デフ・レパードはすごい!〜英国が生んだダイアモンド・ヒーローズ〜:オジ&デス対談 第9弾 Vol.4
Vol.3では、Def Leppard(デフ・レパード)の「音響の凝り方」がハードロック/ヘヴィーメタル(HR/HM)としてはかなり異色な方向であるという話をしてきましたが、今回はもう少し彼らの音楽のルーツや同時期のどんなミュージシャンと比較できるのかといった話などをしていきます。
デフ・レパードの音楽的ルーツ
デス:Bon Joviの対談のときに、良い悪いは別として、Bon JoviってバンドはイメージされているほどはHRに軸足を置いているわけではなくて、ルーツにあるのはBruce Springsteen(ブルース・スプリングスティーン)のようなハートランド・ロックだったり、もっと古いルーツロック、ブルースロック、あとはThe Rolling Stones(ローリング・ストーンズ)やThe Beatles(ビートルズ)とかからの影響の方が強く感じられるって話をしたよね。それはある意味でデフ・レパードにも同じことが言えて、やっぱり一般的なイメージほどはHRがルーツにあるわけじゃないよね。
デス:ボウイとか、T.REXとか。ビートルズやQueen(クイーン)の影響もあるよね。あと、『Hysteria(ヒステリア)』のアルバム全体が物語のように繋がっている感じやサンプリングの使い方なんかはPink Floyd(ピンク・フロイド)っぽさもあるし、The Who(ザ・フー)のコンセプトアルバム『四重人格(Quadrophenia)』やAlice Cooper(アリス・クーパー)っぽくもある。
デス:オジサンもよく知ってるクイーンで言うなら、オペラティックなクイーンだけでなく、〈Another One Bites the Dust(地獄へ道づれ)〉のようなシンプルでダンサブルなクイーンからの影響も強いよね。ボーカルやギターを重ねまくって音を積み上げていく感じも、クイーンや後期のビートルズっぽい。ギターもオーバーダブを沢山しているから実は重厚なんだけど、くどくはなくて、全然鳴ってないパートも結構ある。
デス:あと2006年のカバーアルバム『Yeah!(Yeah!~イエーイ!)』やそのアウトテイク群、シングルのB面とかに収録されたカバーソングなどを見ると、他に色んなグラムロック勢やIggy Pop(イギー・ポップ)のようなプロトパンク系とか、HR/HM以外からの影響が強いことがわかるんだけど、この辺のミュージシャンたちは、デフ・レパードと同世代くらいのパンク/ニューウェイブ系の人たちに強い影響を与えた人たちなんだよね。
デス:うん。そういった人たちから、パンク/ニューウェイブとは正反対の場所から出てきたとされるデフ・レパードが、実は同じくらい影響受けているということ、それがデフ・レパードの独自性に繋がってると思う。つまり、ここでもかつては相容れない対極のものと扱われてきたジャンル同士が、デフ・レパードという一つのバンドを通じて共存しているわけだよ。
デス:そうだね。HR/HMから影響を受けているにしても、先輩格のHR/HMバンドはまだ数が少ないからね。そこから受ける影響は限定的になる。
デス:うん、たぶん、そのくらいじゃないかな。
デス:やっぱ第3世代~第4世代くらいになると、少なくともデビューする頃まではHR/HMしか聴いてない、HR/HMからしか影響を受けていないHR/HM新世代みたいなのが出てきちゃうっていうか…。
デス:もちろん、それが必ずしも悪いとは言わないし、そういう世代のバンドがみんなダメなわけではないんだけど、ただ、上の世代の強みっていうのは、HR/HMの原形とされるバンドだけじゃなくて、全然違うジャンルのバンドたちからも影響を受けて、それをHR/HM的なものに落とし込むっていう試行錯誤をしてきたことにあるように思う。その作業があるからこそ、楽曲も多様で結果的には「単なるHR/HM」ではないものになっている。
「手段」としての学びの薄っぺらさ
デス:程度の差はあれど、すごいバンドってのはさ、ジャンル問わず多かれ少なかれそういうことができてるんだよね。HR/HMしか脳がなさそうなバンドでも、スゴいバンドってのはそれなりに多彩なことやってる。
デス:映画とかもそうだよね。映画しか観ないで映画作ってるひとって…才能があればそれなりのものは作れるけど、一方で限界を感じるところもあるよね。
デス:本当に映画しか観ないって人はあんまいないだろうけど、“映画愛“に全振りして偏り過ぎているように見えるクリエイターはいるよね。
デス:90年代の後半くらいだったかなぁ、日本のどっかのライブハウスの店長がテレビで「最近の日本の若いバンドの人たちっていうのは、日本の音楽しか聴いていないことが気になる」みたいなことを言ってたんだよね。昔は日本でロックバンドをやろうって人たちは、日本のロックだけじゃなくて洋楽も聴いているし、どちらかと言えば洋楽中心だったりした。
デス:うん。やっぱり日本のロックバンドの数が増えたことで、日本のロックバンドだけ聴いて満足しちゃうっていうパターンが増えてるんだと思う。でも、それだとどうしても見落としてしまうことが出てくるんだと思う。映画しか見ない映画クリエイターとかもそうだと思う。
だからってね、変に色気だしてあれにもこれにも目配せしてってやるのもつまんないんだけど。そこをちゃんと取捨選択できるかってのもある種の才能のうちかもね。
デス:そう!そうだよね。
デス:そうなんだよ。
デス:つまり、そういうのはあざとくて薄っぺらい。音楽だとそういうバンドって、ああ、これは「ロックという言葉でひと括りにはできない音楽をやっている」って言われたいと思って音楽やってんだな、って感じがするんだよね。
でも、Bon Joviとかデフ・レパードとかは、自分たちが受けてきた影響を自然に音楽にした結果、たまたまHR/HM寄りの自分たちだけの音楽としてアウトプットしている感じになっている。まぁ、最近のBon Joviは言うほどHRっぽいかと言うと微妙なわけだけども。
デス:激しい曲もあるし、そういうのはちゃんとHRっぽいからね。
デス:そうだね。
デス:うん。〈Photograph(フォトグラフ)〉とか曲調だけ聴くと、爽やかじゃん?爽やかで、ちょっと青春ってかんじ。
デス:(笑)。で、あの曲ってリズムとかは割とダンスミュージックっぽさがあるんだよね。
デフ・レパードの分岐点
デス:ところで、デフ・レパードってある時期まではプロデューサーがAC/DCと同じロバート・マット・ランジなんだよ。
デス:うん。だから『High&Dry(ハイ&ドライ)』なんかはけっこうAC/DCっぽさがあるでしょう?
デス:そうそう。もうちょっと粗野でギターも喧しいかんじで。
デス:そうそう。ハイトーンでふり絞る、みたいなね。
デス:そう。それが3rdの『Pyromania(炎のターゲット)』くらいから変化していくよね。
デス:そうやって、むき出しのストレートな演奏をやっていた『ハイ&ドライ』から、もう少しエフェクトとかを効果的に使うようになった『炎のターゲット』を経て、『Hysteria(ヒステリア)』でその音作りが極まる、というか。ロバート・マット・ランジもその頃になると、ニューウェイブ系のThe Cars(ザ・カーズ)なんかをプロデュースした時の感覚をデフ・レパードにも取り入れるようになった印象というか。
デス:あとマット・ランジは、Michael Jackson(マイケル・ジャクソン)をデフ・レパードのライバルに想定したうえでプロデュースしてたらしい。
デス:だよね。でも、『ヒステリア』に入ってる〈Love Bites(ラブ・バイツ)〉なんかは、ちょっとR&Bっぽいなって思ったし、フィル・コリンも「レコーディング中はマイケル・ジャクソンの『Thriller(スリラー)』を意識していた」とか「〈Beat It(ビート・イット)〉などでエディ・ヴァン・ヘイレンがギターを弾いてるのを聴いて、インスピレーションを得た」みたいなことを証言してたりするんだよ。
デス:その次の『炎のターゲット』収録の〈フォトグラフ〉は、第一印象では『ハイ&ドライ』の路線に聴こえなくもないんだけど…。
デス:そうだね。そこはビートルズとかクイーン路線というか。
デス:うん、そうだね。で、また『ヒステリア』の話なんだけど、あのアルバムってスロースタートなんだよね。一曲目の〈Women(ウィメン)〉は、ミドルテンポ…
デス:そうだよね。で、普通、あの時代のHR/HMは、一曲目は活きの良いガツンとくる曲から始まるってのが多いわけだよ。
デス:もしくは厳かに始まるパターン。でも、『ヒステリア』は、その逆というか、ゆっくり静かに始まってじわじわと盛り上がっていくっていう作りになってる。
アルマゲドンを食らわせろ!
デス:この前、どっかで読んだんだけど、『ヒステリア』発売当時のBURRN!のアルバムレビューだったかなんかで、「最初聴いた時は駄作だと思ったけれど、何回も聴いているうちに、『これはすごいですよ』みたいになって、さらに聴いてるうちに『これはとんでもない傑作だ』って確信した」みたいなことが書かれてたらしい。で、その同じライターだったかな、「これはThe Police(ポリス)やRush(ラッシュ)のアルバムと同じ感覚で評価するべきものかもしれない」みたいなこと書いていたらしいんだよね。
デス:そうなんだよ。でも、そういうことについて、HR/HMのファン以外の人が読む場でちゃんと評論家から言及されてるのをあんまり見た覚えが無くてさ。ちなみに海外の音楽メディアには「『ヒステリア』はU2やPrince(プリンス)のファンにもコレクションに加えさせることに成功した」って書かれてた。
デス:あ!ちょっと!この曲ね(BGMでかかっていた〈Rock of Ages⦅ロック・オブ・エイジ⦆〉のイントロ〜Aメロのあたり)!この曲も、ギターが、こんなにHR/HM味がない…
デス:〈ロック・オブ・エイジ〉ですよ。
デス:この曲は『炎のターゲット』収録だよね。
デス:HRバンドなのに、ここまでギターを止めたがる(笑)。
デス:でもね、じゃあ、だからといって、デフ・レパードはギターを止めがちだからあんなもんはHRじゃないって言われているか、っていうと、言われてないんだよね。
デス:だから、不思議な立ち位置のバンドだよね。
デス:不思議だし、独特で、他にそういうバンドって思いつかないよね。
デス:曲調もそんなアホっぽくないしね。
デス:それ、T.REXとかもそうなんだよ。なんか一見すると意味の分かんない曲名だったり。〈Telegram Sam(テレグラム・サム)〉とか〈Metal Guru(メタル・グルー)〉とか。で、歌詞も普通に読むと意味がわからない言葉遊びになっていたり、実際には存在しない言い回しが出てきたり。後期のビートルズにおけるジョン・レノンの曲にもそういうのがある。
デス:そういやメンバーの誰かが『ダイアモンド・スター・ヘイローズ』というタイトルはT.REX的な言葉遊びの感覚で付けたと言ってたはず(編集註:T.REXのGet it onの歌詞の一部から取ったと、ジョー・エリオットが話している)。でも、なんか、ビートルズとかT.REXがそういうことやると、「言葉遊びだけで歌詞作るなんてパねぇ」「ジョン・レノンやマーク・ボランのような天才は違う!」みたいな感じになるのに、デフ・レパードに関しては言われないのはどういうことなの?みたいなさ。
デス:前者はLou Reed(ルー・リード)の〈Satellite of Love(サテライト・オブ・ラブ)〉へのオマージュらしいけど、ここでルー・リードが出てくるのもあの時代のHR/HMバンドには珍しい。あとオレ、〈Armageddon It(アーマゲドン)〉は曲名だけ見たときはゴツい曲だと思ってたんだよね、「おまえにアルマゲドンを食らわせてやるぜ」みたいな。
=Vol.5に続く=