オススメ映画を語ろう:オジ&デス対談第4弾 Vol.2
お互いに相手がまだ見てない映画を勧める企画、それぞれの2本目の映画の話をするはずが、脱線して中国語圏映画の話やらネトウヨ言説批判やら…。例によって話はどんどん長くなるのだった(まだまだ続きます)。
オジサンのオススメ②:『宇宙人王(ワン)さんとの遭遇』
デス じゃあ、オジサンのおすすめ2本目いこう。
オジサン ボクの2本目は『宇宙人王(ワン)さんとの遭遇』ですね。
この映画ね、最初に言ったようにイタリアの映画なんですけど、中国語の通訳のイタリア人女性が主人公で、急な仕事の依頼がきて車で連れて行かれるんですけど、目隠しされるんですよ。で、そのまま通訳をさせられるんだけど、当然メモも取れないし、そもそも状況もわからないし、言っている内容もなんかおかしい。そこで「目隠しを外させてほしい」って何度も訴えて外してもらうと、目の前に中国語を話す宇宙人がいるんですよ。
で、イタリアにやってきてるのに、なんで中国語を話すのかっていうと、「事前にリサーチした結果、この惑星では中国語を話す人口が一番多いことがわかったから中国語を勉強してきた」って言うんですよ。
デス まぁ、そりゃそうだよね。
オジサン なるほどってかんじですよね。
デス うん、わかるわかる。
オジサン で、そこはどうも軍の施設なんですけど、すごく意地悪な感じでほとんど虐待みたいなかんじで尋問してるわけですよ、宇宙人を。「お前は侵略にやってきたんだろ?!」って。それで宇宙人はもう弱っちゃってて、「お水を飲ませてください〜」とか言ってて、通訳の彼女は言葉もわかる分、だんだん可哀相になってくるわけですよ。それで、なんとかこの虐待されている宇宙人を逃がしてあげなくちゃって思って、休憩時間とかにアムネスティに電話して助けを求めようとしたりするんですけど…っていう話なんですよ。
デス アムネスティなのかよ(笑)
オジサン まぁ生き物が虐待されてるから、って。でも、軍人は「お前は侵略者だろ」って決めつけて「同情をひこうとするな!」みたいな感じですごい虐めるんですよ、椅子に縛りつけて。
で、宇宙人のビジュアルが絶妙にキモいんですけど、水を飲む姿もまたキモくて…。そういうクリーチャー的キモさもデスのひとが好きそうだし、全体的にデスのひとには薦めてもよさそうっていう。
そもそも、なんでボクがこの映画を見たかっていうと、名画座で『ロンドンゾンビ紀行』と二本立てだったからです。どっちも面白そうかなと思って見にいったんですよ。
デス まあね、たしかに、ちょっと興味惹かれるよね。どっちもまず名前がおかしいから。『ロンドンゾンビ紀行』はオレももう見たけど、確かに面白かったし。
オジサン 宇宙人が中国語を話しててそれをイタリア語に通訳しているっていう珍妙さとか、最終的に宇宙人はどうなるのか?とか…けっこう楽しめる映画だと思うんで、ネットでの評判はイマイチですけど、ちょっとB級ヘンテコ映画枠ってことでオススメに入れてみました。
デス 地球で一番話されてる言語が中国語だからってやつだけど、オレもさ、何かのときに地球の人口の6人にひとりが中国人だって聞いて、まぁ、それ考えるとやっぱすごいな、多いなって思うよね。
オジサン 『宇宙人王(ワン)さんとの遭遇』は、「孤独な宇宙人とのエンカウンターもの」とも言えるわけですけど、『E.T.』のようにハートウォーミングではないし、軍に拘束されて尋問されているっていうのは、ちょっとリアルかもしれないですよね。
デス ちなみに、オレは中国語の映画って実はあんまり観てないんだけど、とはいえ、私が好きな中華圏で作られた映画と言えば『霊幻道士』です。
オジサン 何なんですか、突然…
デス まぁ、これも一応ホラーだけど。
オジサン キョンシーですか?
デス オレもれっどさん(珈音のことをカエルはこう呼んでいるので、デスもカエルと話す時は合わせている)もキョンシーど真ん中世代だけど、日本で人気があるのは台湾の『幽幻道士』シリーズの方で今見るとちょっとちゃっちーところがあるんだよね。『霊幻道士』シリーズは香港で、こっちの方は古来の中国的なムードもあって作りもしっかりしていて、今見ても面白いんだよ。
オジサン 脱線してますけど、デスのひと、案外中国語圏の映画は観てないんですか?
デス 観てない。『グリーン・デスティニー』とかは観たけど…あとジャッキー・チェンも…なに見てたかな?
オジサン 『五福星』とか『七福星』とか見てないんですか?
デス 知らない。『スパルタンX』とか?
オジサン それ、ボク、知らないです。なんです、それ?
デス ジャッキー・チェンの映画。
あ、あとはね、『人肉饅頭』(正式なタイトルは『八仙飯店之人肉饅頭』)。
オジサン なんです、それ?
デス ある饅頭屋で働く男が店のオーナーとかその家族とかを殺して店を乗っ取って、その死体をミンチにして中華まんの具にしちゃうっていう実話ベースの話。割と真面目に猟奇的に描かれてる映画。
オジサン そのタイトルがなんか真面目なかんじしないんですけど…。それにしても、なんでそんな変なの観てるんです?
デス 一応、ホラー映画として流通してるからねぇ。
オジサン もっと普通の観てないんですか?『さらば、我が愛/覇王別姫』とか。
デス 観てない…(なにそれ?みたいな顔で)。
オレ、あの、韓国映画もあんまり観てない。観たいのはあるんだけどね、『哭声/コクソン』とか。
オジサン 確かに、韓国映画『タクシー運転手/約束は海を超えて』くらいですよね、劇場に観に行ったのは。
デス そうそう。っていうのもさ、韓国映画が日本ですごく公開されるようになった時期に、オレ、映画そのものをあんまり観なくなっていたから、それで観ないで来ちゃったってかんじがあるよね。
オジサン 今後、アジアの映画も少し意識して見ていく方がいいかもしれないですね、ボクたちは。ハリウッドに偏ってるかんじあるし。
デス 日本人って、やっぱ自分たちだけはアジアでも特別っていう驕りがあるけど、そういうものに引っ張られずに、アジア文化的なものにももっと親しんでいきたいよね。
ハリウッド映画における「アジア的なもの」の興隆と日本の没落
オジサン 今となってはハリウッド映画でもワイヤーアクションって当たり前になってますけど、もともとは香港映画とかアジア発ですよね、ああいうアクションは。大々的にワイヤーアクションを取り入れたハリウッド映画って確か『マトリックス』が最初ですよね?
デス そうだよね。1999年とかでしょ。
オジサン 『少林寺』シリーズとか香港・中国映画ではずっとワイヤーアクションやってましたからね。
デス 今では『マトリックス』的な動きなんて当たり前になってるもんね。
オジサン あれが常識になったっていうのは画期的だったと思うんですけどね。
デス タランティーノは『キル・ビル』でアジア的なものを引用して紹介したし、マーベルコミックス原作ものの『ブレイド』でも東アジアの柔術や殺陣が取り入れられているから、ハリウッド映画におけるアジア的なものの浸透にはそういった作品の影響も大きいかも知れないよね。あと、ジャッキー・チェンのハリウッド進出も90年代後半くらいだよね。
オジサン まぁ、あとは中国や韓国の経済成長とかもあるかもしれないですね。
デス タイミング的にちょうど日本が落ちぶれていって、中国の方が政治的にも経済的にもプレゼンスを増してき始めた頃だしね。で、その反動でネトウヨちっくなものが勃興してさ、「中国経済はすぐに崩壊する」とか言って…
オジサン 「すぐ崩壊」ってもう20年経ってますけどね…
デス そう。「中国経済はバブルだからすぐ崩壊する」と「中国は経済崩壊とともに一党独裁も崩壊して内戦になる」っていう言説があって、「中国共産党は間もなく倒れるんだけどちゃんと民主化する土壌もない上に多民族国家だから、内戦になって目も当てられないことになる。さあその時日本は…」みたいなさ、なんかネトウヨ論客たちがほざいてたんだけど、20年経っても何も起きてねーじゃねーかよ!っていうね。
オジサン 中国って、人類史上初めてのあれだけの国民を抱えた国家なわけで、誰にも予測できないってとこは確かにありますけどね。
デス ネトウヨがさ、なんで、ああいうこと言ってるかっていうと、中国が自滅してくれない限り日本がまたアジアのナンバーワンになることはないからだよね。
オジサン なれませんね。
デス 日本が今後どんなに努力したってさ、中国にかなうわけないんだからさ、リソースが違いすぎるんだから。それが悔しいから崩壊してほしいんだろうけど、もう2000年代初頭から中国はアメリカと並んで世界経済の中心なわけじゃん?だから、中国経済に崩壊なんかされたら、世界中が困るわけだよ。「ざまあみろ」なんて言って座視してられる国はないんだよ。
オジサン 日本がまずめちゃくちゃ影響受けますよね。中国との貿易ってなんだかんだで一番大きいでしょ?
デス 日系企業もいっぱい進出してるから、そういう企業も困るわけじゃん。そういう日本人にとっての損得勘定っていう観点で見てもさ、非常に色々問題あるのに、なにが「早く崩壊してほしい」だよね。もちろんね、中国は一党独裁国家だし、人権とか色んな面で問題もあるし、核兵器を持っている軍事大国だし、もともと色んな国と国境紛争も繰り返しているし、日本にとって脅威になり得る部分もあるけどさ、中国経済の崩壊とか願ったところで、世界中のひとにとっていいことない。そういう妄想をしてる連中は何の生産性もないこと考えてるわけですよ。
オジサン すっかり脱線しちゃいましたけど、ボクのお勧め映画の話だったので、次はデスのひとのオススメ2本目いきましょう。
デス ちょうどいま、人種差別の話も出たところで…
オジサン 『ゲット・アウト』ですか?
デス 『ゲット・アウト』です!(コーン)
デスのオススメ②:『ゲット・アウト』
オジサン いまの謎のコーンって音はデスのひとがツボ押し棒をテーブルに置いた音ですよ、うふふふ。
デス それ、この書き起こし読んでるひとには聞えないんだから言わなくていいじゃん。
オジサン 聞えないからボクが口で説明してみんなにお知らせするんですよ。
デス (無視して)えーっとね、『ゲット・アウト』は2017年公開の映画で、アフリカ系アメリカ人の主人公が週末に白人のガールフレンドの実家を訪ねて経験する恐怖を描いた作品で、監督・脚本はジョーダン・ピール。あ、ちなみに主人公を演じているダニエル・カルーヤは『ブラックパンサー』で、キルモンガーの側についちゃう、ぷぅーって笛吹いてサイに乗ってる…。
オジサン ボーダー族のひとですか?
デス そうそう、そのひと。で、その主人公がガールフレンドの両親に挨拶に行くところから始まるんだけど、彼は自分が黒人であることを彼女があらかじめ両親に話していないことに不安も感じてて、でも、ガールフレンドは「私の両親は差別主義者じゃないし、あなたのことを歓迎してくれる」と言ってる。
一般的に「人種差別」と言った時のイメージとしては、例えば白人が有色人種を上から見下して嘲笑したり侮蔑したり悪く言うというものが思い浮かぶんだけど、差別には色んな形態があって、「下から見上げる差別」ってものもある。これには「なんとか特権」というやつも含まれる。日本だと「在日特権」とか。「ユダヤ陰謀論」もこれに近いよね。あいつらは強大な権力を握っていて…
オジサン こちらはあいつらに迫害されている側だ、っていうスタンスですよね?
デス そうそう。あとはね、「ほめる差別」っていうのがあるね。例えば、「黒人は生まれつき、人種的に足が速い」とかね。
オジサン 「リズム感がある」とか。
デス そうそう、そういうやつ。
『ゲット・アウト』はどちらかというと、この「ほめる差別」に近いものを描いてる。その描き方がとても巧妙なんだけど、どう巧妙なのかってのをネタバレしないで話すのがむずかしい…。
まぁ、とにかくね、主人公は彼女の両親からすごく歓迎される。その両親の家は、郊外の村っぽい場所にある大きな家で黒人の使用人が二人いるんだけど、その使用人たちの様子が「なんかおかしい」。で、ホラー映画だから、その様子のおかしさがね、やっぱ怖いんだよね。予告編を見てもらうと少しそういうシーンが出てくるけど、談笑してるのになぜか涙を流してたり、主人公が夜中に眠れずに庭に出てると使用人の男性が突然無表情で猛ダッシュで主人公目がけて走ってきたりするわけよ。それがすごく気持ち悪い。これ、トレーラーにも出てくるから、見てほしいんだけど、まぁ、とにかく、そんな感じで不穏なんだけど、翌日には村のひとたちの集まりがあって、歓迎パーティみたいなかんじになるんだけど、そこに来るのもほぼ白人で、でも、みんな友好的でいい人たちなんだよ、彼女の両親と同じで。で、そこにも黒人がひとり混ざってるんだけど、やっぱり様子がおかしい…。
※この後、ネタバレ一切無理なひとには読んで欲しくない話が出てきたので、その部分は記事の一番下に置いておきます。
オジサン はー。じゃあ、あれなんですね、白人ばっかりのところにいって黒人が怖いめに遭うとは言っても、わかりやすく白人が迫害者なわけではなくて、リベラルな思想と相性がいいタイプの、場合によっては無自覚に(あるいは善意から)行われる差別というものをホラー映画として描いているってことですね?
デス オレなんかは、自称リベラルというよりは自称左翼ではあるけど、それでもリベラルとされる思想に近い考えを持っている人間として、ハッとさせられるところもある。
で、『ゲット・アウト』をなんで推したいかというと、鋭い社会批評的なテーマでオジサンの関心に添うものだろうと思うし、あと、これもホラー映画だけどあんまり目を覆うようなグロシーンはないし、所謂怨霊系のものが一切出てこないから、その点もオススメできる。人種差別とか差別問題全般とかに関心があるひとには、ホラー映画は苦手だと思っているひとにもできれば見てほしい映画。テーマもいいし、作りもよくできてる。
オジサン そうやって話を聞くと観てみたくなりますね。
デス こういうことを本格的にテーマにして成功したホラー映画ってのもおそらく初めて。少なくともこれだけハイクオリティに作られたホラー映画で全編通してこういうテーマを描いたものっていうのは、今の時代じゃないと出てこなかっただろうなぁと思う。
オジサン いちいち話が長くて大変です…
デス ちなみに、『ゲット・アウト』はブラムハウス・プロダクションっていうとこが作ってるんだけど、ここはホラー映画が主体で質がいいものが多い。ホラー映画好きなひとにはチェックしてほしいプロダクションですね。
オジサン なんなんですか、その「ホラー映画ソムリエ」みたいな語りは…(笑)
デス (笑)まぁ、もっと詳しいひといるからね、『ハロウィン』の続編全部見てるとかさ。
オジサン (笑)
=Vol.3に続く=
【!ネタバレ風味!】『ゲット・アウト』のここが新しい
デス 『ゲット・アウト』は「トランスレイシャル(※)」っぽい話でもある。たとえばトランスレイシャル、トランスジェンダー、トランスエイジと、他にも色々な概念があるわけじゃん?実際、欧米で中年男性が「6歳の少女」として生きている例もある。差別と言うのは権力関係における強者による属性攻撃、とくに社会的弱者とされるひとの属性を攻撃したり、そういうひとたちを客体化したりすることだから、当然、属性攻撃はよくないね、そもそも属性に拘るのはよくないね、って話になりがち。黒人だから(アジア人だから、男だから、女だから)こうなんだ、こうあるべき、こうに違いないって決めつけはやめましょう、って。ただ、一歩間違えると、みんな「同じ」人間じゃないか、老若男女みんな「違いなんかない」んだから仲良くしましょうって方向にも行ってしまう。これはある一面ではとても正しいんだけど、一方で存在している「差異」を見えなくしてしまう可能性がある。
さらに、そういった「人間はみな同じ」「差異や属性にこだわるのはよくない」という相対主義的な考え方を援用して、マイノリティの属性を簒奪するようなひとも出てくる。そういうのは「ほめる差別」なんかと相性がよかったりする。「本当は女のひとは強いんだから」みたいなことから、「だから俺は女のことも殴ります」みたいなね。あとはエスニック・マイノリティの文化を無神経に丸コピして簒奪しておきながら「その文化を心から敬愛しているからこそやっている」とかね。そういうややこしい差別の裏ワザみたいなものが出てくる。それは必ずしも悪意からくるものではなくて、善意でやっちゃうひと、正義感でやっちゃうひともいるし、また、その善悪や正義・不正義の線引きも非常に難しいケースが多い。。
・・・ちょっと話がとっ散らかったけど、「善意の差別」「ほめる差別」「リベラリストによる差別」といった類を巧妙に風刺的にホラー映画という体裁で撮っているのが『ゲット・アウト』なんだよ。
※ 最も有名なトランスレイシャルの例はレイチェル・ドレザルだろう。Netflixで彼女に関する映画も作られて話題になった。以下にいくつか日本語で読める関連記事等のリンクを貼っておく。
https://www.huffingtonpost.jp/2015/06/14/rachel-dolezal-naacp_n_7582132.html
https://www.huffingtonpost.jp/2015/06/17/rachel-dolezal-addresses-controversy-on-today_n_7602310.html
https://www.netflix.com/jp/title/80149821
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