スパイダーマンあれこれ:オジ&デス対談第二弾〜後編〜
『スパイダーバース』公開をキッカケにスパイダーマン話をしているオジ&デス。後編では主にアメスパの魅力について映像の特色や登場人物の描かれ方などから語っています。そして、デス・バレリーナは「ヒーロー映画はその原点を忘れずに価値観の更新をしていくべきなのではないか」とまとめてます。
『アメイジング・スパイダーマン』:埋もれてしまっている名作映画
オジサン ボク、やっと2を観たんですけど、アメスパは…名作ですね!
サム・ライミ版から時間が経ってなかったのと、あの挙動不審でギークっぽいトビー・マグワイア演じるピーター・パーカーと違って、アメスパの方のアンドリュー・ガーフィールドが演じるピーター・パーカーはしゅっとしたイケメンでスケボーしてて、蜘蛛に噛まれなくても運動神経良さそうで…「これ、ピーターなの?」って思っちゃったンですけど、ちゃんとピーターだったんで2で打ち切りになっちゃって残念だなって思います。
デス 『スパイダーバース』の中年になったピーター・B・パーカーなんかは、ガーフィールド君のピーターが中年になったらあんなかんじになりそうだよね。
『スパイダーバース』の主人公マイルスはストリートカルチャー好きで、トビーのピーターはもうちょっとオタクっぽく、ガーフィールド君のピーターはギークとかナードっぽさもありつつ、と同時に、部屋にもうちょっと毛色の違う音楽や映画のポスターが貼ってあるんだよ、ラモーンズとかミケランジェロ・アントニオーニの『欲望』とかさ。スケボーも好きだし。お約束のようにクラスのガキ大将みたいなヤツと喧嘩するにしても、トビーの方は完全にいじめられっ子ポジションだけど、ガーフィールド君は体格のいいヤツに負けてはしまうけど、ただのなよっとしたいじめられっ子じゃないかんじ。
オジサン トビーの方のピーターは鞄の中にゴミ入れられたりしてそうで、ガーフィールド君の方はどつかれる、みたいな違い…
デス そうそう、で、勝てないけどどつき返すってかんじ。で、『スパイダーバース』のマイルスをみてるとアメスパっぽさもある。
オジサン 確かに。両方混ざってる感じがありますよね。
ガーフィールド君の方のスパイダーマンって、要するに、原作にはけっこう近かったのに、トビーのピーターにアイデンティファイしていた中二病的マインドの観客(男)にとっては「これ、全然俺じゃない」ってかんじのキャラになっちゃってたんじゃないですかね。
デス あとね、同じ時期にもうMCUが始まってて、そっちはもう大成功してたわけじゃん。そっちとは全然リンクしない形でやってたし、リブートだからサム・ライミ版をなぞっている部分もあるせいで、観客にとっては繰り返しに見えてしまうところもあった。特に1の方ね。かと言ってX-MENみたいに登場キャラクターや設定を一新ってわけにもいかなくて、ちょっと埋没してしまったというところがある。そういう、タイミングとかが不運な作品ではあるんだけど、アメスパにしかない魅力があるし、それが『スパイダーバース』に受け継がれてると思うな。
で、映像の特徴を比較すると、サム・ライミはひたすらダイナミック。摩天楼をびゅんびゅん行くスウィング感とかね。アメスパは、2になるとダイナミズムも出てくるけど、それよりも映像がスタイリッシュっていうのが特徴かな。ネオンの使い方とか…。2のヴィランは電気を使うエレクトロってやつで、そいつのせいで街が停電と送電を繰り返す場面で、その電気の明滅が、劇中の音楽とリンクしたり、わりとオシャレ。アメスパの監督のマーク・ウェブはもともとミュージックビデオ出身だから、音楽と視覚効果のコラボが得意ってかんじ。
オジサン なるほど。
で、サム・ライミの方はもうちょっとホラーとかサスペンスのテイストもありますよね。スパイダーマンだってことがバレそうになる〜どきどき、あ、バレなかったーっていう場面がいくつかあるじゃないですか。アメスパにはそういう場面はないですよね。
デス ヒロインももうピーターがスパイダーマンだって知ってるしね。で、もうちょっと青春映画っぽい雰囲気があるよね。
オジサン ヒロインと戯れ合ったりする場面とか青春映画ですよね。ああいうのとか、中二病っぽい観客には眩し過ぎて映画館で死んじゃったんじゃないですかね?
デス 死んじゃうのかよ!
「ヒロイン」と「ヒーローの親友」の描かれ方
デス でさ、サム・ライミ版でも当然恋愛とか友情とかが描かれていたけど、割りと記号的な描かれ方で、はっきりいってそこまで感情移入できない。少なくとも今の目で見るとね。サム・ライミのMJは、ポリコレ的に言ってもあんまり正しいヒロイン像じゃないっていうか。
オジサン そう!で、ヒロインの話をしようと思うんですけど、アメスパとサム・ライミ版のヒロイン、人間としての描かれ方が雲泥の差ですよね。
サム・ライミの方は、ヒロインがいないと話にならないのでとりあえずヒロイン作りましたって感じの「機能」でしかない、MJというのがどういう女性なのかわかるようなわからないような…。なんとなくわかったところで「この子のこと好きになる?」みたいな感じで。
いや、あの、「別に特別じゃないかもしれないけれどピーターにとっては特別な子」っていう設定ならわかるんですけど、クラスの人気者でモテモテでみたいなことになってるのが、腑に落ちないんですよ。学校で威張ってる変な男と付き合ったり、金持ちの御曹司と付き合ったり婚約したりするじゃないですか?なんかステレオタイプ的な「男をATM扱いする女」みたいで…。
デス まーね。ただ、あのMJは若干背伸びしている風に描かれているところもあって、人気者であるがゆえに人気者らしく振る舞わなければいけないという強迫観念にとらわれているようにも見えるし、女優を目指しているから華々しいものへの憧れもある。でも、家ではDV野郎みたいな親父がいて、実はそういう悩みがあるんだけど、人気者でみんなから憧れられるキャラだから、そういう側面を見せられないっていうね…
オジサン ただ、その前提である「皆の人気者」である理由がよくわからないから、すごく雑なキャラになってると思うんですよ。そこがサム・ライミ版の一番のモヤりポイントなんですけど…
デス うん、わかるわかる。でも、まぁ、2000年代のはじめの作品だから、あんなもんかなってのもある。
オジサン そうですよね。あの頃から考えたら、ハリウッド映画における女性やマイノリティの描かれ方ってずいぶん変わってきてますからね。アメスパの方のヒロイン、グウェン・ステイシーはすごくいいですよね。人間として魅力的に描かれてる。ピーターより頭よくて、彼女が色々考えたり工夫したり作ったりすることでピーターを助けてるじゃないですか、だから、見ていて、この2人がカップルになるのはわかる!って思います。
デス うんうん。
オジサン で、どちらのスパイダーマンも自分がヒーロー活動をすることで、身の周りのひとが狙われるんじゃないか、危ない目に遭うんじゃないかって心配してヒロインと距離をとろうとする、その際にも、アメスパのヒロインの「お前が勝手に決めてんじゃねーよ」ってかんじがいいです。
デス そうそう。ピーターと親友ハリー・オズボーンの関係にも同じようなことが言えて、サム・ライミ版では2人の友情はどこか記号的で、よくあるややホモソっぽい男の友情?みたいなものとして描かれていたけど、アメスパ2の方は2人のやりとりがもっとコジャレてる。久々に再会するっていう設定で幼なじみらしい打ち解け方をして、その表情とかも、気持ちが通じた瞬間のほんとうに嬉しそうな感じとか…
オジサン そうですね、最初ちょっとツンツンしてますからね。
デス まぁ、それゆえにその後の展開の哀しさが活きてくるよね。友情にしても恋愛にしてもアメスパはかなりアップデートされていて、今のMCU作品と比較しても遜色がないくらいだと思うし、青春映画風のちょっと甘酸っぱい、そこそこルックスがいいひとがでててキラキラしてるのも魅力なんだよ。
オジサン ボク、何度観てもガーフィールド君の首が長すぎて…でも『スパイダーバース』のピーターも長いんで…。
デス 『スパイダーバース』のピーターはもしかしたらガーフィールド君に寄せた可能性はあるよね。
オジサン そうですね、幻のアメスパ3を意識して。
デス ね、アメスパはサム・ライミ版以上に3部作であることが前提になった作りだったから、2はすごく続編が気になる終わり方になってるよね。
オジサン 1をもう少しコンパクトに作っておけばよかったのかもしれないですよね…
デス うーん、これ、難しいんだよね。スパイダーマンが何故スパイダーマンになるのか、っていう話は世界的にどのくらい知られてるかっていうと微妙で、知らないひともいるんだよね。描いたら描いたで「また蜘蛛に噛まれるとこからかよ」ってなるひともいるし、カットしたらしたで「なんであの子はあんな能力を持ってるの?」ってなるひともいる。
オジサン 『スパイダーバース』で敢えて、「もう1回だけ話しておこう…」って全員のやつやったの、あれはよかったですよね。おもしろかったですよね。
デス あれ、『アクアマン』じゃないけど、ほんと手際よくやってたよね。
オジサン そう。で、過去にスパイダーマン作品があったから、可能だったことですよね。
デス 初めて見るひとには「そういう成り行きなのね」ってなるし、通から見てもネタっぽくギャグっぽくて笑えるし、過去の積み重ねがあってこその表現ってかんじするよね。
オジサン で、幻のアメスパ3に話を戻しますけど、一般的に言って三部作の真ん中って「つなぎ」になってて、1と3に比べると単体の作品としてはあまり面白くない場合ってあると思うんですけど、アメスパ2は1より断然面白いから、これは3に期待するでしょ!って思うと「はい、作られませんでしたー」っていう…。けっこう寂しいです。2の最後で「次はこれとこれとこれが出てくるのね!」ってわくわくなるのに…。
デス あのヴェノムもアメスパ3でも出る予定だったしね。
オジサン ただ、アメスパ3ができてたら、『ホームカミング』はなかった可能性があるし、『ヴェノム』もなかった可能性があるわけですよね。なので、アメスパ3を作っていたら大傑作になってんじゃないかって気持ちもある一方で、『ホームカミング』好きだし…
デス あのね、ヴェノムのスピンオフを作りたいって話は以前からあったらしいから、アメスパ3を作ってたとしてもヴェノムはあったかもよ。ただ、ストーリーは違ってただろうし、ヴェノムがあんな可愛い路線にいけなかったかもね。
オジサン そうなんですよね。なので幻のアメスパ3に思いを馳せつつ、そのおかげでできたトム・ホランド主演のスパイダーマンの話を…
新しさと「新しげなこと」の違いを意識して旧作へのリスペクトを忘れるな
デス うん、『ホームカミング』は…トビーやガーフィールド君以上に少年らしい少年であるトムホが演じてて、昼間のシーンが割りと多い気がする。サム・ライミ版は思春期的な内向性が強く、アメスパはハイティーンの青春映画っぽいけど、ホームカミングは修学旅行っぽいっていうか、思春期の屈折したかんじより、もっと無邪気なかんじがある。
オジサン 思春期云々みたいなの、もういいよねってかんじですかね。
デス そうそう。
オジサン トムホの個性ってのもあると思うんですけど、そういう方向でこじれてなさそう。インスタとか見てると兄弟が多いみたいでワイワイするのが好きなのかなって印象がありますね。あと、彼はもともとスパイダーマンなのでは?ってかんじに運動神経がずば抜けてるんで…
デス あと、彼はアドリブでいろいろするってのも有名で、大先輩役者であるロバートダウニーJr.にしがみついてアドリブ連発するとか、アドリブで大胆なことをやるって話で、役者としてのポテンシャルが高そう。
オジサン 最初に見た時は、すげー調子こいてるしウザいし、「なんじゃこりゃ」って思ってたんですけど、だんだんにピーター・パーカーはこうでなきゃね!ってことがわかってきたので、続編の『ファー・フロム・ホーム』も楽しみです。ヒロイン(MJ)も頭いいしリーダーシップを発揮するような子でいいですよね。
デス そうそう。それに今度のヒロインは有色人種の女の子なんだよね。親友もアジア系の子だし。
オジサン アジア系の友達がオタクっぽくて変なガジェットとか考えてくれるっていうの、グーニーズ感ありますよね。
デス ああ。わかるわかる。作品自体にもグーニーズっぽさっていうかジュブナイルっぽさがあると思う。
あ、あとついでに、DCに対する苦言を述べておくと、DCの映画は、王道でベタなことをやることへの躊躇がありすぎなんだよね。マーベルは、その辺が分かってるから、『ホームカミング』『ファー・フロム・ホーム』でもスパイダーマンのテーマソングを、それもオーケストラアレンジで使ってるのに。
『スーパーマン』の、ジョン・ウィリアムスのあのテーマソングをDCEUでは使ってないとかさ!『マン・オブ・スティール』でいきなり使うのに躊躇があるなら、たとえば『ジャスティス・リーグ』でスーパーマンがカムバックしたときに使うとかさ、「お!ここで出してくるか!」ってタイミングで使えばいいのに…
オジサン あー、それ使い所でしたね!
デス でしょ?そうなんだよ!でも、それ逃しちゃったから…
オジサン アホですね。
デス 今後、使う機会を作ろうと思えばできるんだから、マーベルを見習ってちゃんとしてほしい。
オジサン マーベルは『スパイダーバース』でもちゃんとスパイダーマンのテーマを使ってましたからね。
デス スパイダーマンのスーツも、サム・ライミ版からアメスパへとスタイリッシュな感じに進化していったけど、『ホームカミング』ではまたもう少し古典的なデザインの明るい青の衣装に戻ってるんだよね。なんて言うか、むやみやたらに「新しげ」なものを追及するんじゃなくて…
オジサン じゃあ、やっぱりスーパーマンは赤パン履くべきですか?
デス それは、それは別に赤パン履いたからって…でも、赤パン履いてかっこ悪くならないならいいよ。まぁ、赤パン履くにしてもさ、ブリーフ型はやめるべきだよね。
オジサン トランクス型にするんですか?
デス いや、クリストファー・リーヴ版見たらわかるけどさ、よく見るとボクサーパンツっぽい形なんだよね。もろブリーフじゃないんだよ(※実はこれは勘違いで、ブリーフっぽくない形の赤パンは『スーパーマン・リターンズ』のブランドン・ラウスの衣装でした)。ハイウエストのブリーフ型にしたら完全に変態にしか見えないから、そこはうまい具合にアレンジして…ってことはできなくはないと思う。
オジサン 青タイツの上に赤パンってだいぶヤバいですからねぇ。ヘンリー・カヴィルも「俺、赤パン履きたくない」って言いそう…
デス 上から履いてる風じゃなくて、もともとそういう色の切り替えになってるかんじに…
オジサン それはそれで結構マヌケな気がしますけどね…
デス でも、アイアンマンもそういう配色だよ。
オジサン アイアンマンはパワードスーツの継ぎ目ですから。
デス だから、あれも継ぎ目っぽくすればいいんだよ!
オジサン 人体なのに継ぎ目っぽくするんですか?
デス いや、だからスーツの継ぎ目…
オジサン 「なんで服のそこに継ぎ目入れてんだよ!」ってツッコミ成立しちゃうんですよ笑
デス もしくは、赤や黄色のベルト復活させるとか…。ブーツ手前まで全身同系色っていうのも違和感あるんだよねぇ。
オジサン のっぺりしますもんね。
デス なんかDCをめっちゃdisってるみたいになってて、DCファンに怒られそうだけど、オレはコミックスはどちらかと言えばDC派かもってくらいで…。
オジサン なんか買ってきたなぁって思うと、ブリーフ野郎のコミックスのことが多いですからね。あ、ブリーフ野郎っていうのは、ブリーフっぽい衣装を着ているヒーローのことなので、バットマンも含みます。
デス っていうか、ほぼスーパーマンとバットマンを指す言葉になってんじゃん。
オジサン そうですね。ウルヴァリンとかブリーフ野郎って呼んでませんからね、ボク。
デス とにかく、DCはもともとはコミックでも映像でもマーベルと遜色がない作品を出してるんだから、頑張ってほしいなって思ってます笑
オジサン ちょっと脱線しちゃいましたけど、スパイダーマンについてはもう大丈夫ですか?
デス うん、そうだな…。『ファー・フロム・ホーム』は今年の夏に公開だし、『スパイダーバース』も続編が作られそうだし、『ヴェノム』の続編もあるし、他にもシルクやブラックキャットやモービウスなどスパイダーマン関連キャラのスピンオフと、スパイダーマン関連作品はこれからも次々公開になって目が離せませんね!
オジサン 楽しみですね。
第二弾対談はこれにて終了。
第三弾もよろしくお願いします。
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