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Bon Joviはすごい!〜ハードロック・ヘヴィーメタル雑語りへの反論〜:オジ&デス対談第8弾 Vol.3

 Vol.2では、モスクワ・フェスのような社会的意義のあるハードロック・ヘヴィーメタル(以降、ハードロックはHR、ヘヴィーメタルはHMと表記する)の音楽フェスのことはさほど大きく扱いもせずに、NIRVANA(ニルヴァーナ)などのグランジ・オルタナを代表するミュージシャンを、「HR/HMなんかとは違う、新しい本物のロック」として偶像化して消費してきた音楽ライターたちが、自分たちのそうした無責任な言動に責任を取ろうとさえしていないことに言及して終わりましたが、Vol.3では、さらに、そうした大人たちの言動の問題点について、デス・バレリーナ個人の経験なども交えつつ、話しています。

90年代の中高生と音楽

デス:(Vol.2で話したように)まあ、評論家とか音楽雑誌ってのは、所詮その程度のいい加減なものだっていうことにしてもいいけれども、そういう連中が振りまいてる価値観に、あんまり疑問を持たずに同調してる連中っていうのが、一般リスナーにもいる。

オジサン:いますね。ボクらがロック親父とか、あるいはロキノン系親父とか呼んでるタイプのひとたち。

デス:そうそうそうそう。もちろんね、公正を期して言っておきたいんだけど、これまで話してきたようなロキノン(音楽雑誌rockin’ onのこと)的な価値観っていうものを批判する人も、中高年男性も含めて、実はすごくいる。特に、インターネットが普及したことによって、ロック・リスナーの生の声というものが聞けるようになってから、そういう人たちの存在が可視化されるようになった。
 それまでも、雑誌への投稿とかでリスナーの声を聞く機会はあったけど…。

オジサン:それは編集があるから「生の声」ではないですもんね。

デス:うん。その媒体のお眼鏡にかなったものしか載せられていないからね。だから、音楽雑誌だけ読んでると見えにくいんだけれども、オレと似たような問題意識を持ってる人もたくさんいるんだってこともわかった。つまり、メディアが流すワケのわかんないバイアスに惑わされない人達もいるし、オレがすでに喋ったようなことに関して、オレなんか以上にずっと一(いち)リスナーとして問題提起してきたような人たちもいる。
 ただ、一方でそうじゃない奴らも無視しづらい程度に結構いるんだよね。だからこそロキノンみたいな雑誌とかが、昔ほどじゃないにしても、未だにそれなりに売れてるわけだよね。

オジサン:紙媒体が売れない時代でも生き残ってるわけですからね。

デス:ロキノンって、フェスを開いたりもしてるくらい、企業としてそれなりの経済力があるわけだよ。要は、その経営基盤を支える読者たちがいるぐらいには、同時にああいうものを信じてる人たちもいる。

オジサン:そういうことになりますよね。

デス:でさ、これは、割と…ちょっと強調しておきたいところなんだけど、オレは九州の大分県出身で、1980年生まれだから、90年代が中高生時代で…。まあ正確には高校は中退してるけど、それはいいとして、あの頃は今と違ってインターネットもほとんど普及してないし、周りの同世代も含めて、PCなんか持ってもいなかったわけだよ。

オジサン:せいぜいポケベルですよね、高校生が持ってたのって。

デス:大分市にタワーレコードが初めてできたのが、確か95年くらいで、それ以前は地元の小さなCDショップしかなかった。大分のタワレコができても、東京の巨大なタワレコと比べると売り場面積もそんなに広くないし、当然品揃えも限られてる。

オジサン:注文して取り寄せてもらって買わないとだめなやつじゃないですか?

デス: うん。だから、洋楽について知りたいなってなると、情報源は雑誌とCDのライナーノーツ、あとはMTVくらいしかなかったわけだよね。で、MTVで流れるのは、米英の売れてる音楽中心だから、情報源もすごく限られてる。日本に住んでるから仲間との口コミで、「あのバンドいいよ」みたいなこともないわけだよね。CDショップでの試聴っていうのもあるにはあったけど…

オジサン:聴きたいのが全部聴けるわけじゃないですからね。

デス:そう。90年代の日本は“CDバブル“の時代で、小室ファミリーとか宇多田ヒカルとか、とにかく売れる人は何百万枚も売れる時代だったわけなんだけど、それだけ音楽産業が盛況でも洋楽の情報を得るのは今ほど簡単じゃなかった。クラスメイトとか同年代の友達は、日本の音楽を聴いてる人の方が圧倒的に多いから、洋楽の、それもマニアックなジャンルの情報交換とか、なかなかできない。オレは家でMTVが見られて、かつ、うちの姉がすごいロック好きだったから、まだマシだったけど、基本的には、雑誌とかライナーノーツとか限られた文字情報を有効活用せざるを得なかった。

オジサン:当時デスのひとが読んでたような音楽雑誌ってどんなのですか?

デス:そうだなぁ、洋楽のロックを扱っているものってなると、HR/HMだったら『BURRN!』だし、まあ総合的なものだったら、『Music Life』とか『クロスビート』、もうちょっとこうるさいものを読みたいとなるとロキノンみたいかんじかな。ロキノンは80年代のHR/HMはほとんど扱わないけれど、それ以外に関しては結構幅広いから、新譜情報とか海外の音楽業界の動きとか、そういう情報については、それなりに参考になる部分もあった。ミュージシャンのインタビューの量も多いし。

オジサン:そうなんですね。


デス:で、そういった雑誌で、誰が誰の影響を受けたとか、誰と誰が仲がいいとか、そういう話を読んで、次はどれを聴こうか(買おうか)って考えたりもするわけだよ。

オジサン:れっどさん(珈音のこと)もBURRN!のCDレビューを参考にしてたって言ってます。

デス:で、その数少ない情報源である雑誌で、「メタルはダメだ」みたいなことが言われていると、経験値が小さい若い頃は素直にそうなのかなって思わされちゃうこともある。内心では「この評論家の信憑性はどうなのか」「雑誌では貶されてるけど、この前MTVでかかってたあの曲は良かったけどなぁ」とか引っ掛かりながらも、お金を無駄にしないために評論家に貶されてないものを優先して買ったり、評価が低いものは聴くのを後回しにしたりとか、ある程度は影響を受けることになる。そうやって偏見や先入観が形成されることにもなりうるけど、中高生って使えるお金が限られてるから、片っ端から買うわけにいかないんだよ。

オジサン:そうですよね。あんまり貶されていると、じゃあこれはいずれ聴くにしても、とりあえずは後回しで、っていう感じになりますもんね。

デス:しかも、オレみたいに田舎にいると、CDショップには高い日本盤しか売ってなかったりもするから、中学生の時なんて多くても月に2、3枚しか買えない。逆に輸入盤しかなくて、帯とか付いてないから、どれを買えばいいのか見当つかない、っていう場合もある。そうなると、どうしても買う前にあらかじめ色んな情報を取り入れて、聴く前に取捨選択しておくっていうのが重要になってくる。

オジサン:ハズレを引きたくないですからね。今みたいに「YouTubeで試し聴きしてみよう」とかできないですからね。

デス:そうなんだよ!情報がないから、現に勘で買って失敗したことも何度もある。大都市圏と違って、ディスク・ユニオンみたいな品ぞろえ豊富な中古ショップが沢山あるわけでもないし、レンタルもまったく充実してないし。

オジサン:地元の図書館とかにCDがあったとしても、ほとんど演歌だったりとか。だから、自分でお金出してCD買って、もし、同じ趣味の友達がいたらお互いにカセットテープとかMDにダビングし合ったりとかしてたわけですよね。

デス: オレの場合はね、大人になってからの政治的なニュースへの接し方でもそうだけど、なるべくいろんな媒体に接して、情報が片寄らないようにしていたから、まだ良かった方かもしれないけども、例えば、なんとなくロキノンを手にとってから、それを中心に読むのが習慣になっていったみたいなひともいるわけじゃん。なんとなく身近な読売新聞を取って、そのまま習慣になって購読を続けていたみたいなのと同じで。そんなかんじでロキノンしか読んでなかったら、当然HR/HMに関心を持たないわけだよね。本来HR/HMを好きになれる人だったとしても。

オジサン: まぁ、扱わないこと自体はね、「この雑誌ではここからこの辺の音楽を扱いますよ」っていう範囲があるのはまあいいんですよね。ただ、HR/HMをディスらなくてもいいんじゃない?みたいなのはありますよね。

デス:さっきも言ったように、インターネットが出てきてからは、リスナー同士での直接の情報交換もできるようになったし、その頃には自由にできるお金も増えてきたから、自分で直接いろんなものを聴いてみるようになった。そうすると、改めて雑誌の音楽評論がすごく偏ってることが分かってきて…。音楽雑誌があんな変な偏り方をしてなければ、このバンドとかこのアルバムにたどり着くのに、こんなに時間かからなかったよな、みたいな例が、いくらでもある。だから中高生の時に、一生懸命に、健気に、時に混乱しながらもいろんな情報を吟味してCDを買ってた自分のことを思い出したり、自分と同じような境遇の地方の中高生ことを考えると、非常に腹立たしいものがある。だってさ、偉そうなこと言ってる大人たちが下らないイデオロギーと商売のために、子どもを惑わせてたわけじゃん。

オジサン:そうですね。

デス:その怒りってのが、すごくあって。

オジサン:ちなみに、れっどさんに言わせると、都内でも中高生は周りに洋楽を聴いてる人はほとんどいなかったそうです。

デス:そうだよね。

オジサン:まあ、CDに関しては数がたくさんあったりとか、中古屋もあるからあれですけど、情報に関しては似たり寄ったりって感じだったみたいですね。都内に住んでても。

デス:まぁそうだよね。だから、やっぱインターネットは大きいよね。

オジサン:はい、そう思います。


狭量で怠惰なロック親父

デス:さっきも言ったように、インターネットができたおかげで、メディアとか評論家に対して、オレと同じような気持ちを抱いているロックファンも意外と少なくないとわかって、それはよかったなと思ってる。けれども、一方で、未だにそういう情報や価値観を垂れ流してたりとか、あるいは垂れ流してたことを反省してない連中、さらにその反省してないメディアの連中に未だに迎合したりとか、追従したりしてる思考停止したロック親父とかが、まあまあいる。

オジサン:今、50代前半からアラ還ぐらいのひとに多いイメージです。

デス:ロンドン・パンク、もしくはグランジ・オルタナティブをリアルタイムで聴いてたような世代だよね。オレの世代は「気がついたらカート・コバーンは亡くなってた」くらいの世代だからさ。

オジサン:まあ、それって、いわゆる青春時代の、一番音楽を聴いてた時の流行がそれだから、そういう価値観になってしまってるっていうのはあるんだとは思うんですけどね。でも、デスの人やれっどさんなんか別に自分の世代の価値観とかにこだわってないし、同じようにこだわってない人なんて沢山いるはずですよね。

デス:問題は、さっき言ったような人らがいい年こいて、それまで幾度となく感覚や価値観をアップデートする機会があったはずなのに、てんで変わってないとこ。ほら、オレ、真面目だから、なんとなく好きじゃないなと思ってた音楽があっても、数年後になって今ならいいと思うかもしれない、あの頃は良さが分からなかったけど今なら分かるかもしれないって、数年毎に機会があったらまた聴いてみるようにしてるのね。難解だと思って敬遠してたアーティストにしても、逆にわかりやす過ぎてつまんないなと思ってたアーティストにしても。で、結果的に好きになることは結構ある。

オジサン:自分で「真面目だから」って言っちゃうのはどうかと思いますけど、まぁマメですよね。

デス:でもさ、そうしないと勿体ないと思わない?

オジサン:(ほんと音楽が好きですね…)

デス:で、今ではインターネットもあってYouTubeがあって、そういうアップデートをする機会っていくらでもあるはずなのに…

オジサン:配信サービスもあって聴き放題ですしね。

デス:しかも、ひとによっては大都市圏に住んでて、ディスク・ユニオンとか巨大なTSUTAYAとかあってね。タワレコの大型店舗もあってっていう恵まれた環境にいるくせに、全然そういうアップデートをしないんだよ。まあ、趣味だから、無理にしなくてもいいんだけどさ。でも、自分がアップデートしてないだけなのに、どちらかというとHR/HMを聴いてる連中の側がアップデートできないみたいな認識でいる。でもね、Bon Joviとか今でも活動してるから、若い人にも人気があるわけだよ。そういう若いファンたちは、Bon Joviみたいなバンドが時代遅れ扱いされてた時代を逆に知らなかったりするから、「え?Bon Joviってなんでバカにされるんですか?」とキョトンとするわけだよ。つまりバカにし続けてる側の方が価値観が古いし、視野が狭いんだよ。

オジサン:ちょっと、あの、デスのひとが話したいことズレちゃうかもしれないですけど、例えばBon Joviはアホな商業ロックみたいな扱いをされていたって話ですけど、モスクワでのハイライトとなったBlood on Bloodにしても、それ以外の曲にしても基本的に歌詞がそんなにバカじゃないんですよね。Livin’ on a Prayerは、労働者階級のカップルがいろいろ大変な思いもしてるけど、お互いがいるから頑張ろう!みたいな曲で、いい歌詞じゃないですか。

デス:でもね、あの歌詞を演歌っぽいとか言うひとがいるんだよね。

オジサン:え?!なんでですか?!

デス:なんか「男女が苦難を乗り越えて〜」ってストーリーになってるから。そんなこと言ったら、ジョン・レノンとオノ・ヨーコは存在自体が演歌になっちゃうじゃんか、と思うけど。でも、なぜかジョンとヨーコはいいって話になってるんだよ。

オジサン:ボクのイメージする演歌は、もっと「俺は旅に出るがお前は故郷で待ってろ」みたいなヤツなんですけど…(笑)

デス:まあ、何から何まで恣意的なんだよね。また、そういう連中が、今、社会的にはそれなりの地位にあるんだよね。SNSとかウェブメディアで目立ってる評論家も。もっと若い世代の人たちは、今時、音楽ライターとかたいして需要がないから、最初から志望しないのかもしれないけども。

オジサン:若い人は、音楽ライターだけじゃ、食べていけないかもしれないですよね。ネット媒体は安いっていいますから。

デス:うん。で、そういう中高年が散々偉そうなこと言ってるわけだけど、コーネリアスとロキノンの事件を見てもわかるように、いざ自分たちが窮地に立たされると大したことないわけだよね。そして、そういう手合いは、ロックに限らずどのジャンルにも存在するんだけれども、やっぱり圧倒的にオッサンが多い。

オジサン:わかります。

(編集註:小山田圭吾(コーネリアス)が、94年1月号のロキノンのインタビューの中で、子ども時代に障碍のあるクラスメイトに対して壮絶なイジメ加害を行なっていたことを面白おかしい話として語ったものが掲載されている。この話は、小山田が2021年に開催された東京オリンピック・パラリンピックのクリエイティブチームの一員に選ばれたことをキッカケに大きな批判を受けることとなり、結果として小山田は辞任した。なお、今回は批判が大きくなったためか、編集長であり、当時の記事のインタビュアーでもあった山崎洋一郎は謝罪文を発表しているが、以前から小山田のいじめについては、音楽ファンの間では話題になることもあり、それなりに批判もされていたのだが、この時までロキノン関係者がこの問題に向き合うことはなかった。なお、ロキノン以外では95年に『クイック・ジャパン』の3号にも、小山田のイジメ自慢をサブカル的に面白がる記事が掲載されており、こちらも2021年に社長の名前で謝罪文を出している。)

デス:女性にだって、リアルパンク世代とかオルタナ世代とかいるし、HR/HMはあんまり聴かない女性だって大勢いるんだけども、女性が「Bon JoviとかMötley Crüe(モトリー・クルー、以降「モトリー」)がいかにくだらないバンドであるか」みたいなことをくどくど言ったり…、しかも、それを、わざわざHRが好きだって人に向かってマウンティングしてるようなの、ほとんど見たことない。

オジサン:あー、それですよね。別に嫌いな者同士で勝手にHR/HMとかダサいよねとか言ってるのは、まあ趣味だから、勝手にすればいいんですけど、HR/HMが好きだって言ってる人に向かってわざわざ言いたがるんですよねぇ。だから、地獄で業火に焼かれてほしいな、とかれっどさんが言い出すわけですよね。そして、デスのひとの言う通り、それは、オッサン達なんですよね。女性でも内心ではバカにしてる人がいてもおかしくはないと思うんですけど、今のところあんまり出会ったことがないんですよね。

デス:だよね。オレはmixiとかでも音楽クラスタと交流してきたけど、そういう女性ってちょっと記憶にないんだよ。人を不快にさせてまで自分から顕在化してこないというか。

オジ:やっぱりそうなんですね。


日本を代表するメタルフェス、ラウドパークにて

「女に音楽はわからない」?

オジサン:で、これはれっどさんがたまにキレてますけど、むしろ、女性の音楽ファンっていうのは、同じ音楽ファンの男から偽物のファンみたいに扱われたりとかするわけですよね。
 今、HR/HMがバカにされてるって話をしてきましたけど、じゃあ、今度HR/HMファンの間ではどういうことが起こっているかっていうと、女はミュージシャンの顔にキャーキャー言ってるだけで音楽が理解できない、みたいに言われるわけですよ。まぁ、これはHR/HMに限らず、すべての音楽ジャンル、むしろあらゆる趣味のジャンルで言えることだと思うんですけどね。女性のミュージシャンやリスナーに対しても、誉め言葉のつもりで「男勝り」「女性とは思えない」的なことを言っちゃうのも、根は同じというか…。

デス:まぁ、あれだよね。Bon Joviみたいなルックスが良くて聴きやすい音楽は女もキャーキャー言うんだよな、とか言って、Motörhead(モーターヘッド)とかPANTERA(パンテラ)とかSLAYER(スレイヤー)とかを引き合いに出してきて、謎のマウントを取ろうとするんだよね。

オジサン:スレイヤーは…その、ビジュアル的にはいわゆるイケメンみたいな人がいないバンドですからねぇ。

デス: でもね、女性だから音楽の良さがわかんないってことはないわけじゃん?例えば、あるマッチョなバンドについて、女性だからこそ「あいつらのああいう男尊女卑な態度が受け入れられない」って感じることはあるかもしれない。でもそれは、良さがわからないということじゃなくて、「悪さがわかってる」っていう話なんだよね。

オジサン:「フェミニズムと出会ったことで楽しめなくなってしまったコンテンツが出てくる」問題みたいなやつですね。前にデスのひとが言ってた、Black Flag(ブラック・フラッグ)のアルバムの女性差別的なジャケ写に嫌悪感を示したのも、バンドの唯一の女性メンバーだったって話、あれをちょっと思い出しました。

デス:女性ファンの場合、あるミュージシャンの楽曲自体は好きだけれども、そういう鬱陶しい男のファンと関わり合いたくないから、そのミュージシャンにはあんまり近づかないようにしたり、もしくは好きなことを隠してたりとか、そういうことさえある。

オジサン:そうなんですよ。で、今、スレイヤーの名前が出ましたけど、じゃあ、スレイヤーが好きです、って女性がいた場合、チャラチャラしたBon Joviとかじゃなくてスレイヤーを聴くなんてわかってるね、そりゃ男勝りでカッコイイね、って言ってくれるかっていうと、だいたいはそうはならなくて…、それどころか、「へぇ〜スレイヤーなんて聴くんだ〜。じゃあ、あれとこれだったら、どっちの方がすごいわかる?」みたいなことも言ってくるんですよ、多分。

デス:あと、まあ、「スレイヤー聴いててもデスメタルは聴かないんでしょ?モグリだな」とかね。

オジサン:「スレイヤー聴いてるなら、これも聴かなきゃね」とか言って、どマイナーなバンドを出してきたりするんですよ、多分。
って、経験したことじゃないんで全部想像ですけど。

デス:でも、あるある!対女性ほどじゃないかもしれないけど、相対的に若い(男性の)音楽ファンにもマウントとるオッサンも少なくないから、オレも若い頃に似た経験してるし。

オジサン:オッサン達って、女っていうのは常に自分たち男ほどは音楽のことをわかってない、っていうことにしないと気が済まないですよね。

デス:うん。オレも10代とかの頃は、そんな感じのウエメセ親父になんか言われて「自分がわかってないのかな」と思ったりもしたけど、20代になってからは、メタルをディスるロック親父と遭遇する度にだんだんイラついて、「具体的に何がどうダメなんですか?」って徹底追及とかしてた。

オジサン:持ち前の「めんどくさい力」発揮ですね、うふふふふ。

デス:で、あいつら、メタルファンから逆に徹底追及されるとか思ってないから、いざ議論になったら困るんだよね。しかも、メタル以外のジャンルも沢山聴いてるオレみたいな人間から、「私は、メタル以外の音楽も聴いている人間ですけれども、メタルの何が取り立てていけないんでしょう?」「それってメタルだけの欠点なんですかね?」みたいなことを言われると言葉に詰まるわけだよ。その程度の適当な認識で色々言ってるくせに、若い人とか女性に向かって「わかってないなぁ〜」って言いたがる。分かってないのはお前の方だろ?と。

オジサン:そうなんですよ。で、前にもどこかでこの話はした気がするんですけど、「じゃあ、逆にあなたが褒めている音楽の何が素晴らしいと思ってるんですか?」って訊くと、それも言葉にできないんですよ。アティチュードかどうとか、時代の雰囲気がどうとか、なんかふわっとしたことしか言えないんです。もっと音楽的に…例えばここでこういう音の使い方をしてるのが新しいんだとか、そういうことは説明してくれないですよね。
 デスのひとがたまにボクたちに話してくれるみたいに「この曲はここまでマイナーコードで進行したのが、メジャーに変わるから、ここで明るい雰囲気になるんだよ」とか、そういうことは全然説明できないんですよ。ただ、「これこそがロックなんだ」みたいなかんじで、「これの良さがわからないなんて人生損してるな〜(へらへら)」みたいな感じなわけですよ。あれ、マジで何なんです?って思いますよ。

デス:お前もBon Joviの良さがわからなくて人生損してるよ、って話だよね。


デスのギター

HR/HMは男尊女卑でテクニック至上主義なのか?

オジサン:HR/HMをディスる理由を詳しく説明できないならできないで、せめて自分の好きな音楽の何が特に素晴らしいと思うのかくらいは言語化してほしいなあ、とボクは思うんですけど、ロキノン系のひとたちって、それも教えてくれないですよね。それでいて、「これの良さがわからないなんてかわいそうに、やれやれ」みたいな空気だけは全力で出してくるんですよ。で、「ヘビメタとかうるさいだけでしょ?w」みたいなことを言ってくるわけですよ。

デス:だけど、うるさいだけと言うなら、ノイズ・ミュージックとかの方がうるさいだけだよね。

オジサン:でも、逆にそういうのは「前衛的で尖ってる」とか言って持ち上げたりとかするじゃないですか。

デス: うん、あのね、あいつらは、HR/HMをディスってるけど、あれ、ある種の決まり文句みたいなものを繰り返してるだけなんだよ。例えば、「歌詞が男尊女卑」とか「売れ線狙い」とか。あとは、ひたすら激しく叩く、速く弾くみたいな、「テクニック至上主義のアスリート的なマインド」とかね。

オジサン:雑ですねぇ。

デス:でも、このぐらい言葉遣いがちゃんとしてたらまだ良い方で、もっと曖昧でいい加減な「メタルって脳筋の体育会系っぽいんだよな~」とか、まぁ、そういうテキトーな言い方だったりするんだけど、でも、それってさ、仮に当てはまる部分があってもHR/HMの中でも別々のジャンルの事例だよね。まず、男尊女卑って言うけれども、例えばHelloween(ハロウィン)とかMETALLICA(メタリカ)の歌詞って、まあ探せば少しはあるかもしれないけど、HR/HMに限らずロック全体の中でも相対的にはあんまり男尊女卑じゃない部類に入るよね、間違いなく。まぁ、モトリーが男尊女卑と言われてるのは仕方ないけどさ。

オジサン:MANOWAR(マノウォー)とかも言われるでしょうね。

デス:KISS(キッス)やAerosmith(エアロスミス)にもそういう歌詞はある…。

オジサン:というか、そもそも音楽っていうジャンルが男性中心なので、音楽ジャンルっていうのはどれもある程度は男尊女卑なんじゃないですかね。
 オーケストラのオーディションだって、ブラインドテストにしない限り、男性の方が採用されるって言うじゃないですか。なので、ことさらHR/HMに限って男尊女卑って言いたがるっていうのは、ただの偏見だと思うんですけど。

デス:うん。で、テクニック至上主義って話も、別に「HR/HMは演奏さえ上手けりゃいいんだ!」とか言ってるテク至上主義者なんてほとんどいないのよね、ミュージシャンの中にもファンの中にも。Dream Theater(ドリーム・シアター)みたいに結果的に上手い演奏してる人たちはいるけれども、一方でそれほどテクニック的に上手くなくても評価されてる人たちもいる。

オジサン:しかも、じゃあ下手クソな方が偉いのかって言ったら、おかしなことになるじゃないですか。ボクが今ここで突然、適当に鍵盤をバシバシ叩いた音楽の方が素晴らしいんですか?“尖って“んですか?みたいな。まあ、尖ってはいるのかもしれませんけど、別にそれ誰も聴きたくないですよね。

デス:(笑)

オジサン:そもそも技術があって何が悪いんですかね?それと、やたら速く弾くとか、高音でシャウトするとか言うけど、それクラシックにも当てはまると思うんですよ。
 長い地道な練習・鍛練が必要で、速弾きをしたり、高音で歌ったりする。これ、クラシック音楽にもある特徴なんですよね。なので、それでディスったつもりになるんだったら、もうクラシック界に殴り込みをしに行くといいんじゃないかなって、ボクは思いますね。

デス:技術がないと表現できない音楽も沢山あるからね。でも、多分ね、ああいうロック親父って、クラシックとかにはコンプレックス抱いてたりするんだよ。だから、QUEEN(クイーン)とか、それ以外でも、例えばプログレ系のYes(イエス)とかEmerson, Lake & Palmer(エマーソン・レイク・アンド・パーマー)みたいな人達っていうのは、クラシックの影響を受けてたりするから、「クラシックの影響を受けた、流麗で非常に知的に構築された音楽性がどうのこうの」って御託を並べたりするわけだよね。

オジサン:え?それ、ヘビメタのことじゃないですか?

デス:そうそう。しかも、それって、とりあえずなんかクラシックっぽいから良いものなんだみたいなことしか言ってないわけじゃん。でも、クラシックっぽければ良いって言うならメタルもそうなんだよ。

オジサン:メタル、超良いじゃないですか!(笑)

ベルリンでクラシック・コンサートに行った時の写真

デス:うん。で、プログレとかクイーンのクラシックっぽさは良いけれども、メタルのクラシックっぽさは駄目な理由は何なのって訊いても、たぶん説明できないんだよね。その両者のクラシック要素の違いを説明できるとしたら、むしろプログレもメタルもどっちも好きな人だし。

オジサン:あの、エアロスミスがオーケストラと共演したこととかあるじゃないですか。ああいうのがハマるのって、もちろんアレンジがうまいというのもあると思いますけど、もともと相性が良いっていうのがあると思うんですよ。だって、パンクはオーケストラと共演とかできないわけじゃないですか。

デス:まぁ、別に聴きたくないよね。

オジサン:クラシックとHRバンドが共演できるのは、やっぱすごく相性が良いからなので、そのクラシックをそこで有り難がるんだったら、メタルをディスったりするのはやめた方がいいですし、ヘビメタの技巧的なところ、速弾きとかがダメだって言うんだったら、やっぱりクラシックに全力で殴り込みに行くべきじゃないかなぁってボクは思うわけですよ。

デス:ちょっと話戻るけど、「メタルは男尊女卑」っていうの、結局、モトリーとか一部のバンドのことだよね。だからモトリーをディスる理由にはなるかもしれないけれども、スラッシュメタルとか欧州メタルをディスる理由にはならない。まあ、正確にはスラッシュメタルや欧州メタルにも男尊女卑的な部分はなくはないんだけど、でも、そこまで知らないで言ってるから、あいつらは。

オジサン:Bon Joviをディスる理由にもなりませんよね。

デス:そう、ならないんだよ。テクニック至上主義っていうのもそうで、別にBon Joviはテクニック至上主義じゃないから。アイアン・メイデンやメタリカだって、テクニック至上主義じゃないし、技術的にはそこまで特別上手いわけじゃないしね。

オジサン:ボク、技術的なことはそこまでわかりませんけど、HR/HMは、そういうボクみたいなリスナーが聴いても楽しめるわけですよね。

=Vol.4に続く=


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