Bon Joviはすごい!〜ハードロック・ヘヴィーメタル雑語りへの反論〜:オジ&デス対談第8弾 Vol.7
「ぬいぐるみと人間が対談するシリーズ」史上、過去最長の長さになっている、今回の対談ですが、ロック親父の雑語りへの反論は充分に出来たように思うので、ここからは「Bon Joviのすごいところ」についての話をお届けします。Bon Joviを敬遠していた人にも、これを機にBon Joviを聴いてもらえたら嬉しいです。そして、Bon Joviファンの皆さんは「自分が思うBon Joviのすごいところ」をコメント欄や記事のシェアで教えてください☆
Bon Joviのスター性
デス:うん。この対談は、モスクワ・ミュージック・ピース・フェスティバル(以降「モスクワ・フェス」)の話から始めたから、オレとしては、改めてあのショーでのBon Joviのスゴさを語りたい。
デス:すでに、Vol.1〜3とかで、Blood on Bloodが良かったとか、あの出演者の中でトリを務めるのに相応しかったのはBon Joviだろう、とかそういう話はしたけど、もうちょっとBon Joviのパフォーマンスに関して話しておきたいのね。で、登場シーンの話はしたんだっけ?
デス:まぁ、フェスだし、当然、会場はデカいスタジアムなんだけど、Bon Joviの一曲目のLay Your Hands on Meのイントロで、ジョン・ボン・ジョヴィがサプライズで客席の後方から登場するんだよね、観客の声援に応えながら客席の真ん中を花道みたいに通ってステージに上がる。
デス:そうそう。その真ん中の通路を、ソ連の兵士が両側に並んで警備して、その外側に観客がいる状態。通常は、ミュージシャンはステージから登場するものだけど、ジョンが客席後方からステージに向かって歩くっていう演出になってる。しかも、警備兵たちに合わせるようにソ連の軍服(コート)と軍帽をかぶって。
観客、特に中央の通路のすぐ脇にいる人たちにしてみると、ジョンは目の前を通っていくわけだよね。警備兵たちも間近でジョンを見てて、観客も軍人もみんなジョンとハイタッチとかしてる。
デス:あのLay Your Hands on Meって曲にはドラム中心の長いイントロがあるから、盛り上げながらあの演出をする時間的余裕もあるわけなんだけど、あの曲って、他のライブでもたいていSEであの長いイントロが始まって、途中からそこにティコ・トーレスの生のドラムが加わって、曲の本編が始まる瞬間に他のメンバーも全員出てくるみたいな演出が多い。その場合も、ジョンは何小節か分だけちょっとだけ遅れて歌いながら登場したりね。
デス:そうそう。で、モスクワでは、客席後方からジョンが登場するっていう、あの演出がとてもカッコ良いっていうのがあるんだけど、なによりジョンはあの登場の仕方が特別にサマになるんだよね。
デス:ロックバンドって、ヴォーカルの人がフロントマンってことが多いけど、そうじゃない場合も、もちろんある。いや、もちろんステージ上ではヴォーカルが位置的にはフロント(ど真ん中)にいるんだけどね。実質的なバントの「顔」という意味でね…
デス:うん。で、やっぱりBon Joviでそのポジションなのは、ジョンだから。
デス:そうそうそう。たとえば、他のハードロック/ヘヴィーメタル(以降、それぞれHR/HMと略す)のシンガーで考えると、正直あのフェスに出ていたMötley Crüe(モトリー・クルー)のヴィンス・ニールがあれをやってジョンほどにサマになるかって言うと、ちょっと微妙なんだよね。
デス:ならなくはないと思うけど(笑)。
デス:あとね、場合によっては、ああいう演出って少し嫌味になったりもするじゃん?「カッコつけやがって」みたいなさ。あれが、まぁまぁ嫌味なく、ナチュラルにできて、それでいて「役不足」みたいにも「キャラ崩壊」みたいにもならないひと、そういうスターでありヒーローでもあるっていう、そういう存在感があるジョンがいるって時点で、もうトリを飾るべきなのは今から振り返ってもBon Joviしかいないよね。そういう説得力がある。
デス:うーん、選曲はね…、基本的に、あの時点での最新アルバム『New Jersey』とその一つ前の『Slippely When Wet』っていう2大ヒットアルバムの…
デス:うん。フェスだから曲数も限られるし、選曲については、手っ取り早く「ネットで曲目を調べるなりYouTubeとかで聴くなりして、直に確かめてください!」って感じで。
デス:そうだね。あと、衣装についてなんだけど、あの時って、まだ80年代だから衣装もいかにも“80年代のハードロック然“としてるんだよね。それは、他の出演バントもなんだけど。で、そういうファッションがさ、ジョンはすごく似合うし、衣装に負けない華がある。
Vol.4でも、Bon Joviは『New Jersey』くらいから音楽性やヴィジュアルが変わっていったっていう話はしてるけど、ジョンの髪形もロングヘアではあるけど、モスクワの頃は以前ほどはセットで膨らませてないんだよね。スプレーでぶわぁ〜っとした感じでは無くて、わりとナチュラルなロングヘア。
デス:だから、ステージ衣装も、それ以前ほどにはカラフルにヒラヒラはしてはいないんだけど、それでもいかにもロックスターって感じの格好ではあって、一番上にロングの(おそらく)革ジャンを羽織ってる。背中にBon Joviって刺繍が入ってるやつで、そこに色んなロックバンドなんかのワッペンとかを沢山貼ってるんだよね。ああいうのも、今の視点で見ると、キワモノっぽくなりかねないけど、ジョンだとすごくカッコいい。
オレにとっては、Bon Joviって知った時から、そういうカッコいいバンドだったから、ああいうロックスターが当たり前のように存在するのが海外のロックシーンだと思っていたけど、自分がこの年齢になるまで、色んなバンドを見たり聴いたりしてきたことで、誰にでも出来ることじゃないって思うようになった。
Blood on Bloodという曲の構造とライヴ演出
デス:あとね、モスクワでのパフォーマンスに関して、この前、Blood on Bloodの話をした時に言い忘れたことがあって…。あの曲は、少年時代の悪友たちとの思い出についての歌だっていうことを話したけど、あの歌詞って、歌い手であるロック歌手とその友人2人を合わせた悪友3人組のストーリーになってるよね。
デス:うん。でさ、Bメロ冒頭の♪But we were so youngって歌詞のso youngの部分がバックコーラスの掛け合いになって、3回繰り返されるんだよね。♪But we were so young (♪So young) (♪So young)って感じで。
「俺たちは若かった」っていうのは、単に若さを懐かしがるのではなく、当然未熟で青臭いところもあったっていう恥じらいも含めての、なんだけども、so youngが3回続くことで、まるで登場人物の3人がそれぞれ続けて歌っているみたいに聴こえる。
実際にライブでも、最初のso youngをジョン、次のso youngをデイヴィッド・ブライアン(キーボード担当)、最後のso youngをリッチー・サンボラ(ギター担当)が歌ってるんだよね。つまり、リードボーカルとバックコーラスの掛け合いと歌詞の物語がリンクするように作られてる。
デス:でも、ああいうのも、あんまりにも工夫を凝らしすぎると、ちょっとあざとい感じになったりするし、Bon Joviの音楽性を考えると、3人ともここにいて3人とも歌っているんですよ!って感じで演劇的になりすぎてもダメなわけだよね。そういう登場人物が入れ替わり立ち替わり歌うオペラみたいなものを目指しているわけじゃないからね。
あくまで、歌っているのは、シンガーであるストーリーの語り手のみというのが基本的なルールで、そこに、幻のようにふと現れたダニーやボビーもさり気なく歌い返してくれている気がする…
デス:そうそう。そんな気になれることこそが今も友情が続いてることの証である、みたいなね。Bon Joviってリードシンガーはジョンだとちゃんと決まってはいるけど、実はメンバー全員がちゃんと歌えるバンドだから、その掛け合いのところがライブでも綺麗に再現ができるんだよね。
デス:そうそう、そうなんだよ。あのパフォーマンスがいいんだよ。ブレイクでは、デイヴィッドの代わりにアレックが、歌詞に出てくる3人のうちのひとりを演じてる、って感じで。
あれね、オレが今まで見た限りでは、他のライブではあの手を重ねるパフォーマンスはやってないんだよね。
デス:うん、たぶん、やってない。だから、あれは東西友好のモスクワ・フェスだから特別にやったパフォーマンスなんだと思う。Bon Joviが地元の仲良しのメンバーと組んだバンドで友情を保ち続けているのと同様に、ゴーリキー・パーク(ソ連のハードロックバンド、Vol.1参照)との友情やモスクワの観客との友情ってものを今後も保ち続けていきたいっていう気持ちを、そこにいる観客やテレビを通してフェスを観ている世界中の人々とも共有するために、あえてそういう視覚的に“わかりやすい“ことをやったんだと思う。
だから、日頃のライブではそこまではやらないけど、あの時は、間奏後に一旦静かになったところで、3人でステージの中央に来て、顔を見合わせながらしっかりと手を重ねるっていうことをやった。で、アレックはメンバーの中では日頃は控えめな感じのひとだから、ちょっと照れ臭そうにやってるんだよね。
デス:ジョンとリッチーは2人ともフロントマン気質だから、割とそこらへんは手慣れた感じでやってるけれども。
デス:ああ、そうだよね。
デス:そうそうそう。で、このパフォーマンスがさ、Bon Joviっていうバンドの軌跡とも絶妙にリンクしてて、当然そこまで狙ったわけではないにしても、今、振り返って見ると、よりグッとくるものがあるんだよ。
Bon Joviという物語
デス:あのモスクワ・フェスを挟んで行われていた、New Jerseyツアーってのは、世界中を回りに回ってものすごく過酷なものだったから、ツアー後にBon Joviはバンド解散の危機に陥っちゃうんだよね。
デス:ファンの間では割と有名な話なんだけど、New Jerseyツアーが終わった時には、もうみんな疲れ切ってて、飛行機降りてから別れも言わずにそれぞれ家に帰って、もう二度と一緒に演りたくないみたいな感じだったらしいんだよ。バンドのメンバー間にも色々あったのかもしれないけど、それ以上に、ツアーがあまりにも体力的に過酷だったから。
デス:で、ジョンもリッチーもそこから『Keep the Faith』までの休止期間中にソロアルバムを出して、それぞれに成功もしたし、もうこうなるといよいよ解散かな…って感じに世間は思ってたし、実際に本人達もちょっと解散を考えたりしてたらしいんだけど、でもやっぱり続けたいってジョンがリッチーに声をかけて、メインのソングライターであるその2人が久々に顔を合わせて曲作りを始めて、そこから、『Keep the Faith』ではまた同じ5人のメンバーでやることになったわけだよ。で、その『Keep the Faith』のジャケットが、その5人が手を合わせてる写真なわけだよ。
デス:当然、モスクワ・フェスのBlood on Bloodで手を重ね合ったときには、未来の話である『Keep the Faith』のジャケ写のこととか考えてないわけだよね。でも、ちょっと映画のようなストーリーがそこにある。
で、『Keep the Faith』の後でベスト盤である『Cross Road』を出して、その後、アレックはバンドを辞めちゃうんだけど、Bon Joviはアレックとの友情を大事にしているから、アレックの後でヒューイ・マクドナルドっていう後任のベーシストが入ったんだけど、彼にはあくまでサポートメンバーっていう立場でいてもらってた。要するに、今はバンドにはいないけれど、アレックも含む5人が今までもこれからもBon Joviの本来のメンバーなんだよっていう意思表示ね。
デス:うん。ヒューイに交替した『These Days』の頃から、ずっとそういう風にやってて、だからその友情を示すように、脱退後はプロのミュージシャンをほぼ引退してたアレックが2001年のBon Joviのライヴに飛び入り参加したこともあるし、2018年にBon Joviがロックの殿堂入りしたときは、アレックもヒューイも一緒にステージに上がって受賞して、壇上で一緒に演奏もしてるんだよね。
ヒューイが正式メンバーになったのはその少し前の2016年なんだけど、そろそろ長年貢献してくれたヒューイに正式メンバーになってもらうべきだよね、ってことで。ちなみにリッチーはプライベートな事情で2013年頃になって辞めたけれども、最近になって復帰のための話し合いを進めてるとも言われてる。
デス:まぁ、基本は、すごく友情を大事にするバンドだよね。みんな、ニュージャージー州出身の仲間だから。レコード会社はジョンのソロプロジェクトとしてデビューさせたかったらしいけど、他でもないジョンが「あくまでこのメンバー5人でバンドとしてデビューする」と突っぱねている。なんか、そういう、Bon Joviの今に至るまでの軌跡をみていると、そりゃ完全に順風満帆とはいかなかったわけだけど、バンドを辞めた後のアレックがライブに参加することがあったり、今言ったようにリッチーが戻りたがっていたりとか…。リッチーは自分のライブではBon Joviの曲もやってるしね。別に喧嘩別れしたというわけでもなさそうだから。
デス:なんか、こう、その後が悲惨な感じで「もう絶対に仲直りできない!」って感じになっちゃってたなら、あのモスクワでのパフォーマンスが淡くて切ない記憶になっちゃうけど、Bon Joviはその後も割とみんな仲がいいし、今言ってきたようにできるだけ友情を大事にしてるし、バンドを続ける努力をし続けてきてるから、そういうことを知った今の視点で見るとより感動的だったりもするよね。それは、音楽的な才能とはまた別のものかもしれないけども。
デス:もちろん、ミュージシャンってのは音楽がよくてナンボだから、こういう物語は必ずしも重要なわけではないし、一見すると音楽性とは無関係なミュージシャンのキャラクターとかヴィジュアルとかってものを、どのくらいそのミュージシャンの評価と結びつけるかっていうのは、意見が分かれるところではあるけれども。
デス:もちろん、音楽だけ聴いていたいってひとは音楽だけ聴いていればいいんだけど、ミュージシャンの「物語」ってものが好きなひとは多いよね。だからこそ、ミュージシャンの伝記映画とかドキュメンタリー番組とか自伝本ってあるわけじゃんね。雑誌でのインタビューもそう。全員ではないにせよ、ミュージシャン側もそういうものを見てほしいと思っていたりするから、時に自分たちで進んで伝記を作ったりする。もちろん、カート・コバーンの例のようにね、見られたくないプライベートな部分やデリケートな部分を興味本位で見られたり、いい加減な噂を流されたりってことになると、悲劇になるけれども。
デス:ちなみに、ザ・バンドの伝記映画では、そういう“真実とは?”って点にも触れられているんだよ。
デス:そうそう。で、いま、オジサンが言っていたように、特にロックミュージシャンってのは、「悲劇のミュージシャン」みたいな話が割と多いんだよね。若くして亡くなったり、波乱万丈な物語だよね。
デス:それを考えると、Bon Joviって基本的には、ポジティブなバンドなのよね。見ている側が鬱々とするような話があんまり出てこないし。
デス:マーベル映画を観るのと同じと言ったら語弊があるかもしれないけど、ロック界にも、そういうポジティブな語りは必要だよね。
デス:ヴィンスが車で事故って同乗していたHanoi Rocks(ハノイ・ロックス)のドラマーが亡くなったとか、ニッキー・シックスがドラッグで死にかけたとかもあるしね。
デス:そうそう、そうなんだよ。
哀愁のあるメロディと物語のある歌詞
デス:ところでさ、Blood on Bloodの曲調って、Tom Petty(トム・ペティ)とかBruce Springsteen(ブルース・スプリングスティーン)とかみたいなアメリカのシンガーソングライター系のロックミュージシャンからの影響をハードロック調で表現してるとも言えるよね。だから…というか、あの曲では、ジョンが必ずアコースティックギターを弾きながら歌うよね。れっどさん(珈音のこと)も行ってる96年の横浜での公演でも、最初はジョンがアコギ一本で弾き語りして、1番のサビが終わったところで、本来のイントロのパートがバンド演奏で入ってきて2番のAメロに続く…っていう演出になってる。そんな感じに、曲の構造としては、弾き語りっぽいものがベースになっているんだよね。歌詞も物語調だし。ああいうのってブルース・スプリングスティーンっぽい。でも、Bon Joviのことを、"侘び寂びのないパーティーロック"みたいに偏見を持って見てる連中って、当然Blood on Bloodとか聴いたことないし。
デス:あと、繊細で哀愁のあるドラマティックなメロディが多いんだよね。なんていうか、「カリフォルニアの抜けるような青い空!」とか「海!浜辺!金髪美人を探せ!」とか「カネ!ドラッグ!享楽的なロサンゼルスの夜!」とか「能天気!ウェイウェイ!」みたいな感じではあまり無くてさ。
デス:でも、そんなこと言ったら、The Beatles(ビートルズ)とかQueen(クイーン)とかOasis(オアシス)とかだって歌謡曲っぽいから。The Eagles(イーグルス)のHotel Californiaも歌謡曲っぽいし、日本であまり人気ないAlice in Chains(アリス・イン・チェインズ)も案外歌謡曲っぽいよ。
デス:Livin‘ on a Prayerのあの歌詞も、トミーとジーナっていう2人の物語の主人公がいて、第三者視点で歌われてるんだよね。あれも、ブルース・スプリングスティーンちっくというか。
デス:でもさ、別にブルース・スプリングスティーンのことは演歌っぽいとか言わないわけだよね。
デス:たぶん、ブルース・スプリングスティーンはやっぱ「レジェンド」みたいな扱いになってるから。要はBob Dylan(ボブ・ディラン)やNeil Young(ニール・ヤング)と同じで、基本的に大体いつも“偉い人“の枠。それに対して、Bon Joviはあいつらにとっては“ボーイズバンド風の売れ線HR“だから何やっても馬鹿にするみたいなところがある。
楽曲から考えるBon Joviのスゴさ
デス:Bon Joviってさ、歌メロらしい歌メロがある曲が多いけど、ビートやリズム重視な曲もあるんだよ。Bon Joviと同じ時代にそれなりに売れていたHRのバンドって他にもいるけど、色々と聴き比べてみると、Bon Joviが他よりもあれだけ売れたのって、それなりにちゃんとした特別な理由があるってことがわかる。やっぱり曲の構造がすごくよくできてるのね。これはBon Joviと同じく90年代にもちゃんと売れてたAerosmithやDef Leppard(デフ・レパード)やVan Halen(ヴァン・ヘイレン)とかもそうだよね。
デス:オレがBon Joviを一番聴いていたのは中高生くらいの頃だけど、その後、オレもギターを弾くようになったんだよね。もともと子どもの頃はピアノやってたけど、それなりに音楽理論とか楽譜とか色んなものを勉強して、バンドもやって…。それから、音楽も色んなジャンルを聴くようになったことで、簡単に言うと、相応に知識や経験値が積み重なってきたわけだよ。
で、今改めて聴いてみると、Bon Joviの曲はひとつひとつがキャッチーでポップでコンパクトだし、プログレやその影響下にあるメタルのようにやたらと複雑怪奇だったりはしないんだけど、実はそのコンパクトに見える枠組みの中でまあまあ凝ったことをやってるんだよね。
デス:「いかにも複雑なことをやってますよ」みたいになってないっていうか、むしろシンプルでキャッチーな曲をより魅力的にするために、ひそかに複雑なこともやっている、って感じ。
これは、それこそ、東郷かおる子さんに「嫌い!」って言われてしまっていたリッチー・ブラックモアの話をちょっと引き合いに出すけど、リッチーが「シンプルでありながら皆から飽きられない名曲を作るのが一番難しいんだよ」って言ってるんだよね。リッチー・ブラックモアと言えば、中心人物として在籍していたDeep Purple(ディープ・パープル)にしてもRainbow(レインボー)にしても、クラシックからの影響が強い様式美的なHR/HMの元祖みたいなバンドだから、いわばそれなりに複雑なことやってなんぼみたいなところがあるのにね。実際に、リッチーのバンドの曲は複雑で長くてテクニカルなものも多い。たとえば、ディープ・パープルだとBurnとかHighway StarとかChild in Timeとか。
デス:そうだなぁ、ディープ・パープルだったら、Smoke on the WaterとかBlack Nightとかがシンプルな名曲に当たるかな。どっちも一見するとそこまで複雑なことをしているわけではない"ストレートなロックソング"って感じなんだけど、でもどちらも代表曲中の代表曲でまぎれもなく名曲だよね。
同時期のHR/HMバンドだと、Black Sabbath(ブラック・サバス)のParanoidやレッド・ツェッペリンのImmigrant Song(移民の歌)、少し後だとKissのRock and Roll All NiteやAC/DCのHighway to Hell、Judas PriestのBreaking The Lawとかもそうだよね。
でも、今さっき挙げたSmoke on the Waterも、シンプルなようでいて、よく聴くとけっこう細かい工夫がほどこされている曲なんだよ。
デス:うーん、でも、言ってしまえば割とどの曲もそうだよ。
デス:う〜ん…。最もその特徴に当てはまるのはやはりLivin‘ on a Prayerなんだけど…、ただ、ここでは、オレが今になって改めてすごいなと思う曲のひとつとして、Keep the Faithの話をしたいんだよね。シンプル云々とはちょっと違う話になるけど。
Keep the FaithにみるBon Joviの音楽性の豊かさ
デス:Keep the Faithは、92年発売のアルバム『Keep the Faith』のタイトルトラックなんだけど、なんせ92年だからさ、ほら、80年代のHR/HMブームは終焉してグランジ・オルタナの時代だよね。
デス:そうそう。イギリスではブリット・ポップのブームのちょっと前くらいかな。マッドチェスター系とかシューゲイザー系、ブリットポップ勢の先駆けたちとか、80年代とはちょっと違うメンツが売れ始めてた頃になる。
で、Keep the Faithは…あのアルバム作ってるときは、メンバー全員、なるべく同時代の他の音楽を聴かないようにしてたらしいんだよね。っていうのも、ロックシーンのトレンドが変わってきてる時期だったし、でも安易にトレンドに流されたくないってことで、外界の情報を出来るだけ入れないようにしてたって話なんだよ。
デス:とは言っても、Keep the FaithってそれまでのBon Joviにはないタイプの曲なんだよね。あれは、一般的にハウスミュージックの影響を受けている曲とも言われてるんだけど…。
デス:実際、本人達がハウスをどのくらい意識しているのか、本人達の見解についてはオレはよく知らないんだけど、確かに80年代までのサウンドではないよね。ライブではジョンがマラカスを振ったりしてることも多いけど、あとはリッチーのギタープレイにしても、デイヴィッドのピアノ(やオルガン)にしても、パーカッシブでダンサブルな曲調で、8ビートっていうよりは16ビートに近い、ファンクとかに通じるリズム感の曲になってる。
当時、ハウスの影響を取り入れたロックと言えば、イギリスのマッドチェスター・ムーブメントがまさにそれで、かつてBon Joviと同じくらいの時期にイギリスを中心に売れていたNew Order(ニュー・オーダー)はその元祖だよね。それよりちょっと後に出てきたThe Stone Roses(ストーン・ローゼズ)なんかがマッドチェスターの代表格だけども、じゃあ、Keep the Faithがストーン・ローゼズのサウンドと似てるかって言えば全然似てない。
デス:ハウスミュージックのロック的解釈でダンサブルであるっていう、ある種の同時代性みたいなものは感じなくはないし、むしろそこに共通項を見出すのは面白い視点だけど、ただ、普通Keep the Faithを聴いて「ストーン・ローゼズっぽいな」って思う人はまずほとんどいないんだよね。そもそも両者のファン層が被ってないし、ジャンルも全く違うものとして扱われているから。
じゃあ翻って、今度はアメリカでファンキーでリズミックなことを当時やっていたRed Hot Chili Peppers(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)なんかと似てるか?って言えば、やはりそれもない。
デス:そう。よくよく聴くとね、それ以前とはガラっと変わっているんだけど、ちゃんとBon Joviにしか聴こえない曲として完成してる。キャッチーでポップで、どこか都会的な雰囲気もあって…。
前に、『New Jersey』でアーシーなサウンドに変わったって話もしたけど、とはいえ、Bon Joviってサザンロック系のように泥臭さ100%みたいなところにまではいかなくて、どこか都会的でスタイリッシュなところが常にあるんだよね。
デス:そーだねぇ。でも、歌メロ自体はすごく印象に残るから、不思議な曲なんだよ、あれは。ただ、リズミックで、ちょっと歌うのが難しい曲ではあるよね。
デス:♪Faith!のとこは一緒に歌えるけど、日本語話者の言語感覚で言うと、他のところは気軽に歌うのが難しいよね。
デス:ね。それだけリズム重視の曲になってるにも関わらず、歌メロにはBon Joviらしさもある。かといって、演奏はリズミックなのに歌メロが歌謡曲っぽくてちぐはぐな感じとかにはなっていないし、さっきも言ったように同時代のアメリカのミクスチャーロックともイギリスのストーン・ローゼズみたいなバンドとも違う、あの時代の空気を取り入れた、新しくもBon Joviらしい曲調になってる。あと、リッチーがStevie Wonder(スティーヴィー・ワンダー)が好きだって話は前にもしたけど、Bon Joviのメインソングライターのひとりがそうなんだから、もともとリズミックでダンサブルな曲を作る素養ってのがないわけじゃないんだよね。
デス:そうそう。でもね、あの曲調はあくまで「90年代のビートとリズム」なんだよね。スティーヴィー・ワンダーの全盛期である70年代風とかではなくて。そういう90年代的なことをやってる割に、あの曲はギターソロがやや長かったりもして、部分的に90年代っぽくないところもある。でも、だからと言って80年代っぽくは聴こえない。
デス:そうなんだよ。だから、あの曲はすごいんだよ!Keep the Faithと同じような理由ですごい曲ってのは他にもあるんだけど、Keep the Faithと同じような理由ですごいBon Joviの曲の中で一番すごいのがやはりKeep the Faith(笑)
=Vol.8に続く=
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