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第二ボタンの風景

(負けた、負けた)
今日でわたしは彼氏がいないまま、高校生活を卒業する。

わたしには親友の「E子」がいる。くるりとした大きなどんぐりのような目と小さな鼻、脚がすらりと長く整った姿をしている。一方、わたしは良くも悪くもない目鼻立ち、背の高さも中途半端である。私たちはいつでも一緒だった。お昼ご飯を食べる時も、トイレに行く時も。放課後には、勉強をして、時々、恋話なんてしたりする。E子はわたしをひとりぼっちにしない。

わたしとE子は少女漫画「花とゆめ」を小学4年生の頃から読んでいて、高校生になれば漫画のような恋愛、彼氏ができると思っていた。そして、この3年間、ふたりでふたりの作戦を組んで男の子との駆け引きし、闘ってきた。しかし、わたしの恋は実らなかった。

今日は卒業式、わたしの残された恋愛は「第2ボタン」にかかっている。

「ねぇ、ボタンどうした?」卒業式が終わり、先生との写真や卒業写真集に集めるクラスメイトからのメッセージ交換会も落ち着いた頃、E子の明るい声がした。ふたりで写真を撮る約束をしていたため、E子がわたしのところに戻ってきのだ。振り返るとE子の手のなかには大学進学で離れ離れになってしまう彼氏、D君の第2ボタンが握られていた。

「(負けた、負けた。)…どうしよう。」突然に弱々しい言葉が出てしまった。「…どうしよって…。もう最後だから…未練がないようにしないと…。」E子は心配そうにわたしを見つめている。「ボタンもらっても仕方がないような気がして。」突然に反論をしてしまった。

「どうして?」E子はわたしに聞いた。「ボタンをもらえても、もらえなくても、進学したら離れ離れになってしまうじゃん。そうなったら関係を続けること難しいし、先のことを考えずに気持ちだけ伝えるのって、なんか矛盾してる…」声がしっかりと出ない。「…そうだね…」E子はわたしにいつも優しい。でも、E子の手のなかには第二ボタンがあって、それがとてつもなく悲しい。

「ねぇ、ボタン見せてよ」「…いいよ」金のメッキが剥がれ、くすんでいてあまりカッコよくなかった。「これがD君のボタンかぁ。他の男の子のボタンと何が違うんだろう」意地の悪いことを言ってしまった。

「多分、変わらないよ」
(…(負けた。)そっか、これは、変わらないんだ。)

「変わらないよ。はいチーズ。」
E子とわたしは自身のスマホでたくさんの2人の思い出の場所を撮った。E子とわたしは変わらない。離れても。いつどこにいても。


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山田ズーニー先生の型、太宰治の型で短編小説を描いてみました。


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