かにクオリティの面ではボディのチリも綺麗に揃っているし、塗装面も綺麗で、かつて低クオリティと叩かれた頃と比べると隔世の感すらありました。目に見えないところがどうなっているかは気になりますが、多分大丈夫でしょう。知らんけど。
 中国製になってモデル3は急に安くなったけれど値付けはどうなっているのかということについても聞いてみました。セールスマン曰く、中国製になって原価低減が進み、安い値段を付けられるようになったが、現在の価格はアメリカでの販売価格よりも安いくらいで、そう遠くないうちに値上がりしてしまうはずなので、お求めはお早目に、とのこと。モデル3 スタンダードレンジは約444万円と一つ下のセグメントの日産 リーフの60kwhモデルと変わらないくらいの価格設定で、確かにお買い得。というか、リーフを選ぶ理由が見当たらない。

 以上がテスラ モデル3に乗ってきた報告でした。
テスラを扱き下ろしてやろうとか考えていましたが、それなりに説得力のある製品になっていて、どちらかと褒めるような内容になってしまいました。じゃあ、次のクルマにテスラが選択肢に入るのかといわれると多分入らないような気がします。ロングレンジ以上のグレードを選べば速いし、それなりに楽しいし、経済的だしでいい選択だとは思いますが、モデル3試乗を終えテスラを後にして、愛車のランサーに乗ると「やっぱりこれだよな」と。モデル3は合理的な乗り物ですが、合理的過ぎてどうにも愛着の対象にはならないような気がしてならなかったです。愛車は夏場エアコンの効きが悪かったり、日によって今一つ調子がよくなかったり、燃費が悪かったりと色々不完全な部分はある反面、無駄なダッシュ力や無駄なコーナリング性能のような飛びぬけた部分もあるという、あたかも生き物のように得意・不得意があるところに愛着を持てているのかもしれません。クルマに対する愛着がどのようにして生じるのか、今一つ分からないので、モデル3にこれ以上何を求めるかもよく分からないのですが、この愛着を持たせるような何かが備わればモデル3も欲しいクルマになると考えています。まったく論理的な結論ではないですが、「モデル3は合理的で良いクルマだけれども、どうにも愛着を持てそうにないので欲しくはない」というのが結論です。そうそう、走らせる楽しみはモデル3にも備わっていたので、内燃機関のクルマに乗れなくなってもクルマで遊び続けられそうだなと感じ、安心しました。これが一番大きな収穫かもしれません。

 鼻持ちならないテスラ&BEV信者の鼻を破壊する件については、また今度。実際、一製品としてのテスラが優れているからと言って環境問題に対する完全な救世主ではないと考えているので。

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