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【ネタバレあり】『キャプテン・マーベル』:オジ&デス対談第3弾 Vol.2

《男権的なものに引導を渡す新時代のエンタメ映画》

 よく読み返してみたら『スーパーマン』の話ばっかりしてたような気がするvol.1だったので、今回は思いきりネタバレありで『キャプテン・マーベル』という作品がキャラ設定や戦闘シーンの配置など、様々なレベルで工夫が凝らされた映画であるという話を…。女性が主人公で女性が活躍する映画であると同時に、何が肯定されて何が否定されているのか、新時代のヒーロー映画としての『キャプテン・マーベル』を(勝手に)掘り下げます。

「女性が主役であると同時に多様なキャラクターが活躍する映画」

オジサン デスのひとは、『キャプテン・マーべル』はフェミニズムを強く意識した作品であると同時に、ダイバシティも大きなテーマになっていると言ってますけど、その辺について、ネタバレありで話しましょうか。

デス うん。まず、主役がキャプテン・マーベルことキャロル・ダンバースという女性で、その親友がマリア・ランボーという黒人女性で…と、中心キャラに女性が多いしフェミニズム映画であるのは間違いないのだけれど、物語において展開の推進力となる役割、キャロルにヒントを与える役割をするのは、ほぼ全てなんらかの意味でのマイノリティ(社会的弱者)なんだよね。
 キャロルのバディとなるニック・フューリーは黒人で(※なお、コミックスではフューリーはもともとは白人なので、『アべンジャーズ』を映画化する際にサミュエル・L・ジャクソンを配役した時点ですでにダイバシティは意識されていたはず)、親友のマリアも黒人で、さらに女性でシングルマザーという三重にマイノリティなわけだよ。そして、マリアの娘のモニカは当然黒人の女の子。そして、物語のはじめの時点では敵として描かれているスクラルが、実は難民であるという設定、あれもすごく大事だよね。クリーとスクラルの戦争を終わらせようとしていたマー・ベルがキャロルに与えた影響もとても大きい(※なお、原作コミックではマー・ベルは男性)。
 と、まぁ、物語の推進力になっているのは全部マイノリティなんだよ。かといって、マジカルニグロ的な描写にはならないように上手く回避している。で、悪いのは、ジュード・ロウ演じるスターフォースの司令官ヨン・ロッグとかロナン・ジ・アキューザーとかシュプリーム・インテリジェンスとか、クソオス的でマジョリティ的立場、支配的立場にある連中だよね。

オジサン クリー帝国っていうのが中央集権的で権威主義的で、人間らしい感情というものを、判断を鈍らせるよくないものであるとする社会で、それにどっぷりと毒されて育ってるわけですよね、ヨン・ロッグやロナンなんかは。だから、冗談を言っても笑わないとか。

デス 軍国主義時代の日本みたいだよね。シュプリーム・インテリジェンスもさ、人工知能だけど、ちょっとスピった雰囲気だし、どう考えてもあいつが何でも決めてて、選挙とかなさそうな、軍事独裁国家ってかんじだよね。

オジサン まぁ帝国ですからね。

デス うん、で、スクラルってのは分離独立派の反乱分子として抑圧されているんだろうけど、そういった帝国主義的・専制的・男権的なものへのアンチテーゼが明確に示されている映画だと思う。現実のトランプ政権とか欧州での極右政党の台頭(極右政権の誕生)とか、そういう男権的社会に抗うmetooみたいな動きとか、今の世界情勢を明らかに意識している。
 さっきも話したけど、キャロルがレンタルビデオ屋で撃っちゃうキャメロン監督の『トゥルー・ライズ』のパネルだけど、主演のシュワルツネッガーはセクハラ疑惑があったし、共和党から出馬してたし、役柄もマッチョなアクションスターっていうかんじだよね。『トゥルー・ライズ』でのシュワちゃんの役はエージェントで、敵はアラブ系テロリストっていう、すごくアメリカのネオコンぽい設定なんだよ。
 キャメロンって『ワンダーウーマン』にもなんかケチつけてたらしいんだけど、それもベテランのマンスプっていうか若手に対するマウンティングみたいなかんじで…。そういう奴が撮ったシュワちゃん主演作のパネルをぶち抜くっていうのはかなり意識的に選ばれたんじゃないかと思うね。(※なお、対談収録後にキャメロンの『キャプテン・マーベル』へのいちゃもん発言を知り、「そんなだから『トゥルー・ライズ』は吹っ飛ばされるしかなかったわけだよ」と言われている。)

オジサン キャロルがなにげなく手に取るビデオが『ライト・スタッフ』なのも含めて、こだわりを持ってあの店内セットを作ってますよね。

デス あとさ、『トゥルー・ライズ』って「本当の嘘」っていう意味じゃん?それ、『キャプテン・マーベル』の内容ともある意味かぶってるよね。『トゥルー・ライズ』の場合は職務上の理由で家族に対して職業を偽っているエージェントの話だけど、キャロルは記憶を操作されて自分の身の上やパーソナリティに関して嘘の情報を与えられて信じ込まされていたという話だから、そういうこともあって選んだのかもね。
 そういう細かいところまで配慮して、徹底的に「クソオス許すまじ」っていうか…。いや、違うな…そういう怒りに燃えたぎっただけの映画でもなくて…、もっと颯爽と痛快にクソオスしばきしてるっていうか。お前らクソオスなんかに時間も労力も使ってられるかよ、デコピン一発で充分だわ、みたいなテンションで…。その痛快さだよね、いいのは。

オジサン 「お前とぐだぐだ話すことはないんだよ」みたいな。

デス タロスやフューリーもさ、ふたりともクソオスじゃないんだけど、マリアにうっかりセクハラめいたこと言っちゃうんだけど、ちゃんと怒られる。タロスなんか「次そんなこと言ったらお前のケツに蹴りが入るぞ」って言われるっていうね。

オジサン あれ、ちゃんとタロスの言った言葉をもじって返していて、マリアのそういうところも頭良くて好きです。

デス そうそうそう。そうなんだよ。

オジサン スクラルって、予告編でも敵扱いされてるし、悪い奴だと思って観るじゃないですか。だから、タロスの手下がマヌケだったりしても、「マヌケな敵がいた」くらいの感想なんだけど、改めて悪役じゃないんだってわかってからみると、全員可愛く見えるんですよね…。このひとたち、もしかして、全員死んでしまうんですよね…?って思うとけっこう切なくなって…、なんか「ごめんね」って気持ちになったりします。

デス そうそう。オチを知ったあとで見ると、スクラルって最初から悪いことしてないんだよね。襲われたら反撃はしているし、生き延びるための最低限の自衛行為はしているけど、できるだけ流血を避けて平和的に解決したいってかんじなんだよね。スクラルってね、アメコミの原作では、『キャプテン・マーベル』みたいに難民として描かれる場合もあるけれども、どちらかと言うと、姿を擬態していつの間にか侵入してくる怖い敵として描かれることが多いから、オレみたいにコミックを読んでいるひとでも、まさかスクラルがああいう風に描かれるとは思わなかったってひとは多いみたい。原作を知っているひとにとっても、どんでん返しだった。
 あの、大団円ってかんじでスクラルも含めた仲間みんなで食事をしてるときに、タロスが「あれは姿を借りてるだけだ」とか言って、擬態をして人を欺くことの言い訳みたいなことを一生懸命すると、タロスの妻が「(人の姿を)盗んでるようなもんでしょ」とタロスを叱るようなこと言うんだけど、そこからも、スクラルのひとたちもひとを欺いたりせずにそのままの姿で暮らしたいと思っているんだっていうことがわかる。で、そんな彼らの願いを肯定するように、モニカが「そのままの姿が美しいんだよ」というようなことを言うんだよね。

オジサン そうですそうです。

デス そんなかんじで、モニカもけっこう活躍してるよね。キャロルの昔の写真とか持ってきて記憶を取り戻す手助けをしたりとか、キャロルやフューリーやスクラルが宇宙飛行のミッションに取り組む際に、母親であるマリアが宇宙船の副操縦士を務める決心をするように後押ししたりさ。キャロルのスーツをスターフォースの緑のカラーから赤と青のヒーロー・コスチュームに変えるときも手伝うし。
 『キャプテン・マーベル』って、主役であるキャロルが大活躍する映画ではあるんだけど、全部彼女一人に持っていかせるんじゃなくて、マリア、タロス、フューリー、モニカとか要所要所で色んなひとたちが重要な働きをしていて、そのバランスもいいんだよ。

「クソオスの勝手な美学はフォトンブラストで吹っ飛ばせ」

デス あと、まぁ、ね!みんなが言ってることだけど、やっぱり痛快なのはあれだよね。

オジサン 最後のあれですね。

デス そう。最後の、一応は「本当のヴィラン」と言っていいヨン・ロッグが、キャロルが完全覚醒して自分ではとても勝てない相手になったことを悟って、「君のことが誇らしい!でも、俺に素手で勝ってこそ一人前だ!さあ、今こそ俺を倒してみろ!」みたいなことを言う。ほんとは自分に勝ち目がないから、なんとかして自分の土俵に引きずり落ろして、なんとかして支配してやろうっていうモラハラ気質のクソオスの悪あがきなんだけど。そこでキャロルが、ちょっとシリアスな表情をしてるから、これから死闘を繰り広げるのかな、と…

オジサン 映画の冒頭でヨン・ロッグと訓練している場面で、キャロルがイラっとしてついフォトンブラスト出しちゃって「あちゃー、やっちゃった」っていう顔をするじゃないですか。そういう伏線があるから、あの場面で、ついに素手で対決するのか?!って一瞬思うんですよね。ふたりが向かい合うときなんか、「さぁこれから最後の戦闘が始まりますよどんどどどん!」みたいなBGMも入ってますからね。

デス 無人の広野だしね、舞台も。

オジサン いくらでも暴れられますからね。

デス そう。で、取ってつけたようなファイティング・ポーズ決めたヨン・ロッグが「さぁかかってこい!今だ!証明してみろ!」とか何とか言い終わらないうちにフォトンブラストで一瞬で岩場まで無様に飛ばされていく、一発KO!っていうね。

オジサン 最高ですよね。

デス その後、「お前なんかに証明することはない」って言い放ったキャロルが、ヨン・ロッグに手を差し伸べるわけだよ。お、キャロルは、ここでヨン・ロッグを敵ながらあっぱれ的に扱うのかなと思いきや…

オジサン 普通に握手するんだと思いますよね、あれ。

デス と思いきや、ヨン・ロッグがキャロルの手を握り返したら、そのまま引きずっていくっていうね。で、小型宇宙船まで引きずっていって「シュプリーム・インテリジェンスに、私が戦争も嘘も終わらせると言っておけ」って、三行半っていうかさ…

オジサン お前はせいぜい私の言葉を伝える伝言ロボットやっとけよ、みたいな(笑)

デス そうそう。いまやお前は宇宙伝書鳩だよ、何がスターフォースだよ、みたいな。宇宙伝書鳩やったあとはスターダストになっとけよ、みたいなさ。で、フォトンブラストで無理やり点火されて発進させられるっていうね。

オジサン あの戦闘機、だいぶよろよろしてたから、ハラ(クリーの惑星)まで無事に行けるのが微妙な感じですけどね。あれ、やっぱいいですよね。

デス うん。キャロルは、クソオスの土俵に降りない、クソオスの価値観なんて相手にしないんだよね。

オジサン そもそも、なんで素手で倒さなきゃいけないのか意味がかわらないですよね、映画冒頭から。

デス そう!あれヨン・ロッグの勝手な美学っていうか…ある種武士道的なね。ま、保守的で男権的なクソオスの手前勝手な精神論だよね。

オジサン 「そもそもお前のそのやり方知らねーし」ってかんじで吹っ飛ばすのがめちゃめちゃ痛快ですよね。

デス うん。でさ、ヨン・ロッグはほんとクソなんだけど、そのクソを見事に演じきったという意味でジュード・ロウは素晴らしいんだよね。オレは、ほんとに、全員にオスカーをあげたい!

オジサン ほんとキャスト全員素晴らしいと思いますね。ブリー・ラーソンもね、彼女じゃないとキャプテン・マーベルできないなって思います。

デス そ!もう、あれ見るとブリー・ラーソン以外考えられないもんね。

オジサン キャロルの、あの肩の力の抜けたキャラと言うか…。

デス オレね、キャロルが、自分がスクラルじゃないことをニック・フューリーに証明するために、フォトンブラストを出して若干ドヤ顔する場面が好き。あとね、最初にタロスに捕まって逃げる際の戦闘シーンで、雄叫びをあげながら向かってくるスクラルの真似して「ぐえぇぇぇぇ」って雄叫びし返すところ(笑)

オジサン あれ、いいですよね。あんなことする女性ヒーロー…てか、男性ヒーローでもあんなことするひと、あんまり見たことない…

デス そう、見たことない。

オジサン 唯一やりそうなのは…アントマン?

デス …かデップー?

オジサン まぁ、キャプテン・アメリカとかまずやらないですからね、同じキャプテンでも。

デス そうそう、そうなんだよ!

オジサン 素足でどたどた走るし。

デス あれもいいよね。手はすごく重そうな拘束具がついたまんまなのに、素足でぺたぺたした感じで。すごいチグハグなんだけど、あれもチャーミング。

オジサン 全部の戦闘シーンが良いんですよね。ボクは敵となったスターフォースの面々と戦う、No DoubtのJust a girlが流れるあの場面も好きです。向かってくる敵とドーンドーンって次々ぶつかるのかなと思ったら、いきなり自分が立っている橋を落とす、っていうね。意表突きまくりの訳の分かんない戦闘スタートですよね。

デス (笑)そうそう。あのシーンって覚醒したばかりでスーパーパワーを使い慣れてない感じもあるんだけど、やっぱりキャロルってもともと保守的な価値観とか悪い意味の規律に抗ってきたひとでしょ。逆にスターフォースは精鋭集団なわけで、それだけに闘う際に「こうやって俺達が向かっていったら敵はこう迎え撃つはずだ」みたいなさ…

オジサン そういう先入観がありそうですよね。

デス そういうテンプレみたいなものから思いきり外れた変化球的なことをキャロルは平然と堂々とやる。その外し方が、またよい。いきなり橋を落として、敵全員落下。で、下にいたヨン・ロッグは…(笑)

オジサン 下敷きになって、しかも起き上がろうとしたところで、頭の上に鉄骨みたいなのが落ちてきてガーンって。すっごいマヌケで最高ですよね〜。

デス そうそうそう(笑)

オジサン で、そこで、♪ふんちゃ、ふんちゃ、ふんちゃ、ってJust a girlが始まるじゃないですか。いやぁ、ほんと最高です。

デス そうそう。で、そこでちょっとコミカルで笑える、脱力感のある戦闘シーンを見せたあとで、ね、ロナンがやってきてさ…。ミサイル、小型戦闘機、宇宙戦艦を撃破するっていう、あのひたすらカッコよくてスペクタクルなシーン…

オジサン 覚醒して最初にロナンと当たっていたら、逆にギャグになっちゃうと思うんですよね。いや、さすがに強過ぎだろwみたいな感じで。ちょっと笑っちゃうような場面でもあるんですよね、あれ。でも、手前の脱力感ある戦闘シーンがあってからの…だから、ありですねって思える。

デス そうなんだよ。脱力戦闘シーンで「おぉ?私のフォトンブラスト、こんなにパワーアップしてるし!」みたいにキャロル本人が自分でびっくりしてるような描写もあるじゃん?そうやって作中で段階をちゃんと踏んでる。

オジサン そう。ダメなシーンというか、要らないシーンがないんですよね。冗長に感じる場面もないし、もう、完璧!

デス で、オレ、今、生涯映画ランキング暫定一位が『キャプテン・マーベル』だから。

オジサン ヴェノちゃん(最近我が家の一員に加わったヴェノムのぬいぐるみ)も「キャロルパイセンが一位」って言ってますよね。

デス その「キャロルパイセン」って呼び方もさ、女性が言ってる分にはいいんだけど、男で「キャロルパイセン」とか言ってる奴がいたらちょっとムカつくっていうかさ。(※私たちが知る限り、最初にキャロルパイセンと呼びだしたのはTwitterの映画好き女性アカウントさんである)

オジサン ちょっとフォトンブラストで吹っ飛ばそうかな、みたいな。

デス 単純にさ、あの映画によって女性たちが元気づけられているのを見るのは、人間としてなんか嬉しくなるっていうか、幸せな気持ちになるっていうのがあるじゃん。

オジサン わかります。『ブラックパンサー』が公開されたときに、アメリカの黒人の人たちがすごく喜んでいる様子をネットで見て、ボク、すごく幸せな気持ちになりましたもん。

デス そうそう。また「パイセン」って言い方がさ、キャロル・ダンバースのキャラにぴったり合ってるから、そのへんのチョイスも含めて素晴らしいなって思うんだけど(笑) でも、オスが言ってると「お前、なに、オスがパイセンとか言ってんの?」みたいなさ。お前は、ヨン・ロッグのコスプレでもして、ついでにタクシードライバー・ワナビーみたいになって鏡に向かって「オレのことか?素手でかかってこい!」とかやっとけよ、って思うよね。

オジサン また流れ弾に当たる『タクシードライバー』(笑)


=Vol.3に続く=

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