戦国余話「泣き虫五平と大将首」

〇豪雨の中

草むらから覗く、怯えて血走った目のアップ。

擬音「ざー、ざー」(雨の音)

声「はあはあ、はあはあ・・・」(過呼吸)

草むら越しの目の前では入り乱れて戦っている侍や足軽たち。
彼らの腰には侍の首がぶら下がり揺れている。
アップで見えている無念の形相の 首、首、首・・・

「怖い、怖い、怖い」「何でこんな所に来てしまったんだぁ」(目の持ち主の声)

○タイトル

戦国余話「泣き虫五平と大将首」

〇戦国時代の合戦場

豪雨の中、白兵戦の真っ只中。

戦場から少し離れた草むらに隠れて、戦の様子を怯えながら見ている雑兵・五平の姿。
五平は16歳、小柄で、鎧から出ている手足は細く、超ひ弱な少年だ。

草むらの向こうでは、侍、足軽、雑兵がいりみだれて命のやりとりをしている。それぞれの腰には首がぶら下がっている。

文字「時は戦国時代。合戦では、手柄の証明として討ち取った相手の首を持ち帰るのが習慣だった。その首は『首実検』という場に出され、首の身分に応じて、出世や褒賞にありつくことができた。つまり戦国時代の合戦とは首の取り合いだったのである」

声「ワー」「ギャー」「ワー」
擬音「チャリーン」「どどどー」「ガッチーン」
馬乗りになられて首を刈り取られている侍「うぐっ!!」
足軽に槍で刺されて叫ぶ侍「ががが」

五平「怖い、怖い、怖い」「助けてくれ」

〇五平の回想

五平「オラの名は五平。貧しい百姓家の次男坊。子供のころから小さく非力で弱虫で『泣き虫五平』と言われていた」

ガキ大将グループにいじめられて泣いている幼少の五平。「わーん!」
そこに登場する美少女。ガキ大将を追い払い、五平を慰める姿。

五平「2つ上の姉の糸がオラの救いだった。村一番の美少女で優しくて、オラはいじめられても、糸姉がいるだけで幸せだった」

五平「ところが・・・昨年飢饉があったことから、そんな幸せが一気に壊れた」

大飢饉の村。農村の悲惨な口減らし、間引きのイメージカット
五平「ある朝、糸姉が…」

やくざに連れて行かれる糸。見送る両親。
振り返る糸「五平…」
五平「糸姉~!」

川べりで泣く五平。
土手の上でガキ大将たちが話す声が聞こえる。

「聞いたか、近々戦があるぞ、みんなで志願すべえ。雑兵になれば飯はもらえるし、偉い奴の首を取ってくれば、金銀がもらえる上、侍になるのも夢じゃねえ」「よし」「いくべえ」…

五平「えっ、本当か」

百姓仲間「ばーか、泣き虫が来ても役に立つもんか」と相手にされない。

取り残された五平、涙を拭いて
「見てろ!オラも戦に行く。何としても手柄を立てて金銀をもらい、糸姉を取り返すだ。他に方法はねえ」

〇再び、戦場

時間がたち、雨は止み、戦う兵士もまばらになっている。

「ちきしょー、やらないとダメだ、ダメなんだ」
ようやく戦う決心が付き、草むらから飛び出す五平。

目の前に6尺豊かの巨体、ひげを蓄えた一目豪傑の柿崎又兵衛が立っている。
鎧は刀傷で壊れかけ、肩や背中に折れた矢が刺さって、返り血を浴びたすごい姿。敵将が率いる20人ほどの足軽と対峙している。

敵将「敵の総大将・柿崎又兵衛殿とお見受けした。御首、頂戴する」

柿崎「やめておけ。ワシは生きて国に戻らねばならん。邪魔する奴は皆殺しにするぞ」

敵将「かかれ!」の声で一斉にとびかかってくる足軽たち。

柿崎「わからぬ連中だ」と迎え撃つ。大殺陣。

擬音「ザクッ」「ズパッ」「ドシャッ」!!!・・・

声「ぎゃあ」「うぇっ」「ぐおっ」・・・

擬音「シーン・・・」

あっという間に全員が死体となり、柿崎の足元に。

ひるむ敵将。

柿崎「だから言ったのだ。お前も家臣と一緒にあの世へ行け」と侍に向けて歩みだす。

その時、飛来する流れ矢。

擬音「きぃーん!!!ズバッ」

柿崎の首に見事に刺さる。

「なんと!」とうめきながら、どうっと倒れる柿崎。

「これぞ天祐」ととびかかる敵将。

馬乗りになり、首を掻き切ろうとするが、柿崎もそのまま、首をとられるタマではなかった。
首を刈られながら、短刀で敵将の首を後ろから刺す

「ぎゃっ!」「おおお」相打ち。

掻き切られた柿崎の首が「ごろんごろん」とはねて、五平の足元に!!

五平「あわわわ」

〇草むら

五平「柿崎様と言えば豪傑の誉れ高い敵の総大将。こ、この首を首実検に出せばとんでもない褒賞が…」

(五平のイメージ)自分が侍になり、姉の糸、家族と幸せな食卓

五平は柿崎の首を自分の腰紐に結わえ付け、ぶら下げる。

どこかから大きな声「待ってくれ!」

「ひゃっ」と飛び下がる五平

大将首「俺だ」(以下柿崎又兵衛を大将首と書きます)

五平「!」

大将首「俺は今、敵に首をやるわけにはいかぬ。助けてくれ」

五平「助けてくれって言っても、あなた様はもう死んでいるのでは・・・」

大将首「俺は人一倍念が強い。どうやら首になっても魂魄が残ったらしい」

五平「あわわわ」

大将首「俺が死んだと知ったら、敵は俺の国にすぐに攻め込んで来るだろう。そうすれば家族、家臣はどんな目に合うかわからん。俺は今、首を敵に渡すわけにはいかぬのだ。
お願いがある。この首を敵の首実検に出さず、俺の国まで届けてくれぬか。そうすれば必ず褒賞をやろう。それに、お前を助けてやる」

五平「助ける?」

大将首「周りを見てみろ。飢えた獣のような奴らばかりだ。お前ひとりで生きて首を運べると思うか」

〇草むらの外

暗がりにたくさんの人影、ギラギラした目。
擬音「ざわざわ、ざわざわ・・・」
今の戦いを遠目で目撃した足軽たちが集まり、五平を取り囲む。

足軽たち「その首を寄越せ」

五平「ひぃいいい!!!」と泣きながら逃げ出そうとする

五平「わっ!」

大将首の目がギラリと光ると、泣いている五平の体が勝手に動き出す。そして電光石火の早業で、足軽たちを斬りまくる。自分の意志と関係なく勝手に戦い続ける五平。顔は泣いているのに、めちゃくちゃ強い。(五平の体には巨大な影=乗り移った柿崎の姿が薄く重なっている=憑依)

※戦闘シーンは、戦国時代の鎧武者の戦いをリアルに再現
鎧の間を狙い刃物で刺す。頸動脈を叩き昏倒させる。刀を避け、体落としで投げ、馬乗りになって首を掻き切る。等・・・

擬音「ドス」「ビシ」「ズバッ」「びしぃっ!」
足軽たち「ぎゃあ」「うげ」「ひー」

五平「うぇーん・・・えっ?えっ?えっ?」」
気が付けば目の前に死体の山。

大将首「わっはっは、首と胴体が分かれたおかげで、どうやら特別な能力がついたらしい。お前を助けることはできそうだぞ」

大将首「しかし、お前はひ弱だな。しかも体が硬い、少し運動をした方がよいぞ。わっはっは」

〇敵の本陣

たくさんの松明が並ぶ中。敵の総大将の前に軍勢が集まっている。

家臣「殿、わが軍の大勝でございます」

敵の総大将「たわけっ!柿崎又兵衛の首が取れなければ勝ったとは言えぬ。奴が自国に戻ってしまえば、また振り出し。必ずまた牙をむいて襲ってくるわ」

敵の総大将「鬼槍の団衛門!」

「はっ」と答えた団衛門。又兵衛より二回りでかく、容貌魁偉、最強の怪物武者。

敵の総大将「柿崎は無双と言われる豪傑じゃ。だか、怪物と呼ばれるお前なら必ず勝てる。国境に関所を設けて待ち構えよ。何としてもそこで仕留めるのだ」

団衛門「はは〜。必ず仕留め、首を持ち帰ります」巨大な槍を持ち上げ、目をらんらん、異様な迫力を漲らせる

〇草原

焚火の前の五平と大将首

大将首「そうか・・・姉君を助けるために、この戦にな…」

五平、不思議そうに「…柿崎様はこんな目に合われているのに、なぜそんなに平気でいられるのですか?」

大将首「あははは。平気なわけではない。ただ・・・」

五平「ただ・・・?」

大将首「起きてしまった過去のことを、クヨクヨ悔やんでも仕方がない。
起きてもいない未来のことを、あれこれ想像して心配しても仕方がない。
大事なのは、常に、現実を正面から受け止め、真正面から立ち向かうこと。
俺は、それこそが漢の生きざまと考えているだけだ」
大将首「五平、ワシを助けてくれ。今のワシにはお前が必要だ。明朝は国越えをしなくてはならない」

五平「こんな弱虫のオラが役に立つのか…」

大将首「ワシは、自分の未来を切り開くために、どんなに怖くても一歩踏み出せる者が勇者だと思う。五平、お前は、姉君を助けるために戦場(ここ)に来た。立派な勇者だ」

五平「…!」

大将首「助けてくれるか、五平」

〇国境の関所

検問を待つ行列。その中に百姓姿で大将首を布で包んで背負っている五平の姿。
検問役が探しているのは落ち武者と柿崎又兵衛のみ。百姓や商人は顔を見るだけで「よし!」「行け!」と通している。
検問役の後ろにはそれを見守る団衛門と100人ほどの侍足軽たち。

五平の番が来る。検問役はひときわ小さくひ弱な百姓姿の五平を見てそのまま通そうとするが…

団衛門は、五平の背中の荷物(大将首)からただならぬ殺気を感じ取る。
団衛門「待てっ!」。
五平「ひっ」
団衛門「背中の荷物は何だ?中を見せろ」
五平「た、ただの野菜でございます」
団衛門「ふざけるな。こんな殺気を放つ野菜があるか。つべこべ言わずに見せろ」
五平「や、野菜で」
団衛門「見せなければ斬るぞ」
五平、涙目になり震えだすが、覚悟を決めて「…嫌です」
検問役の方がおろおろする「命が惜しくないのか」
団衛門「ほぉ・・・(笑)」と大きな槍を突きつける
五平「ひぃ~(泣)」
ことのなりゆきに驚き見守る行列、軍勢たち。

突然、高らかな笑い声「ははははは!!!」
ぎょっとしてあたりを見回す関所の中の全員。
五平から笑い声が出ていることに気づき、団衛門以外が一斉に五平の周りから引く。

大将首(@五平)「五平、よくワシを守ってくれた。やはり、お前は本当の勇者だ」

近くの侍を殴り飛ばし、刀を奪い取る五平。

大将首(@五平)「さすが、鬼槍の団衛門、よくぞ見破った。俺こそが、柿崎又兵衛だ。お主とは一度手合わせしたいと思っていた。尋常に勝負せよ」

※以下、大きな団衛門と小さくて泣き顔の五平(&背中に隠れる大将首の二人羽織状態)の死闘が始まる。絵としては五平の背中からセリフが出ている状態+憑依を表現するために、時々五平の背後に又兵衛の影、或いは又兵衛の顔を見せる

団衛門(五平が喋っていると勘違いして)「何を寝言を言っている。死ね!」
と槍で斬り付けるが、五平に楽々避けられる。

驚く団衛門「うっ」

「はっはっは。これでもくらえ!」と団衛門の顔まで飛び上がり、太刀を振り下ろす五平(&大将首)
とっさによけた団衛門、巨大槍で斬り返す。

周りを取り囲み見守る軍勢と通行人たちの中、
ぶんぶん、槍を振り回す団衛門と、それを飛びよけ太刀で切りかかる泣き顔の五平の戦い。

擬音「チャリーン」「ずばーん」…
3人の声「こなくそ!」「ちょこざいな!」「死ねぃ」「ひいー、助けて」

牛若丸と弁慶のような戦いが続くが・・・

朦朧としてくる泣き顔五平。

大将首「いかん、体力のない五平が限界に近付いてきた。そろそろ勝負に出ぬと」

団衛門「死ねぃ」と槍を振り下ろす。
大将首「今だ“」と団衛門の懐に飛び入ると、小柄なのを生かし、するすると団衛門の背後に回る。
団衛門「うっ!」
巨大な団衛門が小さな五平に背中に乗られ背後からチョークスリーパーを決められる図。
白目になり「どうっ!」倒れる団衛門。

シーン。
「だ、団衛門様が百姓にやられた!!」

大将首(見た目五平)「どうだ?他に向かって来る者はいるか?」
一同「シーン」

〇国境を越えた草むら。

大将首、二人羽織形式で五平に筆で文書を書かせている。最後に「柿崎又兵衛」の花押。

大将首「五平、これを持っていけ。遺言状じゃ。俺の家臣に見せれば、約束した褒賞が手に入るはずだ」
五平「・・・?」
大将首「俺はここで成仏したいと思う。奥や姫とこの生首の姿で生活したくないからな、わっはっは」
五平「…」
大将首「お前のおかげで、俺も家族や家臣を救うことができた。心から礼を言うぞ。お前もその金で姉君を連れ戻して家族で幸せにな!」
五平「柿崎様」
大将首「さらばじゃ!」
首から天に光が飛ぶ。泣きながらそれを見送る五平。

〇大団円(街道)

歩く五平。
モノローグ「かくして、柿崎様を無事にお国にお届けすることができた。オラは遺言状によって大変な金銀を頂いた。これで糸姉を連れ戻すことができる。…そして今、何よりよかったと思っていることは…」
笑う五平の顔「少しだけ自分に自信がついたことだ」

村に向かう五平の後ろ姿 (了)


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